西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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ヤシオリ島での一幕

「おい! そっちはどうなっている! こっちの人が足りんぞ!」

「公子様! 公子様は何処に居られますか!? 淑女様がお呼びです!」

「装備! 装備が余っている所はどこだ!?」

「こっ、困ります、使節様方! 勝手に決められてしまっては!?」

「俺はどの船に乗れば良いんだぁ!?」

 

 幕府軍陣中は今や、右へ左へ、上を下への大騒ぎであった。

 彼方此方で指示と怒号が飛び交い、兵士達はおろか官職の者すら慌ただしく動き回っている。

 

 原因はつい先日の事だ。

 つい先日起きた超大規模な元素爆発の調査を行おうとした矢先に、神里兄弟に鳴神大社大宮司、更には雷電将軍とか言う、稲妻きってのビッグネーム達が揃い踏みで、突如として来襲して来たのである。

 ついでと言わんばかりに、九条孝行からの『くれぐれも失礼の無いように、使節様方を丁重に、豪勢にもてなせ』と言う命令書を引っ提げたスネージナヤの使節達も引き連れて。

 

 そして到着早々、雷電将軍は『梅山義徳捜索のための部隊の編成を、スネージナヤの使節と協力して迅速かつ不備なく行え』と言う命令を下した。

 前提の話として、今回の幕府軍遠征は抵抗軍への大規模攻撃のためのものである。

 梅山義徳の捜索は勿論のこと、あまりにも唐突な人員の急増も貴賓の歓待*1も、爪の先ほどにも想定していなかったわけだ。

 勿論、いきなりそんな事を言われてしまっても、必要な準備が全く出来ていないのだから出来るはずがない。

 

 しかし、やれと命令されればやらねばならぬのが軍隊というものである。

 幕府軍は無理矢理命令を実行しようとするが、当然の如くあちらこちらで立て続けに問題が発生し、幕府軍は瞬く間に混乱の渦に巻き込まれる。

 人も物も滅茶苦茶に入り乱れ、例えどこかで問題が起きたとしても、どこで何がどうなっているのか、そもそも本当に問題が起こっているのか、それすらわからない始末。

 

 だが、そんな中でも際立っていたのが、物資の不足だ。

 幕府軍は今回の大規模攻撃に際して、十分な量の食料や武器を備えていたのだが、予期せぬ人員の増加に加え、スネージナヤの使節達の歓待によって、二週間は保つはずであった食料が、たった一瞬で一週間保つかも怪しい量になった。

 武器に関しても、梅山義徳を相手にする時点で既存のものはその意味を完全に失ったため、船に積まれて来た対梅山義徳用の装備*2を使う事になったのだが、勿論全くと言って良いほど足りていない。

 

 幕府軍首脳陣はこの事態に対して、人員の選抜をすぐに執り行った。

 梅山義徳に対して量で攻める事は無意味であるし、雷電将軍が居る以上は抵抗軍など、もはや相手ですら無い。

 となれば兵の数など最早足枷でしかないため、幕府軍全体の九割を本土へ送還し、需要量の方を減らす事で十分な食料と装備を確保、同時に混乱した命令系統を回復するつもりであった。

 

 しかし、当然ながら混乱の最中で行われる大規模な人員の変遷は、更なる混乱を呼ぶのみ。

 中途半端に命令が通じてしまったことも災いし、混乱は目も当てられないほどに悪化した。

 

 その結果が現在だ。

 統率は取れているようで取れておらず、そこかしこで情報が錯綜し、準備は全く進まない。

 まだ戦いの一つもしていないと言うのに、幕府軍は総崩れの如き様相を呈していた。

 

「……ものの見事に大惨事じゃのう」

 

 船の上で、他人事のようにそう呟く八重神子。

 ヨシノリを送り出した後、式神によりもたらされた情報から己の失敗を悟った彼女は、少しでも事態を好転させるべく行動を起こした。

 

 まず最初に行ったのが、神里兄妹との接触だ。

 神里兄妹は確かに近頃は暴走気味なものの、それはあくまで梅山義徳を手に入れる為。

 他の奉行所のようにファデュイと結託し、利益を得ようとしているわけではない。

 雷電将軍に先を越されそうとなれば、義徳を助けるべく確実に動く。

 

 そう考えての行動であり、それは正しくその通りであった。

 神里兄妹はその事を聞くや否や仕事を一瞬で片付け稲妻城へと急ぎ、数人の配下と共に神里家当主の名を盾に強引に船へと乗り込んだのだ。

 その間わずか二時間。

 元々神里綾人がトーマと終末番からの報告を受け、いつでも出られるよう事前に仕事の調節をしていたとは言え、圧倒的な速度である。

 

 あまりの速さに、式神からその情報がもたらされた八重神子は思わず面食らってしまったものの、自身もすぐに将軍、および自分の不在に勝手なことが起こらないよう、稲妻有力者達との『お話し』を済ませた後、鳴神大社大宮司としての立場を押し通して、出航直前に船へと乗りこんだ。

 

 その後は、彼女は将軍の説得を始め、ファデュイの情報収集等、何か出来ることはないかと船上を動き回ったが、結果は振るわず。将軍より付けられた監視やファデュイの目を盗んで義徳に手紙こそ送れたものの、それ以外にできたことは無かった。

 ヤシオリ島に着いてからも、やった事と言えば精々がファデュイへの牽制くらいのものである。

 それ以降は特にやることも無く、式神の操作も将軍の監視下では難しいため、彼女は思いっ切り暇していた。

 

「ええ、大惨事ですね」

 

