乙女ゲー転生モノに出てくる性悪お花畑転生者女を曇らせてみたwww   作:見てアホ女がいるよ! かわいいね

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王都のゆかいな仲間たち

「おはよー!! 起きてー!! カンカンカンカン!! カンカンカンカンカン!! 朝だよ!! 外明るい!! ねえねえ!! 見て見て!! すごい!! 外!! 明るい!!!! カンカンカンカンカンカンカンカン!! カンカンカンカン!! 起きてー!! カンカンカン!!」

 

 宮廷侍女の朝は早い。

 日が昇りはじめ、凍てついた風が吹く早朝に目覚める。

 

「うるっさいわねーーっ!! んなに鍋ガンガン叩かなくても起きるわよっ!!」

 

 鍋底をお玉で叩く甲高い金属音を鳴らしながら、私は同室のメスゴリラを叩き起こす。

 

「人の嫌がることを進んでやる。私の好きな言葉です」

 

 そう答えたら急に頬を叩かれた。

 

「なんで…?」

「そういう目をしてた」

 

 どういう目だよ、全然わかんないよ! 何がQだよ!!

 そんなことを思ったら逆の頬に手の甲のビンタを食らわされた。

 

 二度目のビンタはせつない。それを理解した朝だった……。

 

「助けて姫様! 私ゴリラの兄妹に理解(わか)らされてるの!!」

 

 サンドラ・アーレン(メスゴリラ)による理解(わか)らせに対し、私は涙ながらに上司である姫様に凸する。

 

「???」

 

 姫様は私に何も言ってはくれない……、教えてくれ、五飛! 私はあと何回理解(わか)らせられれば良いっ!!

 

「姫殿下に声をかけられるまで声をかけてはならないと教えませんでしたか?」

「私の未元物質(チートスキル)に常識は通用しねえ」

 

 肩をそっと叩かれ、私がそう反論するとクソフィアは鳩尾に一発大きいのを入れてきた。

 ひぎぃ、そんなの入らないよぉ…!!

 

「ちーと?」

「フランカの世迷い言です。真に受けてはいけませんよ」

「酷くない?」

 

 人を電波女みたいに扱うなんてどうかしてるんじゃないかしら? お前たちの異世界って醜くないか?

 

「パワハラとロジハラが蔓延する職場……労基は何処へ!!」

「ろーき?」

 

 ライフ・ワーク・バランスという概念すらない中世世界。当然ブラックであることが前提の業務。地縁血縁でゴリゴリに縛られた人脈とコネが蔓延する職場、それが貴族である。クソわよ。

 

「令嬢は使用人を鼻で扱う立場じゃないんですか?」

「使用人を扱う立場だからこそ、宮廷侍女として働いた経験は利益になるわ。現場に対する理解は経験しなきゃわからないでしょ?」

 

 それは、そうなんですが……。これを発言してるのが10歳の少女ってマ? 猿の惑星かよここは。

 

「貴女は伯爵令嬢でしょう? 将来婿を取りウォルコット家の内々を采配しなければならない立場です。良き妻であること、良き母であること、そして良き女主人であることを両立することこそ貴女に課せられた義務なのです」

「ぐーたらして過ごしたいです」

「そんなものはありません」

 

 正論は時として人を傷つける!!

 こんなとき逃げればいいという人間が居るが、私は生活レベルを下げたくないので平民に落ちるとか頭お花畑としか思えないので却下です。私はサバサバ系女子よ!!

 

「貴女はそれができるのです……やれることをやれないわけではないのでしょう?」

 

 何時になくクソフィアは真剣な視線をこちらに向けている。

 その奥には確かな期待と僅かな妬心があった。

 

「仕事は真面目にしたらどうなの? 王族の方の覚えもそっちのほうが良くなるでしょ」

「何してるの猿、早く仕事をするわよ!」

「今私のこと猿っていった?」

 

 ゴリラの妹なんて猿やんけ、なにイライラしてるねん。カルシウム足りてへんのちゃうか?

