ちょっとスランプ中なので倉庫に眠ってたものをホリホリしました。
イシュタルと名乗る老人に案内され訪れたのは10m以上はある長机がいくつもある大広間のような場所だ。
そこで語られるこの世界の実情。
1つ、この世界はトータスといい、人間族、魔人族、亜人族の3種族が存在している。
2つ、人間族と魔人族は昔から争っており、魔人族の魔物の使役により劣勢となった人間族を憂いて神、エヒトが俺達を助っ人として召喚した。
なんとも傍迷惑な話である。だがこの世界…何かある。俺が今まで生きてきた意味。俺の本能が騒いでいる。
空気が懐かしい。宙に漂う地球には無かった何かが懐かしい。こんな気持ちになるのは初めてだ。
そして何より…戦争…か。何故だか哀しい。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
どうやら色々と感傷に浸っている間に話がかなり進んでいたようだ。天之川を筆頭に次々と生徒たちが戦争への参加を表明していく。
ダメですよぉと涙目になっている畑山先生は蚊帳の外だ。
そしてイシュタルからの視線。たった1人、何も言わず座っている俺に声を掛けてきた。
「そちらの御方はどうなさいますのかな?」
「俺は…」
立ち上がる。俺は体が弱い。思い通りに動かない。リハビリをして尚、動かない。
だから普段から、立ち上がる時は全力で下半身に力を入れる。
瞬間、地面が、大地が眼前に迫った。
「ッ!!?」
いや、これは倒れている!?咄嗟に手が出る。身体を支えるために机へと差し出された手は、容易く机を突き破り、床に衝突する。
「大丈夫ですか!?」
畑山先生がドタンッと勢いよく体を地面に打ち付け俯く俺を心配して駆け寄る。先程まで泣きそうな顔で萎縮していた人とは同一人物とは思えない。
だが、心配してくれた先生には悪いが今はそれどころでは無い。
今度は細心の注意を払い、少しづつ力を入れて、ゆっくりと立ち上がる。
「どこか打ち付けませんでしたか!?痛いところは!?」
尚も心配してくる先生を手で制し、軽く、ほんの僅かな力を脚に込める。
跳躍。体がまるで羽毛のように軽い。
拳を突き出す。空を切り裂き乾いた音が鳴り響く。
最後にグーパーグーパーと拳を開閉し確信する。
「元に戻った…?」
周囲を見渡せば驚愕に目を見開く生徒たち。そうなって当たり前か。今まで後遺症によって全く動けなかった俺がまるで何事も無かったかのように動いているのだ。無理も無い。
後遺症に蝕まれた体が元に戻った。本来なら喜ぶべき事なのだろう。だが今の俺の中にある感情は…虚無感。
何故今更になって体が元に戻る?今戻ったところで何の役にも立たないというのに…
1人俯いていると天之河が声を張り上げる。
「皆!見ただろう!体の弱かった菅木ですらこんなに動けるようになったんだ!俺たちならきっとこの世界を救える!」
ワァ!と場が盛り上がる。
菅木、俺の名をダシに使いクラスメイト達を鼓舞する天之河。
まぁ別にどうでもいいか。
「菅木、君も力を貸してくれ!君がいれば魔人族なんて恐れるに足りない!」
なんてキラキラとした笑顔で手を差し伸べてくる。
なんだその俺への信頼は。俺は人の視線に機敏だ。怪我をしてから、色々な視線を向けられる機会が増えたからだ。嫉妬、嘲笑、同情、侮蔑、今も天之河の後ろからこちらに視線を送ってくる檜山辺りが例になるだろう。
だがこいつから感じるのは先程も述べた通り信頼。心から俺が頼りになるとでも言いたげな感情。
意味がわからない。
「どうでも…ッ!?」
いつも通り、どうでもいいと応えようとしたその瞬間、思考にノイズが走る。流し込まれる。思わず頭を抑え顔を顰める。
なんだこれは…俺はこんな記憶…知らない…!!
突如俺の脳内に溢れ出した存在しない記憶。
多くの悲しみを見た。
人が泣いている。
人が縋っている。
人が叫んでいる。
多くの悲しみを見た。
人が殺される。
人が弾け飛ぶ。
人が殺し合う。
多くの悲しみを見た。
人が喰らい合う。
人が排斥し合う。
人が傀儡となる。
願いを望む。
祈りを捧げる。
燃える金色の世界。燃え盛るは終末の炎。
人が死に、理がひび割れ、世界が崩壊する。
その崩壊する世界を天上では光が“神域”にて嗤う。
そして…
「おい、大丈夫か?」
その言葉でハッと、我に返る。俺は今、何を見ていた…?分からない…あれは…あれはなんだ?
