『お父さん、今日もお仕事なの?』
『何だ、昨日遊んでやっただろ?』
『うん、でも……』
『心配すんな。やる事が終わったら、暫くここで休めるからさ』
『……ほんとだよな?』
『お父さんに任せとけって、な?』
父さんを最後に見たのは、その時だった。研究所に行って、そこで起きた火災事故で亡くなったと聞いた。父さんが死んだなんて信じられない、そんな思いで話を聞いて、そして――失意の中目に焼きついた、ガントレットの姿。その輝きを見る度、俺は思っていた。
父さんは、本当に死んだのか、と。
「…よし、準備完了だ!」
服を整え、靴紐を締める。外の空気を吸いながら、歩き始める。やっとこの腕が、父が残した炎のエレメンツドライバ【イグナイト】に収まるぐらいになった。
「父さんは何かを伝えたがってる。そんな気がするんだ」
研究所から取り出された唯一の遺品。手を伸ばして炎を灯すドライバが、今でも父がここにいる事を感じさせる。
「あの人もここにいたら、同じこと言ってたんだろうなあ」
ふと思い出す、父と交流が深かった青年の姿。ぶっきらぼうだけど、父に負けず劣らずのお節介焼きだった覚えがある。あの時楽しそうに語っていた2人の姿は、俺も母も忘れていない。あの光景が、灯火の様に明るく輝いていた光景だからこそ、俺は決めた。
「父さんが出来なかった事、今度は俺が果たして見せるよ」
誰よりも俺と母、家族の為に仕事に行って、これまで誰よりも頑張ってきたことを俺は知っている。だからこそ、今度は俺の番だ。外に出る前、寂しげな顔を見せた母も、その答えに安堵を見せてくれた。
「――それじゃあ行ってきます、母さん、父さん!」
この先に何が待っているのか。外に出る前母に言った旅立ちの言葉を呟いて、不安と期待を入り混じりながら、旅の一歩を踏み出した。父に誇れる息子、そんな自分になれる事を目指して。
綺麗に整えられた事務所の中、大きな音が鳴る。その端末に手を伸ばし、耳に当てた青年。
「こちら、リバティ・アイドだ。ご用件は?」
気怠そうに椅子に座り、通話の相手の話を聞く。話が終わったのを確認すると、自分の机に置いた。
「……ッケ、わざわざ礼を言う為に電話する物好きかよ。それを言うなら仕事の話の方が有意義だぜ」
吐き捨てる様に文句を言いつつ、椅子のキャスターを回転させて窓の方を見る。
聖なる扉の影響により、都度世界の情勢は大きく変わる。だからこそ、何でも屋の様な非公式の探偵事務所の所長である彼にとっては絶好の環境でもあった。
「さて、と。仕事が来ないならこっちから動いてやるとするかね」
立ち上がると、テーブルに置かれたサンドイッチを手にして、食べながら外に出る。常界のどこにでもある様なビル群の中、一つ佇む一軒家の事務所から出た男はポケットから球体の物体を手にし、大剣を展開した。
「そういや、あいつももうチビとは言えねえ歳になったか」
昔、とある男の紹介で顔見知りとなった少年。自分の事を兄扱いしてきた事は、今でも忘れていない。
『俺もそういうの、使ってみたい!』
手にする大剣――ドライバ【リンドヴルム】を見て、青年の記憶にいる年頃の少年はらしく目を輝かせていた。
「――もうそんな歳じゃねえんだろうな。まあ、その方がとっつきやすい」
呟いた後、ドライバの展開を解除して歩き始める。彼には、仕事以外にもやるべき事があった。
一つ、親友の息子を見守る事。
二つ、親友の生死を探る事。
三つ、世界評議会の目論見を探る事。
そして――
「待たせたな、――。約束を果たす時だ」
追い風が吹いて、遮られた名前の姿を想いながら、青年ソールは歩き始めた。揺らめく魂の様に、それでもうちに熱を込めて。
プロローグその一、炎編。
主人公だけでなく、物語の中心となるオリキャラの話も入れていきます。