西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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3話

 西風騎士団のワーカホリック侍と言う異名は、どうやら聞いた者に『仕事と戦闘しかできない人間』と言う印象を植え付けてしまうようだが、事実はそれと異なる。

 確かに仕事と戦闘が一番の得意であるが、それ以外にも俺は初歩的な家事から精密な作業まで、割と何でも卒なくこなせるタイプだ。

 

 そして、その中でも俺が特に得意とするのが料理である。

 稲妻では家事の手伝いで、璃月では仕事で、モンドでは趣味で。

 30年間以上に渡って料理の腕を振るい続けている俺は、3国の料理のほぼ全てを習得し、熟練した、言わば国際料理人。

 その腕前は、『志村屋』の志村勘兵衛を始め、『新月軒』の月疏や『鹿狩り』のサラ、極め付けは『往生堂』の鍾離殿を唸らせるほど、と言えば分かるだろうか。

 

 まぁ、兎にも角にも、俺は料理が大得意であると言うことが分かってくれれば問題ない。

 で、それで何を伝えたいのかと言うと、俺にとって魚の調理など、赤子の手を捻るよりも簡単な事だと言うことだ。

 

「と言うわけで、璃月料理の『チ虎魚焼き』を作ってみた」

 

 皿に乗せた魚とネギの串焼きを、2人の少女が座っているテーブルの上に置く。

『チ虎魚焼き』は誰でも作れるようなお手軽料理だが、騎士団の団員は基本的に忙しいので、変に凝った料理を作るより、仕事の片手間に食べられる『チ虎魚焼き』が一番良いだろうと思った次第だ。

 

「わぁ! 美味しそう! いただきまーす! …………うん、美味しい!」

 

 大きな口を開けて『チ虎魚焼き』にかぶりつくのは、西風騎士団の偵察騎士、アンバー。

 風の翼を使って飛ぶ事が大好きな、笑顔の似合う少女だ。

 しかし、その可愛い顔に見合わず、実力は凄まじい。

 炎元素の神の目を用いて放たれる火の矢は、瞬く間に敵を消し炭と化してしまう。

 

「そうね……毎度のことだけれど、なんでこの人はこんなに多才なのかしら……」

 

 どこか納得行かなそうな表情で上品に『チ虎魚焼き』を食べるのは、遊撃小隊隊長のエウルア。

 彼女は兎に角優秀で、剣技はもちろん知略にも優れ、立派な胆力も持ち合わせている。

 しかし、彼女の実家であるローレンス家は、過去にモンドで色々とやらかしてしまったらしく、その因果で遥か子孫である彼女も、民衆からは良い印象を持たれていない。

 実に残念なことだ。彼女はとても心優しく、誠実であると言うのに。

 

「まぁ、30年も生きていれば、色々とあるからな」

 

 今更だが、ここに居ないクレーとガイアさんは外で遊んでいる。

 恐らくだが、クレーが料理の完成を待ちきれなかったのだろう。

 なので、たまたま近くに居たこの二人を試食担当に選ばせてもらった。

 

「少なくとも、それがまともな30年では無かったことは確かね。貴方くらいの年齢の団員達は、貴方ほど化け物じゃないもの」

「ヨシノリさんより歳上のファルカ大団長も大概だったけど、ヨシノリさんと比べちゃうと……」

 

 ファルカ大団長とは、我ら西風騎士団における真の頂点だ。

 圧倒的な戦闘力を持つ実力者であり、その性質は困った者には誰にでも手を差し伸べる人格者でもある。

 現在は代理団長を立て、騎士団の団員約八割を連れて遠征に出ているため不在だが、それでも現在の西風騎士団がこれほどまでの統率力を持っているのは、まさに彼の功績であると言えよう。 

 

「おいおい、流石に俺もそこまでじゃないだろう。普通でないと言う事は十分に承知しているが、それでも彼には及ばない」

「見て、アンバー。大団長と真っ向から戦って圧勝した人が何か言っているわ。何かしら。大団長に手も足も出なかった私達への当てつけかしら」

「うーん……そうかも」

「違うが?」

 

 顔を寄せ合い、こちらに丁度聞こえる程度の声量で話し合う二人。

 いや、確かに大団長と戦って勝ったのは事実だが。

 だとしてもそれが彼よりもぶっ飛んでいると言う事の証明にはならないだろう。

 

