西風騎士団のワーカホリック侍   作:POTROT

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9話

 西風騎士団のワーカホリック侍たる俺は、よく『モラに頓着しない』と言う印象を持たれるが、そんな訳がないに決まっている。

 確かに俺は稼いだモラをすぐ趣味に溶かす。

 だが、それは趣味以外にモラの使い道が殆ど無いだけであり、俺自身は常人の数倍以上モラの重要性を解っているつもりだ。

 と言うか、モラの重要性を分からずして、どうやって事務仕事が出来ようかと言う話だ。

 

 モラとはつまり、現代における万物の源である。

 モラが無ければ人は動かない。モラが無ければ物も無い。

 モラこそが、今のこのテイワット大陸に存在する7国を繋ぎ、動かしている原動力なのだ。

 

 故に俺は、岩王帝君の死を酷く悲しんだ。

 モラを生み出すことが出来たのはこの世でただ一つ、彼の存在だけだった。

 彼の存在亡き今、この世に点在するモラは、少しずつ消えて無くなって行くのみ。

 正に世紀末だ。この世の終わりと言って良い。

 今はまだ大丈夫だが、このまま行けば緩やかに世界は荒廃していくだろう。

 ……まぁ、流石にそうなる前に対策が取られるとは思うが。

 

 と、ここまで長々とモラについて語ってきた訳だが、つまり何が言いたいかと言えば、俺は常人よりも多少はモラと、それに関連する事象について詳しいと言う事であり、もっと言えば組織運営のようなモラが絡む面にめっぽう強いと言う事だ。

 故にこそ、敢えて言わせて貰おう。

 

 

『腐っている』と!!

 

 

 どこまで腐り果てた、『勘定奉行』!

 他国の商人様方を何と心得る!! 

 鎖国令とは、飽くまでも稲妻の民衆と外部を隔絶する為の檻!

 決して他国の商人様方を縛り、虐げる為の物にあらず!!

 

 貴様らの脳は、ファデュイのもたらす利益と権力に喰らい尽くされたか!!

 彼奴等の蛮行の数々を知りながら、己の利益を優先するとは!

 何たる非道! 何たる邪悪!

 貴様らの商人様方の血と涙で真っ黒に染まった(はらわた)が、透けて見えるわ!!

 

 ええい! 自らの儲けの為に稲妻を蝕み、私腹を肥やす虫ケラ共め!

 将軍様に代わり! 我がこの場にて天誅を下してくれようか!!

 

 特に柊慎介ェ! 貴様だ貴様!!

 貴様に出来た娘がいたから見逃してやったものの!

 貴様がやっていることは正に稲妻への叛逆! 将軍様への裏切り!!

 良かったな柊慎介ェ! 娘がいなければ、今頃貴様の首と胴は泣き別れしていたぞ!

 

 

 ────などと心の中で怒ってみるが、冷静に考えてみれば彼奴等よりも俺の方が重罪人だ。

 天誅だの何だのと言ったが、どちらかと言えば俺が受ける側である。

 まぁ色々あったが、最終的に柊の娘について行く形で鳴神島まで渡れることになったので、良しとしよう。

 

「やあっ!」

「ぐわぁぁぁあああああ!?」

 

 新しく雷元素を使えるようになったらしい旅人が、宝盗団を蹴散らす様を眺めつつ、弓を片手に柊の娘の周りを固める。

 弓は不慣れではあるが、横から湧いてくるスライムを倒す程度には十分だ。

 

 ちなみにトーマは先に鳴神島へ行った。

 なんでも旅人曰く「ちゃんと離島から本島に来れるかの試練だろう」との事だが、俺に言わせてみればそんなもの無駄でしかない。

 まぁ、アイツの場合は旅人の真の恐ろしさを知らないので、仕方ないと言えなくも無いが。

 

「……あ、あの……」

「どうかしたか」

 

 心を無にしてスライムを撃ち抜いていると、柊の娘が話しかけて来る。

 

