西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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26話

「おぉ…………」

 

 無想刃狭間を通り過ぎ、無明砦の前まで来ると、海祇島が見えて来る。

 海祇島は、魔神オロバシの体に生えていた珊瑚によって構成された島だ。

 それ故に農作にはめっぽう弱いが、漁業が盛んで、魚料理が美味い。

 

「おい! そこの船!」

 

 そんな海祇島を見つめていたところで上から声が降ってきた。

 見上げてみれば、赤い鎧に身を包んだ抵抗軍の兵士たちが、無想刃狭間の上から船へ、弓を構えて立っていた。

 

「これより先は海祇島! 我ら抵抗軍の本拠地だ! 貴様らを通すわけにはいかない! これは警告だ! 即刻引き返せ!」

 

 先頭に立っていた犬耳の少年がそう勧告する。

 それを受けた船員達の視線が、次々と俺に向けられる。

 俺は船員達に手で静止の合図を出し、一歩前に出て声を張り上げた。

 

「我こそは『雷切』、梅山義徳なり! 此度は雷電将軍の打倒の為、貴殿らとの協力を申し出に参った! 貴殿らとの敵対の意は無い! 通行の許諾を求む!」

『!!』

 

 そう伝えると、抵抗軍が目に見えて揺らいだ。

 

「よっ、義徳様!? 帰っておられたのですか!?」

「義徳さん! 俺です! 翔平の弟子、たたら砂の浩介です!」

 

 声の方向を向いて見れば、かつての天領奉行での俺の部下と、翔平爺さんの弟子が居た。

 そいつらに反応を返しつつ、他の顔を見回してみると、何やら顔見知りが幾つか混じっている。

 

「お、おい哲平! ほ、本物か!? 本当に梅山義徳なのか!?」

「ああ! 僕、一回握手してもらった事があるんだぜ!」

 

 そんな顔見知り達によって、図らずも他の抵抗軍の兵士たちに俺が本物であると言う証明が為されてゆく。

 その様子を見た犬耳の少年は、俺が本物であると言う事を理解したらしく、慌てて弓を下ろしてこちらに向き直る。

 

「きょ、協力と言うのは、本当か!?」

「無論だ! 我が真名にかけて誓おう!」

 

 まぁ、俺の名など俺にとっては形ばかりの薄っぺらい名だが。

 

「わ、わかった! 通行を許そう! 珊瑚宮様は島におられる! くれぐれもよろしく頼んだ!」

 

 そう言って、こちらを見送る犬耳の少年。

 他の抵抗軍の兵士たちも、大きく手を振って俺を見送ってくれる。

 

「……流石の人脈だな。雷切殿?」

 

 そんな兵士達に手を振っていると、ディルックさんがそんな事を言って来た。

 

「元とは言え稲妻人ですから。ディルックさんだって、モンドでは同じようなものでしょう」

「否定はしない。が、君のように慕われてはいない」

「そうですかねぇ」

 

 ディルックさんも酒好きのモンド人には慕われている気がするが。

 あとなんか……何だったか……確か『闇夜の英雄』だったか?

 あれもカウントするのなら、大多数のモンド城の人間から慕われていると言えるだろう。

 

「ねぇねぇ」

「ん? どうした?」

 

 そんな事を考えていると、ウェンティが俺の袖を引っ張って来る。

 

「いやさ、その……ボク達って、じいさんと……雷電将軍と戦うわけでしょ?」

「……まぁ、そうなるだろうな」

 

 出来る事なら戦いたく無いが。

 

「でさ、その……ヨシノリさんって雷電将軍と戦ったことあるのかな、って……」

「……ああ、成程……」

 

 つまり、俺が足手纏いにならないかと不安に思っているわけだ。

 雷電将軍は強い。

 恐らく、神々の中でも最上位の強さを誇っている。

 そんな神を相手にするのだ。そのウェンティの不安も、当然と言うものだろう。

 

「勿論、あるが……」

「え、ホントにあるの?」

 

 そりゃあ、あるだろう。

 武を高めるには丁度いい相手だったし。

 

「ただ、互いに本気だった事も、元素力を用いたことも一度も無いし、真剣を用いた事すら一回しか無いので何とも言えない。とりあえず、木刀での勝負ならば半々程度の勝率だった」

「半々で勝てちゃってたの!?」

 

 ウェンティが突然叫ぶ。

 まぁ確かに、『雷電将軍に勝った』と言う、字面だけ聞けばとんでもない偉業だろう。

 しかし、詳細を語ればそう誇れたものでは無い。

 

