西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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22話

 失敗した。完全に失敗した。

 それもただの失敗じゃない。失敗も失敗、大失敗だ。

 

 あの雲割りからおよそ一日。

 幕府軍の動向を監視していた俺の視界に現れたのは、モンドの船。

 本土からは絶対に見えないように調整して切ったはずなのだが、どう言うことか俺を捕捉できたらしい。

 

 帆に突風を受けているらしく、明らかに尋常ではないスピードでこちらへ向かって来ている。

 まず間違いなく、あの風は神の目によるものだろう。

 代理団長殿のものか、或いはあの飲んだくれ詩人か、はたまたその両方か……

 

 いや、そんな事はこの際どうでもいい。

 一番の問題は、ここが明らかな戦場である事だ。

 幾ら俺の事があって動けないとは言え、幕府軍は今まさに抵抗軍との戦争中。

 そんな中、他国の船が凄まじい勢いで自軍に突撃して来たら、どう見えるか。

 

 事前にそう言った通達があったのならいざ知らず、まず間違いなく第三勢力による奇襲、ないし相手方の策略による挟撃としか思えないだろう。

 そうなれば、迎撃が行われるのは自明の理と言うもの。

 

 そんなわけでつい数分前、幕府軍による砲撃が、モンドの船へと開始された。

 対するモンドは元素力による防壁を作成し、砲弾を防御。

 その後に右方向へ旋回し、現在モンド船はたたら砂あたりでの停泊を目指して進行中である。

 

 他国船による領地・領海への無断侵入、からの警告無視だ。

 極めて重大な外交問題、もといモンドvs稲妻の戦争の開幕である。

 

「スゥーーーーーッ………ふぅ」

 

 あなやぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!

 

 どっ、っどどどどど、どうする!?

 どうすればいい!? どうすれば最小限の被害に収まる!?

 

 船の連中をモンドまで逃すか!?

 何故かはわからんが将軍様が俺を欲している以上、俺が人質になればなんとか見逃して……

 いや駄目だ! 向こうの目的が俺である以上、旅人あたりと結託して将軍様に挑みかねん!

 

 金でなんとか解決出来ないか……!?

 いや、まず足りん上に、そうなると神里兄妹が絶対に干渉してくる!

 ……ん? 待てよ……この際俺が本当に神里へ婿入りすれば……?

 ああいや駄目だ。そしたら今度は幕府vs社奉行vsモンドvs璃月の戦いになる!

 

 こうなったら、俺が責任取って腹を切る……!

 ……いや、それは最終手段だ!

 

 となると、他には……他には……ああああああ! どうする!? どうすればいい!?

 ……………ええい、思いつかん!

 ああクソ! こんな事になるのなら、あんな我儘など言わなければ!

 捨てた物は捨てた物と、踏ん切りがついていれば……って違う! 

 後悔などしている場合か! 考えろ! 頭を回せ!

 

 何か、何かないか……!?

 俺が船の連中とモンドまで帰れて、稲妻にもモンドにもダメージが無くて、双方が納得できる!

 そんな策がどれか一つでも…………

 

「…………あ」

 

 これ、俺が将軍様に勝てば全部解決するのでは?

 この際、璃月勢は置いておくとして、俺がこの戦争に勝てば、モンドとの戦争は勿論、神里家との婚約とか将軍様との婚約とか、全部の問題を有耶無耶にした上で稲妻とケリを付けれる。

 モンドの船と合流して本土に戻り、稲妻城にいるであろう将軍様と対峙。

 そしてなんとか将軍様に勝てれば…………勝てる気が全くしない………………

 

 時間に手をかけた今の俺ならば……いやしかし、将軍様は雷の化身にして武の極みに居られる方。

 島どころか山の一つも切れていない俺では、そも相手になれるかどうか……

 だが、被害を最小限に抑えるためにはそれが最良と言うのも事実……

 うぬぬ……どうするか……

 

「……………ん?」

 

 そんな風に俺が頭を捻っていると、なんだか妙な気配を感じた。

 俺の後ろからだ。

 殺意ではない。敵意でもない。害意ですらない。

 猪や狐と言った動物に似ているが、どこか違う。

 何だかふわふわとした、ひどく曖昧な、気配とも言えるかすら怪しい何かだ。

 

