西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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6話

 西風騎士団のワーカホリック侍と呼ばれる俺であるが、それは現在の話。稲妻や璃月にいた頃は、もっと別の呼び名で呼ばれていた。

 例えば『凍剣義徳』や『無敗剣』と呼ばれていた時期もあったし、『断空滅賊真君(だんくうめつぞくしんくん)』なんて呼ばれていた時期もある。

 

 その他にも色々と異名はあるのだが、主だったものはこの辺りだろう。

 何なら最初のものと最後のものは、公的な文章に使われたことすらあった。

 俺は本名を使ったほうがいいのではと思ったのだが、当時の上司たち曰く、「そっちの方が効果あるから」との事らしい。

 相変わらず天才という連中の考える事はよく分からん。

 

 まぁ取り敢えず、俺は数々の異名を持っていると言う事だ。

 しかし、そんな俺でも『雷切』なんてぶっ飛びまくった────もとい、不敬極まりない名で呼ばれた事など一度として無いし、勿論聞いたこともない。

 と言う事は、恐らく俺が稲妻を発った後に付けられた俺の名なのだろう。

 

 しかし、それを聞こうにも、万葉少年は俺が話しかけようとする前に倒れてしまった。

 まぁ、万葉少年が話せなくとも、『雷切』の由来は大方想像がつく。恐らくだが、俺が稲妻を発つ直前に起きた『あの出来事』だ。

 

「……ら、雷切って……」

 

 怯えたようにこちらを見るパイモン。

 変なところで鈍感な謎の浮遊生物だが、今回はこの異名の意味を十分に理解したようだ。

 

「……流石に、これを見逃すってのは、どうにも出来そうにないねぇ……説明してもらおうじゃないか」

 

 俺の肩に手を置き、逃げられないようにする北斗船長。

 

「はぁ…………今から話すのは『多分これだろうな』と言う推測によるものですので、違うかも知れませんが、悪しからず」

 

 旅人の「コイツは稲妻で何をやらかしたんだ」と言う咎めるような視線を受けつつ、恐らく由来になったであろう出来事の顛末を語ってゆく。

 

 

 ⬜︎

 

 

 ────これは、目狩り令が施行される直前のことだ。

 稲妻を脱出する事を決意した俺は、着々とその準備を進めていた。

 身辺を整理し、仕事の引き継ぎの資料を作り、身近な人達へ送る手紙を用意して、とうとう訪れた脱出の決行日。

 虫すら寝静まる夜。俺は笠を被り、安い着物に刀一本を下げただけの、見窄らしい格好で離島へと向かおうとした。

 

 しかし、その時に突如として目の前の空間が真横に割れる。

 嫌な予感を察知した俺が咄嗟に飛び退くと、そこに立っていたのは刀を抜いた雷電将軍。

 あまりにも突然すぎた神の襲来に冷や汗を垂らす俺へ、雷電将軍は静かに語りかける。

 

『何処へ、行くつもりでしょう』

『少なくとも、此処では無い何処かで御座います』

『そうですか……仕方がありませんね』

 

 将軍が紫電を纏う。

 

『では、実力行使とさせていただきましょう!』

 

 その言葉と同時に、雷電将軍の太刀が俺を切り裂かんと振るわれた。

 ほんの須臾の間に俺の目と鼻の先まで迫る刃。

 しかし、すんでのところで俺の刀がその間に割り込む。

 

 静まり返った稲妻城下に、剣戟の轟音が響き渡る。

 二度、三度、四度と。剣が交わる度にその音は強さを増し、闘いもより苛烈になってゆく。

 

『な、なんだなんだ!?』

『どうなっているの!?』

 

 十度程打ち合うと、とうとう寝ている者達も目を覚まし、外へと飛び出して来た。

 

『……いけませんね、時間をかけ過ぎました』

『こちらとて、それは同じ事……!』

 

 互いに確と刀を構え、勝負を決めるための一撃を同時に繰り出す。

 

()ぁッ!』

()ッ!』

 

 一対の剣撃は空で交わり、大気を揺るがして────世界を軋ませた。

 