「勝負とは言っても、相手の木刀を折るだけだったからな。『無想の一太刀』を使われた事は一度もない」

「だとしてもだよ!?」

 

 いや何がだ。

 

「『無想の一太刀』の無い勝負は、勝負などとは言えないだろう。『無想の一太刀』があったのなら、俺はなす術なく負けるしかなかった」

「う、うぅ〜ん……」

 

 俺がそう伝えると、ウェンティは腕を組んで唸り始める。

 恐らく、俺が戦力として使い物になるのか計算しているのだろう。

 

「一応、時間停止は岩神には効いた。恐らく将軍様にも────」

「は!? いやいやいやいやいや!?」

「何だ」

「何だじゃないよ!? 何だじゃないけど!? 時間停止って何!?」

 

 ……ああ、説明して無かったか。

 

「俺の『奥の手』だ。『時間』に切り込みを入れて、そこへ氷元素をぶつけ、『時間』を凍結させる。ただ、その間呼吸が出来ないのは元より、俺自身も凍結しそうになるのでより巨大な氷元素を放出し続ける必要があるし、体外からの圧力が消えて破裂しそうになるので気功で抑え続けなければならないので、消耗が速過ぎる。一度使ったら十数秒は一歩たりとも動けないと考えてくれ」

 

 これの習得には実に苦労したものだ。

 構想自体は既に固まっていたのだが、形になるまでに十年以上もかかってしまった。

 アプローチの方法を間違えて、世界を切る方向に鍛錬をしてしまっていたのも大きな要因だろうが、だとしてもかかりすぎと言うものだろう。

 

 しかも成功率もあまり安定していない。

 しっかりと集中し切って使う分にはほぼ確実に出来るが、戦闘中に咄嗟に使って成功する確率はおおよそ十分の一に届くか届かないか程度だ。

 まだまだ鍛錬が足りん。

 

「え、えぇ……? なん、それ、え? どう言う事なの……? イスタロトの力……? 天理は……? いやでも……ええ……?」

 

 そんな事をウェンティに語っていると、ウェンティが頭を抱え、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと挙動不審になる。

 ブツブツ言っている内容は少しだけ聞こえたが、イスタロトとは……?

 

「ね、ねぇ……その、それを使えるようになってからさ、なんかこう……何か無かった?」

「何か? ……いや、特に何も無いが。強いて言うなら半年後に旅人が来た」

 

 あとパイモンも。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」

 

 ウェンティが謎の踊りを始めてしまった。

 この動きには何か、とんでもなく深い意味があったりするのだろうか。

 俺にはさっぱりわからないが。

 

「……………………えっと、問題なく使えるんだよね?」

「ああ」

 

 しばらくしてべちゃりと崩れ落ち、甲板の上で動かなくなったウェンティが、起き上がりながらそう聞いて来たので、それに頷く。

 

「うん、まぁ、うん、じゃあこれもうボク要らないんじゃないかと思うなぁ……」

「何を言っている、風神だろう。俺以上の戦力なんだ、しっかりと働いてもらうぞ」

「………………………………………」

 

 ウェンティがまた寝てしまった。

 みっともないので早く起き上がって欲しい。

 

「ヨシノリ!」

「む?」

 

 ウェンティの脇を持って無理やり立たせようとしていると、突然、船尾の方に居たアルベド君が俺を呼んだ。

 

「どうした!」

「妙なカラスが君宛の手紙を持って来た!」

「!」

「ぐえっ」

 

 ウェンティを放り出して、船尾の方へ跳ぶ。

 すると、そこには確かに手紙を足に巻き付けたカラスが止まっていた。

 まず間違いなく、八重宮司様の式神だろう。

 

「何だ……?」

 

 足から手紙を外し、広げてみる。

 

  前略、義徳。

 

  知っての通りとは思うが、かなりまずい状況になってしもうた。

  将軍は元より、ファデュイの執行官二人も船に乗り、ヤシオリ島へと向かっておる。

  妾も船に同行して、出来る限りの事はしておるが、あまり効果は見られておらぬ。

  抵抗軍、そして旅人と合流し、何とかこの状況を打破するのじゃ。

  それと、神里兄妹は味方じゃ。上手く使え。

  草々。                                八重神子 』

  

  

 

 

 ………………………成程。

 更にややこしい事になって来たな。

 

 





 ウェンティ「助けて」



 評価、感想求む!


 ※草々が草草になって八重神子の手紙に草を生え散らかしちまった事をここに謝罪するぜ!
  すんませんでした。
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