「ふぁぁ……おはよう艦長」
眠い目を擦りながら廊下を抜けて艦橋に入った。
艦橋要員たちが私に気づいて敬礼をしてくれた。私も服装を正しながら彼らに敬礼を返した。皆同じ顔で同じ身長のクローンだ。何度も死地を彼らと潜り抜けてきた。掛け替えのない仲間だ。
「おはよう、レナータ。今日は時間通りだな」
艦長が今では珍しい腕時計を見ながらそう言った。
もう4日はこの船に乗って広く果てしない銀河を旅している。でもこの旅路ももう直ぐ終わりだ。
「当たり前でしょ?私が寝坊したことなんてあったかしら?」
私は胸を張って艦長に言った。艦長は苦笑いしながらまた腕時計を見た。
「昨日は5分12.567秒の寝坊で、一昨日は8分34.182秒の寝坊でした。今日は18.5秒の遅れです」
「は?それくらい誤差でしょ!そんなこと記録しなくていいの!」
艦長の傍で何か作業をしていた
「いえいえダメです。私、DG-RK-850の仕事は艦内で起こった全ての事を記録するのが仕事です。何なら前の任務での上番時間も教えましょうか?マイギートでは……」
「分かった分かった!もういいから!」
レナータはドロイドに駆け寄って口のスピーカーを押さえた。ドロイドがそれでも喋り続けているのを見てクローン達は笑った。
「ふふっ。レナータ、その辺にしておけ。ジーも任務に戻れ」
艦長は笑いながら2人を制止した。
「はいはい、艦長」
レナータは明らかに不満そうな表情で艦長の注意通りにドロイドから離れた。
「あとどれぐらい?シェイカー」
レナータは航海長のクローンオフィサーに尋ねた。
彼には「シェイカー」ではなく「CT-38769」と言う本当の名前があるが、誰も数字では呼ばない。つまり、シェイカーというのは謂わば渾名というやつだ。
レナータとマスターの初任務の際に操舵を誤ってこのクルーザーで小惑星帯に突っ込んだ時の出来事が由来だ。
「あと、83分ってところですね。現地時間では1903に到着予定です」
「あと83分、か。思ってたより短いわね。捕虜も今日で独房生活は終わりね」
「俺たちもそろそろ休暇に入りたいっすよ。ここんとこずっと激戦ばっかりで疲れたっす」
「泣き言は言わないで。そうね、私がナイトに昇格したらきっと長い休暇が貰えるはずよ。それまで頑張って」
「なら当分は無理っすね」
クローンたちはケタケタと笑った。艦長もそれに釣られて肩を震わせている。
「なっ!言ったわね!」
レナータはそれを聞いて顔を赤く染めた。発言者のクローンを見つめて手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと!やめ、やめて下さいよ!ウハハ!」
レナータはフォースを使ってそのクローンの全身をくすぐった。
クローンは笑いながら床に倒れてのたうち回った。さらにそれを見て艦長や他のクローンたちもどっと笑った。
「艦長!緊急通信が入っています!」
通信士官がそう告げると和気藹々としていた雰囲気は一瞬でレナータを含め艦橋要員全員が通信士官に注目した。
「
グリーヴァス将軍はレナータ達、銀河共和国の敵である独立星系連合の最高指導者である。
グリーヴァスが死んだ。それは彼女にとって大きな衝撃だった。彼女の目の前でヤングリング時代からの親友を叩き切った残虐非道な男の死は彼女の動揺を誘うのに十分だった。
「嘘っ……!」「マジかよ」
「騒ぐな!静粛に!続きは?」
さっきまでの艦長とは違い、動揺が広がった艦橋要員たちを怒鳴りつけて黙らせた。
「はっ!これをもってアウターリム包囲戦は完了し、これより主力艦隊は残敵掃討作戦に移行するそうです」
レナータはフォースで足音を消して静かに艦橋から出た。艦長やクローンたちはそれに気づいたが、誰も止める者はいなかった。
まだ10歳の彼女にとってこの戦争は辛く、厳しいものだったというのは容易に想像がつく。
「終わったよネーク。やっと、やっと終わった。ケノービ将軍があんたの願い、やっと、叶ったよ」
レナータは携帯型ホロプロジェクターで幼馴染の姿を見ながら涙を流した。
彼は戦争の初期にレナータの目の前でグリーヴァスに腹をライトセーバーで貫かれ、倒れた。マスターのフォース・ヒーリングの甲斐なく、幼馴染の腕の中で平和への願いを呟きながら死んだ。
彼は訓練生時代からずっと平和な銀河を護りたいとずっと願っていた。
彼の願いがやっと叶いそうなのだ。直接見ることは叶わなかったが、きっとフォースと一体になった彼もどこかで平和な銀河を見ることになるだろう。
レナータが涙を流していると長距離通信用のコムリンクが鳴った。
「レナータか?」
マスターの声だ!
