西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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25話

 情報交換は、甲板の上で行われた。

 各々の稲妻での行動と、それによって手に入れた情報。

 それらを整理しつつ、俺の知識で補完しながら持ってきた黒板にチョークで書き込む。

 そうする事によって、互いに現状について共有し合っていた。

 

 彼らが語る情報の中には俺が把握しきれていなかったものも大量にあり、実に興味深いものだったが……なんと言うか、聞けば聞くほど現在の稲妻が終わっている。

 特に、鎖国による海外の人材の喪失と貿易の減少、目狩りによる元素力が扱える人間の減少による影響が拙すぎる。

 

 外人が担っていた産業の致命的な衰退に加え、貿易の減少による輸入していた大陸の素材や食料の不足、外人冒険者の喪失による国内の素材採集の難化。

 それらによって引き起こされる食料を含んだ物価の急激な高騰と、それに伴って増加する飢餓。

 

 また、神の目の喪失による天領奉行の手が届かない地方の村々の自衛力の低下。

 それによって増加する浪人と宝盗団による略奪や暴行等の被害。

 その結果、限界を迎えた村の村民が浪人化ないし宝盗団化し、更なる被害拡大につながる。

 

 もはや酷すぎて目も当てられない。

 よくもまぁこれで今まで国家運営が成り立っていたものだ。

 

 鎖国による物価上昇に関しては、今が稲妻にとって転換の時期故に仕方ないと言えなくもないが、浪人と宝盗団に関してはどうにかならなかったのか。

 勿論、俺が抜けた穴が大きかったと言うのもあるのだろう。

 しかし、もうちょっとこう、順を追って施行していくとか、方法は幾らでもあっただろうに。

 

 ……とまぁ、そんな具合で稲妻の現状に頭を痛めつつ情報を交換し合っていると、つい先日の、俺が雲を切った直後の辺りで、とんでもない情報が飛び出して来る。

 

「将軍様がこちらに向かって来られている……だと……?」

 

 あまりにも衝撃的な情報に、思わず顔が引き攣ってしまう。

 辺りを見回しても、誰一人としてそれを偽りだと指摘する気配は無い。

 となれば、それは事実なのだろう。

 

「……マジか」

 

 ……そうか、気付かれていたか。

 まぁ、当時は鳴神島にいたであろう璃月の面々も俺の存在に気付いていたのだ。

 将軍様が気付いていても、何らおかしくはない。

 と言うか、彼らが気付いていて将軍様が気付いていないわけがないと言う話である。 

 

「………………ふむ」

 

 しかし、将軍様がこのヤシオリ島に……か。

 好都合だな。

 

「……ディルックさん」

「何だ?」

「海祇島に停泊し、抵抗軍と合流してください。雷電将軍を迎え撃ちます」

 

 俺がそう伝えた直後のほんの一瞬、波以外の音が消える。

 その間に俺は耳を塞ぎ、直後に来るだろう衝撃に備えた。

 

『……はァ!?』

 

 そして、案の定襲ってきたのは後ろの方で仕事をしていた船員たちも一緒になった大合唱。

 その圧倒的な音量は俺の手一枚など容易く貫通し、俺の耳へと確かなダメージを与えた。

 

「なっ、なぜですか! 早くモンドへ帰りましょうよ! そのような危ない橋を渡る必要などないではないですか!」

「そうよ! こんな物騒なところ、さっさと離れましょう!?」

 

 取り乱した様子の占星術師とフィッシュルが涙目でこちらへと詰め寄り、そう訴えてくる。

 他の面々も全くの同意見であるらしく、うんうんと首を縦に振って肯定の意を示している。

 

「……俺も、出来る事ならさっさと帰りたいんだが……生憎とそうもいかない。今回の件で俺がモンドにいる事は璃月と稲妻にバレた。ここで決着をつけなければ、ただ次の戦場がモンドになるだけだ。皆としても、それは不本意だろう」

 

 俺がはっきりとそう伝えると、二人はぬぐ、と口をつぐんで引き下がった。

 

