乙女ゲー転生モノに出てくる性悪お花畑転生者女を曇らせてみたwww 作:見てアホ女がいるよ! かわいいね
明らかにざまぁされる女からしか供給できない栄養素はある
「グワーーーッ!!」
何が起きたのか、私は解らなかった。
ただ首に激しい衝撃と鋭い痛みがすべての思考を奪い、意識を埋没させたからだ。
「ハッハッハッ!! いやぁ、悪ぃ!! 殺し屋かと思っちまったよ!!」
そう言って備え付けの部屋の中で高らかに笑う大男。
私──フランカ・ウォルコットとゴリラのような脳筋バカ──ヘクター・アーレンの出会いはおおよそ最悪と呼ばれるものだった。
「かんっがえられないっ!!」
嘘でしょ、私の玉の輿計画、最初から破綻してるじゃないっ!
首から頬にかけて真っ青になった痣傷。このゴリラは年頃の娘の顔を何だとおもってるんだ。
「いやぁ、面目ねぇ。けどよぉ、殿下が話しかける前に来たらこっちだって実力行使するしかねぇよ。ほら、俺護衛役らしいし!」
貴族のマナーとして目下の者が目上の者に対して声をかける行為はマナーに欠けるらしい。
「巫山戯ないで、私の逆玉計画を頓挫させやがって!! 私を敵に回してただで済むとおもってるの!!」
「ハハハッ、おもしれー女」
「──っ、この!!」
随分と短絡的なことをしたと思う。私はこの男の単細胞ぶりに直接的な暴力行為に及ぼうとした。
ぶっちゃけ言えば、顔面殴ろうとした。
「おん…。甘ぇよ」
フワリと身体が宙を舞う。
気がつけば、私はベッドに押し倒され、首元に手をかけられていた。
「動いたら、声を上げたら、抵抗したら……俺はお前の首を締め上げる事ができる。ハッハッハッ、これが理解らせってやつかぁ……! ワクワクするな!!」
眼の前にいるやつはサイコだ。
眼の前にはとんでもないキチガイがいる。
「わ…私を殺すつもり……?」
「うーん、だってお前生かしてたら俺ただじゃすまねぇんだろ? 俺そういうの嫌なんだよなぁ」
「こ、言葉の綾よ……まさか本気にしたわけじゃ……っ!!」
首に力が篭められる。
「声、大きいな。もうちっと抑えてくんね? 俺馬鹿だからよく分かんねぇけどよ、お前が声上げたら面倒なことになるんだ」
金髪をツーブロックに刈り上げた短髪にガタイの良い身体、ゴツゴツとした掌に生殺与奪の権を握ってるとは思わない穏やかな笑みを浮かべる男。
「わかってくれるか?」
「……はぃ」
私がこの場を切り抜けるには男に従うしかなかった。
おしっこが漏れそうだった。
◆◇◆◇◆
異世界転生のスタートダッシュを失敗してしまった私は良い意味で慎重になったと言えるだろう。
「よぅ! 久しぶりだなぁ!!」
「なんで…?」
ウォルコット伯爵領でぐーたら過ごしてた私にゴリラの訪問が来た。
「なんでもよぉ、パーチーにはパートナーが居るらしくてよ。せっかくだからお前もこい」
「なんで…?」
話を聞くと貴族の社交界では年頃の男女は婚約者を連れ立っているのが普通であり、眼の前のゴリラは丁度いいパートナーとして私を選出したらしい。
「お前の言う玉虫の腰? ってやつにも最適だろ」
「玉の輿だバカ!! ってかそれって私とお前が好い仲に見られるやつでしょ!! 馬鹿じゃない!! って馬鹿でしょ!! この…馬鹿っ!!」