レナータは涙を拭いて応答した。
「はい!こちらレナータ!」
「聞いての通りだ。戦争はほぼ終わった……泣いてるのか?」
「い、いえ!ね、寝起きなだけです!私が泣くわけないじゃないですか!」
レナータは必死に悟られまいと平静を装ったが、フォースで彼女の意思を読み取ったマスターにはお見通しだった。
「そうか。前も言ったと思うが、時間通りに起きろ。来週からまたジェダイに戻るんだ」
「はい!マスター!しっかり起きます!」
「いい返事だ。俺は……で……ている……おま……」
「マスター?!通信が!」
おかしい。ここはアウターリムではなく通信回線が張り巡らされたコア・ワールドだ。通信が途切れるわけがない。
「艦長!通信が!」
艦橋に入るとクローンや艦長たちがレナータを見た。
「オーダー66を実行せよ。オーダー66を実行せよ」
艦橋のホロプロジェクターに映し出された何者かがずっとそう言っている。
「誰なの?その人。それにオーダー66って……」
クローンオフィサーたちが腰のホルスターからブラスターピストルを抜いて彼女に向けた。
「よせ!撃つな!レナータ、どういうことなんだ!?ジェガンが反乱を起こしたと言うのは!」
「反乱?!そんなのウソよ!ねぇみんな信じて!私たちがそんなことするわけ無い!」
「お前達、銃を下せ!発砲禁止!持ち場に……」
ブラスターピストル特有の甲高い音が艦橋に響いた。
「え?」
艦長が突然倒れた。
背中から血と煙が出ている。
「シェイカー!なんで撃ったの!」
「優秀な兵士は命令に従う!違う!分からない!分からない!逃げろ逃げろ逃げろ!…………コマンダーレナータ、あなたを共和国に対する反乱の罪で処刑する。撃ち方始め!」
レナータは瞬時にライトセーバーを起動し、真っ直ぐに向かってくる光弾を光刃で弾き返した。
「くっ!」
なんで?!私たち何もしてない!
レナータは必死にブラスター弾を弾き返した。訓練でもこんなに多くのブラスター弾を弾き返したことはない。
「ご、ごめん!」
彼女は気持ちを切り替えて飛んでくるブラスター弾をクローン達に返した。瞬時にクローン達は斃れ、ブラスターの雨が止んだ。
「艦長!艦長!大丈夫?!」
レナータは倒れた艦長に駆け寄って肩を持ち上げた。
既に脈はなく、生気の無い目が虚空を見つめていた。
「なんで、なんで?」
レナータは涙を流しながら艦長の開いたままの瞳をそっと閉じた。
「うっ、うぅー」
斃れたクローン達の中から呻き声が聞こえた。
レナータは艦長をそっと置くと、ライトセーバーを持ってクローン達に近づいた。
まだ息があるのはシェイカーだった。
「シェイカー!どう言うことなの!?」
真っ赤に染まった制服を着たシェイカーに近づいた。
「ジェダイを殺せ……仕組まれてたんだ……殺す。殺す。消せ。消せ。優秀な兵士は命令な従う。優秀な兵士は……逃げろ。全員がそうだ。俺たちを信じるな。……生き延びろ、殺す。ジェダイを抹殺する!」
シェイカーはそう言うと近くに落ちていたブラスターライフルに手を伸ばして彼女に向けた。
彼女は彼が引き金を引く前にライトセーバーで首を切り落とした。