西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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23話

 まず最初に動き出したのは、白髪の女性と氷の人形。

 女性の槍が脚へ、氷の人形の槍が胸へ、同時に振り抜かれる。

 

 それを一歩下がって回避すれば、次に迫って来るのは鍾離殿の槍。

 凄まじい速さだ。そこらの弓手が放つ矢なんかより何倍も速い。

 そして恐らくこの槍も、超高密度の岩元素を纏っているはずだ。

 刀で弾けば、石化は免れないだろう。

 

 なので直接刀で触れず、剣気で弾く。

 こうすれば、俺は岩元素の影響を受ける事は無いはずだ。

 そう思って剣気を飛ばしてみれば、目論見通り鍾離殿の槍は俺の横へと軌道がずれる。

 

「……ほう」

 

 見えざる刃を目の当たりにした鍾離殿が感嘆の声を漏らす。

 

「はッ!」

 

 それとほぼ同時に、下から槍が跳ねて来た。

 白髪の女性の槍だ。それも人形ではなく、実態を持った方の。

 その槍撃は、万が一にも殺すようなことが無いようにしているのか、俺の体を撫でるような酷く浅い軌道だが、その刃に濃厚な氷元素を纏っている。

 

「……ッ!」

 

 俺は相手の狙いが氷元素の付着であるとし、自身もまた氷元素を纏うことによって相殺しつつ槍を弾いてしまおうと考えるが、しかしここで人形の存在をハッと思い出す。

 そこで急ぎ元素視覚を交えつつ周囲を探ってみれば、どうやら真上へと移動していたらしい。

 俺の真上で槍を構え、ほんの僅かな隙さえも逃すまいと、狙いを澄ませている。

 となれば、確実に隙を晒す防御も、人形の射程圏内から逃れられない回避も、あまり良い手とは言えそうにない。

 

「……それならば」

 

 正面突破しかあるまい。

 腰を折り、足首と膝を曲げ、上がりつつある槍よりもさらに低い姿勢を取ってそのまま前方へと駆け抜ける。

 

「ッ、なッ!?」

 

 ついでに腕を女性の足に引っ掛けて、足を払う。

 そして、不安定な体勢になったところで足から地面に氷元素を流し込み、足と、地面に着こうとした手を地面ごと凍結させる。

 これで片手と片足を封じ、体勢も大きく崩すことが出来た。

 

 この氷は水元素を交えた凍結反応で無ければ、特殊な氷というわけでも無いのでほんの数秒と持たないが、しかしそれでも時間稼ぎとしては十二分。

 彼女が復帰する前に、厄介な鍾離殿を倒すとしよう。

 

「……なんと」

 

 と、思った直後に氷がパキキと音を立てて霧散し、その代わりに女性の周囲へ淡い空色の膜が出現する。

 それは岩元素による結晶反応と、それに伴う元素シールドの展開に他ならなかった。

 そしてこの場で岩元素を自在に操れる人間など、ただ一人、鍾離殿しか存在しない。

 チラリと鍾離殿の方へ目をやって見れば、得意げな視線が俺を見下ろしている。確信犯だ。

 ……しかしそれにしたって早すぎる。まだほんの四分の一秒すら経っていないぞ。一体全体、どんな反射神経をしているのだ。

 

「!」

 

 戦慄する俺をよそに、鍾離殿が目を細める。

 

「っとぉ!」

 

 それを見た俺は地面を蹴り、前方へと飛ぶ。

 その直後に、岩元素が地面を割って噴き出して来た。

 油断も隙もあったものでは無い。

 

「ふっ!」

「ふん」

 

 やられてばかりではいられないと振り返りざまに剣気を飛ばすが、それに対して、鍾離殿は岩の盾を生成する事で防御。

 剣気は岩の盾を両断したものの、その奥にいた鍾離殿にダメージは一切無い。

 

「凄まじい切断力だな」

 

 鍾離殿は感心したように呟きながら、真っ二つに割れた岩の盾を崩し、そのまま弾丸としてこちらへ発射して来る。

 当然ながら、それらはどれも漏れなく超高密度の岩元素の塊だ。

 いずれも掠りさえしようものなら、石化は免れない。

 

「……無理か」

 

 岩の弾丸を剣気で以て撃ち落とす事を試みてみるも、しかしいかんせん数が多い。

 直接切って落とす事ができればよかったのであるが、そうで無いのならばこの量は流石に厳しいと言うものだ。

 仕方が無いので、氷元素で壁を作って時間を稼ぎ、横方向へと走って射線から外れる。

 

「流石と言ったところだな」

 

 鍾離殿は俺の動きに合わせ、新しい弾丸を作成して次々と打ち込んで来る。

 正直に真っ直ぐ飛んでくる物もあれば、俺の後ろを追うように飛んでくる物、反対に俺の進行方向から飛んでくる物、グネグネと、変則的な軌道を描くものもある。

 だが、どれがどのように飛んでくるのか予想さえ出来ていれば、そこらの木に当てる、剣気で切る、氷元素による結晶化を起こす、弾同士を当てて対消滅させるなど、対応はいくらでも可能だ。

