千早愛音vsクソカスメンヘラ彼氏 作:ANON TOKYO
──恋人の顔と性格、どっちが大事かって?
──そりゃあ私はもちろん、顔重視! だってさ、隣歩くなら絶対カッコいい人の方が良くない?
そう言っていた昔の自分がそこに立っているなら、今すぐにでも目を覚ましてやりたい。ビンタでもキックでも、なんでもいいから。私の人生棒に振ることに比べれば、全然大したことないし。
っていうのもさ。私、もう手遅れなんだよね。もっと後先考えて行動しなよ、ってそよりんに言われたばっかりなのに。またそよりんのお小言かぁ、なんて適当に流さない方が良かったな、普通に。
……なんていうか、うん。
「愛音はさ、俺の彼女になったんだよね? なら俺のこと、絶対裏切らない方がいいよ。俺、めちゃくちゃ愛重いし、執念深いから。そうだな……もし愛音が俺のこと構ってくれなくなったなら、死んじゃうかもね?」
百パーセント顔で選んだ彼氏、
い、いや、なんかすごい優夜くんのこと下げてるみたいだけどさ、顔はめちゃめちゃカッコいいんだって! 顔は! ただ、引くほどめんどくさい性格をしてるだけっていうか……
えーと、こういう人のことなんて言うんだっけ。メンダコ? メンチカ? じゃなくて……あ、そうだ、メンヘラだ。
依存体質で、いつも病んでて、誰かに構ってもらえないと寂しくて死んじゃう、なんていうか、私とは正反対のタイプ。いや、私も構われたいタイプではあるけど、別にそこまでじゃないしな……
このことをみんなに話したら、リッキーは呆れてるしそよりんはため息ついてるし、楽奈ちゃんはめんくい、って私のことどストレートに刺してくるし! 私のこと素直に応援してくれたの、ともりんだけだよ? ひどくない?
正直、優夜くんとはどうにかして縁を切りたいけど、顔はタイプなんだよね。触れれば消えちゃいそうなほど白い肌に端正な顔立ち。鼻筋もシュッと通っていてすごく綺麗だから、見てて飽きないし。ほんと、病まないでくれれば幸せなんだけど、なかなかそうもいかなくって……
「ねぇ愛音、今すぐバンドやめて」
「う〜〜〜〜〜ん」
優夜くんのメンヘラは、今日も絶好調みたいです。うーん、全然嬉しくないな! 唐突すぎる上に要求がぶっ飛んでるし、いきなり言われても困るんだよね……
理由も言ってくれないままやめろって言われても、どう反応していいかわかんないし……とりあえず、私は優夜くんに理由を尋ねてみることにした。
「えーっと……なんでバンドやめて欲しいのか、理由だけ聞いてもいい?」
「愛音を愛してるから」
「抽象的すぎ!」
バンドをやめさせたいにしてはあまりにも抽象的な理由に思わず呆れてしまう。愛してくれてるのはなんとなくわかるけど、それがどうなってバンドに繋がるんだろう?
優夜くんの気持ちは、やっぱりわからない。だから、もう一回どう言うことか尋ねると、優夜くんの瞳から光が消え、苛立ったようにぼそぼそと話し始めた。
「愛音って、友達多いじゃん。クラスメイトとか、バンド仲間とか。つまり、人間関係の分母が大きいわけ」
「う、うーん……?」
「愛音にとって俺は百分の一かもしれないけどさ、俺にとって愛音は一分の一だから。俺はこんなにも愛音だけなのに、愛音は俺のことなんてどうでもいいんだ? そっかそうだよね、愛音は俺のこと嫌いだもんね、知ってる。じゃあ消えるね、愛音の前から」
「なーんでそこまで話が飛躍しちゃうかなぁ……」
また出た、優夜くんの消える消える詐欺。優夜くんが消えるって言ったら一時間ぐらいは連絡取れなくなるんだけど、時間が経つうちに寂しくなっちゃうのか普通にメッセージ飛ばしてくるんだよねー。
まあつまり、天性の構ってちゃんなんだよなあ、優夜くん。だから今もこうして消える! とか言ってるのも私の気を引くためなんだろうな、って考えると愛おしく……は思えないかも。やっぱ。
それに、彼氏のためにバンドやめる! って言ったら、ともりんとの約束を裏切ることになるし。一生バンドするって決めたんだし、こんなことでやめたくないっていうか。
「あのさ、別に優夜くんと私がバンドやってることは関係ないじゃん。私はさ、私なりに優夜くんのこと大切に思ってるし、それと同じくらいバンドのことも大切に思ってる。それじゃダメ?」
「なんでそんなこと言うの? つまり、俺の存在はバンドレベルってこと? そっか、まあそうだよね、俺みたいなゴミカスメンヘラ男なんてどうでもいいよね、愛音がライブで適当に投げて誰にも拾われないまま地面に落ちてるピックぐらいの存在だよね」
「あーまた私の話曲解してる! 私が言いたいのはそう言うことじゃなくてー! ていうかピックのたとえひどくない?」
そうなんだ、私のピック、地面に落ちてたんだ……い、いや、今はそっちじゃなくて、優夜くんに納得してもらわないと。
いや、そもそも優夜くんが納得するか? 優夜くん、基本何言っても病むし、すごい引きずるし……どうしたらいいんだろ。そんな時、私の頭にひとつの作戦が思い浮かぶ。
「でも、そしたらさ。ステージの上で輝く私のこと見れなくなるよ?」
「別にいい。愛音がそこにいてくれればいいから。愛音が俺以外の誰かと仲良くしてると嫉妬で全身の毛が禿げそうになる」
「優夜くんならそう言うと思った! でも、もしもだよ? もし私がバンド続けられたら、優夜くん“だけ”にファンサ、してあげるけど?」
「……っ!」
そう、これが千早愛音発案キミだけファンサ大作戦。その作戦はバッチリ成功したようで、優夜くんの表情が目に見えて変わっている。
優夜くんは私の手をぎゅっと握りしめると、怖いくらいにキラキラ、いや、ギラギラした目で私を見つめてくる。
「チケット買うから。買い占めるから。他の客、絶対入れさせないから」
「あ、え、えーと……OK! その分楽しませるから!」
「これで二人きりのステージだね、愛音♪」
「MyGO!!!!! のライブだから普通にともりんたちいるんですけど……」
とにかく丸く収まって一安心、なのか……はわかんないけど、優夜くんも納得してくれたし大丈夫だよね!
ちなみに次のライブで普通に他のお客さんにファンサしちゃって優夜くんがめちゃめちゃ病んだのは、別の話。
「俺、さ。基本カミサマなんて信じてないけど、唯一信じてるカミサマがいるんだ。そう、それは、愛音、君のこと。カミサマは、俺みたいなクズでも救済してくれる、俺だけの大切な存在。だからさ、愛音なら、俺のカミサマになってくれると思ってる。それで、カミサマはどんな時も俺を見離さないで、どんな時でも俺のことを愛してくれるって信じてるから。そうだよね? 愛音」
「う〜〜〜〜〜んなんかすごいめんどくさい人彼氏にしちゃったけど顔がタイプだからいっか!」
こんな感じのふたりが書きたいので書きました!続いたら続きます