「……うん!しっくり来るね、これ!」
しっかり貯めたお金で買ったドライバを軽く降って感触を確かめてみたが、想像以上に馴染めている。ドライバが引き出す風もなかなか心地良い。
「よし!せっかくだから走ろう!」
嬉しい気分になっているからこそ、走るべきなんだ。走って、走って、向かうべき場所へ走るんだ。踏み出して、また踏み出して、また踏み出して。何故か、あの時より走れてる感じがする。
「――今の私なら、辿り着けるかな」
私には求めているものがある。立ち止まってしまった故に、手放してしまったもの。もう、触れる事が出来なくなったもの。――あの時走り出していたら、その手を取れる筈だったもの。
「――ううん、その為に私は強くなろうと決めたんだ」
もう躊躇う必要はない。準備は整った。今の私ならきっと、自信を持って追いつけることが出来る。もう、あの時の止まっていた私じゃない。
「……風が、気持ちいい」
きっと、買った棍のドライバ【フォンシェン】――そして、風が応援している。そんな感じがして、更に走れる気がした。
『ミドリ――私、行くよ』
『どこへ?どこにいるの?』
『聖なる扉<ディバインゲート>』
「必ず追いつくから…!待っててね、エレナ!」
「いない!?マジかよ……」
帽子を被った小さな少年は応答のないインターホン、応答のない電話に悪態を吐いていた。
「出直してこいって言ったのは所長だろーがよ〜」
ポケットに手を突っ込み、空を見上げる。時間通りの30分前、朝一番に来たはずの少年は、尋ねる人物の不在に呆れていた。
「こんな朝早くから仕事か…?まあ居留守って事は無いし……」
であれば、その仕事が終わるまでここで待つか、或いは走り回って探してみるか。
だがそんな選択肢は少年にとって一択に等しかった。
「居留守にしたのはあんただからな、所長!」
瞬間、残像を残して駆け出したのは、少年。街中で、人をかわしながら走り続けている。それも、普通の速度ではない。その速度は恐らく――アスリートのスプリントよりも、速い。
――人々から見れば、小学生に等しい少年が年相応に楽しく走っている。だが、その速度は明らかに年相応とは言えなかった。靴型ドライバ【ソニック】。走ることを何より好む少年にとって、相棒ともいうべき靴でもあった。
「ははっ、やっぱり走るのは最高だぜ!」
楽しそうな声をあげながら、走るのをやめない。少年ファスツは今も尚走りながら、「所長」を探していた。
「……?」
その時ふと、足が止まった。肌に感じた向かい風。普段ファスツは走る時、感じる風は追い風だった。だが――
「……へえ、さっき通った人か――OK、確かめてみようじゃん」
感じた向かい風の正体。人探しよりも優先すべきこと。走りを愛する少年は敢えてその向かい風を追い始めた。
風編です。走りに拘る2人ですがその在り方は少し違う様に。