 私の発言に苛つくゴリラの妹(サンドラ)を尻目に私は粛々と日常業務を進めていくのだった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 王族付きの侍女となると当然のことだがやんごとなき立場の人との接触も多くなる。

 

「ホッホッホ、相変わらず愛らしいですなぁレア姫」

「ぶーちゃん!!」

 

 王宮の回廊にて今まさにすれ違おうとした男の姿があった。

 樽のような大きく突き出た腹に脂肪を蓄えた二重あご。プラチナブロンドの柔らかそうな髪に、少し垂れた瞳。

 彼は種付けおじさん──ではなく、れっきとした王族の一人でありスティルウェル公爵の猶子であり次期スティルウェル公爵と目されるパーシヴァル・スティルウェルその人だった。

 

「何処行ってたの?」

「そうさなぁ、南の連合に足を運んできたぞ。いやはや、中々に実りある挨拶回りであったな」

 

 東に遊牧国家(ウルス)、西に帝国という強大な隣国に囲まれている王国であるが、さらに南部においては小規模な都市国家による共同体である連合国と領地を接している。

 

「パラディアやアテナイ、ヴェリノ。特にヴェリノの港湾には圧倒された。ゴールドスタイン公爵領のハルヴァトスより広大な港町があるとは思わなんだ」

 

 南洋に位置する大陸最大の大港ヴェリノ。小国家都市群とも言える連合国は活発な経済と流通による一大商業国家ともいえる国である。

 政治体系は封建制とは似て非なる州郡制と呼ばれる各州、各都市に太守と州知事を置き、緩やかな組紐である連合国憲章に参加した各州の連合体である。

 ぶっちゃけアメリカ合衆国みたいなもんである。

 各州や都市国家帯の自治権が強く国法よりも自治法が優先させられる。だからこそ、民衆が政権を取る都市があればそのすぐ隣ではガッチガチの血縁主義や一党独裁体制が敷かれてることが多々ある。

 

 異世界ファンタジーのくせに政治制度ガチガチすぎて笑っちゃうんですよね。

 ゴブリンとか害獣すぎて滅んだらしいしそのせいで食物連鎖の下にいる下級の魔物がほとんどいないせいで人間に被害が来るのは本末転倒な気がするが、ゴリラの所属する外征部隊が大型魔物の討伐で食ってるのでそれはそれで需要があるみたいである。

 

 ファンタジーの世界か、これが…?

 

 どう考えても人間が強すぎるのよね。

 統一王朝時代にドワーフとかエルフとか迫害して滅ぼしたり、大規模な竜種の討伐とかもあって竜災被害とかも10年に一回あるかないか程度らしい。

 

 なので人間の仮想敵はもっぱら人間なのである。

 

「物があり、金が流れ、豊かである。血や土地を求めて争うのではなく、金とものが流れる経済というもので争う世界だ。私では理解できない世界だよ」

 

 パーシヴァルは嘆息する。

 西方大陸随一の経済大国であり、お金持ち国。それが連合である。武力で他国を圧倒する遊牧国家(ウルス)や広大な領地を持つ帝国と違い商業の力によって一等国の地位を獲得した連合はひと目見ただけではその危険性を理解することは中々に難しい。

 

 中世世界における商業とは安定とは無縁である。

 土地やそこから上がる収益を元にする農本主義に比べ、商業は競争社会であり、貨幣に依存する。

 現代日本のように紙幣など流通せず、貨幣の価値とはそこに含まれる希少金属が担保となる。つまり国が貨幣の価値を保証するものではないのだ。

 

 つまり、いくら国が通貨の価値を保証しようとも通貨によっては国が滅んだ時──あるいは国が傾いたときにその通貨は鉄くずに変わりかねないリスクがある。

 その時々の情勢によって通貨の価値が変化し、物の価値も変動し、目まぐるしく変化する需要と供給を見極める知恵と度胸。

 それが無ければ商人は商人たり得ない。過酷な世界である。

 

 そんな世界のことを、身分や土地で守られた支配階級の人間からしたら安定とは無縁の水商売の世界にしか見えないだろう。

 

 基本的に貴族や領主というものは戦う者であり、商人は儲ける者だ。

 パーシヴァル・スティルウェルは王家の者でありその名代として他国に対する外交能力とその見識を備えているが商売の専門家ではない。

 リスクを犯して勝負をかける者ではなく、財産を守り外敵を打ち払う者なのだ。

 

