西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

35 / 40
27話

 一晩を船の上で過ごし、海祇島へと到着する。

 念の為に一晩中島の方を見張っていたが、向こうの方で特に動きは見られなかった。

 恐らくだが、向こうからしたら俺が目的なわけだし、俺がいない状態で暴れて将軍様に目をつけられても面倒なのだろう。

 

「…………」

 

 いやまぁ、しかしそれにしたって順調過ぎる気がしなくも無いのだが。

『奥の手』を使っての戦線離脱は、強烈な元素力の痕跡を残す。

 元素視覚を使えば、俺の通った道が真っ青に染まるレベルの強さだ。

 一応、ダミーを張ったり、周囲を完全に氷元素で塗り潰して元素視覚を使い物に出来なくするなど、色々と悪さが出来たりはするのだが、今回はそんなことが出来る場合では無かった。

 それ故に、実にわかりやすい一本道が山の上から船の上まで出来上がっていた筈なので、すぐに追撃が可能だったと思うのだが……

 

 ふむ、何だろうか、風神を警戒したのだろうか。

 …………いや、違うな。勝利条件の難易度の違いか。

 確かに、俺が回復する前の数分間に風神、及び神の目保持者数人を退けて俺を捕獲するより、少し待って、恐らく起こるであろう将軍様との対決で漁夫の利を狙う方が、圧倒的に楽だと言えるだろう。

 

 そうなって来ると、まず最初に仕掛けるべきは岩神か……?

 いや、折角の2対1対1だ。数の利があるのだから、それを活かさない手は無いだろう。

 となると、俺とウェンティが二手に分かれて将軍様、岩神に対して同時に勝負を仕掛け、戦闘しながら合流するのがベストか。

 互いの位置は、戦闘が始まれば音で把握することができるし、合流する前にやられるなんて事は無いはずだ。

 よし、十分使える作戦だ。後でウェンティにこのことを伝えておこう。

 

「……って、ん?」

 

 意識をヤシオリ島から外すと、途端に強い敵意や殺意が引っ掛かる。

 軽く気配を探ってみれば、船の近くに伏兵達が隠れているのがわかった。

 数にして……おおよそ30と言ったところか。

 俺たちが船から出て来たところで、一網打尽にするつもりだな。

 

 ………………ふむ。

 

「……ディルックさん」

「何だ?」

「海辺に伏兵が潜んでいます。俺が対処するので、それまで船員を外へ出さないように」

「……わかった。すぐに通達しよう」

「お願いします」

 

 そう答えてディルックさんは踵を返し、準備を進めている船員達の方へ向かってゆく。

 

「……さて」

 

 この伏兵達は実に厄介だ。

 と言うのも、俺達は協力関係を結びに来たと言う立場上、俺達がコイツらに危害を加える、もしくは武力誇示によって脅す事は避けなければならない。

 

 となれば、話し合いで解決する他に無いわけだが……それも難しい。

 まず、前提として抵抗軍は幕府軍よりも圧倒的に弱い。

 これは練度の面から見ても、人数の面から見ても、兵站の面から見ても明らかだ。

 

 だが、それでも抵抗軍は高い士気と、一定の戦線を保っていた。

 これには珊瑚宮の作戦もあるのだろうが、それ以上に抵抗軍の結束力、団結力の強さが窺える。

 それは恐らく『敵を倒す』、『目狩り令を廃止させる』と言う、共通の目的によるものだろう。

 しかし、俺はそれ以上に、『正義は自分達にある』と言う考えや、『自分達を虐げる者達への復讐』と言う思想によるところも大きいと考えている。

 

 で、そうなると、だ。

 この状況において、俺達は伏兵達に囲まれている。

 つまり、俺たちが倒すべき敵、即ち『自分達を虐げる者』として認識されているのだ。

 相手にとって俺達は悪逆非道、邪智暴虐の極悪人にしか映っていないことだろう。

 まず確実に、向こうはこちらの言い分に一切耳を貸そうとしないはずだ。

 

