「おお! 来たか!」
俺を見つけるなり、ブンブンとこちらへ手を振ってくる北斗さん。
隣では、珊瑚宮も控えめにこちらへと手を振っている。
……っていうかなんか、随分と大きくなってないか、珊瑚宮。
5年前と比べて1.5倍くらいの大きさになってるように感じるんだが。
「ヨシノリ、彼女らは?」
友人の成長に驚きつつ、取り敢えず振り返しておこうと思ってこちらも手を振っていると、ディルックさんが小さい声でそんな事を聞いて来た。
「右が珊瑚宮心海。この海祇島の主にして抵抗軍のトップ。俺の友人です。そしてもう一人が北斗さん。璃月の人で、南十字船団の団長。今回は旅人と一緒にこの人の船に乗せてもらいました」
唇を動かさないように、前を向いたまま二人を紹介する。
ディルックさんはそれに「そうか」と一言だけ答え、そのまま望瀧村へと入って行った。
俺達もその後に追従し、村に足を踏み入れる。
「初めまして、ようこそいらっしゃいました、モンドの皆様。私は珊瑚宮心海、海祇島の現人神の巫女にして、抵抗軍の軍師です」
全員が村に入ると、珊瑚宮が胸に手を置いて、こちらを見回しながら堂々と挨拶した。
「初めまして。僕はディルック・ラグヴィンド。そして彼らは僕の船の船員だ。今回はこうして島へと招き入れてくれたこと、感謝している」
それを受けたディルックさんが一歩を踏み出し、こちらを代表して、モンド風の所作で挨拶を返す。
稲妻の礼儀とはあまりにも掛け離れたそれに、後ろで控えていた兵士たちの顔が忌々しげに歪むが、モンドではこれが正式な作法なので許して欲しい。
「これらはその返礼だ。是非とも受け取って頂きたい」
そう言って、運んできた荷物を手で示した。
船員達が荷物の蓋を開けると、荷物の中身はぎっしりと詰まった食料と酒のボトル。
その量を目の当たりにして、兵士達がざわめき、北斗さんがヒュウと口笛を一つ吹く。
「はい、有り難く頂戴させて頂きましょう。我々は現在、食糧難が続いてありまして。これだけあれば、兵士達も十分に飢えを凌げるはずです」
珊瑚宮はそう嬉しそうに言って、後ろに控えていた兵士達に運ぶよう指示を出した。
兵士達は一度こちらへ深々と頭を下げてから、荷物を運んで行く。
それを見送って、珊瑚宮はこちらへと向き直った。
「……それでは早速、本題と参りましょうか」
「では、そうさせてもらおう。……ヨシノリ」
ディルックさんが俺を見やる。
俺は咳払いをしつつ一歩を踏み出し、珊瑚宮の目を見て口を開く。
「……久々だな、珊瑚宮」
「ええ、5年ぶりになるのでしょうか」
「あの頃と比べ、随分と大きくなった。現人神の巫女も板についてきたようで何よりだ」
「そう言う義徳さんは、本当にあの頃のままですね。剣の腕も全く鈍っていないようです。先日の『天断ち』は、此処からでもはっきりと見えましたよ?」
「……」
珊瑚宮が怒気を纏っている。
顔は笑っているが目が笑っていない。
怒りの内容としては、よくもこっちの作戦を引っ掻き回しやがったなこの野郎、と言ったところだろうか。
……まぁ、悪かったとは思っている。思っているだけだが。
「あー、単刀直入に言おう。現在、ヤシオリ島に雷電将軍とファデュイの執行官が接近して来ている。それらの迎撃に協力して欲しい」
「!」
「へぇ」
俺が話を断ち切り本題を話すと、珊瑚宮は怒気を霧散させ、驚愕に目を見開いた。
反対に北斗さんは目を細め、剣呑な空気を纏う。
「……成程、義徳さんがそう仰られるのであれば、それらは事実なのでしょう。雷電将軍の打倒────ひいては、目狩りの廃止は我らの悲願。協力も吝かではありません」
数秒間の間を置き、珊瑚宮が声を発する。
彼女が信じないようであれば八重宮司様の手紙を見せるつもりであったが、どうやら彼女は俺の話を信じてくれたらしい。
「しかし、義徳さん。貴方ならば既に理解されていらっしゃるでしょうが、抵抗軍の兵力はそこまで高くありません。幕府軍相手にはまだ戦えていますが、もし義徳さんと戦うとなれば、それこそ数分と持たず壊滅してしまうでしょう。雷電将軍にも同様です」
そう言って、こちらを見やる珊瑚宮。
成程。つまり、珊瑚宮は『協力するのは良いけど、ウチの兵士達を戦力として使うのには無理があるよ?』と言いたいのだろう。
勿論、そんなことは最初から分かりきっている話だ。
「問題ない。元より戦力を求めて此処に訪れたわけじゃないからな。抵抗軍……それと、南十字船団の方々には他にやって欲しいことがある」
