西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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各所での一幕 その2

『千手百目神像』の周辺には、人だかりが出来ていた。

 人々の視線の先に居るのは、縄で拘束され、項垂れるトーマ。

 何でも、記念すべき百個目ということで、雷電将軍が直々に目狩りを執行するらしい。

 それを聞きつけた民衆が、滅多に姿を見せない将軍の威光を一目見ようと集まったのだ。

 

「うげッ!?」

 

 そんな中、人だかりの中ほどで、悲鳴が一つ上がる。

 周囲の人間がそちらの方を向くと、そこに居たのは外国の、見慣れない服装をした二人。

 片や緑衣に身を包んだ、軽やかな雰囲気を感じさせる少年。

 片や岩の如き重厚感を醸し出す、黒衣の男性。

 そんな二人が、互いに向かい合うようにして佇んでいた。

 

「ふむ、久しいな。まさかここでお前と会えるとは思っていなかったぞ」

「……それはこっちのセリフだと思うな……」

 

 そう掛け合う二人の表情は、ひどく硬い。

 どうやらこの再会は、二人の望むところでは無かったらしい。

 

「……で? 彼には何の用があってここに来たの? もしかしてだけど、怒っちゃってる? 璃月をグチャグチャにされて、年甲斐も無く?」

 

 緑衣の少年──ウェンティは不敵な笑みを浮かべ、嫌味ったらしくそう尋ねる。

 少なくとも、そこには確かな悪意が込められていた。

 

「いや。俺も多少は動いたものの、あそこから今まで立て直したのは璃月の民だ。成長の機会を与えてくれたと考えれば、感謝こそすれ、恨みなどするものか」

 

 しかし、黒衣の男性──鍾離は、眉ひとつ動かす事なくそれに答えた。

 語った言葉に一切の揺るぎは無く、心の底からそう思って言っているのが分かる。

 ウェンティはそれを聞いて、何とも不快そうに顔を歪めた。

 

「じゃあ何? 彼に『ごめんなさい』でもするの? 馬車馬のように働かせてしまってすみませんって、反省したのでもう一回ウチで働いて下さいって」

「まぁ、そうだな。七星達も前回の一件を大いに反省している。少なくとも、一定以上の休み、手厚い福利厚生……それと、充実した老後は間違いなく保証されるだろう」

「わぁ、それはすごい魅力的だね! ……でも、それはもうモンドで間に合ってるかな」

 

 二人の視線が交差する。

 その様子を見ていた者達は、二人の間で火花が散るのを幻視した。

 まさに一触即発の空気。

 周囲の人々は、万が一に備えてその場から一歩下がる。

 

「鍾離に……吟遊野郎!? お前らも来てたのか!?」

 

 しかし、横合いからかかった声と共にそんな空気は霧散する。

 声のかかった方を向いてみると、そこに居たのは金髪の異邦人と、白い人型浮遊生命体。

 旅人とパイモンである。

 

「久しいな、旅人にパイモン」

「久しぶりだね、二人とも。何でいるかって言うと……まぁ、わかるでしょ?」

「いや、理由自体は申鶴とかモナとかから聞いてるけどさ……よりにもよって、何でお前ら二人が来てるんだ!? 色々と大丈夫なのか!?」

 

 飄々とした態度の二人に、パイモンが半ば叫ぶように問う。

 と言うのも、何を隠そうこの二人、実は風神バルバトスと岩神モラクスなのである。

 

「ボクはアカツキワイナリーお抱えの吟遊詩人、ウェンティだからね。大丈夫だよ」 

「俺は商会の用心棒の鍾離だからな。何ら問題はない」

「う〜ん……ふ、不安しかないぞ……」

 

 パイモンの不安は大正解である。 

 問題ないなどとほざいているが、勿論そんなわけがない。

 今はまだ何も起きていないからいいものの、他国の神が武装して通告も無しに押し入るなど、立派な宣戦布告行為だ。

 雷神がこの事を認知し、宣戦布告と受け取れば、その時点で三国戦争勃発である。

 まぁ、力を使いさえしなければそんな事は無いのだろうが。

 

「ところで旅人、彼の行方は知らないか?」

「うん、そうそう、彼と一緒に来たんでしょ?」

「それが、今は私達も探しているの」

「まさか、はぐれたのか?」

「うん」

 