 これはもうお国柄仕方ないことである。

 培ってきた常識が根本から違うのだから。

 この国出身の貴族で連合国の商人上がりの政治家と対等に経済について渡り合える者がいるなら、そいつは異常者である。たぶん頭の作りからして違う。

 

「おおう!! 其処に居られるのは姫殿下とスティルウェル公子ではないかっ!!」

 

 一歩間違えれば無礼者──実際に無礼者であるが、遠方より大声を出して大股でこちらに近づくこれまた大柄な大男。

 逆立った直毛気味の短髪に筋肉質な肉体。その身に羽織るのは宮廷魔術師を意味する濃紺のローブであり、肩にはその筆頭宮廷魔術師を意味する金の徽章を纏う。

 

「ガーッハッハッハッハッ!! お帰りになられたのですなあ!! いやあ何よりですぞ!!」

 

 豪放磊落。おおよそ普通の人間がイメージする宮廷魔術師というイメージからかけ離れた男。それがリュフト王国筆頭宮廷魔術師アイザック・タフトであった。

 

「無礼ですぞ、筆頭魔術師殿」

 

 そんな大柄の筆頭宮廷魔術師の陰に隠れる様に、冷たく水を打ったかのような慇懃そうな声が響く。

 筋肉質で大柄な筆頭宮廷魔術師に対して蝋燭のような細身の男が陰気そうな面構えで顔を出す。

 

「おおう! アップルトンじゃねぇか!! ガハハハハハ!! (あいっ)変わらず(ほっせ)ぇなぁ!! ちゃんと飯くってんのかあ!?」

「大きなお世話というものです」

 

 バシバシとタフトの手が陰気そうな男──近衛騎士団長レスター・アップルトンの背を乱雑に叩き始める。

 一拍する事にアップルトン近衛騎士団長の身体が大きく揺られ、今にも折れてしまいそうな姿を幻視する。

 

 体育会系で陽キャ気質なタフト筆頭宮廷魔術師と細身で理性的な陰キャ気質なアップルトン近衛騎士団長。

 

 会うたびに常々思うが、性格と立場は普通逆ではないかと思わざるを得ない王国の高官二人である。

 当然行動するときは独りではなく、副官のように侍る部下が付き添っている。

 

「ぅゅ……」

 

 大柄な体躯に沿った強面の筆頭王宮魔術師と蛇を思わせる鋭い目と幽鬼のような雰囲気を漂わせる近衛騎士団長。

 まだ幼いレアから見ればその印象は怖いの一言になるだろう。現に怯えた声をしながら私のスカートの後ろに身体を隠してきた。

 くそっ、萌えの波動を感じるっ!!

 

「くっ、勝手に人の身体を叩かないで戴きたい」

「あぁ? 簡単なスキンシップじゃねぇかよお!! 減るもんでもねぇだろ?」

 

 アレが許されるのなら、私がやる無礼って可愛いものじゃないですか?

 そう思わざるを得ないほどアイザック・タフトの姿は中世世界においては常識はずれのそれであり地雷原を構わずまっすぐ走り抜けるような異質さが垣間見える。

 なんだろう、ゴリラがまだお利口に見えてくるのは……不思議ね。

 

「卿は筆頭宮廷魔術師ですよ……そんな姿で部下に恥ずかしいとは思わないのですか?」

「なぁに、おれの部下は優秀揃いだからな。おれの仕事は筆頭としてどっしり構えてりゃいい!!」

 

 アイザック・タフトは不遜に嗤う。

 宮廷魔術師は宮廷内に勤め、日夜魔術研究に勤しむ職務であることは事実であり。

 その他王国で行われる魔術的儀式や魔術的インフラや防護の管理や整備に携わっている。

 

 だが、最も期待されているのはそこではない。

 

「王国最後の砦はおれらだ、安心しろ……王国最強は軽くはねぇよ!」

 

 筆頭宮廷魔術師に必要なのは強さである。

 

 考えてみてほしい。

 目に見えるすべてを火の海に変える存在が弱いだろうか?

