『なッ…なんなんだ貴様はァッ!!?』
「レレジギガガガガガガギガギガフンフンガガガガガッ!!」
そこは極彩色に彩られた世界。果てというものが認識できない、様々な色が入り乱れた空間。
“神域”と呼ばれる神の領域。
その“神域”は今現在、ある存在の手によって崩壊の危機を迎えていた。
『おのれおのれおのれおのれッ!!』
叫ぶは人型の光の集合体、実体を持たない“神域”の支配者。人々から神と崇拝されるエヒトルジュエ。
その上空には銀河の星々の様に煌めく光弾が展開され、凄まじい速度で絶え間なく射出される。
だがそんな高密度の光弾の連射は全て破壊光線が薙ぎ払い打ち消される。
その破壊光線を放ったのは真なる巨人、レジギガス。
かつてこの大陸を創造した古の神と呼ばれし存在。
これまでに人間を幾度となく救ってきた守護神。
この二柱の神の戦いにより、“神域”は死屍累々の惨状となっていた。
エヒトに続き、神の使徒と呼ばれる眷属が魔力を放ちながら飛び掛かるも、レジギガスが身動きするだけで叩き落され地に伏せることになる。
余りの使えなさにエヒトは舌打ちするも、神の使徒達を突撃させる無駄な行為を辞めない。それどころか更に数を増やしていく。
数にして数十万体はくだらない。
流石に煩わしく思ったのかレジギガスは神の使徒に対して拳を突き上げる。たったそれだけで凄まじい風圧が発生し、更にそこにレジギガスに宿るエネルギーが上乗せされる。
神の使徒は暴風に巻き込まれた者から次々と全身が砕かれ灰となっていく。
『使えん奴らめ…と言いたいところだが…今回ばかりは褒めてやろう…大義であった』
そのレジギガスの一瞬の隙をエヒトが逃すはずも無く、爆発的な魔力を放出する。
『“捕える悪夢の顕現”』
レジギガスの両腕が弾け飛ぶ。次いで両足、最後は爆発しレジギガスの核が破壊される。
という幻覚。
レジギガスはエヒトに手を伸ばす。
だがそれは未然にも防がれてしまった。
レジギガスの身体は動かない。
『何故、無駄にガラクタ共を貴様にけしかけたと思う?何故、幻覚を見せたと思う?』
エヒトの本来の目的は時間稼ぎであった。ほんの数瞬、それが勝敗を分けた。
レジギガスは理解する。これは解けない。人々の信仰により創造された封印魔法。
『貴様も神性を持つ神ならこの封印魔法を理解出来る筈だ。特に、人間の信仰心により創造されたその封印魔法は貴様に効くだろう』
レジギガスはこれまでも人間の為に、願いを聞き入れ動いていた。大陸を創り上げたのも人々が願い、それを叶えたからだ。
そして芽生えたレジギガスへ向けての信仰。それによりレジギガスは更なる神性を獲得し、今の膨大な力を手に入れた。だが、今はそれが仇となった。
その信仰が、悪神に向ける敵意へと変貌したのだ。
紛れもないエヒトの差し金である。
正面から戦えば勝ち目の無いレジギガスを、人々を誑かし悪神へと仕立て上げたのだ。
それは“神封じ”の概念魔法。
『眠れ、私がいない時代に崇められただけのデカブツ』
「工エエェェェェエエ工ッ 工エエェェェェエエ工ッノウォォォォォォォォォォォォォォォォ」
レジギガスの身体が沈んでいく。まるでそれは底無し沼のようだ。
次々と人々の願いから創造された鎖がレジギガスの身体に巻き付き、急速に力を吸い上げていく。
ガシッ!!