 旅人とパイモンは義徳が行方不明になった事、それと同時期に氷元素の大爆発が起きた事を語った。

 

「……成程。それ以来行方はわかっていない、と……」

「うん、有難う、旅人。ボク達も探すから、見つかったら────」

 

 その言葉の続きを紡ぐ前に、ざわりと、民衆が揺らめく。

 

「……む、彼女が出てきたか」

「え? ……って、そうだ! 旅人、こんなことしてる場合じゃないぞ! 早くトーマを助けに行かなきゃ!」

「うん!」

 

 そう答えるや否や、旅人は人混みを掻き分け掻き分け、前の方に進んで行き、それにパイモンも追従して行った。

 

「……どれ、俺達も行くか」

「うん、そうだね」

 

 旅人が開いた道を二人が通り、するりと旅人の後ろにまで移動する。

 すると目に映るのは、『千手百目神像』を見上げて佇む雷電将軍。

 

「……む? あれは……?」

「え!? もしかして、忘れちまったのか!?」

 

 鍾離が疑問の声を上げ、パイモンと旅人がそれに驚愕を示す。

 パイモンの脳裏に過ぎるのは『摩耗』の二文字。

 しかし、鍾離は首を振ってそれを否定する。

 

「いや、覚えているのだが……どうも俺の知る彼女とは随分違うようだ」

「ボクも……うん、なんか違う気がする」

 

 鍾離の意見に追従するウェンティ。

 雷神と直接会ったことがある風神と岩神が、揃って雷神の違和感を指摘した。

 となれば、彼女に何かしらの差異がある事は確かなのだろう。

 

「…………ッ!!」

 

 そう結論付けて旅人が視線を戻すと、雷電将軍が腕を伸ばしており、その先にあったトーマの神の目がカタカタと揺れていた。

 そして、1秒の間もなく神の目がトーマの腰から外れ、雷電将軍の元へ飛んで行く。

 

「ふッ!」

「…………!」

「旅人ッ!?」

 

 旅人はそれに一瞬の逡巡もなく、新たに得た雷元素の力を行使。

 雷を用いた超高速移動で以て、飛ぶ神の目を途中で掠め取った。

 それに雷電将軍は目を細め、微かな動揺を表す。

 

「ッ! ……不敬者がッ!」

 

 状況を理解した守衛の二人が、槍を構えて旅人へ突撃して来る。

 それを見た旅人は二人を雷の弾で冷静に無力化してから、即座にトーマの元へ移動。

 急いでその縄を外しにかかる。

 

「っ!?」

「神の目がなくとも、元素力を扱える……あなたは『例外』」

 

 だが、それは上方より飛来した雷元素によって阻まれた。

 旅人とトーマが切迫した表情で見上げれば、雷元素の足場を悠然と降りて来る雷電将軍。

 

「『例外』……それは『永遠』の敵……」

「ッ!!?」

 

 雷電将軍が地面に降り立つと、雷電将軍を中心に超高密度の雷元素の奔流が巻き起こる。

 旅人がそれに対して剣を虚空より取り出し、構えると、雷電将軍は己の胸元より一本の太刀を天に向けて抜き放った。

 

 『無想の一太刀』

 

 万葉とヨシノリが口を揃えて警告していたそれを思い出し、警戒度を最高まで引き上げる旅人。

 

「あなたを神像へと嵌め込みましょう!」

 

 そう言い放った雷電将軍が剣を横薙ぎに払うと、周囲の空間がひび割れ、そこから自身を包むようにして黒い『何か』が溢れて来る。

 旅人はその『何か』から逃れようとするも、旅人の脚よりも『何か』が迫って来る速度が速い。

 旅人はパイモンとトーマを残して『何か』に飲まれてしまう。

 

「……成程、『それ』が彼女の導き出した『永遠』という事か」

 

 それを上から見ていた鍾離は、納得したように頷く。

 

「……え? もしかしてあの時からずっとアレ? ……ボクはちょっとああいうのは……」

「まぁ、お前には無理だろうな」

「っておい! 喋ってないで助けてくれよ!!」

 

 そうやって二人で話していると、パイモンがそう訴えて来る。

 