 高速で移動し、空を自在に飛び回る存在が弱いだろうか?

 地面を自在に操り思うがままに地形を弄くり回す存在が弱いだろうか?

 触れただけで容易に人を即死させられる人間が、超遠距離から人の頭を水風船のように弾けさせることができる人間が、精神を操り尊厳を嬲る人間が……。

 

 魔術師とはそれを容易に行える人間兵器と呼称すべき存在なのである。

 

 宮廷魔術師とは魔術的知識や能力に加え、飛び抜けた戦闘力を有する存在である。

 

 故にリュフト王国筆頭宮廷魔術師とはそれらの宮廷魔術師を統べる存在。即ち王国最強であることと同義なのである。

 

 つまりコイツもゴリラ族なんだよなぁ……。

 

 戦士型ゴリラがヘクター・アーレンなら、汎用性ゴリラがアイザック・タフトである。

 

「ホッホッホ、頼もしいが私を無視して会話を進められてもなぁ」

「おっと、すまねぇなぁ公子!! いや、無視したわけじゃあねぇんだ!! すまんっ!! この通り!!」

 

 そういってタフトは頭を下げるが、言動の軽さが普通の立場ある人間ならキレられても仕方ないものであると触れておく。

 当然隣りにいるアップルトン近衛騎士団長はあからさまに顔を顰めて頭の痛そうな顔をする。

 

「まあ、いいとするか」

 

 パーシヴァルも何処となく呆れ気味ではあったものの、謝意は伝わるそれに対して寛大に許す。

 宮廷魔術師は王都における最後の防壁であると同時に王都、ないし王族を守る最高戦力である。

 そんな存在を敵に回しても得などないのだ。

 

 それにアイザック・タフトにはなんだかんだ最終的には許してしまうそんな不思議な魅力があった。

 豪放磊落なおおらかな性格に、裏表のない素直な性格とよく響く声。持ち前の武勇を背景にしたマッチョイズムというそれはある種のカリスマ性という魅力になる。

 

「それで、いつまでこの無駄話を続けるので?」

 

 湖畔に波紋が打つようなハッとさせられる氷のような冷たい言葉が周囲を刺す。

 

「無駄話ってよお、おまえ……」

「我々は王太子殿下より呼ばれているのです。この国の正統なる血統をもつ王太子殿下にです。陛下が病で倒れている中、それよりも優先すべきことはありますか?」

 

 アイザック・タフトが体育会系の気のいいあんちゃんなら、レスター・アップルトンは孤高と言える。

 決して人に好かれるようなタイプではないし、人の輪に混ざるタイプとも違う。理知的で理性的。理屈っぽくその言葉からは百の正論と千の道理を吐く。

 

 細く、蝋燭のような見目であり殴れば倒れてしまいそうな痩身だが、そこに存在するだけで部屋の温度を数℃下げるかのような男である。引き締め役としては冷徹すぎて部下を萎縮させるような男。あへあへロジハラおぢさんである。

 

「王太子殿下はご多忙な方です。我々臣下が王太子殿下のために時間を使うことがあれど、その逆はありえません。違いますか?」

「……おれ、お前のそういうところ嫌いだ!!」

「然様ですか、それではお好きに」

 

 王国の魔法技術の担い手であり、最後の暴力機構である筆頭宮廷魔術師に対し、近衛騎士団長は単なる王族直下の護衛騎士ではない。

 

 近衛騎士に必要な資質は貴族としての血統、王家に対する忠誠心、献身性、王族の品位を下げないための知性と教養。

 王族の側に侍り、その側近として仕える。王家を裏切らず、王家のために生きる。

 

 それが近衛騎士の元々の機能である。

 しかし、現在の近衛騎士団の性質はそういった建国期のそれとは変化している。

 

 その一つとして平和な時代が長引いたことが挙げられるだろう。

 

 近衛騎士団は少数精鋭、貴族の子弟、一定以上の知性と教養が求められる。

 そういった存在が国王の側近として昼夜侍るとどういう事が起きるか。──国王に対する政治的なブレインとなり得るのだ。

 