 俺は、今までに一度も察知したことの無いそれに、どう反応すればいいのかわからなかった。

 しかし、俺の勘は、これに対して警戒を示している。

 となれば、それに従わない道理は無い。

 取り敢えず横方向へ一回転して避ける動作を行ってみる。

 瞬間、超高濃度の氷元素の塊が隣で爆発した。

 

「おォッ!?」

 

 咄嗟に飛び退きつつ氷元素を放出し、迫り来る氷元素を相殺する。

 視線を動かして相手を確認すると、つい先程まで俺がいた場所の真後ろに居たのは、先日見た白髪の女性。

 見つけられるのは秒読みだと確かに思ってはいたが、まさかこうも早いとは。

 しかし、彼女に気配が一切無かったと言うわけではなかったのは救いだった。

 

 まぁ、今はそんな事はどうでもいい。

 恐らく璃月の出身であろう彼女が居る、そして璃月の船は俺がここに来てから見ていない。

 となれば、彼女は海を凍らせて渡って来たと言うわけで────

 

「ふッ」

 

 まぁ、やはり他の璃月の連中も来てるだろうよ。

 

 後方から飛んで来た矢を、背面に剣気を飛ばして撃ち落とす。

 視界の端に映るのは、水元素によって紡がれた糸。

 逃亡生活中に何百何千と見た、夜蘭さんの『命の糸』による『打破の矢』だ。

 

 しかし成程。この女性の隠密性を利用した、速攻の凍結狙いか。

 それには彼女の存在が必須だったと思うが……いや、見つけたからこそか。

 本当によく見つけたな、こんな人材。

 

「ッ、急急如律令!」

 

 そんな風に俺が感心していると、目の前の女性が一枚の札を取り出して律令を唱える。

 すると、氷元素が槍を持った人型を形成し、そのまま切り掛かって来た。

 

 後ろへ飛んで避けつつ何度か切りつけてみるが、全く手応えが無い。

 剣気や氷元素を纏わせて切っても同じだ。

 どれを使っても、そこに何も無いかのようにすり抜けるだけ。

 

「はあッ!」

「ほう」

 

 着地した瞬間に、女性が槍による追撃を仕掛けて来た。

 再び後退してそれを避けると、今度は氷の人形がさらなる追撃を行なって来る。

 そしてそれを再び躱してみせれば、今度は女性がそこに攻撃を仕掛けて来る。

 

 成程。交互に接近と攻撃を繰り返すことによって隙を潰し、相手に一瞬の猶予をも与えぬ連携攻撃を行う……と言ったところか。

 これだけの高度な技術、彼女は相当な元素と術の使い手と見える。

 だが、俺からしてみれば些か甘いと言わざるを得ない。

 

「ッ!?」

 

 氷の人形の槍が振るわれる前に、空いている隙間を縫って彼女達の後ろへと抜ける。

 攻撃から接近までの隙を消せているところは実に良かったが、攻撃の予備動作までは消し切れていなかったようだな。

 

「……ぬ」

 

 反撃を用意する俺に向かって、高速で何かが飛んで来る。

 ごく小さな、粒のような球体だ。

 それが何十、何百と、面を成すようにして迫って来ていた。

 取り敢えず回避はできそうに無いので、剣で以てそれを撃ち落とし────

 

「うッ!?」

 

 突然大音量で騒ぎ出した俺の勘に従い、その場に剣を放り捨てる。

 するとバキバキと音を立て、剣が灰色に染まった。

 そして、それに侵食されるように周囲の地面までもが灰色に染まってゆく。

 

 もしやと思って元素視覚で確認して見れば案の定、刀と周囲の地面が、岩元素によって橙色に染まっていた。

 恐らく、超高密度の岩元素による石化だろう。

 あのまま剣を握っていたのならば、今頃は俺もあの刀の如く石化していたと言うわけだ。

 

「ふむ、初見で対応されたか」

 

