やりたい事がなくて、目指す夢もない。そのせいか何に関しても興味を示さなかった。そして、嬉しくもなく、悲しくもなく、満足でもなければ不満でもない。
本当に、何もかもどうでも良かった。今、俺にとって必要なのは――
「どけよ」
気に入らないやつもモノも、全部をぶっ壊す力。力を振るう時間が、俺を満たしてくれる。それさえあれば他の事情なんて知った事じゃない。
「な、なんだこのガキ…!」
「お前らがムカつく目をしてるからだよ」
道端に落ちてた斧を拾おうとした時に、苛立つ笑い声と気に入らない視線を向けてきたのが悪い。そう考えつつ殴りつける。
「テメェ、図に乗ってんじゃねぇ!」
「――っ!んの野郎……!」
やられたらやり返す。傷の痛みなんてお構いなしに。そんなもの、繰り返していくうちにもう慣れた。――度々ムカつくのは、避けられない訳だが。
「纏めて、くたばりやがれ!!」
面倒になって、拾った斧を振るってやった。すると、切った訳でもないのにムカつく奴らはみんな吹っ飛んでいった。
「……は、ははは!悪くねぇじゃねえか」
無関心だった俺は、この斧に魅入られてしまった様だ。こいつは、俺を満足させられる何かを持っている。関心していると、斧は小さな球に変わった。
「コイツ、ドライバだったのか…良いぜ、尚更面白くなってきた」
今日は珍しく、良い日になりそうだ。意思疎通なんて出来なくても、俺にとってコイツは相棒みたいなものだった。
「名前、付けておくか…今日からお前は【ヤシャヒメ】だ。一緒に退屈を無くしていこうぜ、なあ?」
目を閉じながら、お茶を啜る。いろんな世界の茶を飲んできた少女にとっては、物足りなさを隠しきれていない。だが、妥協は出来る。
「……ふぅ」
湯呑みを置いて、目を開ける。用意したお金を会計に置いて、茶屋を出る。
「やっぱりお茶は本家が一番ね。でも、和菓子は良かったかも」
そう語る少女は人でありながら、獣の様な耳と尻尾を揺らしていた。先程の茶屋に対する感想を呟きながら、歩いていく。
「……さて、丁度いい場所は」
スマホを手に、候補を探し始める。常界には自然寄りの場所が少ない。その点に引っ掛かりを覚えていたが、住めば都という在り方は否定しなかった。人が少ない場所であれば、どこでもやりたい事は出来るのだから。
「……色々あるとはいえ、この昼間じゃどこもかしこも落ち着ける場所は少ないでしょうね」
愚痴を呟きながら、今日の習慣を行う場所を考える。
「結局ここになる訳ね」
事務所「リバティ・アイド」。少女の知り合い達が集うこの場所の屋上で、正座をして瞼を閉ざす。
(この絨毯、ご丁寧に私の好みだわ……一つ貸しになるわね)
心地良く、落ち着いて姿勢を維持し続ける。
瞑想。
少女ナギにとって、極東国<ジャポネシア>で身についた習慣である。
風を身に受けながら、無心で続けていく。
「――よし」
ナギは立ち上がる。そして、球体を薙刀型ドライバ【メイソウ】へと姿を変える。
「……」
手のひらに乗せて、回し始める。今日の調子を確かめる為の、もう一つの習慣。
「――そこそこね」
それだけ呟いて、屋上から飛び降りる。人と獣の混種族<ネクスト>にとっては造作もない事だ。
「さて、何をしようか」
変わり映えのない日常。彼女はそれを享受して、今日も過ごし始める。
――この先の出来事を、知らないまま。
プロローグラスト、無編です。
ここから本格的にスタートしていきますので、どうか見守って頂けると幸いです。
10周年期間中に間に合って良かったです()