 近衛騎士団長レスター・アップルトンは武力やカリスマと言った軍事的素養ではなく、知性と陰謀という政争を勝ち抜いた政治家であることが本質である。

 

 豪放磊落で武断的な気質の筆頭宮廷魔術師。

 保守的で文治的な気質の近衛騎士団長。

 

 二人は政敵である。

 

 二人の性質はそのまま部下の性質にもなる。

 イケイケで楽観的な宮廷魔術師に悲観的で保守的な近衛騎士。

 

 実力主義的で魔法の才がそのまま地位に直結する宮廷魔術師と血統が第一であり貴族としての立場と陰湿な蹴落とし合いで暗闘する近衛騎士。

 

 ……なんで私がモブキャラみてぇな説明キャラポジになってんだ?

 

「近衛騎士団長の言に理はあるな」

 

 二人の言い争いに、辟易しながらパーシヴァル・スティルウェルはそう溢す。

 

「公子、おれも理はあるってのはわかるがよお! 言い方ってもんがあるだろ!!」

「公子、に対してあるだろ。というものにも言い方というものがあるでしょう?」

「こういうやつだぞ!! 上げ足取りじゃねぇか!!」

「──時間は有限だ。王太子殿下を待たせるのは忍びないと言ったのは誰であったかな」

 

 パーシヴァルは大きな腹を揺らしながらアップルトンに視線を移す。

 アップルトンは道理のわかる男である。その発言だけで彼の言葉を封じ込めた。

 

「筆頭宮廷魔術師、物事には優先事項がある。君が優先すべきは何かな?」

「……王太子殿下との会議だな」

「わかっているならば良いだろう」

 

 パーシヴァル・スティルウェルは決して才気煥発といったタイプではない。だが、それが平凡であるということとイコールではない。

 研究者気質で秀才肌。なにより次期スティルウェル公爵という立場は政治的な扱いとしてはかなり複雑でもある。

 王族であり、王位継承権を保持しながらも、直系王族を立てる。それができなければスティルウェルたる名蹟は継げない。

 

 自身の立場と地位を十全に活かす。これができる存在がパーシヴァル・スティルウェルという男であった。

 

 もっともその分、クセの強い近衛騎士団長や筆頭宮廷魔術師の相手をしなければならないので気苦労も絶えない。

 

「おとーさま、おしごと?」

 

 小動物的な可愛らしさで首をコテンと傾げるレア姫。この小娘拐おうかな? と一瞬思った私だったが、そうなると貴公の首は吊るされるのがお似合いだっ! になるので考えるのをやめた。

 

「王太子殿下はご多忙です。もっともそれを支え、殿下の負担を軽くするのが我々の勤めです姫殿下」

「王太子殿下は、会議ばかりだからなぁ……。ああ、いやいや!! 大事(でぇじ)なことだってことはわかってるぞ!!」

 

 巨大狒狒と餓狼が発言するたびに私のスカートに隠れるんだが?

 なんじゃあ…この可愛い生き物は……?

 胸の奥から感じるこのもぞもぞとした気持ち。

 ……なんだ…これは……? この心は……いったい……。

 

「わ、わたしも……」

「──ああ、そりゃ駄目だ」

 

 アイザック・タフトは即答した。

 

「レア姫、国策と機密に関わることなのだ。残念だが、君がこの秘事に関与することはない。あったとしても、それはこの国が危機に瀕していることと同義だ。私はそんなことはしたくないし、そうさせない」

 

 パーシヴァルは口ひげを撫でながら穏やかな声色でレア姫を諌める。

 

 彼らが様々な問題を孕みながらも国政の中心として重用されるのはこういった一線を超えないバランス感覚を持つが故である。

 いかに失礼なゴリラ族や劇薬になりかねない傍流王族だろうときっちりと筋は通す。だからこそ王太子の側近としての地位を確立したのである。

 

「せんせぇ……」

 

 レア姫は潤んだ瞳を私に向けてくる。

 えっ、この状態で私になんとかしろってことですか!?

 キラーパスやめてくんね!?