「いや、とは言ってもな」

「う〜ん……ボク達に手伝える事はないかな」

 

 二人はほんの一瞬だけ目を合わせてからそう答えた。

 実際、この場において二人が手伝える事は無い。

 いくら神とは言え、出来ない事はいくらでもあるのだ。

 

「こ……この薄情者ぉ!!」

 

 そんなパイモンの叫びをよそに、二人は黒い球体をただ見つめる。

 恐らく中に居るのであろう『彼女』の事を考えながら。

 

「……ッ!?」

 

 一方、中に囚われた旅人は、その異様な光景に視界を彷徨わせていた。

 真っ黒な空間に突如現れる砂の地面。

 次々と迫り出す朽ちた鳥居。

 そして────

 

「ッ!!」

 

 黒い太陽を背に、赤い空の中を浮かぶ雷電将軍。

 

「────あなたは、私自らが見極めねばなりません」

 

 将軍が目を開き、徐に足を床に着けると、紫紺に輝く薙刀を手に出現させ、背後に『眼』を背負う。

 そして、それが何であるか旅人が理解する前に切り掛かって来た。

 

「うッ!?」

 

 咄嗟に剣を掲げた事により、何とか初撃を防いだ旅人。

 だが、その一撃のあまりの重さに耐えきれず、数メートルほど飛ばされてしまう。

 たった一振りでこの威力。あの人はこんなものを防いでいたのかとヨシノリの戦闘能力に慄く旅人に、容赦なく雷の斬撃が飛んでくる。

 

「ッ!」

 

 地面を蹴り、紙一重で飛来するそれを躱した旅人だが、それは雷電将軍の思う壺。

 すでに放たれていた第二の斬撃が旅人に迫る。

 旅人は身体に雷元素を纏わせ、高速移動にて何とかそれを回避した。

 

「はぁッ!」

「ぐッ!?」

 

 そこに、数メートルあった距離を瞬きの間に詰めた雷電将軍が薙刀を突き出す。

 旅人はギリギリのところで剣を腹と薙刀の隙間に捩じ込む事が出来たが、突きの威力をモロに喰らってしまい、再び距離を突き放される。

 

「かはッ……!」

 

 内臓に走る鈍い衝撃。

 次いで襲って来る吐き気と、耐え難い激痛。

 だが、この程度で止まるわけにはいかない。

 

「雷影剣ッ!」

 

 再び飛んでくる雷の斬撃を避け、雷の弾を放つ。

 だが、雷の弾は雷電将軍に当たらない。

 狙いが悪かったわけではない。確かに軌道は雷電将軍に直撃するものだった。

 ただ、放った弾以上に高密度の雷元素を雷電将軍が纏っており、それに掻き消されただけの話である。

 

「あなたを、永遠の礎にしましょうッ!」

 

 再び距離を詰めた雷電将軍が、雷を纏った薙刀を大上段より振り下ろす。

 旅人はそれを高速移動で避け、そのまま雷電将軍の背後に移動し、その背中に剣を振るう。

 当たる。旅人はそう確信した。

 しかし、雷電将軍はそれをわかっていたように低く体勢を沈み込ませる事で回避し、後ろ蹴りで反撃して来た。

 

「ふッ!」

 

 咄嗟に肩を引いて旅人はそれを避け、二発目の攻撃を放つが、それは雷電将軍が残った足を軸に回転し、斬り上げた薙刀によって弾かれてしまう。

 それによって大きく体勢を崩された旅人は、次いで雷電将軍が放った雷をまともに受けてしまった。

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

 元々雷元素を纏っていた事が幸いし、感電こそしなかったものの、その衝撃は凄まじい。

 再び距離が突き放される。

 

「……ッ」

 

 近接戦は対応される。遠距離攻撃は論外。

 考え得る手札は全て切った。

 助けが来る可能性はほぼ皆無。

 負ける。

 極めて冷静に、旅人は自身の敗北を悟った。

 

「はぁああああああああああああああッ!!」

 

 だが、それでも諦めるわけにはいかない。

 一か八か、旅人は雷電将軍に捨て身の突進を敢行する。

 勿論だが、雷電将軍がそれでどうにかなる程度なわけが無い。

 