「……アタシらもか? 自分で言うのも何だが、
訝しげにそう聞いて来る北斗さん。
確かに、南十字船団の面々は戦闘力としても非常に優秀だ。
神々を相手にしても、防戦一方にはなってしまうだろうが、十分に張り合えるだけの実力はあるだろう。
だが。
「それがですね。今回の戦いは将軍様の他に、岩神モラクスも参戦するのです」
「……はぁ!? いやいやいやいや、岩王帝君ン!? もう死んでるだろう!?」
北斗さんが大声で叫んだ。
とんでもない大音量だ。咄嗟に耳を塞いだが、それでも痛い。
「……実は生きていたんですよ。実際に戦いもしました。確信こそありませんが、まず間違いないと言って良いでしょう」
「いや、そんなわけが……」
「……」
「ッ、おいおい……」
北斗さんは最初、俺の言葉を信じていないようだったが、俺が誠意を込めて北斗さんの目を見つめると、それで嘘ではないと察したのか、ヒクヒクと顔を引き攣らせる。
「話を戻しますが、その二柱も参戦するわけです。そうなって来ると、北斗さんや万葉少年のような神の目持ちならば良いですが、他の船団員達は足手纏いと言わざるを得ません。ならばいっその事、南十字船団の方々には戦闘以外に回ってもらおうと考えた次第です」
そう伝えると、北斗さんは頭を抱えて考え込む。
そしてたっぷりと十秒をかけると、結論が出たのか噛み締めるように声を発し始めた。
「……にわかには信じ難い、にわかには信じ難いが……それが事実であったとして、確かにアタシらは足手纏いだろうね。わかった、アタシらは指示に従おう」
「ありがとうございます」
この人は戦好みのトラブルメイカーだが、それでもやはり凄腕航海士。
こう言うところの自覚とリスク管理は、人一倍優れている。
「……さて、それでだな、珊瑚宮。お前には一時的にこの海祇島をシェルター……避難所として運営して欲しい」
「避難所……ですか?」
珊瑚宮が首を傾げる。
俺はそれを首肯し、答えた。
「ああ、避難所だ。海祇島の住民は元より、ヤシオリ島に残っている住民の残り、抵抗軍全員、それとモンドの船員達を匿い、戦闘が終わるまで島から出ないようにしてもらいたい」
今回の戦いで重要視されるのは数ではなく、質となる。
俺一人が戦場に出た時点で、既に雑兵は肉壁にもならないただの足枷と化すのだ。
それに加えて風神、岩神、雷神が出て来るとなれば、もはや雑兵など塵にも等しい。
民間人などもってのほかだ。それこそ、我々の攻撃の余波だけで軽く吹き飛ぶだろう。
しかし、軽く吹き飛ぶとは言っても命は命。
命の数だけ人生があり、命の数だけ夢があるのだ。
それを無闇に散らせるなど、どうしてそんなことができようか。
となれば、戦いが始まる前に戦場から人を遠ざけるしかあるまい。
「……まさか、義徳さんお一人で『武』を冠する二柱に挑むつもりですか?」
「いや、彼らには参加してもらうし、こちらには風神バルバトスが付く」
そう言って、モンドの面々を示す。
「そうですか……はぁ……本当に相変わらずですね……」
珊瑚宮が諦めたように溜息をついた。
……いや、なんだその呆れた目は。別に変な事は言ってないだろうが。
「分かりました、避難所ですね。では、二日ほどお待ちください。これよりヤシオリ島の住民の避難を含めて、直ちに準備に入ります」
「よろしく頼む。返礼は必ず用意しよう」
「ふふ、では、楽しみに待っていますね」
そう言って、珊瑚宮は踵を返し、珊瑚宮──建物の方──へ向かって行った。
こちらへと一つ手を振って、北斗さんもそれに追従して行く。
「……さて、そう言うわけで、決戦は三日後だ。将軍様や岩神の動き次第では、前倒しになる可能性も十分に考えられる。警戒は怠らないように。……それでは解散だ、各自、自由に行動してくれ」
こちらを振り返り、ディルックさんが解散をかけた。
俺は速攻でウェンティを確保した。
「おいウェンティ。雷神、岩神戦に備えて、今から作戦会議と訓練するぞ。風の力で出来ることがないか、確かめないとな」
「うぇっ!? い、いやいや、少し休憩してからにしない!?」
「ハッ(嘲笑)」
「」
なんか抵抗しているが、そんな事は気にせず小脇に抱えて持って行く。
さて、それでは風神の力、是非とも見せてもらおうか。
ラグビーの大会のお手伝いに行って来ました!
桐蔭のエグさに心が折れました。
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