「……しかし、どうせ戦うのならこちらの本拠地でやるべきでは?」

 

 スクロース君がずり落ちた眼鏡を直しながらそう聞いてくる。

 確かに、普通ならばそうするべきだ。

 モンド内での戦闘となれば騎士団の面々も堂々と連れてくる事が出来るし、風神の加護も、恐らくだが四風守護の力添えもある。

 敵地で戦うよりも、圧倒的に有利に事を進めることができるだろう。

 しかし、それはあくまでも普通の戦いなら、と言う話だ。

 

「俺と将軍が本気で戦えば、まず間違いなく極めて広い範囲に甚大な被害が出る。海岸線付近で開戦したとしても、モンド城に被害が及ばないともわからない」

 

 それに、と言葉を続ける。

 

「つい先程、恐らくだが岩王帝君に目をつけられた。そして今でも間違いなく監視されている。脱出はまず無理だろう」

 

 再び甲板の上から音が消えた。

 しかし、先ほどの静寂とは少し毛色が違う。

 皆の目がジトっと細められ、『何言ってんだコイツ』と呆れの様相を呈しているのだ。

 それもそうだろう。まず、岩王帝君はしばらく前にお亡くなりになったと言われていたし、そもそもこの地は稲妻。岩王帝君がこんな場所にいるはずがないのである。

 

 しかし、ただ一人。

 ただ一人だけ、他とは決定的の違う反応を示した。

 

「……やっぱり?」

 

 視線を向けてみると、諦めたような苦笑いを浮かべているウェンティ。

 

「どう言う事?」

 

 ロサリアが鋭い目でウェンティを睨む。

 もしこの場に居たのがこの面子で無ければ、間違いなく彼に槍を突き付けていただろうと確信できる程の剣幕だ。

 

「う〜ん、とね……」

 

 ウェンティはそんなロサリアの放つ殺気を一切気にする様子もなく振り返り、顎に手を当てて考え込む素振りを見せる。

 

「ボクが風神バルバトスで、じいさん……岩王帝君と面識があるって言ったら、信じる?」

 

 そして、すぐにそれを解くと、まるで何でも無いことのように爆弾発言を放った。

 にわかに船上が騒然となる。

 そんなわけがない。嘘に決まっている。この状況でくだらない事を言うな。

 ウェンティの発言を咎める怒声と罵声が行き交い、近くで話を聞いていた面々も胡散臭いものを見る目でウェンティを見ている。

 

「僕が保証しよう」

 

 しかし、そんな中でディルックさんが声を上げた。

 皆の視線が一斉にディルックさんへ向く。

 

「信じられない気持ちは十分わかるが、彼は正真正銘、風神バルバトスだ。僕の誇りに誓っても良い」

 

 一拍置いて、皆の視線が今度は俺に集まる。

 つまり、俺に結論を出せ、と言うことか。

 まぁいい。もう既に俺の答えは決まっている。

 

「信じよう。元より、彼がただの人間でない事は既に把握していた。むしろ正体を知って納得しているくらいだ」

 

 これは燦然たる事実だ。

 初対面の時から、コイツがただの人間でない事は気配で察知していた。

 ただ害意はなかったので、正体を知ろうとはしなかったが。

 

「……う〜ん……」

「お二人がそう言うなら……」

「待ってくれ」

 

 船上に、ウェンティ=風神バルバトスだと言う事を認める空気が漂う。

 その空気は段々と船員達に伝播して行き、とうとう全員がそれを認めようとしたところで、アルベド君が待ったをかけた。

 

「ヨシノリが認めたんだ。君が風神バルバトスだと言う事は、疑いようもない事実なのだろう。しかし、何故君はそれを知っていた? そして、何故今まで僕達にそれを黙っていたんだ?」

 

 そう言ってアルベド君が目を向けるのはディルックさん。

 ディルックさんはそれに一つため息をつくと、アルベド君の方に向き直る。

 