「せぇッ!」

 

 すれ違い様に、何十発もの連撃が旅人に叩き込まれる。

 それらの殆どを防ぐ事ができずにまともに受け、旅人はその場に崩れ落ちた。

 その瞬間、旅人を包んでいた黒い『何か』が崩壊し、元の場所へと戻ってゆく。

 

「う、うわぁっ! た、旅人ぉ!」

「ッ!」

 

 倒れ伏した旅人を見て、パイモンは旅人の元へ、トーマは床に刺さった槍の元へ急ぐ。

 パイモンは目を閉じた旅人を揺すって起こそうとするが、旅人の反応は無い。

 

「旅人、旅人ぉ……ひぃ!?」

 

 そこに、刀を持った雷電将軍が歩み寄って来る。

 そのまま将軍は旅人に止めを刺そうとし────

 

「はぁッ!!」

 

 そこに、槍の穂先で縄を切ったトーマが、将軍目掛けて槍を投げつけた。

 

「ッ!」

 

 将軍の眼前に槍が到達したのは、振り下ろした刀がまさに旅人に届こうとした瞬間。

 このまま刀を振り下ろせば、槍を防げない。

 咄嗟にそう判断した将軍は、強引に剣の軌道を捻じ曲げて槍を弾いた。

 そして、その強引な軌道変更の結果、強烈な風圧が生じる。

 それにより、旅人の体が吹き飛び、槍を投げた姿勢のトーマに激突した。

 

「行くぞ!」

 

 そして、その衝撃で目覚めた旅人へ肩を貸し、崖の方へと逃げるトーマ。

 

「…………」

 

 雷電将軍は、その後ろ姿をただ見つめるのみ。

 

「しょ、将軍様、先程の……」

「彼女を目狩りの対象、へ…………」

「……将軍様? どうかされましたか?」

 

 指示を出そうとした将軍の言葉が途切れる。

 守衛が何事かと将軍の様子を伺ってみれば、将軍はまるで凍り付いたかの如くその場に固まっていた。

 

「しょ、将軍様?」

「即座に」

「え」

「即座に船を用意してください。これよりヤシオリ島へ向かいます」

「は、ははッ!」

 

 その命令を受け、守衛達は走り出す。

 

「全ては、『永遠』のために……」

 

 そう呟きつつ、早足で城へと向かう将軍。

 

「…………ふむ」

 

 その後ろで、鍾離とウェンティもヤシオリ島の方向を見つめていた。

 彼らは何も、ただ黙って見ていたわけではない。

 トーマの助けが無ければ、自分達が旅人を守ろうと考えていた彼らは、力の発動の準備を終え、いつでもそれを使えるように集中力を高めていた。

 故に、気付いた。

 

「どうやら俺たちは、互いにやるべき事が出来たらしい」

「……そうだね」

「ではな」

 

 そう言って、鍾離はその場を離れる。

 そして、入れ違いになるようにディルックがウェンティの元にやって来た。

 

「今はどういう状況だ。何があった?」

「ああ、うん。ヨシノリさんの居場所がわかったよ」

「何?」

「今、そっちで定期報告会してるでしょ? みんなに言っといてよ。ヨシノリさんはヤシオリ島に居るって」

「……わかった、信じよう。お前は先に船へ戻っていてくれ」

 

 踵を返し、報告会の会場へと走って行くディルック。

 

「…………これは、一波乱どころじゃ収まらないかな?」

 

 そう呟いてウェンティは坂を下り、離島へと戻ってゆく。

 遥か遠くで、雷鳴が一つ轟いた。




 ヨシノリ:神の目

 ヨシノリは、自分がいつから元素力を扱えたのかと言う事を、全く覚えていない。
 と言うのも、それは彼が一歳になるより前からその神の目と共にあったからだ。
 最初にそれを発見したのは、彼の父。
 ヨシノリが後になってから聞いたところによると、どうやら幼かった彼は、突如として自分のそばに現れたそれを斬ろうと、台所で包丁を片手に躍起になっていたらしい。
 それを聞いたヨシノリは、『乳幼児の頃から斬ることしか頭になかったのか、俺は』と、恥じらい半分、誇らしさ半分にそう呟いた。
 

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