『なッ!?ガァァァァアアアッ!!!?』
封印されていくレジギガスに油断していたエヒトは、突如動き出したレジギガスに反応する事すら出来ずに掌に捕まってしまう。
そして大陸を引っ張ったと伝承されるその圧倒的な握力でエヒトを握り潰しに掛かった。
本来であればこんな力は出ない。封印されている最中の為、動く事すら儘ならないはずであった。
だがレジギガスは自身の莫大な魔力量と出力でそれをカバーしていた。
だがレジギガスも理解している。カバー出来ていても、力が無くなっていくことには変わりない。ここでエヒトを滅ぼしきれないことは把握していた。
レジギガスは握り潰したエヒトを遠くへと投げ捨てる。
そしてすぐさま崩壊寸前の“神域”とトータスへの境界をぶち破り、残った自身の力の地上へと送り込む。
そして最後に自身の核を次元跳躍させ、いずれエヒトを打ち破るであろう人物の元へも送り付けた。
きっと、いつか核を手に入れた者は、人を駒として扱い、世界を滅ぼさんとする邪神を討ち滅ぼすだろう。
核を失った本体は機能を停止させ、呆気なく封印魔法に取り込まれた。
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小学生。それが自身にとっての絶頂期であった。
少しばかり他の人より頑丈に産まれた俺は、周りの人達から持て囃された。
走る。歩く。殴る。握る。蹴る。
何をするにも高水準な結果を残し、スポーツにおいて右に出る者はいない天才少年としてニュースでも取り沙汰された。
俺は浮かれていた。軽く何かをするだけで称えられる。そんな環境で自尊心はメキメキと大きく成長していった。
だがそんな生活もすぐに終わりを告げた。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。2年間、君は眠っていた時間です」
学校からの下校中、ダンプカーが居眠り運転により暴走。時速100kmを超えた鉄の塊が、俺を弾き飛ばしたのだという。生きているのが奇跡だと医師は話していた。
だがその奇跡の代償は大きかった。
あの事故の後遺症は大きく、あれだけ自由に動かせていた身体が動かない。
大きく肥大化していた自尊心はポッキリと容易く折られてしまったのだ。
どれだけ動いても疲れなかったはずなのに、1歩足を踏み出すだけで汗が噴き出す。それ以前に立つだけで身体全体に激痛が走るし、なんなら座るだけでも辛い。
小学生で俺は絶望を味わった。
だが家族の助けもありリハビリを繰り返し、日常生活が送れる程度には回復する事が出来た。医師達は回復力に驚いていたとを覚えている。
当然全回復とは行かず、走る事さえ出来なくなってしまった。
が、それでも支えてくれる家族がいたから、俺はここまでやってこられた。
母さんと父さんが事故で亡くなった。俺を学校に送り届けた帰り道に信号無視の車と衝突し、運転席と助手席に座っていた2人はペシャンコになって絶命していたという。
2度目の絶望が俺を襲った。
呆然と2人の入った棺桶を眺めていた。
独りになった。身体が芯まで冷たくなっていくのを感じる。俺には何も無い。全てが失われていく。
身体の自由も、愛する家族を無くなった。
その日から俺は…生きる意味すらも失ってしまった。
もう思い出したくもない。
生きる意味を失った俺は日々を怠惰に過ごした。自暴自棄といってもいいだろう。
親戚がいない俺は施設に預けられることとなった。
当然最初は職員やら同じような境遇の子供達が話しかけてきたが、直に話しかけて来なくなった。
俺が拒絶したからだ。
時が経つに連れて身体だけはすくすくと大きくなる。
身長は180を超えたが、後遺症のせいで運動は出来ず、学校での体育の時間は全て見学していた。
重いものも女子に頼られても持てない。
そうして学校生活の中で付いた渾名は「ウドの大木」
いや、蔑称と言うべきか。
ウドの大木。それは大木であるにも関わらず、食用にも建築用の木材としても扱えない役立たず。
体ばかりが大きい役立たずな俺にピッタリの蔑称だ。
中学から高校に入っても変わらない。
適当に近くにあった高校に入学した為に、同じ中学の同級生は多く、直ぐに学年全体に俺の存在が知れ渡った。
何も出来ない役立たずにも関わらず、自分で言うのもあれだが顔だけは良い俺は女子から人気がある程度あるらしく、それに嫉妬した奴らから陰湿なイジメを受けることとなった。
物が盗まれたり、隠されたり、捨てられたり等様々だ。身体が貧弱であり、何かあれば大問題となるため、殴られる等という暴力は無かったが、教員も見て見ぬふりを続け、日に日に行為はエスカレートしていった。
そんなことも、どうでもいいかと全て無視した。物が無くなった盗まれた。どうでもいい。
金だけは皮肉にも大量に持っている。また買い直せばいい。絡む方が面倒だ。
