西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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8話

 西風騎士団のワーカホリック侍たる俺は、今までに数多くの任務を受けた。

 それは西風騎士団員としてだけでなく、ある時は冒険者として、ある時は奉行所の役員として、そしてまたある時は璃月七星の秘書補佐として。

 ヒルチャールやスライムを始めとしたモンスターの殲滅、危険地帯にある素材の採集、宝盗団などの犯罪者の捕縛……

 俺はそれらの任務を悉く達成し、その度に数多くの事を学んだ。

 

 その中でも、要人の護衛任務は特に学ぶ事が多かった。

 やはり彼ら彼女らは交渉術やら処世術やらを完璧に使い熟しており、見て学ぶだけでも大変な収穫を俺にもたらしてくれた。

 そして、その中で最も俺が重宝しているのが彼ら直伝の『変装術』だ。

 

 変装術は実に便利だ。

 己の存在を隠すのに、これ以上に手軽で確実な方法は無い。

 人間は仮面を一つ被っただけでも、その正体を看破することは酷く難しくなる。

 ならば服を着流しからシャツに変え、先端の白みがかった黒髪を金色に、青い瞳を灰色に、引き締まった体に詰め物を纏わせ、顔に化粧を施した今の俺を、一体誰が見破れようか。

 

「やっと来た。『璃月の姉御』、待ちくたびれてたところだよ。それと、三人の密航者……あっいや、客人と言うべきか」

 

 雷の嵐を突破して辿り着いた稲妻の離島で、モンド風の顔立ちをした金髪の男、トーマが俺達を出迎える。

 

「トーマ、この三人は……」

「そこの二人の紹介はいらない。異郷の旅人の名声は、嵐だろうと防げないからね。……でも、そっちの人については、お願いして良いかな」

「ああ、コイツはなぁ……おい」

 

 北斗船長がこちらに目をやる。

 自分で自己紹介をしろ、と言う事だろう。

 

「コホン……お初にお目にかかる。私はグローム。学者だ。少々稲妻に興味があり、モンドより旅人殿に同行している」

「へぇ、モンドの……成程……」

 

 どこか納得が行かないように、トーマは俺を頭の上から爪先まで観察する。

 ……やはり、コイツは勘付くか。

 

 彼は今こんな所で密航の手助けをしているが、その正体は神里家の家司だ。

 10年以上前に稲妻に居る父に蒲公英酒を届けようとして失敗し、モラもコネも無くかったところを神里綾人に拾われた彼だが、神里綾人の下で神里家のために働き、周囲の信頼を集め、現在の地位まで上り詰めた。

 その事からも分かる通り、彼の能力は素晴らしいの一言に尽きる。

 奉行所の上司は俺には及ばないと言っていたが、油断すれば俺程度、すぐに抜かれてしまうだろう。

 

 また、その経歴から、神里家に剣を教えていた俺ともかなり長い付き合いがあった。

 今はまだ気付かれていないようだが、いつ気付かれてもおかしくは無い。

 

「……私に何かあったか?」

「ああっと、すまない。俺って実はモンド出身でさ。少し懐かしいと思ってしまったんだ」

「ふん、隠さなくてよろしい。貴殿が私を怪しいと思うのは当然のこと。しかし、私はこの地にそのような事をしに来たのでは無い。……そうだな?」

 

 首を縦に振る旅人とパイモン。

 その顔には、若干の不安が浮かんでいた。

 大方、いきなり看破されそうになったので心配しているのだろう。

 安心すると良い。コイツの観察眼が異常なだけだ。

 

「何だい? このアタシが運んで来たヤツが信用ならないってのか?」

 

 北斗船長がトーマの肩に肘を置く。

 

「いや、そういう訳じゃ無いさ。ただちょっと、気になる事があってね」

「……まぁ、そう言う事にしておいてやる。……旅人、トーマはもう長いこと離島で活動している。ここの顔役と言っても過言では無い。何かあったら、コイツに相談しろ。だが……もしお前に不埒を働く事があれば、遠慮なく私に言え。次に稲妻へ来たらキッチリとシメてやるからな」

 

 お前も言えよ、と俺を見て、北斗船長はトーマから離れる。

 

「ハハハッ……、安心してくれ、オレたちなら仲良くやれると思うよ」

「そうなると良いんだがな……」

 

 と、グロームとしてはそう言うものの、まず間違いなく彼は旅人と上手くやれるだろう。

 彼のコミュ力は怪物級だ。ファルカ大団長に匹敵する。

 かつての俺とも、ほんの数日で互いに心の底から笑い合えるくらいの仲になった彼だ。

 そんな彼が他人の地雷を踏み抜く事は、基本的にはあり得ない。

 