 先日のように、この中に俺の顔見知りが居てくれればどうにかなってくれたのだろうが、残念な事に俺の覚えのある気配の人間はここに居ない。

 つまり、この場に話を聞く耳を持つ者は居ないと言うわけだ。

 

 

 

 

 そして居ないのであれば、呼び出せば良いと言うもの。

 

 

 

 

 

「そぉ、らッ!」

 

 氷元素で生成した刀を何本か、珊瑚宮内部へ投げ入れる。

 これで俺のメッセージを受け取った珊瑚宮が、こちらまで来てくれるだろう。

 こう言う時は普通なら矢文だが、珊瑚宮ならばこれで理解してくれるはずだ。

 ちなみにこの氷元素の刀は人に当たったら元素シールドになるので、万が一人に当たったとしても平気な安全仕様である。

 

「……あの、今のは、何を?」

 

 飛んで行った刀の行方を追っていると、それを後ろで見ていたスクロース君がそんな事を聞いて来た。

 

「友人へのメッセージだ。少しすれば、すぐに来てくれる」

「へぇ……やっぱりヨシノリさんって顔が広いんだ」

「まぁ、一応な」

 

 実際のところ、稲妻内に限れば顔が広いどころの話でないが。

 

「ところでヨシノリさん、海祇島って、固有の生物とか居たりする?」

「急だな。……まぁ、居るか居ないかで言えば、居る」

「本当?」

 

 スクロース君の目がキラリと輝く。

 稲妻に来ても相変わらず、生物研究に熱心なようで何よりだ。

 と言うかコイツ、まさか研究のためにここまで来たとか、そう言うわけじゃないよな?

 

「……まぁ、魔神の力が多かれ少なかれ関係しているのだろうが……鮮やかな紫色の葉を持つ木や、光る珊瑚はここの固有だ。あと、海の下には珍しい色のウミウシやアメフラシが大量に」

「ふぅん……成程……」

 

 顎に手を当てて、海を覗き始めたスクロース君。

 

「……一応言っておくが、船に水槽なんて物は普通なら無いぞ」

 

 まぁ、ワインの瓶なら有るだろうが。

 しかし、それにしても生き物を飼っておくには不十分だ。

 

「大丈夫、サンプルにするなら死体でも十分だから」

 

 なんて事ないようにそう宣うスクロース君。

 ふむ、やはり『好奇心は猫をも殺す』と言う言葉は実に正確に的を射ている。

 この場合は海産物だが、命を奪うという点に変わりは無い。

 

「……サンプルの保管は? ナマモノだぞ」

 

 何ともドン引きしてやりたいところではあるが、しかし彼女の持つその『好奇心』は、他ならぬ彼女自身の夢によってもたらされるもの。

 となれば、同じく夢を志す者として、彼女の夢を尊重してやらねばならぬ。

 そう思って開きかけた口をグッと抑え、ふと頭によぎった問題点について問うてみる。

 

「……氷元素で凍結?」

「そいつら体の殆どを水で構成してるから、凍結が解けた瞬間に萎むぞ」

 

 アメフラシならばまだ何とかなるだろうが、ウミウシはもはや見えないレベルまで小さくなるだろうな。

 そう伝えてやると、スクロース君は何かを決意したような表情になった。

 

「仕方ない、こうなったら、この土地でしばらく研究を……」

「ふむ、では僕の助手は終わりだな。君がそう望むのなら、僕はそれを止めたりしないが」

「ひッ!!?」

 

 アルベド君が後ろから声を挟むと、スクロース君が鳥を締め殺した時のような声で鳴いた。

 

「…………あ、諦めます……」

 

 そして、汗をダラダラと流しながらその言葉を絞り出す。

 

「うん、それは良かった。では、これからもよろしく頼むよ」

 

 それを聞いたアルベド君はそれだけを言い残して、再び行ってしまった。

 続いてスクロース君も、蚊の鳴くような声で失礼しますと言って去って行く。

 師弟仲がよろしいようで、大変良い事だ。

 