「貴方は、モンドから旅人様と一緒に参られたのですよね?」

「……ああ、そうだ」

「では……雷切────梅山義徳と言う剣士を、ご存知ありませんか?」

「ウメヤマ、ヨシノリ……」

 

 唐突に出て来た俺の名に、俺はあくまで初めて聞いたと言う体を装う。

 

「名前から考えるに稲妻人のようだが……何故それがモンドと結び付く? それに雷切とは。また尋常では無いな」

「……い、いえ……お気になさらないで下さい。これは稲妻の問題ですので……」

「いや、そうもいかん。我々に関係のある話なら、聞かないわけにもいかない」

 

 そう言いつつ、またスライムを撃ち抜く。

 やはり海岸沿いは、水スライムと氷スライムが多いな。

 氷は良いが、水は矢の通りが悪くて困る。

 

「……分かりました……梅山義徳とは、5年程前まで稲妻に居た、最強の剣豪です」

 

 最強の剣豪……俺には過ぎた称号だ。

 

「天を裂き、海を割り……彼の名声は、この稲妻中に響き渡る程でした……しかし……」

 

 娘の手に力が入り、わなわなと震える。

 

「……彼は……彼は愛故に、修行の旅に出てしまわれたのです……!」

「ん?」

「え?」

「あ、いや、何。愛故にとは、な、中々に……その、ロマンチスト……なのだな、うん」

 

 愛故に? は? え? 何が……?

 

「はい……雷切は将軍様を愛しておられました……しかし、人の身では『永遠』たる彼女と共に居られないと、人の身を捨てる為に大陸へと修行に出てしまわれたのです……彼は今も、何処かで修行を続けておられるのでしょう……」

 

 此処に居るが……ううむ……何がどうなっている?

 将軍様を愛している? 俺が? そんなわけがないだろう。不敬だぞ。

 ……と言うか、だ。

 

「では……その、『雷切』と言う名は、何を……?」

「よくぞ聞いて下さいました。それについては、彼の出立について語らねばなりません……」

 

 そんな前置きから始まった話は、荒唐無稽で、事実無根なものだった。

 一夜限りの将軍との逢瀬だの、俺が将軍に愛を囁いただの……一体何がどうしてそうなった? 

『雷切』の由来は俺が覚えていた通りだったが……それでも愛故に将軍様を斬っただの、涙を流しながらの一撃だっただのと……

 一体どう言う事だ万葉少年。色々と情報に齟齬が発生しているぞ。

 

 と、悩みながら歩いていたら、すぐに鳴神島へ着いてしまった。

 旅人が柊の娘と少し話をして、何やら手紙を受け取ると、柊の娘は離島へ帰って行く。

 

「……はぁ、此方に行けば稲妻の城下町だ。木漏茶屋はそこにあるし、お目当ての将軍様も天守閣に居られる……俺も色々と確かめなければ……」

 

 旅人を連れ、紺田村を通り過ぎ、坂を道なりに歩く。

 実に久々な鳴神島だ。この空気、川のせせらぎの音、たまに聞こえる雷の音……懐かしい。

 ……しかし、まさか旅人が此処にも宝箱を見出すのではないかと思ったら、やはり見出したな。

 思ったより多くて驚いたぞ。

 

「なぁ、お前の実家も城下町にあるのか?」

「ああ、そうだ。一応、これでも結構な良家の生まれだからな。天守閣も割と近い……まぁ、気付かれないようにやる」

 

 そんな事を言いながら歩いていると、稲妻の城下町が見えて来た。

 目的地はもう少しだと、謎の物体を起動させる旅人を横目に進んで行く。

 城下町に近づくに連れて増えて来た民家を越えつつ、長い階段を登れば、実に5年ぶり近くなる稲妻の城下町……だ……

 

「は?」

「おぉ〜……ここが稲妻の町かぁ……!」

 

 パイモンが城下町の光景に目を輝かせる。

 旅人も異国の町に目を奪われているようだ。

 しかし……此処を故郷に持つ俺は、強烈に感じた違和感から、異様な存在感を放つ“ソレ”を見つけ出してしまった。

 

「……俺の……像……だとぉ……?」

 





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