「そろそろ時間だ。アタシの船にはまだ「お尋ね者」が一人乗ってるからな。長居はできない」

「万葉のことか……」

「ああ。それじゃあ……また会おう、旅人! 稲妻でどんな『荒波』に遭おうが、乗り越えてみせろ!」

「勿論、自信はある!」

 

 力強く語りかける北斗船長と、それに応える旅人。

 

「バイバイ! また会おうな、北斗船長!」

 

 船へ歩いて行く北斗船長に、パイモンが手を振る。

 北斗船長はそれに振り返らずに片手を上げて応えると、颯爽と船に乗り込んだ。

 

「……それじゃ、まずは審査所で登録手続きを済ませよう」

「えっ、いきなり稲妻のお偉いさんに会うのか? こっそりって言ったんだけど……」

「ハハッ、鎖国令を舐めないでくれ。身分を調べる事からは、どうやろうと逃れられないよ。だからこうして、規則を守りながら規則を掻い潜るんだ」

「至言だな。では、さっさと連れて行ってくれ」

「ああ、勿論」

 

 トーマを先頭に、桟橋を歩いて行く。

 旅人とパイモンは、初めて見る稲妻の景色に興味津々だ。

 すると、トーマが歩きながら此方にしか聞き取れないような声量で話しかけてきた。

 

「稲妻への上陸許可証は持っているかい?」

「問題ない。元より入手している。俺が彼女に頼んだのは足だけだ」

 

 これでも俺は元奉行所役員。

 簡単な書類の偽造くらいならば、いくらでも出来る。

 勿論、筆跡は変えて書いたものだ。抜かりはない。

 トーマはそれにひとつ頷くと、何事もなかったかのようにまた無言で歩き出した。

 

「……よし、ここだ」

 

 審査所は桟橋を出て直ぐのところにあった。

 壁は無く、4本の柱で屋根を支えている作りで、提灯と()()()がぶら下がっている。

 

「えっと、こんにちは!」

 

 審査所の受付に挨拶するパイモン。

 

「はい、こんにちは。では、身分の証明と島へ上陸する目的を教えて下さい。あっ、勿論トーマさんは結構です」

「モンドの学者。目的はこの島の植生の調査、及びサンプルの採集。書類はこれだ」

「承りました……はい、問題はありませんね。……それでは、そちらのお二人もお願いします」

 

 俺は淡々と作業のように身分の証明を完了させる。

 振り返って見ると、旅人とパイモンが信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。

 ……まさか。

 

「無いのか?」

 

 小声で恐る恐る問いかけると、二人は小さく首肯した。

 何と言う事だ。稲妻に行くと言っていたのだから、持っているのかと思ったのだが。

 

「……どうかされましたか? 身分の証明と上陸の目的を」

「わ、私達は……お酒と鉱石の商売に……」

 

 思いっきり目を泳がせながらそう答える旅人。

 

「そうなんですか? 今は『万国商会』のみがそう言った類の貿易業務を許可されていますが……お二人は協会から許可は得ていますか?」

「あっ、オ、オイラたちは……」

 

 しかし、そんな浅はかな嘘は通用しない。

 パイモンが慌てて弁解しようとするが、無駄だ。

 

「すみません、やはりお二方には……」

「これが二人の上陸手続きの書類だ、確認してくれ」

 

 俺も旅人達も焦り、万事休すかと思ったその時、トーマが書類を受付に差し出した。

 

「おい! あるならもっと早くに出しとけよ!」

「アハハッ、君たちがどう対応するのか少し気になったんだ、悪い悪い」

 

 ……そうだな、そう言うヤツだったよお前は。

 

「ふむ……そうでしたか。書類に問題はありません。稲妻へようこそ」

 

 ホッと一息吐きつつ、審査所を通過する。

 いやはや、無駄に緊張してしまった。

 

「で、次はどうすれば良いんだ?」

「遠国監察だ。審査所はあくまで入国の可否だけ。それ以外の諸々は、遠国監察で手続きする」

「うへぇ……聞いただけで厳しそうなところだなぁ……」

「稲妻では外国から来た人のことを『外の人』、と呼ぶほどだからね。鎖国中では、この異邦人居留地の此処でも、異国人は簡単には受け入れられないんだ」

 

 しかし、それでも受け入れてくれるのは、まだ優しい方だと言えよう。

 本来なら、鎖国令は異国人の入国そのものを禁止するつもりだったからな。

 流石にモラの供給無しでの現状維持は些か難し過ぎると言うことで、貿易は可能となったのだ。

 ちなみに、これの許可を将軍様に取りに行ったのは、稲妻から出る前の俺である。

 

「……でも、進まなきゃ」

「ハハハッ、君の覚悟は気に入ったよ。俺たち気が合うんじゃないかな。じゃあ、遠国監察に行こうか」

 

 そう言って、離島の奥へと進んで行くトーマ。

 ……さて、此処からは知り合いも多くなって来るはずだ。気を引き締めなければ。

 





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