西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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4話

 西風騎士団のワーカホリック侍である俺は、三国でそれぞれの行政機関に勤めて来たこともあり、多くの人達と出会ってきた。

 それは良家のお嬢様であったり、空に自宅を構える金持ちであったり、酒をこよなく愛する吟遊詩人であったり……最近では人間以外にも半仙やらキョンシーやら、そう言った個性豊かな者達と出会って来たわけだが、そんな中でも特に異色を放つのが旅人こと、蛍である。

 

 彼女が異世界出身であると言う事は元より、神の目も無しに複数の元素力を扱ったり、人の国カーンルイアの滅亡を目の当たりにしていたり、彼女の兄がアビスと深く関わっていたりと……情報があまりにも多過ぎるのだ。

 それでいて、テイワット中に存在する謎の物体を起動させて瞬間移動したり、ひび割れた七天神像を謎の力で修復するどころか豪華に改造したり、今まで誰も見つけられなかった地霊壇の鍵を何処かから持って来たり、虚空から宝箱を見出したり、……もはや何が起こっているのか、さっぱり意味が分からない。

 

 しかも、彼女自身が厄介事を呼び寄せる体質なのか何かは知らないが、彼女の行く先々ではいつも何かが起こる。俺もそれに何度も巻き込まれた。

 特に星落ちの谷の上空に浮かぶ謎の球体の調査に駆り出され、謎の球体の中に彼女と一緒に引き摺り込まれて、謎の島の謎の門の中の謎の空間で謎のモンスター共と謎に戦わされた時は、本当に死ぬかと思った。

 風魔龍を鎮めてくれたのは実に感謝しているが、それはそれとしてもうちょっと大人しくしていて欲しいと言うのが俺の感想である。

 

「むぐ? ……ああ、栄誉騎士か」

「あらあら、可愛こちゃんに、パイモンちゃんじゃない。どうしたの?」

 

 代理団長とリサさんが、『チ虎魚焼き』を食べるのを中断して旅人を迎える。

 

「久しぶり。ジン、リサ」

「久しぶりだな、二人とも! ところで、何食べてるんだ? とっても美味しそうだぞ!」

「ああ、久しぶりだ。この『チ虎魚焼き』なら、ヨシノリさんが持っている。貰うといい」

 

 パイモンがこちらの方へ飛んでくるので、『チ虎魚焼き』を一本取って渡してやる。

 すると、パイモンは目を輝かせながら『チ虎魚焼き』を食べ始めた。

 

「ん〜!! 美味い! これを作ったのはヨシノリか!?」

「ヨシノリさん、私にも一本」

「ああ、持って行くといい」

 

 旅人に『チ虎魚焼き』を渡すと、旅人はそれを鞄の中にしまう。

 あまりにも常識に囚われないぶっ飛んだ行動だが、これはもう旅人に同行する中で既に慣れた。

 どうやらコイツの鞄の中は異次元か何かにでも繋がっているらしく、無限に物が入る上、料理も出来立ての状態で保存できるようなのだ。

 何を言っているのか分からないと思うが、俺にも分からない。

 ただ、俺たちも普段は武器を別次元に収納しているので、辛うじてその原理は分からなくもない、と言う感じだ。

 

「ふぅ〜、食った食った! それじゃあオイラたちは……」

「パイモン、まだ用事が終わってない」

「ああっと、そうだったそうだった……」

 

『チ虎魚焼き』を食べ終わったパイモンが帰ろうとするのを、旅人が制す。

 

「用事? 何か騎士団の協力が必要な事態が起きたのか?」

「それが……なぁ、ヨシノリって、稲妻出身なんだよな?」

「ああ、そうだが」

「だったら、オイラたちと一緒に、稲妻までついて来て欲しいんだ!」

「「「!」」」

 

 …………い、稲妻へ……?

 

「ほら、今の稲妻って、色々と物騒なんだろ? 稲妻で働いてたヨシノリだったら、もし何かあれば何とかしてくれるんじゃないのか!?」

「私からもお願いしたい」

 

 稲妻……久々の稲妻か……

 確かに、つい先ほどは家族や友人たちの心配をしていたが……

 

「……悪いが、いくら栄誉騎士の頼みだとしても、それは許可できないな」

 

 俺が悩んでいると、代理団長が旅人の頼みをズバリと断った。

 チラリと代理団長の方を見ると、その瞳へと普段以上に強い意志を宿しているのが見えた。

 

「えぇ!? どうしてだ!?」

「ッ……理由を、聞かせて欲しい」

「君たちが言った通り、彼が稲妻出身だからだ。あの国が今、鎖国状態にある事は既に知っているだろう。入国だけでなく、出国も禁じられている状況の中で稲妻から脱出した彼は、まず間違いなく罪人として認識されているはずだ。君たちと共に稲妻へと渡った結果、捕えられて処刑される、なんて事が無いと言い切れないだろう」

 

 いつになく真剣に説明する代理団長。

 彼女の言っている内容こそ、正に俺が懸念していることだ。

 …………しかし。

 

「お気遣いいただいたところすみませんが、俺は一度、稲妻へ行ってみたいと思います」

「……何故だ」

「……あら」

 

 代理団長とリサさんが剣呑な雰囲気を纏う。

 リサさんに至っては、今にも雷撃を放って来そうな様子だ。

 

「いえ何、向こうに残して来た家族の事が、少々気掛かりでして。顔さえ隠せば、まだ大丈夫でしょう」

「……いや、それでも許可はできない。ヨシノリさん、貴方は自分がこの騎士団の、私達の中で、どれだけ大きな存在になっているのか、自覚した方がいい」

「十分自覚していますよ。それに、いざとなったら何もかも切り捨てて此処に帰って来ます。それでも駄目ですか?」

 

 代理団長の目を覗き込む。

 すると代理団長は顔を赤らめて視線を逸らし、蚊の鳴くような声でボソボソと喋り出した。

 

「…………意思は、固いのだな?」

「はい」

「……………………無事に、帰って来るのだろうな?」

「当然です。俺を誰だと思っているんですか」

 

 確固たる自信を持って返答する。

 すると代理団長は溜息を吐き、諦めたような顔で視線を戻す。

 

「……仕方が無い。許可しよう」

「! やった! これでヨシノリも稲妻に行けるな!」

 

 それを聞いて、パァっと花が咲くような笑顔を見せるパイモンと旅人。

 

「ただし」

 

 そんな二人の喜びへと水を差すように、執務室の中に代理団長の声が力強く響く。

 そして、代理団長がこちらへと歩み寄って来ると────

 

「10日だ。10日以内に帰って来い。さもないと、私が何をしでかしてしまうのか、私にも分からん」

 

 俺の胸ぐらを掴み、瞳孔の開き切った目でそう忠告した。

 部屋の中に訪れる沈黙。

 代理団長の瞳から、目を離す事が出来ない。

 リサさんのうふふと嗤う声が、いやに大きく聞こえる。

 

「…………返事は?」

「りょ、了解しました、10日ですね。そ、それじゃあ二人とも、行くぞ!」

 

 震え声で返事を返してから、皿を持ったまま扉から外に出る。

 ……こ、これは……本気で早めに帰らないとヤバいやつだ……!





 ジン:ヨシノリについて

 彼か? 彼は人気者だ。とても多才で、実力も確か。それでいて誰に対しても優しい。西風騎士団代理団長としても、私個人としても、そんな彼に助けられた事が何度もある。私には、彼が必要なんだ。……ああ、他の何処にも、行かせはしない。

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