「僕がこの事を知ったのは、以前の風魔龍事件の頃、旅人の紹介で、だ。このことは騎士団の代理団長も把握している。それで、何故黙っていたかは、この事を話せば混乱が起こると思ったからだ。……これで十分か?」

「ああ、問題ない。単なる確認だ。そこまで深い意図は無いよ」

 

 そう言って、アルベド君は大人しく引き下がった。

 

「そうか。……では、他に意見や反論、質問のある者はいるか?」

 

 そのディルックの問いに対する返答は沈黙。

 それを受けたディルックは、顎でしゃくってウェンティに話の続きを促す。

 

「で、まぁ、ボクとじいさんが会ったことあるって話なんだけど、実はあの船にじいさんが乗ってるのは見えてたし、何なら昨日じいさんとは会ってたんだよね」

「……聞いていないが」

「言ってないからね」

 

 それは普通に問題では?

 報連相はどこの国、どこの職場でも基本だぞ。

 

「ま、それはさておき。さっきのヨシノリさんの腕さ、アレってじいさんの技なんだよね。だから、多分ヨシノリさんはじいさんと戦ってたんじゃないかな、って思ったのさ。……って言うか、ヨシノリさんは何でじいさんだってわかったの?」

「ふむ。岩元素に加え、戦った時に感じた仙力だ。その二つを同時に操るとなれば、岩王帝君くらいしか考えられなくてな」

 

 俺が『奥の手』を使う前に発動したあの岩元素による爆発。

 ただでさえ触れれば石化するあの岩元素の奔流には、強烈な仙力が混じっていた。

 それこそ、半仙である甘雨さんのそれとは比べものにならない程の。

 そうなって来ると、考えられる人物……もとい、神物と言えば、岩王帝君くらいのものだ。

 

「うん、まぁ、そんなわけなんだけどさ。船って実はじいさんと死ぬ程相性が悪いんだよね。だからじいさんがいる限り、船での脱出はまず無理って考えた方がいい」

「だからこそ、この現状で将軍様がこちらに来られるのは、むしろ都合が良いと言える。風神と俺、岩神、雷神の三つ巴に持ち込めば、両方を下せる可能性は十分だ。それに話を聞く限り、旅人も将軍様に追われる身だ。抵抗軍と合流し、旅人と接触。仲間に引き込めば、可能性はさらに高まるだろう」

 

 俺達の説明に、皆は頭を悩ませる。

 当然だ。この選択には人の命がかかっている。

 悩まないわけがないだろう。

 

「……それが、最善手かい?」

 

 そんな中で、アルベド君が俺の目を見据えて問いかけて来た。

 俺はそれに、一瞬の逡巡もなく頷いてみせる。

 

「……では、僕はその案に賛成だ」

「え、えっと、先生がそう言うのなら、私も賛成です」

「……ふ、ふふ……私は断罪の皇女フィッシュル。これが運命の黙示録に告げられたことならば、そ、その定めに身を委ねるも吝かではないわ」

「お嬢様は賛成だと申しております」

 

 アルベドの賛成を皮切りに、次々と賛成意見が出て来る。

 そして、皆の目は最後に残った占星術師へと向けられた。

 

「え、あ、う……わ、わかりましたよ! やります、やってやりますよ!!」

 

 半ばヤケになったように叫ぶ占星術師。

 それを聞き届けたディルックさんが振り返り、船員達に指示を飛ばす。

 

「今後の展望は決まった! これより海祇島へ向かう! 総員、襲撃に備えつつ持ち場に戻れ!」

『はい!』

 

 目まぐるしく動き始める船員達を眺めつつ、恐らくこちらを見ているだろう岩神……鍾離殿へと目を向ける。

 

 ……岩神に、雷神。片や武神で、片や武の究極……勝てるか……? ……今の俺に……?

 ……否。どうせいずれは辿り着く予定だった場所だ。少し予定が早まっただけに過ぎん。

 勝つ。





 描写されてないだけで、実際目狩りと鎖国の影響って滅茶苦茶酷いと思うんだ。
 
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