「ハハッ、おもしれー」
こいつおもしれーしか言えねーのかよ。つまんねーよ。
それから、この男との奇妙な関係が始まった。
周りからどう思われているかはわからないが、内実はゴリラと飼育員だ。
「フランカは変わったな」
不意に転生した先の親に言われた。
「は?」
「昔はあれはヤダ、これはヤダとすぐ投げ出していたが、今はそんなことは無いじゃないか」
「……そうかしら?」
「そうとも、マナーも家事も一通り出来るようになっている」
「それは…あのゴリラにバカにされたくないし……あれと同レベルになりたくないし……」
「アーレン卿とフランカを引き合わせたのは間違いではなかったな……」
「おいクソ親父、いまなんつった?」
話を聞くと、この毒親は私につけられた青痣の責任を取れとゴリラに社交場のパートナーにするように要請。また、いざというときは強制的に娶らせるようアーレン男爵家に圧力をかけていたと答えた。
「……なにそれ」
複雑な気持ちだった。私は弱みを握られて怯えていたのに中身の政治はこっちが圧倒的に有利なそれだった。
「ファンタジー世界はもっと甘くて優しいものだと思ってた」
「優しい世界? あったら良いなぁ、俺はそういうの好きだぜ!」
そういうことじゃねぇよ馬鹿。
私は嘆息しながら馬鹿を見る。
アーレン家は領地を持たない宮廷貴族で木端も木端の貧乏貴族だった。
あまりに権力がないから有能な傭兵を婿にして騎士団に多少なりとも影響力を持たせているが所詮は父親のワンマンの没落貴族でしかない。
そんな木端貴族のヘクターが王子の側近になっていた理由はたった一つ。生まれながらにして化け物レベルで強かったからだ。
「ドラゴン? ただの図体のデケェトカゲだ」
わずか八歳で友達が困ってるからと家の剣を持ち出してドラゴンを一人で討伐したらしい。頭がおかしい。
「吸血鬼? 人間が居なきゃ社会的生活を送れねぇ寄生生物だろ?」
「魔族? ただの羽の生えた俺達じゃねぇか」
あまりに強すぎて友達は一人も居なくなったらしい。そりゃそうだ。
王族の護衛も私をぶん殴ったことで白紙になったらしい。当たり前だ。
おまけに頭も弱い。天才の私を見習ってほしいくらいだ。
──だから、神様がいるとしたら。この結果はあんまりだ。
「戦争?」
「東から蛮族の軍勢が来ている。兵数は10万はくだらない」
乙女ゲーの世界か…これが?
ジャンルが戦記モノに早変わりしているんですが……ここはどこぞの炎の紋章の世界ですか?
私の転生した国は決して大国とは言い難い。
錯綜する情報、切り取られる辺土。追い詰められる王国。
「なんとかするしかねぇなぁ……」
君はそう言って、剣を握った。
「出来るはずがない」
「やってみなきゃわからんだろ」
「きっといっぱい死ぬ」
「当然だ、戦争だからな」
「お前には向いてない」
「わかってるさ」
「逃げれば良い」
「どこに?」
私はゴリラの頬を引っ叩いた。
「勝てるわけないでしょ!! すでに王国の軍は半壊して、第二王子の援軍か来るかどうかすら不明。国内はめちゃくちゃで王城だっていつ保つかわからない!!」
お前に勝てるわけがない。
たった一人で状況を好転させるほど大した人間なのか?