『……これは……ッ!』

『!!』

 

 ぐにゃりと世界が歪み、空間に亀裂が入る。

 

『……!』

 

 異常な事態に、雷電将軍の意識がそちらへと向けられる。

 その隙を突いて俺は将軍の横を通り抜け、離島まで辿り着き、海へと飛び出した。

 

 

 ⬜︎

 

 

「────と、俺が覚えているのはこんな感じだが……まぁ、多分これだろう」

「「「「「……………」」」」」

 

 そう語り終えた俺を『マジかコイツ……』と言う目で見るのは、旅人とパイモン、それと北斗船長以下、出航の準備を終えた南十字船団の皆さん。

 皆一様に口を半開きにして、半ば茫然自失としている。

 

「……ら、雷神を……倒したぁ……?」

 

 そんな中でも一番に再起動を果たしたのは北斗船長。

 幾度にも渡る航海の旅で鍛え上げられたその胆力は、やはり素晴らしいものがある。

 しかし、何か勘違いをしているようだ。

 

「別に倒したわけでは無いですよ。むしろあれほど手加減されてこの体たらく。負けも負け、大負けです」

「手加減!? ヨシノリ相手に手加減してたのか!?」

 

 パイモンがこの世の終わりのような表情で叫ぶ。

 

「ああ、初手で『無想の一太刀』を放っていない時点で、それは相当な手加減だ。流石にアレは俺でも切れん」

「『無想の一太刀』……万葉も言っていたけど、そんなにすごいんだ」

「すごい、なんて範疇に収まる代物じゃない。アレは正に規格外だ」

 

 静かに瞠目し、何人もの挑戦者達が散っていったあの一閃を思い出す。

 アレは正しく『斬撃の極致』だ。

 俺のような剣士だけでは無い。槍、薙刀、斧、爪……刃を持つ全ての武器の道、その最終到達点こそがあの一振りだ。

 俺の居合は空こそ斬れど、未だあの領域には程遠い。

 

「将軍様に会うのなら、絶対に彼女の前で変な事をするんじゃないぞ。多少のことならお目溢しして貰えるだろうが、よっぽどの事をしでかせばその限りでないからな」

「わかった」

 

 沈黙が訪れた甲板に、波の音だけが響く。

 話は終わったと言うのに、誰一人として動こうとしない。

 それほど話に聞き入ってくれたと言う証明ではあるが、出来るだけ早く行動しなければならない現状としては、あまり歓迎出来たことではない。

 

「あの、船は出さないので?」

「……はッ! あ、ああ、そうだったそうだった……おい野朗ども、とっとと動きな! さっさとしないと『雷切』様にぶった斬られちまうよ!」

 

 北斗船長の号令を受け、慌ただしく動き出す船員達。

 すると瞬く間に錨が上げられ、帆が張られ、船が海の上を滑り始めた。

 

「……ふむ」

 

 見る見るうちに遠く離れて行く孤雲閣を眺めつつ、遥か遠い故郷へ思いを馳せる。

 

「久々の稲妻は将軍様に刃を向けた大罪人として……か。あまり、拗れた事になってくれなければ良いんだが……」

 

 まぁ難しいだろうな、と心の中で結論づける。

 何せ旅人が居るのだ。恐らくだが、向こうのほうで色々と事件が起きてしまうのだろう。

 しかし、今回は風魔龍の時のように首を突っ込むわけにもいかない。

 今回はまず、兎にも角にも生きる事を最優先に考えなくては。





 梅山義徳:キャラクター詳細

 かつては稲妻に名を轟かせる剣豪として、かつては璃月の万能秘書補佐として、そして今は西風騎士団のワーカホリック侍として、彼はテイワットの大陸を駆け回る。
 その異色な経歴は、偏に彼の万能さ故だろう。
 ペンを握らせれば敏腕仕事人。剣を握らせれば凄腕の剣士。鍋を振るわせれば一流の料理人。筆を持たせれば万人を魅了する芸術家。
 しかし、彼はその多才さを誇ることはあれど、傲慢になることはない。
 だからこそ、彼は人を惹きつける。惹きつけてしまう。

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