「…………む」

 

 そんな事を思っていると、向こうの方から一人の兵士がこちらへと走って来た。

 まず間違いなく、珊瑚宮からの伝令だろう。

 俺が刀を投げてからまだ数分も経っていない筈なのだが、何とも仕事が早い。

 どうやら抵抗軍の命令系統は、俺が思っていた数倍以上は優秀なようである。

 

「てっ、抵抗軍、総員! ゲホっ、即刻、武装を解除せよ! その、船に乗られる、は、珊瑚宮様の、御友人、である!」

 

 兵士が息を切らしながらそう通告すると、隠れていた伏兵たちは困惑しつつ姿を現し、構えていた武器を下ろした。

 そして、そのまま兵士は船の前にまで来ると、珊瑚宮の方を手で示して俺達に呼びかける。

 

「よ、ようこそいらっしゃいました、梅山義徳御一行様! 珊瑚宮様がお待ちです、私が案内致しますので、どうぞこちらへ!」

「ご苦労!」

 

 船の上からそう答え、姿を見せると、伏兵達の顔が目に見えて青くなる。

 数人に至っては、泡を噴きながら派手に倒れてしまった。

 まぁ、抵抗軍にとって俺は恐怖の具現みたいな存在なところもあるだろうからな。

 仕方あるまいよ。

 

「さ、もう良いぞ」

 

 浜へと降りる橋を下ろしつつ、後ろを振り返って指令を出す。

 突然の出来事に驚き、動きが止まっていた船員達は、それを受けて慌ただしく動き出し、荷物やら何やらを下ろしてゆく。

 そして下すべき荷物が全て降りた事を確認して、アルベド君と他数人の船員達を残して我々も船を降りた。

 

「では、よろしく頼む」

「はい、こちらです」

 

 兵士の案内に従い、海祇島内部へと進んで行く。

 

「うわっ!?」

「おぉ……!」

 

 外周部から内部へと足を踏み入れた瞬間、目の前に広がった光景に、驚きの声を上げるモンドの面々。

 既に何度も目にしている俺も、感嘆の息を漏らさざるを得ない。

 巨大な桃色の珊瑚と、目も眩むような青と紫の草木で構成された、見渡す限りの極彩色が広がる島は、いついかなる時も見たものを魅了してしまうのだ。

 やはり、いつ見ても素晴らしい。

 絵にも描けない美しさと言うのは、正にこう言う事を言うのであろう。

 

「珊瑚宮様は望瀧村にて、義徳様の御友人だと仰られる方々とご一緒にお待ちになっています」

「ほう?」

 

 望瀧村は、珊瑚宮内部の外壁付近に存在する村で、海祇島に訪れた人間のほとんどが宿泊する場所だ。

 恐らく、珊瑚宮は俺の友人を自称する者を望瀧村で歓待していたのだろう。

 使いの兵士がたった数分でこちらへと送られたのも、それが理由のようだ。

 しかし、海祇島近辺の友人など、珊瑚宮以外に心当たりがないのだが……誰だ?

 

「む」

 

 なんて疑問に思っていると、望瀧村が見えたと同時にその疑問は解消された。

 望瀧村の入り口近くでこちらを待っていたのは、実に五年ぶりに見るグラデーション綺麗な桃色の髪と、つい一週間前くらい前には見た黒い髪。

 珊瑚宮心海と、南十字船団団長、北斗さんであった。

 

 ……いや、俺の友人ってアンタかい。





 海灯祭だァァァァァァァァッッ!!(狂乱)
 なんか閑雲が可愛すぎるぞぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!?(困惑)

 ……あ、ちなみにウチの流雲真君は今の甘雨の惨状を知ってます。
 なので自分も義徳奪還戦に参加しようとしましたが、帝君と申鶴がやんわりと止めたので来ていません。
 ただ、ヨシノリさんが璃月に戻ってきたら絶対に責任を取らせる予定。

 感想、評価求む!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。