そんな塩対応を続けていると、その年の後半頃には何も反応しない為つまらなくなったのか嫌がらせはほとんど無くなっていった。
2年生に上がると、更に面倒臭い奴と同じクラスになった。今までの奴らとは違うベクトルの面倒臭さである。
「どうして君は努力しないんだ?障害を言い訳にしているだけだろう?」
「ちょっとやめなさいよ光輝!」
天之河光輝。謎に正義感が強く思い込みが激しい面倒臭い男だ。やたらと俺に絡んでくる。何処かで会った気もするが覚えていない。
無視してもずっと絡んでくるのはやめて欲しいのだが、ずっと話しかけてくる。どうやら俺の全てがどうでもいいという態度が気に入らないらしいが、俺の知ったことではない。
それを止めるのは八重樫雫。容姿、スタイルは共に整っており、天之河の幼なじみだそうだ。いつも仲裁に入ってくる可哀想な奴。天之河の幼なじみなんて貧乏くじを引いてしまうなんて同情してしまう。
どうでもよくなった人生。では何故こうして怠惰にではあるが、こうして高校に通っているのか…
俺にも分からない。だが、そうしなければならないと、心の奥底で俺に訴え掛けている何かがいる。
生きる意味は既に失ってしまった。だが、この心の奥底に眠る何か。それを知ることに興味を抱いてしまった。
だから生きる意味はそれを理解すること。それさえ理解してしまえば後はどうでもいい。死んだって悲しむ存在はこの世に存在しないのだから。
普段と変わらない月曜日。
施設の人に送られ、登校した俺は自身の席に座って読書を始める。題名は「飛べなくなった鳥」という小説。元々は空を飛べた鳥が、突如飛べなくなった際の心情や、周りの反応が繊細に描かれている。
俺と同じだ。共感と共に、鳥を囲む暖かい家族の場面で、自身の両親を思い出し胸が痛くなる。
「また本を読んでるのか、そんな暇があったら勉強をすればいいじゃないか」
声をかけて来たのは天之河。というか、この教室で俺に話しかけて来るのは天之河とその取り巻きくらいだ。主に天之河以外は謝罪だが…
「前のテストも赤点ギリギリ、身体を動かす努力もしない、その癖に読書に耽るのはどうかと思うぞ…聞いてるのか?人と話す時は目を見て話す、常識だ」
そんな天之河の有難い説教耳から耳へと流して読書を続ける。
あーだこーだとその後も続けていたが、教室に戻った八重樫に引っ張られて自身の席に戻ってくれた。いつも助かっている。こんどジュースでも奢ってやろうか…辞めておこう。八重樫に関わるとどうせ面倒臭いことになるだろう。
チラリと時間ギリギリに登校してきた南雲ハジメを見る。見た目こそ平凡な少年だが、何故か白崎香織と言う八重樫に並ぶ絶大な人気を持った女子に好意を抱かれている。そのせいで周りからの圧が強く、檜山大介といったDQN達に絡まれるといった可哀想な奴だ。
まぁ授業中ずっと寝ているといっただらけきった態度の南雲も悪いが。そんなのだから天之河にも目を付けられる。これに関しては俺もそうなので強くは言えないが…
何でこんな奴を…という気持ちになるのもまぁ分からなくもない。
クラスメイト達が南雲に敵意を送る中、俺は小説に視線を移して読書を再開した。
昼休み。施設で作ってもらった弁当を広げて食べる。
白飯に梅干し。金平ごぼうに冷凍の唐揚げと卵焼きが入った簡素な弁当だ。
弁当を必要とする施設の子供の数を考えると、こうして昼食を作ってくれることは凄く有難いし、感謝せねばならない。
何やらまた南雲が敵意…いや、殺意…?を向けられていた。何かまた白崎関係でやらかされたんだろうなと思いながらも箸を進める。
そんな昼休みの教室。いつも通りの日々は突如、天之河を中心に現れた白く輝く魔法陣をきっかけに突如終わりを迎えた。
「皆!教室から出て!」
教室にいた教師の畑山愛子が声を荒げ叫ぶが間に合わない。徐々に輝きを増すその光は、教室を包み込んだ。
それによる何か。心の奥底に眠る何かが俺に訴えかける。こんなことは初めてだ。鼓動が跳ね上がる。
俺は…今から…何かをしなければならない。俺にしかできない使命がある。
使命を果たせ…そう何かが訴え掛けてくる。
目を開ければそこは見知らぬ場所。
一番初めに目に付いたのは何処か神々しい中性的な顔立ちをした人物な絵画だった。
何とも醜悪な笑みを浮かべており、それに不快感が増していく。
湧き出る感情に首を傾げながらも、醜悪な絵画から目を逸らし、周りを確認する。
自身以外にも教室にいた生徒たちが呆然と状況を受け入れられず突っ立っている。
そんな中、コツコツと足音が聞こえる。生徒たちは困惑し、悲鳴を上げる者もいる。顔を向ければそこに
は煌びやかな装飾を身につけた老人がそこにいた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。