乙女ゲー転生モノに出てくる性悪お花畑転生者女を曇らせてみたwww 作:見てアホ女がいるよ! かわいいね
──俺の故郷は荒野の中にあった。
少ない草原を奪い合い、凍てつく風が吹く貧しい土地で生まれ育った。
水は貴重で家畜の乳と血で喉を潤し、草原を目指して馬を駆ける。
飢えと渇きが側にあり、生きるために戦うことが義務付けられる。腹を満たすために戦い、家族を養うために奪う。
それがオイラトの流儀であり、俺達の生き方だった。
「ゾルグ…ゾルグ!」
後背より耳に響く声。乳兄弟であり、最も信頼する部下であり、息子の傅役でもある男の声だ。
「ドルジか」
「どうしたんだ、ぼうっとして」
快活で楽観的なドルジ。彼の勇気はいつも部下たちを励ましてくれる。
「なに……思えば、随分と遠くに来たと思ってな」
「……そうだな」
オイラトの遺産相続は末子継承である。
一番若く、経験の少ない末子が父の遺産を継ぐ。長子である俺は自身の家族や部下を守るために自身で領土を奪い、家畜を増やし、奴隷を得る必要があった。
オイラトの荒野を出て、南へ下り華の国を滅ぼした。
砂漠を駆けホスローを、山稜にある狂信者たちのアラムートを滅ぼし、古代王国の末裔を自称するオスマニアを手中に収めた。
「サイジリアは肥沃な穀倉地帯でビザンティウムは巨大な港湾を持つ交易都市だ」
「そうだな、だがまだだ」
まだ、俺の腕は動く。俺の腹は満たされない。
「俺達の故郷を作るんだ。誰にも奪われない、誰にも奪わせない。豊かな俺達の黄金の都市を造るんだ。もっともっと、俺達の夢は終わらない。そうだろう?」
「強欲だなゾルグは」
「親父に出来たことが俺に出来ないと思うか?」
ドルジは首を横に振るう。
「出来るだろうさ、なんだってゾルグ・ハンは俺の知る中で最高の勇者の中の勇者だからだ」
「俺だけじゃない、お前たちがいるから、俺達はここまでこれたんだ。
互いに肩を叩きあう。
俺は孤独じゃない、俺は一人ではない。
俺達には優れた蒼き狼の加護があり、この身には
「父上!! 諸将の準備が整いました!!」
天幕を開き入ってきたのは俺の息子であり嫡子であるウランフだ。百発百中の弓の名手であり、オイラト最高の射手の二つ名を若くして得た出来物の息子である。
「そうか、では征こうか」
足早に天幕を出て、諸将が集まる別の天幕へと移る。
「おっとぉ、ようやく我らの御大将のお出ましだな」
真っ先に口を開いたのは赤毛の西大陸風の顔立ちをした獣のような雰囲気を持つ若者。
傭兵出身であり西方大陸では蛮族と忌み嫌われる赤髪の男。サイジリアとビザンティウムにおいて我軍に加わった傭兵将軍ヴァンダル。
「おい、赤毛!! 我らが王になんたる不遜な態度を!!」
そんなヴァンダルの態度に青筋を浮かばせ怒鳴りつけるオイラトの壮年の武将ユルとヴァンダルに対して睨みつけるウリヤンカダイ。
双方とも父ジャンガルより与力として派遣された経験豊富な武人である。事実猛将と名高いユルと冷静沈着で与えられた役目を卒なくこなすウリヤンカダイは今までの戦いにおいても非常に高い貢献を示してきた。
特にユルにおいては次男ゲセルの舅にあたり身内と言っても過言ではない。
「マァマァ、喧嘩シナイデー! オーサマ困ッテルヨー」
カタコトの不安な発音で不穏な空気を察して止めに入るオスマニアの辺境民族にして山岳騎馬民族であるマージャル人のケストレル・イシュドヴァーンは三つ編みに編み込んだ口ひげやもみあげを揺らす。
「あのオッサン、やっぱふざけてねぇか?」
「あれでもマージャルの英雄というか、マージャル語と西大陸共通語とオスマニア語全部話せる人なんだがなぁ……」
面白外国人と化してるケストレルに訝しげな視線を送るオイラトの戦士トクトに人の頭が3人分は入りそうな大きなターバンを頭に巻いたホスローの軍人奴隷という最下級の生まれながらウルスの万騎将に登りつめた立志伝の人物アブドゥル・マルドゥクが擁護の姿勢を見せる。
そんな様子の中、腕を組む郭文沢と杖を手にゾルグ・ハンの言葉を待つスタニスラフ・アンドルシュの両名の姿は非常に真面目かつ常識人に見えるだろう。
それぞれが豊かな経験を積んだ将軍であり、故国において伝説、あるいは英雄と呼ばれた存在。