 そのようにして、俺は次々と岩の弾丸を対処してゆく。

 

「ふむ、これは通じないか」

 

 そんな俺の様子を見て鍾離殿がそう呟くと、岩の弾の数が目に見えて減った。

 弾自体は未だに飛来し続けているものの、走って容易に回避できる程度だ。

 当然、以前優位な状況に立っている鍾離殿に岩の弾丸を引っ込める理由はない。

 となれば、真っ当に考えるのなら岩の弾丸を引っ込めたのは、岩の弾丸以上に俺に対して有効な手を放って来る事の準備であり、そして今まさにそれが放たれようとしているという事だ。

 

「だが、これならばどうだ?」

 

 そんな俺の思考は面白いくらいに正解であった。

 

「ッ、ぐおッ!?」

 

 鍾離殿が呟いた瞬間、俺の進行方向へ突如として壁が出現したのである。

 身構えていた事が幸いし、直前で減速こそ出来たものの、止まる事はできずにそれへと激突してしまった。

 強烈な慣性によって叩きつけられた俺の体が大きな反発を受け、ぐらりと傾く。

 目だけを動かして見てみれば、そこにあったのは半透明の、橙色の壁。

 成程、俺が石化していないところから鑑みるに、元素の密度が薄い代わりに遠隔で生成できる壁、と言ったところか。

 

「ぐ、ぬぅッ!」

 

 などと、そんな事を悠長に考えている暇など無い。

 壁にぶち当たり、体勢を崩した俺の元へ、少ないながらも一発で俺を敗北たらしめる岩の弾丸が迫り来る。

 回避は不可、物理的な防御も不可。咄嗟にそう判断した俺は元素力を全開にする事で周囲の岩の弾をまとめて結晶化させ、何とか岩の弾丸を防ぐ。

 

「はぁぁッ!」

 

 しかし、それで対処できたのはあくまで岩の弾のみ。

 この瞬間に勝負をつけるべく、横からは元素シールドによって氷元素の影響を免れた女性と氷の人形が、後ろからは放たれた打破の矢が俺目掛けて迫って来る。

 やっと俺が晒した隙らしい隙だ。向こうからすれば見逃せるわけがないだろう。

 

「舐めるなッ!」

 

 だが、この程度の窮地。それこそ飽きる程経験している。

 当然、それに対する対処法も会得済みだ。

 片足を抜き、残った足で倒れつつ回転。全方位に剣気を飛ばす。

 

 苦し紛れとは言え、剣気は切れ味そのものだ。

 それが飛んで来たのなら、それは斬撃と何ら変わりない。

 となれば、斬撃が放たれた以上、女性は防御を行うしかなく、矢は切られて落ちる。

 物理攻撃の影響を受けない氷の人形はそのまま迫って来るが、それだけならば問題ない。

 刀を虚空へと収納して受け身を取り、転がりつつ槍を避けて立ち上がる。

 

「……ッ、強い……!」

 

 再び剣を構え、万全の状態に戻った俺を見て、女性が噛み締めるように呟いた。

 

「……さて」

 

 氷の壁が破壊され、再び飛来し始めた岩の弾を避けつつ、鍾離殿の方を見やる。

 現状、俺が苦しめられている要因の十割が鍾離殿だ。

 一発でも当たった時点で終わりなのはまだ良いとして、近距離でも遠距離でもまともに防御すらさせてくれないのは、あまりにも酷すぎる。

 それに加えて、こちらの元素力の無効化に、遠隔で行える壁の生成ときた。

 真っ先に彼を対処せねば、負ける。

 そう判断した俺は、岩の弾を避けながら鍾離殿へと突貫する。

 

「ふむ、正しい判断だ。だが、俺もそう易々とやられるわけにはいかんのでな!」

 

 鍾離殿はそれに対して、先程と同じような半透明の障壁を展開して来た。

 だが、そんな事はすでに織り込み済みだ。

 

「……ははっ、破るか、玉璋を!」

 

 この玉璋とやらは、当たっても石化しない。

 つまり、直接刃を通して切る事が出来ると言う事。

 実体があって、刃を通せるのならば、俺に切れない道理は無い。

 壁目掛けて剣を振るい、体を捩じ込めるだけの隙間を切り開いて押し通る。

 

「強い、強いとは何度も聞かされていたが、よもや、これ程とはな!」

 

 刀に氷元素を纏わせ、鍾離殿へと切り込む。

 鍾離殿はそれを槍で防御し、流れるような動作で生成した石の槍を至近距離から俺へ投擲した。

 俺は体を捻る事でそれを回避し、連撃を叩き込むが、鍾離殿は玉璋を展開してそれらを全て防ぐ。

 

「……?」

 

 それを見て、玉璋を叩き斬る剣を振るおうとするが、振りかぶった剣の先が、まるで空間に固定されたように動かない。

 剣先へと目をやってみれば、剣先が生成された岩によって止められていた。

 ……成程、いくら相手が切断に長けていようと、そもそも剣を振らせなければ問題は無い、と。

 

 ……いや、感心している場合じゃねぇ!?