 

「姫殿下…無茶を言うものではありませんよ」

 

 保守的であること、それすなわち常識的であり物事の道理をよく理解していることと同義である。

 近衛騎士団長レスター・アップルトンは正論吐きの皮肉屋だが、常識が通じる場面においては頼れる男ではある。

 

(まつりごと)は男の職務であり、女性が口を挟むものではありません。殿下にとって、またそこの侍女にとっても無駄以外の何者ではありません。ええ、そこの見るからに頭の悪そうで(・・・・・・)理解力も乏しく(・・・・・・・)知性など感じない(・・・・・・・・)蒙昧な侍女(・・・・・)に我々の話など理解出来ようもありません」

 

 なんだァ……テメェ? 死にたいらしいな?

 

「できらぁ!!」

「ほぅ……?」

 

 政の話ぐらいできるって言ったんだよ!!

 私が吼えると、アップルトン近衛騎士団長は見るからに蔑みの視線を送り、パーシヴァル公子は眉をひそめ、アイザック・タフトは面白そうな視線をおくり、レア姫は目を輝かせる。

 

 お言葉ですが、あなたのロジハラに負けるなどありませんよ。なんJで鍛えられたレスバ力を見せつけてあげますわよ。

 

「吠えたな女、死にたいらしいな?」

「ちょっとまって頂戴、ここはレスバで戦うのではなくて? 剣を抜くのはルールで禁止よね?」

 

 アップルトン近衛騎士団長はノータイムで剣に手をかける、判断が早い。

 

「あ、もしかして口じゃ勝てないから剣を抜くのかしら? 暴力でしか訴えられないなんて実に野蛮で居られるのね?」

「遺言はそれだけか、安心して逝け」

「待て待て待て待て!!」

 

 鋼の意思かな?

 いいんですか? 主人公に剣を向けるなんて……人気投票で最下位になっても構わないと言うんですか!?

 

「今の貴方は王女付の侍女を一方的に殺そうとしているんですが? いいんですか? 私に斬りかかった時、謝るのはあなたですよ!!」

「私が君を殺すのに必要な大義名分を捏造できないと思っているのなら随分と幸せな頭をしていると見える。安心して死ぬといい」

「う あ あ あ あ あ あ あ あ ! !」

 

 私は鼻水を垂らし、身体を震わせながら涙を浮かべる。

 とてもつらい。こんなか弱い美少女を暴力でしかわからせられることができないなんて、君は大層低能で野蛮な人間なんだなぁと思った。

 

「クフフフフ、随分と面白い催しをしているなぁ」

 

 落ち着いた低く耳通りの良い艷やかな美声がアップルトンの剣を止めた。

 

「面白い、続けてみるといい」

「ドゥエイン・アーレン……」

 

 濃いブランドの髪に野性味を感じさせる整った顔立ち。透き通るような碧眼はまるで宝石のよう。

 王都駐留軍司令ドゥエイン・アーレン。王都における最大の兵力を抱える王都行政庁お抱えの高級軍人、ゴリラパパである。

 

「いや、面白いじゃないよ! 止めるべきだよアーレン!!」

「何故? このような面白い催し、止めるほうが勿体ないだろう。フレッチャー長官」

 

 ドゥエイン・アーレンに存在を圧されながら、頻りに胃のあたりを擦る壮年の男。彼こそ新たなる魔剣の担い手と称される王都行政長官サディアス・フレッチャー子爵である。

 滲み出る苦労人オーラとでも言うか、こめかみのあたりの毛は白く染まりその姿は随分と老けて見えた。

 

「そこの女は殺せない。恥をかくのはアップルトンだ。これを面白いと言わずしてなんという?」

 

 口角を吊り上げ、口で笑みを浮かべながら目はまるで笑っていない。ドゥエイン・アーレンはオリジナル笑顔の名手だった。

 

「──私が恥をかく、と?」

「剣を抜いたにも関わらず、女一人殺せないようでは騎士として名折れだろう。武官としては致命的だ、違うか?」

 

 蛇のような眼光と獅子のような威風が互いにぶつかり合う。スリザリンとグリフィンドールかな?

 

「殺せるならいい、始末できるならな。できなければ失脚するまでだろう。クフフフフ、俺に感謝するといい。今剣を、収めるなら貸一つだ」

 

 お前その笑い方なんなんだよ、腐女子人気でも狙ってんのか?

