西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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7話

 西風騎士団のワーカホリック侍と呼ばれるようになってからと言うもの、俺は暇な時間が増えた。

 理由は言わずもがな、ジン代理団長より下される仕事禁止令だ。

 アレの存在のせいで、俺の勤務は一週間に一度か二度。

 任務によっては多少の変動が無くはないが、それでも日々の大半が暇になってしまう。

 

 しかも、俺は個人的な剣の鍛錬を禁止されているため、剣を高める事も出来ない。

 まぁ、これに関しては勢い余ってシードル湖を両断してしまった俺が悪いので、何とも言えないのだが……兎に角、本格的にやる仕事が無かったのだ。

 

 故に、俺は趣味に打ち込むことにした。

 元々あった料理に加えて、裁縫や文筆、鍛治、詩作り、占星、錬金、酒造り等々……

 幸いな事に、俺の周りにはその筋の専門家が居てくれたので、それらについて学ぶ事は簡単だった。

 

 そして、そのうちの一つが釣りだ。

 モンドにはモンド釣り協会と言うものがあり、俺はそこに所属して釣りをしているのだが、これがまた奥深いのだ。

 以前までの俺は『釣り』をただ『魚を釣る』だけだと思っていたのだが、それは違う。

 

 釣りとは、即ち『自然との調和』にこそ本懐があるのだ。

 釣り糸を水面に垂らす時、そこに一切の雑念もあってはならない。

 ただ自然と対話し、己を消し去り、自然と一体になる事で初めて魚が釣れるのだ。

 

 この道に新しく踏み込んで来た新人達にはよく「針だけで釣れるんですか?」と聞かれるが、俺から言わせれば釣り餌やら疑似餌やら、そんな物は甘えである。

 真に自然と調和すれば、魚は自ずと釣れてくれるのだから。

 現に、この通り。

 

「……スイートグッピー、か。まだ此処は璃月の海域だな……おっと、そこの君。これを厨房へと頼めるか?」

「あっ、はっ、はひっ! よ、喜んで!!」

 

 魚のたっぷりと入った桶を持って、船員の一人が足をもつれさせながら走り去って行く。

 ……そんなに怖がらなくても、別に斬ったりはしないのだがなぁ……

 

「もし」

 

 そうやって俺が哀愁を漂わせていると、後ろから声が掛けられる。

 振り返って見れば、そこに居たのは昨日の稲妻人、万葉少年だった。

 

「隣、座っても大丈夫でござるか?」

「ああ、構わない」

 

 釣り針を巻き、甲板の上に釣竿を置く。

 

「……釣りは、続けていただいても全然大丈夫でござるが」

「いや、そうもいかん。話しながらでは釣れんのだ」

「拙者はよく、友人と談笑しながらの釣りに興じておりましたが……雷切殿は釣れないのでござるか?」

「それは釣り餌を使っていたからだろう。俺は釣り餌を使わん」

「……やはり達人は、次元が違うでござるな……」

 

 そう言って項垂れる万葉少年。

 

「……で、何の用だ? 将軍様に刃を向けた大罪人たる俺に、何か聞きたいことでも?」

 

 そう俺が聞くと、万葉少年は居住まいを正し、こちらへ向き直る。

 真正面から俺を見据えるその目には、確かな覚悟が見て取れた。

 

「先ずは先日の非礼を此処で謝罪させていただく。……誠に、申し訳御座いませぬ」

 

 手を膝につき、深く頭を下げる万葉少年。

 

「良い。むしろ悪いのはいきなり出て来た俺だ。いきなり俺みたいなのが────特にあんな状況で出て来れば、稲妻人ならそうもなる」

「……稲妻の中で、貴殿の名を知らぬ者は居らぬでござろうな」

「ああ。それが良いことかはわからんがな……で? 謝るだけで終わり、と言うわけでもないだろう」

「左様……では、僭越ながら」

 

 万葉少年が目を閉じ、深呼吸を一つ。

 それから語られるのは、彼の親友が辿った末路の話。

 俺に憧れた一人の青年が目狩り令に立ち向かい、散っていった話だった。

 

 御前試合。

 雷電将軍の前で決闘を行い、勝利すれば将軍様に意見を述べる権利を得る。

 しかし、負ければ将軍様直々に『無想の一太刀』による神罰が下され、死ぬ。

 まさに命を賭けた真剣勝負。

 彼の親友は目狩りの執行官にそれを挑み、負けた。

 俺が居れば────俺が逃げなければ、挑む必要の無かった御前試合に。

 

「……………………すまない」

 

 謝罪の言葉が口をついて飛び出す。

 

「謝らないで欲しいでござる。雷切殿にも、事情があったのであろう」

「……いや、ただの身勝手だ。そんな崇高なものではない」

「だとしても、でござるよ。雷切殿も、いくら強いとはいえ人間には変わりなかろう」

「…………」

 

 沈黙。

 ただ気まずい空気と時間だけが流れて行く。

 

「…………雷切殿。一つお願い申し上げたいことがあるでござる」

「……何だ」

「雷電将軍を……目狩り令を、止めては下さらぬか? 凡人には無理でも、雷切殿ならば、或いは……」

「……悪いが、こちらにも生きて帰らねばならない理由がある」

 

 脳裏に過ぎるのは西風騎士団の面々。

 確かに稲妻も故郷ではあるが、今の俺が帰るべき場所はあそこだ。

 

「そう、でござるか……仕方なかろう。やはり、雷切殿も人間故」

「……すまない」

 

 軽く首を横に振り、万葉少年が立ち上がる。

 

「では、拙者はこれにて失礼するでござるよ。雷切殿が無事に稲妻から戻れるよう、祈っているでござる」

 

 そう言い残し、彼は颯爽と去っていってしまった。

 そして、入れ違いに旅人とパイモンがやって来る。

 

「おーい! ヨシノリ! さっき万葉と何話してたんだ?」 

「む……何。少々頼まれ事をな……断ってしまったが」

「何を頼まれたの?」

「秘密だ。それより、明日には雷電将軍が降らせる雷の領域に入る。準備しておけ」

 

 実際、もう遠くの方には黒い雲と紫色の雷が見えている。

 あそこを突破すれば、稲妻へ到着だ。

 

「わかったぞ! ……でも、準備って具体的に何をすれば良いんだ?」

「俺はアレを剣で切りながら進んできたが、この船がどうかはわからん。北斗船長に聞いてみてくれ」

「雷を切る!? ひえぇ……やっぱりヨシノリはえげつないんだぞ……」

「わかった、行ってくる」

 

 そう言って踵を返し、北斗船長の居る方へ歩いて行く旅人。

 ……しかし、目狩り令を止める……か。

 そんな事が出来れば、俺も苦労しないのだがな…………

 





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