 

「ッ!!」

 

 石化を免れるため咄嗟に剣から手を離すと、鍾離殿が岩元素を纏った拳を繰り出して来る。

 それに対して、俺は柔術で拳の軌道を逸らしつつ、剣気を纏わせた手刀で玉璋を攻撃。

 だが、それは甲高い金属音と共に弾かれてしまう。

 

「流石に、無理かッ!」

 

 半ば賭けに近い一撃ではあったが、まさか傷一つすら付かないとは。

 どうやらこの玉璋とやら、思った数倍は硬いらしい。

 

「尖岩穿野!」

 

 鍾離殿の声に合わせて宙空に出現した無数の石槍が、丸腰の俺へ降り注ぐ。

 迎撃は不可能。となれば、回避する他にない。 

 しかし、鍾離殿は俺が回避を行おうとした方向へ玉璋か、或いは岩を生成して妨害を行なって来るだろう。

 そうなってしまえばどうにもならない。

 

 と言うわけで、鍾離殿を盾にさせて貰う事にした。

 氷元素で作った柱で鍾離殿を玉璋ごと石槍と俺の間にまで持ち上げる。

 すると目論見通り、石槍は玉璋に阻まれて次々と砕けてゆく。

 

「面白い!」

 

 次の瞬間には氷の柱は破壊されてしまうが、距離を取るのに十分なだけの時間は稼いだ。

 女性と氷の人形による攻撃を体を捻って躱し、数メートルほど離れた地面に着地する。

 そして。

 

「丁度良い、使わせてもらう!」

 

 飛来した打破の矢の矢柄を掴み、鍾離殿へと投げつける。

 当然の如くそれは玉璋に防がれるが、それで問題ない。

 飛び散った水元素へ氷元素をぶつけ凍結反応を起こし、鍾離殿を氷の中に閉じ込める。

 

「ほう、成程!」

 

 凍結反応により生じた氷は、純粋な氷元素による氷とは違い、岩元素を当てれば『氷砕き』を起こす。

 俺は岩元素を扱う事は出来ないが、実に丁度良いことに、鍾離殿の側には、半ば岩元素の塊と化した刀が刺さっている。

 これを利用しない手は無い。

 

 刀を掴み、氷へと叩きつける。

 岩元素によって俺も手首あたりまで石化してしまったが、そんなことは些事だ。

 氷がひび割れ、『氷砕き』が発生。

 それに伴って衝撃が生じ、玉璋が砕け散った。

 

「オォッ!!」

「ッ!」

 

 そこへ、間髪入れずに最大出力の氷元素を叩き込む。

 玉璋を失った鍾離殿は岩元素を纏い、結晶反応を起こして逃れようとするも、こちらの元素力の方が強い。

 結晶反応により生じた元素シールドごと、岩元素を押し流す。

 そしてそのまま、氷元素により発生した氷により、鍾離殿は完全に包まれた。

 

「────ふぅ」

 

 さて、これでまずは一人。

 とは言え、鍾離殿の事だ。いつ復活してきてもおかしくはない。

 残る二人、速攻で片付け────

 

「……嘘だろ……ッ!」

 

 後ろを振り返った瞬間、背後からビシリと氷が軋む音がした。

 慌ててその場から飛び退くと大音量を上げて氷が四散し、何事もなかったかのように鍾離殿が出て来る。

 

 いや、確かにいつ復活してもおかしくはないと思ったが。

 それにしても早すぎると言うものだろう。

 しかも全くのノーダメージってどう言う事だ。

 

「……すまないな、義徳殿」

 

 剣を構えつつ、あまりの異常事態に困惑していると、何故か鍾離殿が俺に謝罪した。

 

「俺はこの件に全力で当たると言っておきながら、どうにも貴殿の事を侮っていたようだ」

 

 ……とてつもなく嫌な予感がする。

 

「油断大敵とはよく言ったものだ。事実として、力を抑えて戦った結果、俺は貴殿にここまでしてやられてしまった」

 

 腰を低く落とし、深く息を吸う。

 

「となれば、これ以上の手加減は貴殿に対して、失礼と言うものだろう」

 

 目を閉じ、意識を極限まで集中させる。

 

「故に、ここからは────」

 

 心を完全に無にし、刀へと手をかけ────

 

「────全力だ」

 

 岩元素が爆発すると同時に、『奥の手』を発動させた。

 




 うーんこの。
 元素力バトル書くの楽しいんだけど、鍾離先生を盛りすぎて残りの二人がどうしても空気になってしまう……くっ、小説力が足りん……

 あ、勿論ですが、ヨシノリさんの本気はこんなんじゃないです。
 今回は相手を殺さないように手加減しているだけで。
 
 まぁ、そんなわけで言い訳タイムはこの辺りで終わり。
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