「はぁ……まぁいい。では俺は他の人達にもこの『チ虎魚焼き』を届けてくる」

「え、もう行っちゃうの? もう少しここでお話しすれば良いのに」

「いや、そうもいかん。早くしないと料理が冷めてしまうからな」

 

 まぁ、璃月料理の利点として、温めやすいと言うものはあるが、それは少々手間だ。

 

「そう……代理団長とリサなら、執務室に居るわよ」

「む、わかった」

「それとさっきの言葉、私への侮辱として覚えておくから」

「それは勘弁してくれ」

 

 エウルアの言葉を背中に受けつつ、厨房を出て執務室の方へ。

 皿を片手に持ち、コンコンと扉をノックする。

 

「誰だ?」

「俺です。入って良いですか?」

「ああ、構わない。入って来てくれ」

「失礼します」

 

 片手で扉を開け、皿をぶつけないように中へ入る。

 中にはエウルアの言う通り、代理団長と一緒に司書のリサさんも居た。 

 

「さて、要件は……聞くまでも無いな。その皿か」

 

 そう言って立ち上がり、こちらへと歩いて来る代理団長こと、ジン・グンヒルドさん。

 彼女が大団長より一時の騎士団を預かった代理団長である、と言うことから既にわかっていると思うが、彼女は実に優秀だ。

 大団長不在の今でも、彼女ならば大丈夫だと言う民衆からの信用も厚い。

 ただ、真面目過ぎて根を詰めすぎてしまうのは、少々いただけない。

 

 ……いや、それは決して俺が言えた事では無いのだが。

 しかし、だとしても俺に無理をするなと言っているのだから、彼女自身もあまり無理をしないように努めるべきだとは思う。

 

「あら、璃月の『チ虎魚焼き』じゃない。随分と久々だわ」

 

 まだ俺は何も言っていないと言うのに、リサさんは『チ虎魚焼き』を一つ取り、食べ始めてしまった。

 いや、まぁ、元よりそのつもりで来たので、それで全然構わないのだが。

 

 騎士団に併設してある図書館の司書である彼女は、有り体に言ってしまえば天才である。

 聞いた話だが、なんでもスメールの教令院を2年で卒業したとか何とか。

 戦闘においても、その雷元素の神の目を使った攻撃は、周囲の敵を瞬く間に殲滅してしまう。

 

 それと余談だが、彼女は怒るととんでもなく怖い。

 基本的にちゃんとしていれば怒られる事は無いはずなので、俺はリサさんに何か言われたら、取り敢えずそれに従う事にしている。

 

「先程、クレーと一緒に海まで行って来ましてね。そこで獲れたものになります」

「ああ……成程、また手間をかけさせてしまったか」

「んん〜! 美味しい〜!」

 

 額に手を当て、頭痛を抑えるような姿勢を取る代理団長と、その奥で頬を抑えながら『チ虎魚焼き』を咀嚼するリサさん。

 

「すまないな、ヨシノリさん。クレーには後から私が言って聞かせておこう」

「構いませんよ。子供はあれくらいが一番です。それよりこれ、どうです?」

「む、ああ、そうだな。頂こう」

 

 皿から『チ虎魚焼き』を一本取り、食べ始める代理団長。

 

「うん、やはり、ヨシノリさんが作る料理はどれも美味いな」

「それはどうも」

「ねぇ、もう一本食べていい?」

「他にも沢山あるので、全然大丈夫ですよ」

 

 そう俺が答えると、リサさんは『チ虎魚焼き』を一気に3本持って行った。

 少しは遠慮して欲しかったところだが……まぁ、それだけ美味しいと感じてくれていると言う事だ。悪いことでは無い。

 

「しかし、こうしてヨシノリさんの料理を食べるのも久々だな。前は確か3か月くらい前に……む?」

「ん?」

 

 何やら、扉の外から話し声が聞こえてくる。

 子供のような甲高い声と、女性の声だ。

 

「…………この声は……」

 

 皿を片手に持ちつつ、扉を開ける。

 

「うわぁっ!?」

 

 すると、そこに居たのは空飛ぶ謎の小人と、金色の髪の少女。

 風魔龍を鎮めた西風騎士団栄誉騎士にして、渦の魔神を打破した大英雄。

 旅人こと蛍と、その非常食ことパイモンだった。

 

「あー……まぁ、取り敢えず中に入れ」

 

 扉を開き、旅人達を執務室の中に入れる。

 この後に起こるであろう波乱の予感を、肌にひしひしと感じながら。

 




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