西風騎士団のワーカホリック侍と呼ばれる俺であるが、それは現在の話。稲妻や璃月にいた頃は、もっと別の呼び名で呼ばれていた。
例えば『凍剣義徳』や『無敗剣』と呼ばれていた時期もあったし、『
その他にも色々と異名はあるのだが、主だったものはこの辺りだろう。
何なら最初のものと最後のものは、公的な文章に使われたことすらあった。
俺は本名を使ったほうがいいのではと思ったのだが、当時の上司たち曰く、「そっちの方が効果あるから」との事らしい。
相変わらず天才という連中の考える事はよく分からん。
まぁ取り敢えず、俺は数々の異名を持っていると言う事だ。
しかし、そんな俺でも『雷切』なんてぶっ飛びまくった────もとい、不敬極まりない名で呼ばれた事など一度として無いし、勿論聞いたこともない。
と言う事は、恐らく俺が稲妻を発った後に付けられた俺の名なのだろう。
しかし、それを聞こうにも、万葉少年は俺が話しかけようとする前に倒れてしまった。
まぁ、万葉少年が話せなくとも、『雷切』の由来は大方想像がつく。恐らくだが、俺が稲妻を発つ直前に起きた『あの出来事』だ。
「……ら、雷切って……」
怯えたようにこちらを見るパイモン。
変なところで鈍感な謎の浮遊生物だが、今回はこの異名の意味を十分に理解したようだ。
「……流石に、これを見逃すってのは、どうにも出来そうにないねぇ……説明してもらおうじゃないか」
俺の肩に手を置き、逃げられないようにする北斗船長。
「はぁ…………今から話すのは『多分これだろうな』と言う推測によるものですので、違うかも知れませんが、悪しからず」
旅人の「コイツは稲妻で何をやらかしたんだ」と言う咎めるような視線を受けつつ、恐らく由来になったであろう出来事の顛末を語ってゆく。
⬜︎
────これは、目狩り令が施行される直前のことだ。
稲妻を脱出する事を決意した俺は、着々とその準備を進めていた。
身辺を整理し、仕事の引き継ぎの資料を作り、身近な人達へ送る手紙を用意して、とうとう訪れた脱出の決行日。
虫すら寝静まる夜。俺は笠を被り、安い着物に刀一本を下げただけの、見窄らしい格好で離島へと向かおうとした。
しかし、その時に突如として目の前の空間が真横に割れる。
嫌な予感を察知した俺が咄嗟に飛び退くと、そこに立っていたのは刀を抜いた雷電将軍。
あまりにも突然すぎた神の襲来に冷や汗を垂らす俺へ、雷電将軍は静かに語りかける。
『何処へ、行くつもりでしょう』
『少なくとも、此処では無い何処かで御座います』
『そうですか……仕方がありませんね』
将軍が紫電を纏う。
『では、実力行使とさせていただきましょう!』
その言葉と同時に、雷電将軍の太刀が俺を切り裂かんと振るわれた。
ほんの須臾の間に俺の目と鼻の先まで迫る刃。
しかし、すんでのところで俺の刀がその間に割り込む。
静まり返った稲妻城下に、剣戟の轟音が響き渡る。
二度、三度、四度と。剣が交わる度にその音は強さを増し、闘いもより苛烈になってゆく。
『な、なんだなんだ!?』
『どうなっているの!?』
十度程打ち合うと、とうとう寝ている者達も目を覚まし、外へと飛び出して来た。
『……いけませんね、時間をかけ過ぎました』
『こちらとて、それは同じ事……!』
互いに確と刀を構え、勝負を決めるための一撃を同時に繰り出す。
『
『
一対の剣撃は空で交わり、大気を揺るがして────世界を軋ませた。
『……これは……ッ!』
『!!』
ぐにゃりと世界が歪み、空間に亀裂が入る。
『……!』
異常な事態に、雷電将軍の意識がそちらへと向けられる。
その隙を突いて俺は将軍の横を通り抜け、離島まで辿り着き、海へと飛び出した。
⬜︎
「────と、俺が覚えているのはこんな感じだが……まぁ、多分これだろう」
「「「「「……………」」」」」
そう語り終えた俺を『マジかコイツ……』と言う目で見るのは、旅人とパイモン、それと北斗船長以下、出航の準備を終えた南十字船団の皆さん。
皆一様に口を半開きにして、半ば茫然自失としている。
「……ら、雷神を……倒したぁ……?」
そんな中でも一番に再起動を果たしたのは北斗船長。
幾度にも渡る航海の旅で鍛え上げられたその胆力は、やはり素晴らしいものがある。
しかし、何か勘違いをしているようだ。
「別に倒したわけでは無いですよ。むしろあれほど手加減されてこの体たらく。負けも負け、大負けです」
「手加減!? ヨシノリ相手に手加減してたのか!?」
パイモンがこの世の終わりのような表情で叫ぶ。
「ああ、初手で『無想の一太刀』を放っていない時点で、それは相当な手加減だ。流石にアレは俺でも切れん」
「『無想の一太刀』……万葉も言っていたけど、そんなにすごいんだ」
「すごい、なんて範疇に収まる代物じゃない。アレは正に規格外だ」
静かに瞠目し、何人もの挑戦者達が散っていったあの一閃を思い出す。
アレは正しく『斬撃の極致』だ。
俺のような剣士だけでは無い。槍、薙刀、斧、爪……刃を持つ全ての武器の道、その最終到達点こそがあの一振りだ。
俺の居合は空こそ斬れど、未だあの領域には程遠い。
「将軍様に会うのなら、絶対に彼女の前で変な事をするんじゃないぞ。多少のことならお目溢しして貰えるだろうが、よっぽどの事をしでかせばその限りでないからな」
「わかった」
沈黙が訪れた甲板に、波の音だけが響く。
話は終わったと言うのに、誰一人として動こうとしない。
それほど話に聞き入ってくれたと言う証明ではあるが、出来るだけ早く行動しなければならない現状としては、あまり歓迎出来たことではない。
「あの、船は出さないので?」
「……はッ! あ、ああ、そうだったそうだった……おい野朗ども、とっとと動きな! さっさとしないと『雷切』様にぶった斬られちまうよ!」
北斗船長の号令を受け、慌ただしく動き出す船員達。
すると瞬く間に錨が上げられ、帆が張られ、船が海の上を滑り始めた。
「……ふむ」
見る見るうちに遠く離れて行く孤雲閣を眺めつつ、遥か遠い故郷へ思いを馳せる。
「久々の稲妻は将軍様に刃を向けた大罪人として……か。あまり、拗れた事になってくれなければ良いんだが……」
まぁ難しいだろうな、と心の中で結論づける。
何せ旅人が居るのだ。恐らくだが、向こうのほうで色々と事件が起きてしまうのだろう。
しかし、今回は風魔龍の時のように首を突っ込むわけにもいかない。
今回はまず、兎にも角にも生きる事を最優先に考えなくては。
梅山義徳:キャラクター詳細
かつては稲妻に名を轟かせる剣豪として、かつては璃月の万能秘書補佐として、そして今は西風騎士団のワーカホリック侍として、彼はテイワットの大陸を駆け回る。
その異色な経歴は、偏に彼の万能さ故だろう。
ペンを握らせれば敏腕仕事人。剣を握らせれば凄腕の剣士。鍋を振るわせれば一流の料理人。筆を持たせれば万人を魅了する芸術家。
しかし、彼はその多才さを誇ることはあれど、傲慢になることはない。
だからこそ、彼は人を惹きつける。惹きつけてしまう。
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