 そんな八重神子の後ろで同調するように首を縦に振るのは、特徴的な空色の髪に、フォンテーヌ風の改造を施した白い着物を着こなした青年、神里綾人。

 今回、梅山義徳と聞いて飛んで駆けつけた彼であったが、八重神子と同様に妹と配下諸共将軍から監視をつけられたため、これまた暇しているのである。

 

 とは言え、彼は神里家当主にして社奉行の頂点だ。

 将軍を除けば、稲妻内で最も力を持っている人物と言っても良い。

 暇と言っても、八重神子ほど真に迫った暇ではなく、幾らかはやる事がある。

 つい先程も、ファデュイの陣営に呼び出されたばかりだ。

 

「おお、戻っておったのか。して、連中は今度はなんと?」

「どこから聞いたのか、我々兄妹が義徳さんの弟子であると知ったらしく、準備で暇な間、我々と実戦形式での訓練を行いたい、と」

「何じゃ、連中、そこまでの阿呆だったのか?……確かに、ファデュイは愚人衆と字を当てる事もあるがのう……」

 

 八重神子は呆れも哀れみも通り越して、疑念の目でファデュイの陣営を見やる。

 訓練に託けて目障りであった神里兄妹を始末しようとしたにせよ、本気で梅山義徳を想定して訓練を行おうとしたにせよ、場所、時、場合、実力、どれを取っても全くの見当違いであるのだ。

 あまりにも可笑し過ぎて、逆に何かの裏があるのではないかと勘繰ってしまうのも仕方が無い。

 

「向こうには現在、執行官が二人着いていますからね。気が大きくなっているのでしょう」 

「あやつはその執行官の第二位に完勝しておるらしいのじゃがのう……まぁ、流石にそのような事は知らされておらんか。詮無きことじゃ」

 

 うむうむ、と頷きながら八重神子は勝手に納得する。

 

「ところで、妹の姿が見えぬが」

「綾華はここへ戻る途中、大将殿に連れて行かれてしまいました。綾華の声はよく通りますからね、今頃は臨時の指揮官を頑張っている事でしょう」

 

 八重神子が思い出したように問かければ、肩を竦めて綾人は答えた。

 耳を澄ませて聞いてみると、確かにそれらしい声が遠くの方から聞こえて来る。

 声の内容から判断するに、部隊の編成の方に駆り出されているらしい。

 

「ふむ、どうやらそのようじゃのう。……ほれ、いつまでそこに突っ立っておるつもりじゃ。もっと近う寄れ」

「ああ、はい」

 

 八重神子が手を招き、それに従って綾人は八重神子の隣に立つ。

 そして、口を動かさないよう、小さな声で話し出した。

 

「……報告がありました。つい先程、旅人がたたら砂の方へ抜けて行ったそうです」

「そうか、それは重畳じゃ。……して、ファデュイの様子は」

「ファデュイは特に変わりありません。訓練云々の話は本当ですが、下っ端の暴走でした。居合わせた上官は私が訪れて始めてその事を知ったようです。彼らの行動に特に深い意味は無いでしょう。ただ……」

 

 言葉を区切り、一呼吸を置いてから再び話し始める。

 

「……ただ、我々の排除に将軍が動いていると言うのは確定でよろしいかと。今までは見過ごされていましたが、実際に義徳さんが現れた以上、我々と言う『逃げ道』は早急に潰したいようです」

「……将軍は、良くも悪くも徹底的じゃからのう」

 

 苦々しげに表情を歪める八重神子。

 

「特に何も無い限り、常に妾の側におれ。流石の将軍も、妾ごと斬ろうとはせぬはずじゃ」

「はい、わかっております」

「……それで、妹は」

「最低限を残して、私の護衛を全て付けました。それに、いざとなれば義徳さん謹製の『御守り』があります。将軍が相手でも、逃げる事だけならば可能でしょう」

「……ならば良いのじゃが……」

 

 綾華が居る方に目を向けてみるが、何か起こったような様子はない。

 耳を澄ませると、問題なく指揮を続けているのがわかる。

 どうやら現状はまだ無事なようだ。

 

「……何にせよ、警戒は怠らぬ事じゃ。妾の見立てであれば、戦争の開始は三日後になる。それまでに殺される事など、ゆめゆめ無いようにせよ」

「無論、承知しておりますが……三日後と言うのは?」

「ヤシオリ島の住民の避難がその程度で終わると妾は踏んでおる。そうすれば、向こうが仕掛けてくるはずじゃ」

 

 成程、と綾人は口の中で呟く。

 

「そして戦争が始まれば……わかっておるな?」

「ええ、勿論です。全ては手筈通りに」

「うむ」

 

 その返答を最後に、二人は互いに一言も喋らなくなった。

 いくら互いに手を取り合っている状況とは言え、互いが互いの事を嫌悪し合っているのだ。

 当然の帰結というものである。

 

*1
スネージナヤ勢のみ。将軍以下稲妻勢は遠慮した

*2
一撃死を逃れる事だけに重点を置いた装備(効果はあるが、ほぼ気休め)





 本日は練習試合でした。
 大学受験を終えた三年生達が来てくれて、久々に一緒にプレーできて嬉しかったです。
 衰えていないか心配でしたが、普通にジムとか通っていたらしく、バリバリに戦えていてスゲーとなりました。
 まぁ、流石にやり過ぎるのもまずいので現役生に譲る事が多かったですが。

 ところで、もう高校入試の時期ですね!!!!
 中学生の諸君!!! 高校入ったらラグビーしようぜ!!!!
 楽しいよ!!!!!!!!!!!!!

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