「泣くなよ、フランカ・ウォルコット。俺はその涙を止めに行くんだからな」
誰かの涙が嫌いと言って。馬鹿が一人死にに行った。
◆◇◆◇◆
──そして、奇跡を起こした。
王国は多くの犠牲を出しながら辛勝した。
国王の暗殺、聖女の献身による殉教、辺土に対する焦土戦術。
数々の問題を孕みながら、ヘクター・アーレンは生きて帰ってきた。
──辺境を焦土にした。その責任を取らされた罪人として。
「おかしくない? ねぇ、おかしいでしょこれ」
父は首を横に振った。
「戦争犯罪人、ヘクター・アーレンを死刑に処す」
判事のガベルが硬く響き、予定調和のように罪を断じられる。
気持ちが悪かった。
相手の補給路を叩き、敵兵を飢えさせたのは誰か──ヘクター・アーレンだ。
鉄条網と火薬を効率的に利用した新戦術で遊牧民を殺し尽くしたのは誰か──ヘクター・アーレンだ。
敵の総大将の首を打ち取ったのは誰か──ヘクター・アーレンだ。
勝利の決め手は第二王子が呼びかけた隣国の援軍によるものだが、遅滞戦術を尽くし、相手を懸命に追い詰め続けたのはあの男だったはずだ。
救国の英雄と呼ばれるに遜色なかったはずの男が、辺土の民の溜飲と地方領地貴族、そしてその武勇を恐れる一部の宮廷貴族のせいで追い詰められていた。
「──恥はないのか?」
「そんなモノ、犬にでも食わせてやれ」
ヘクター・アーレンの父親はそういった。
「誰もが求めている。この戦争の拳の降ろし所を。辺土の民の溜飲を下げるため、国内貴族の溜飲を下げるため。俺の息子は殺される。それだけの話だ」
「親でしょアンタ? 自分の息子が殺されかけてるのよ、どうして止めないの?」
「……? なにをいってるんだ? アレは俺の道具だ。俺のために使われて、俺のために消費される。子が親の足を引っ張るなど、あってはならんだろ?」
そういってアーレン男爵は裁判の場に戻り、息子の存在を否定する罵倒を自分の息子に浴びせ続けた。
「巫山戯るな!! アンタ、親でしょ!! 自分の子供を何だと思ってるのよ、アンタ人間じゃないッ!! 死ね、死んでしまえ!! このクソ野郎、死んでしまえーーっ!!!!」
貴族として、家門を守るために、子供だろうが切り捨てる。
それは正しい貴族なのだろう。
反吐が出るほど気持ちの悪い論理だった。
愚か者と蔑まれても、生まれてこなければよかったと言われても、石を投げられ、お前のせいだと民衆から唾棄され存在を否定されても。
ヘクター・アーレンは決して俯くことはなかった。
だから私は愚か者なのだろう。馬鹿な女で、感情的で、きっとただしくない。
それでも、頑張ったやつが報われないことが私は認められなかった。
「逃げるわよ、クソゴリラ」
鉄格子の向こう側から、私は手を差し伸べる。
これは私のエゴで、自分勝手で、我儘だから。
千の罵倒がこれから訪れるとしても、その先には破滅しかなかったとしても──動かずにはいられなかったから。
誰もがその手を振り払うなら、私が握ってやりたいと思ってしまったから。
「悪ぃな、俺はそっちにはいけねぇよ」
「五月蠅い」
帰ってきたのは、その手を振り払う言葉だった。
「アンタに同情したわけじゃない、アンタなんか、戦争で死んでてもよかった。そうよ、別にアンタなんて死んでも良かったのよ。──けど、アンタ生きてるじゃないっ!! 生きてるならなんで足掻かないのよ!!」
そんな言葉は私は求めてなんかいないんだ。
「おかしいでしょ、だってここファンタジーの世界なのよ。だったら、頑張ったやつが報われないなんて、おかしいじゃない。こんな異常なこと、認められないのよ!!」
幻想の世界が幻想を否定したら、それはもうただの糞だ。
世界がこの結末を肯定しようとも、決して私は認めない。
だから生きるべきなんだ。この男は生きているから、生きてほしいと思ったから。
「──善き人ってのはどういうやつかわかるか? フランカ」
「問答してる暇は──」
「強いだけの人間とか相手を打ち倒すのが得意な人間とか大したもんじゃねぇんだよ。馬鹿みてぇなもんだよ」
ヘクター・アーレンはこの地獄の底ともいえる場所で穏やかに笑う。