 背後からの女性の攻撃と打破の矢をあしらい、バッと横に飛び退くと、木々の奥から悠然と歩み出て来たのは、黒衣を纏った偉丈夫。

 

「……よもや……鍾離殿?」

 

 落ち着いた雰囲気を纏い、どこか人間離れした気配の持ち主である彼は、璃月にて俺が大変お世話になった大恩人こと、鍾離殿であった。

 

「久しいな、義徳殿。おおよそ、3年振りと言ったところか」

 

 このような状況であると言うのに、まるでその辺の道端でばったり遭遇したかの如く、平然とそう語りかけて来る鍾離殿。

 チラと横を見てみれば、白髪の女性も、氷の人形も動きを止めている。

 恐らく既にチャージを終えているだろう打破の矢も、飛んで来ていない。

 正直最初が最初だっただけに、会話の最中に不意打ちをして来ないと言う信頼が全く無いが、まぁ、アンブッシュは一度までならセーフだと武家諸法度にも書いてあるからな。

 

「……ええ、まぁ、そうですね。ご壮健なようで何よりです。堂主殿はお元気で?」

「ああ、むしろ、元気すぎて困ってしまうくらいだな」

「ははは、彼女に心配は不要でしたか」

 

 警戒を忘れず、向こうの一挙手一投足に注意を払いながら、慎重に言葉を紡いでゆく。

 

「……して、此度は俺に何の用向きで? このような挨拶、只事では無いと思われますが?」

「それなんだがな……義徳殿、貴殿を璃月に連れ戻しに来た」

 

 ……まぁ、そりゃあそうだろうな。

 勿論そうだと思ってたさ。だから答えは決まっている。

 

「申し訳ありませんが、断らせていただきます」

「……ふむ、何故だ?」

「私は今の……モンドでの生活が一番私に合っていると感じています。それに、璃月も良いところではありましたが、いかんせんあの頃の労働地獄とも言えるような状況へもう一度戻る、と言うのは些か遠慮させていただきたい」

 

 本当にあれだけはもう嫌だ。睡眠があまりに取れなさすぎる。

 徹夜が普通ってどうなってるんだアレ。

 

「それなんだがな、義徳殿。あの一件から七星も反省したようでな。凝光殿から、義徳殿が再び職場に復帰するのなら、週休二日以上と手厚い福利厚生を保証するのに加え、玉京台付近の家や船、使用人も用意しようと言伝を預かっている」

 

 えぇ……何それ……滅茶苦茶優遇するじゃん……

 逆に胡散臭いんだが……

 

「それに、甘雨殿も義徳殿の復帰を心待ちにしている……こちらが気の毒になるくらいにな」

「……気の毒?」

「ああ、何でも、義徳殿は甘雨殿にとって、数少ない気兼ねなく話が出来る相手だったとか」

「……まぁ」

 

 否定は出来んな。

 あの人、明らかに俺に対しては遠慮が無かったし。

 

「それで、義徳殿が居なくなった事でただでさえ傷ついた心が、膨大な仕事量で休まる暇がなく、その上で岩王帝君が逝去なされた事で完全に許容量を超えてしまったようでな。今では堂主さえ彼女の心配をするような有様だ」

「重症じゃないですか」

 

 あの堂主殿が心配とか、まず無いぞ。

 えぇ……なんか悪い事してしまったなぁ……

 

「……しかし、璃月に戻る気はありませんよ。俺の夢は、仕事に忙殺されていて達成できるようなものではありませんからね。無理矢理にでも仕事を止めさせてくれるモンドの方が、仕事を止められなくなってしまう今の俺にとっては都合が良いのですよ」

「……そうか。残念だ」

 

 鍾離殿が手に槍を出現させ、一歩を踏み出す。

 それに対して、俺も石化が解けた刀を握り直し、構える。

 

「では、実力行使だ。悪く思うな」

「上等ですよこの野郎」

 

 ただでさえやる事も考える事も多すぎるんだ。

 一瞬で勝負をつけてやる。





 本日は風邪が多すぎて練習がオフになってしまいました。
 皆さんも風邪には気をつけてください。
 筆者も出来る限り健康で居続けられるよう頑張ります(五年間風邪ナシ)

 
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