西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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21話

 さて、そんなわけで、俺は急いで浜まで駆けて来たわけであるが、その甲斐あってか出航には何とか間に合うことができた。

 そして今現在。俺は船の外側の、少し出っ張っている部分に腰掛けて、曇天の船旅を満喫中だ。

 

 呑気に見えるかもしれないが、それだけ呑気しても見つからないのだから仕方がない。

 船の上からは死角になっているので絶対に見えないし、外側からも氷元素で蜃気楼を張ってやれば見えない。あとは落ちないようにするのと、蜃気楼を切らさないようにする事に注意さえすればそれで十分だ。

 

「錨を下ろせ! 上陸だ!」

 

 っと、どうやらもう着いてしまったらしい。

 俺としてはもう少し波に揺られていても良かったのだが、まぁ、任務が早く終わるに越した事はない。

 乗組員達が上陸の準備を急いでいる間に船から飛び降り、見つかる前に全速力で駆け抜ける。

 目的地はたたら砂付近だ。

 

「喧嘩を売ごはぁッ!?」

 

 道中に居る宝盗団は、勿論きっちり始末する。

 今から俺がやろうとしている事は、『誰にも俺の存在を知られていない事』が重要なのだ。

 宝掘りの最中申し訳ないが、眠っていてくれたまえ。

 

「ya!」

「ya……haya!?」

 

 そして逆に、ヒルチャールやらスライムやらはガン無視。

 宝盗団や野伏衆とは違って情報を引き抜かれる心配のない魔物どもは、今は構ったところで時間を無為に使うだけである。

 命拾いしたな。

 

 そんなこんなで上陸から30分ほど走り続け、ようやくたたら砂に到着。

 たたら砂は刀の一代生産地で、此処にある『御影炉心』という装置で刀の原料である玉鋼を大量生産して、それを加工すると言う産業を行なっていた、比較的賑わっている土地……であったはずなのだが、人の気配が無い。

 いや、あるにはあるのだが、恐らく元々この土地に住んでいた住人でないだろう。

 

 まぁ、『御影炉心』のエンジニアはフォンテーヌ人だからな。それも神の目持ちの。

 鎖国と目狩りで入れなくなって、満足にメンテナンスが出来なくなったところに不具合が発生。

 刀の生産が難しくなり、食い扶持が無くなって移住を余儀なくされた……と言ったところか。

 元々の住民達には気の毒だが、今の俺には好都合だ。

『御影炉心』の作るバリアを斬り破り、内部へ侵入する。

 

「……む」

 

 一歩バリア内に足を踏み入れれば、ビリリと体が痺れる。

 成程、超高濃度の雷元素による過電荷か。

 道理で神の目持ちのエンジニアしか『御影炉心』のメンテナンスに当たらないわけだ。

 

 さて、これで氷元素でバリアを作ったら超電導でとんでも無い事になるよな。

 ここは無難に雷の種で対策するか。えーと、雷の種は……あったあった。

 

「……ふぅ」

 

 雷の種を持つと、俺の周囲に雷元素の膜が現れ、一気に体の痺れが無くなる。

 しかし、これもあくまで一時凌ぎでしかない。さっさと用事を済ませて、ここから離れよう。

 足場を蹴って飛び、『御影炉心』の上へ登る。

 

 ────さて、八重宮司様は『膠着状態を作れ』と俺に注文なされた。

 では、どうすればその状態は作れるのだろうか。

 その答えは実に簡単だ。互いに互いを『攻めたくない』と思わせればいい。

 

 現状を一度再確認してみよう。

 まず、東には幕府軍。そして西には抵抗軍。

 幕府軍は主力と物資が集まっており、祭りも合わさって士気も高い状態。

 対する抵抗軍は、士気の高さこそわからないが、少なくとも物資は不足している状態であるはず。

 これで幕府軍が突撃すれば、まず間違いなく前線は大きく前進する。

 

 幕府軍の狙いはまず間違いなくこれだ。

 それどころか、あわよくば海祇島まで攻め入ろうとも考えているだろう。

 つまり、幕府軍は今『すごく攻めたい』のだ。

 

 逆に、抵抗軍はどうだろう。

 抵抗軍の本拠地である海祇島は、言っては悪いが農作が壊滅的だ。

 それ故に今まで農作物は稲妻からの輸入に頼っていたのだが、戦争中ではそうもいかない。

 となると、食料は自給自足するしかないわけだが、増えた人口を支えるだけの生産力は残念ながら無い。

 なので、少しずつ貯蓄を減らすしかないわけだ。

 

 だから、貯蓄が尽きて飢え死ぬ前に決着を着けたい。

 つまり『攻めなきゃ死ぬ』言い換えれば『攻めなくちゃいけない』のだ。

 

 ────ここで、次の問題点だ。

『すごく攻めたい』幕府軍と、『攻めなくちゃいけない』抵抗軍。

 互いに強い攻撃の意志を持っている両陣営を、俺はどうやって戦意喪失させればいいだろう。

 これについても答えは簡単だ。両陣営に『相手に梅山義徳が付いているかもしれない』と思わせればいい。

 

 当時ですら将軍様を差し置いて『最強』なんて呼ばれて、今なんか『雷切』と呼ばれている俺だ。

 そんな俺が相手にいるかもしれないとなれば、両方とも慎重にならざるを得ないだろう。

 

 ただ、ここで重要なのがあくまで全ての情報を『かもしれない』に留めること。

 本当に梅山義徳は相手方についたのか。本当に今のは梅山義徳がやった事なのか。そもそも梅山義徳が本当にここに居るのか。

 これらの情報を全て曖昧にする。

 下手に確信されてしまえば、将軍様が居る幕府軍はともかく、抵抗軍が降伏してしまうかもしれないからだ。

 

 ────では、最後だ。

 どうやって両陣営に『梅山義徳が相手陣営に付いているかもしれない』と思わせるか。

 まぁ、曇天、俺、刀と揃えば、やる事は一つしかないだろう。

 

 

 虚空より剣を取り出し、腰に添え、

 

 

 腰を深く落とし、

 

 

 呼吸を一つ置いて、

 

 

 裂帛。

 

 

()ッ!!」

 

 

 練りに練った剣気を纏わせ、鞘より剣を解き放つ。

 

 

 するとどうだろう。雲が真っ二つに割れ、一筋の光が島に降り注ぐではないか。

 その有り得ざる光景に、鳥は驚き、狐は慄き、人は腰を抜かす。

 

 さぁ。刮目せよ、武士(もののふ)ども。

 これぞ梅山義徳。これぞ俺。いずれ理を斬る者の一太刀だ。

 

 




 この回での義徳さん(と八重神子)の誤算

 ①この時、将軍が丁度100個目の目狩りの儀式をやっていた事を知らなかった。
 ②岩神が来ている事を知らなかった。
 ③風神が来ている事を知らなかった。


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