 

「卿に受けた貸しなど一つとしてありませんが? 業突張りな浅ましさもそこまで来るともはや滑稽ですね」

「ならば、フランカ・ウォルコットを殺してみるといい。あの女は存外にしぶといぞ」

「人をゴキブリ扱いするのやめてくれない?」

 

 焚き付けてるのかそれとも止めてるのか、もうこれわかんねぇな……。

 

「ハッハッハッ、なんだこれ訳分かんねぇ!」

 

 一触即発といった空気をぶち壊す脳天気な声が響く。

 

「コーウェン……」

「アップルトン団長、(それがし)は政は苦手ですがここまで状況がややこしいとなると面倒事は避けられんのでは? 引いて寛大なところをみせましょうよ」

 

 小柄な体躯に見合わぬ大声を響かせるその青年は近衛騎兵随一の馬の使い手と称されるスタンリー・コーウェンその人であった。

 アップルトンはため息を付き、鞘から手を離す。蛇のような眼光が私の姿を捉え不機嫌そうに口を開く。

 

「時間が押しているのは事実だ。命拾いしたな小娘」

「つまらん、抜けばよかろうに」

 

 だからお前どっち派なんだよ!! ゴリラがおもしれーおもしれー言うのはこの父親の血かなんかなの?

 

「ふんっ、血統も定かでない山猿が……」

「おや、猿ごときに言いくるめられる自称人間がおられるようだ。いったい何処におられるのでしょうなぁ?」

 

 あ、こいつレスバ強いわ。皮肉の利かせ方と厚顔無恥さが合わさって最強に見える。性格わっる……!

 

「アーレンッ!!」

「そういきり立つものでも無かろう、フレッチャー長官。息子が仲良くしてる娘でな、親心と言うものよ」

 

 う、胡散くせぇ……。取って付けたような言い訳を顔色変えずに言うドゥエイン・アーレンにフレッチャー子爵は歪んだ顔を更に歪ませ、頻りに胃のあたりを圧迫させる様に握る。

 なんか可哀想な地位に居るやつ。フレッチャー子爵はちいかわだった……?

 

「面は良いな」

 

 ドゥエイン・アーレン(ゴリラパパ)は整った顔立ちで冷笑を浮かべながら私の顎に触れようとする。うわっ、キッモ。

 

「クフフフフ、なる程。アレが選ぶのも理解できる」

 

 つい、ドゥエイン・アーレンのその手を弾いてしまった。

 すいません、顔が良くてクール系でちょっとS目なイケメンとかいうドストライクなんですけど、有り余る気持ち悪さで触れてほしくないんです。

 端的に換言すると……生理的に無理。

 

「腹としての価値はありそうだ。……俺の道具(むすこ)に与える飴としても良い。だがまあ、気位が高いのは難点だな」

「くっさ、加齢臭酷いスね。おっさん気持ち悪いんで帰ってもらっていいスか?」

 

 あなたとまともに喋るつもりはありません。こいつとレスバしてもろくな事にはならん。時間の無駄遣いだと考えられる。

 端的に換言すると……こいつ嫌い。生理的に無理。こんな恥知らずな生き物とか関わり合いになりたくないのよね。

 

 視界の外で何故かわからんがアイザック・タフトが吹き出しながら、口元を抑えて笑いを堪えている。

 

「性格も悪い、恥知らずでありながらプライドも高い。嫌な女だな」

「あなたも顔だけはいいですね。顔だけは」

「理解力と把握力も高い。観察眼もまあ並以上はあるか。だが脇が甘いな、付け入る隙がある。……楽観にすぎる」

 

 多分、私とドゥエイン・アーレンは同じものを抱えていた。この異世界に生きてきて貴族社会という世界に生きて初めて感じる感情。明らかな異物を目の当たりにした不快感。

 

「「嫌いなタイプだ」」

 

 こいつとまったくの同じ結論に辿り着くの嫌なんだが?




顔が良くて性格の悪い女フランカ・ウォルコット
顔が良くて性格の悪い男ドゥエイン・アーレン
人はそれを同族嫌悪と言う。
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