「本当に素晴らしい人間は、誰かの悲しみを笑顔に変える人間だ。俺はな、悲しみを終わらせに行くんだ」
その為なら、嘲笑され人生そのものを否定されても構わない。
永劫において救われぬ罪人として処刑され、躯を晒されても構わない。
「綺麗事じゃない──っ!!」
「そうさ、俺はそんな題目が大好きなんだ」
だから、君は泣かなくても良いんだと。ヘクターは優しく諭す。
「辺境の村を焼いた。畑を荒らして作物を奪い、金品を略奪し、井戸と河に毒を流した。動けない老人を介錯した。全部事実さ」
それでもお前は結果を出したじゃないか。お前は、私たちを救ってくれたじゃないか。
「トロッコ問題と同じだ。
そこに地位も、立場も環境も。一切考慮に入らない。
人間は理由を求める。困難な理由を苦しみの理由を敵は誰なのか、誰がこんなことをしたのかを。
「恨むなとは言わん。ただ分かって欲しいんだ。人間は弱っちぃもんだって」
誰かの悲しみの盾になれるなら、と。誰かの歩みの原動力になれるなら、と。その為ならヘクター・アーレンはその生涯を間違いでないと胸を張って死ぬのだ。
何かにすがらなきゃ人間は生きていけないから、一人では生きていけないなら、と。
欺瞞でしかない、眼の前のお前ほど強い人間はいない。
「それじゃあ、アンタはただの道化じゃない」
「良いじゃないか、誰かの笑顔の糧になれるなんて素敵だろ」
お前はそれで良いのかもしれない。
じゃあ、私のこの想いはどこに行く。
「幸せに生きろ、フランカ・ウォルコット」
お前はいつも明るかった。いつも笑ってて、馬鹿みたいな男で、実際馬鹿で……。陽だまりのような男だった。
──お前は主人公じゃないのか?
絞首台に吊るされた男ヘクター・アーレン。
名誉を奪われ、教会から破門され、刑に処され、焼かれ、灰を川に捨てられたことを私は知った。
血に飢えた民衆、その上で笑う貴族。蒙昧と傲慢と堕落。その極みがそこにあった。
──なにかをしようとしたが、結局私はなにも出来なかった。
「死んでせいせいするな」
「ああ、馬鹿な民衆の盾になってくれた。実に便利な道具だったよ」
そのように話しながら、戦勝の宴に参加する貴族が居た。
「我が息子ヘクターは王国の大罪人だっ! 多くの貴族の資産を辱め、奪った!!」
「戦争はただ勝てばいいというものではない!」
そんなお前らは、戦争で何をしたんだ?
「家を焼きやがって許せねぇ!!」
「俺たちの村を無茶苦茶にしやがって」
死ねよ。
生かしてもらったことに文句言うなら街灯にでも吊らされておけよ。
「聖女様は素晴らしい方で……」
「対してあの山賊将軍は……」
誰かを持ち上げるのに、誰かを貶すなよ。
「──ぶち殺すぞ、豚どもが……」
その日から、私の世界から人間が消えた。
私は今までおかしかったのだろう。この世界に生きる奴らと同じ種に生まれたから勘違いをしていたのだ。
この世界に、人間は居ない。いるのは醜悪で堕落しきった豚だ。豚に人間のような価値はない。
豚に人権はない。
人を人たらしめるのは輝かしいばかりの魂であり、強く美しき意志である。
正しい道徳心と正しい知識、そしてそこから齎される人類にとって善きとされる成果。それに対する正しい報酬こそが、世界を正しく導ける。
──学び舎がいる。
正しい知識と正しい道徳心を学ぶための学舎が。
真っ当なものが真っ当とされ、善人に善果を翻し、悪人には罪と罰を与えられる。
そんな当然の当たり前を理解するところから始めなければならない。
「フランカ・ウォルコット。君の提言は正しい」
兄である先王を亡くし、急遽王として即位した新王は私を肯定した。
「画一された教育と、道徳という名の洗脳。これからの国家において間違いなく必要であると言わざるを得ない」
喚く豚の声を聞きながら、私はこうして王立学園の校長へと登り詰めた。
「──おはよう、豚ども」
アレから十年。校舎に併設された大講堂の壇上にて私は立っている。
眼下に観ゆるのは未だ幼い豚の子供。彼らのうち何人が人間になれるのか。
私は未だに豚から人間になったやつを知らない。
それでもやらねばならぬのだ。
この狂った世界を正したいから。
今度こそ、否定されてなるものか。
今度こそ、君を救うために──。