あの下卑た嗤いを浮かべたあれは…
「はぁ、はぁ…」
荒れた呼吸をゆっくりと整える。
あぁそうだ、質問に応えなければならない。
もちろん俺は…
「俺は…この世界を救う」
「あぁ…あぁ!一緒に世界を救おう!」
まさか俺の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったらしく、ギョッとした目で俺を見る天之河を除いたクラスメイトたち。
自分でも困惑している。今までの俺ならば確実にこんな事は言わなかっただろう。口から勝手に零れ出た言葉は、それでも俺の本音で間違いなかった。
何故か…この世界が、人が、愛おしくて堪らない。
▽▽▽
その後俺たちはイシュタルに案内され、王との謁見、会食を済ませ、翌日には訓練方式を決めるために訓練場へと足を運んでいた。
そこで待っていたのは騎士団団長であるメルド・ロギンス。勇者とその同胞、その期待は大きいようでこの国最強の彼が俺たちの面倒を見てくれるらしい。
彼は銀色のプレートと針を全員に配り説明を始めた。
「よし、全員に配り終わったな?このプレートはステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるもだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルド団長。彼の性格は豪放磊落。これから一緒に戦う仲間にカタッ苦しくしてられるか!ということらしい。
そしてこのプレートは神代の頃に作られたという現代では再現不可能なアーティファクトと呼ばれる代物。魔法陣に血を足らせば自身のステータスを数値化し確認できる優れものだそうだ。
神代という言葉に少し気が引かれるも、気の所為かと言われた通りに躊躇無く針を指に刺し血を垂らす。
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天職 : 選民
筋力 : 160
体力 : 110
耐性 : 110
敏捷 : 100
魔力 : 80
魔耐 : 110
技能 :神核・
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ほぉ、と少しだけ感心してしまう。自身の能力値を数値化するとはまるでゲームのようだ。
レベルは100が上限であり成長限界となっており、天職は才能。その下は文字通りの意味で、技能は天職の才能と連動したスキルということだ。
気になるのは“神核”。これはなんだ?
いや、惚けるな、分かっているだろう。これは、これこそが俺が今まで生きてきた目的なのだと直感で理解する。何故かこの世界に湧いてしまった愛着、謎の記憶、全てが恐らくこの“神核”という技能によって生み出されたものだ。
これは俺に何をさせたい?何を為せばいい?心の奥底に眠る“神核”とやらに問い掛けるも当然の如く返事は無い。
「次、見せてもらえるか?」
どうやらステータスプレートをメルド団長が確認して回っているようだ。全員の天職を把握し、各々に合わせた訓練を組める様にとのことらしい。
ステータスプレートを手渡すと彼はおお!と感嘆の声を鳴らす。
「ステータスは魔力を覗いて勇者以上!天職の選民…神から選ばれし者、ということなら我らを覗いたここにいる全員が当てはまる訳だが…それに見た事も聞いた事も無い技能…!なおそれにして有り余るステータス!耐性も非常に素晴らしい、搦手が得意な敵に有利に戦えるだろう!」
ホクホクとした顔で素晴らしいと太鼓判を叩く。頑張ってくれよ!とバンバンと俺の背中を叩き、次の生徒、南雲の方へ向かっていく。
そんなメルド団長を見送り、ステータスプレートを凝視していた。
背後から困惑の声が上がり騒がしくなったが無視した。
「ねぇ、菅木くん。体は大丈夫なの?」
話し掛けてきたのは八重樫雫。天之河の幼なじみにしてお守役といった可哀想な役割の少女だ。なんやかんやで彼女にはよく助けられた。
「大丈夫だ、問題ない」
「そう…それなら良かったわ。ごめんなさい、いつも光輝が貴方に失礼な事を言ってしまって…」
八重樫が謝る事では無いと言うが止められなかった私にも責任はあると返される。なんて善良な人間なのだろうか。
「何かあったら力になるから」
そう言い残すと修羅と成った白崎を宥めるべく八重樫は駆け出した。
よく見れば南雲を囲み檜山筆頭にステータスプレートを取り上げ嫌がらせをしているのが目に入った。
大方、南雲の天職やらステータスが低いだのなんだので執拗に弄り、それが白崎の逆鱗に触れたのだろう。
異世界に来てまでそんなしょうもない事をするのかと呆れ返る。
仲裁に入った畑山先生が南雲にステータスを見せ、トドメを指していた。
先生もなかなかやるな。
・万属性
マルチタイプ
因みに嶺二くんは治ったわけではなく上がったステータスで事故デバフが帳消しにされている状態です。つまり小学生の頃とほぼ同じの能力値です。