徹底した実力主義により降将を味方につけ、軍に取り込んだ強者の軍勢。それがウルス西征軍の幹部たちである。
総軍10万。リュフト王国の国力に対して十二分に戦える数を揃え、数の利と将の質をもって蹂躙する。
「相変わらずだな」
声が大きく憮然とし、頑固親父そのものなユル。
神経質で完璧主義者のウリヤンカダイ。
狡猾で惨忍なヴァンダル。
おおらかでマイペースなケストレル・イシュドヴァーン。
実直で素直だが腹芸のできないトクト。
働き者で行動派だがあけすけなゴマすりでもあるアブドゥル・マルドゥク。
政戦両略でどこにおいても活躍する万能な郭文択。
未だ新参で騎兵には疎いが歩兵戦の名手のスタニスラフ・アンドルシュ。
我ながらよくもまぁ面倒くさい男たちを集めたものだと自嘲する。
優等生なのは嫡子ウランフを筆頭にドルジと郭文択とウリヤンカダイ、あとはぎりぎりアブドゥルが入るだろうか。
あとは大抵問題児だったり参軍して日の浅い面々である。
「リュフト王国の特徴は貴族議会制。領地貴族が強い力を持ち、独立性の高い地域でな。領地同士での小競り合いも多く、私兵である領邦軍を抱えている」
作戦に対して口火を切ったのは新参の降将アンドルシュである。
サイジリアの元将軍であり鉄槌の異名を持つこの老将は果敢な武勲と豊かな経験でサイジリア最高の将軍と名高い人物であったが、それ故に国内貴族より危険視され、謀略によって前線に出ることなく王都に留め置かれた。
現国王の助命と第一王女をウランフに嫁がせ、その間の子供をサイジリア地方の領主に建てることを条件に我軍に降った経緯がある。
「領地貴族内部でも派閥があり、寄子や寄親を作って上意下達の連合軍を作るじゃろう。わしらが最初にあたるとなるとスカーレット辺境伯軍じゃろうな」
「陣容は? どう見るべきだ?」
「スカーレット辺境伯家5000、ロー子爵家3000、デュドネイ子爵家3000。ここいらは堅かろう。その他男爵家で3000ほどとなり1万5000ほどと言ったところじゃろうな」
ヒゲを擦りながらユルはアンドルシュに問う。
10万対1万5000。数的有利はこちらにある。そうなると見えてくることは一つ。
「マトモニハ戦ワナイダロネー」
「地の利を活かしたゲリラ戦で来るだろうな。閉所は避けるべきだ」
のんびりとした口調でイシュドヴァーンが発言し、ウリヤンカダイが補足する。
「東部は山間丘陵地帯なんだろ? 閉所を避けると言っても限度があるんじゃねぇか?」
「郭将軍の大砲で道を作るとかどうだい?」
「弾薬に限りがある。筒は攻城戦に取っておくべきと己は思うが?」
トクトが反証し、アブドゥルが代替え案を出し、郭文沢が懸念を述べる。
「1万5000で戦ってもジリ貧だ。釣られる危険性が怖いならこっちから釣り出せばいい」
口元に笑みを浮かべながらヴァンダルは挑戦的な目を俺に向けた。
「ヴァンダルの策を聞こう」
「散発的に辺土の村を襲ってこちらの有利な地形に辺境軍を誘い込む短絡的ならすぐに乗ってくるだろうし、慎重でもどうせ乗ってくる」
「お前が略奪したいだけじゃねぇだろうなぁ?」
ヴァンダルが通った道は草の一つも生えない。
ウルスの中でも過酷な略奪を行う悪癖がヴァンダルにはあった。
男も女も隔てなく玩具にし、実りを根こそぎ奪い、家屋を焼き金品を身に着ける。
オイラトの戦士とて戦士に対して敬意を払う。しかし、ヴァンダルのそれはあまりにも品性に欠ける。
「リュフト王国の援兵を敢えて待つということか?」
「リュフトの総兵数を考えろ。どれだけかき集めたとしても10万を超えることはあるまい」
東部諸侯軍1万5000ではどうあがいたところでウルスの軍を跳ね返せない。ならば既に中央政府に出しているだろう援兵が居るはず。
「我々が迫っているという報は届いているじゃろうな……。王領の兵を動員、進軍中に東部諸侯を軍に加えるとして……5万集まればよいほうじゃろうて」
リュフト王国の内情を知るアンドルシュは顎髭を擦りながら作戦を勘案する。
「6万5000か会戦を試みるには少し相手が不利と思うが?」
「……軍を2つに分けよう」
相手が此方に会戦を挑むかに疑念を持つアブドゥルに郭文沢はさらに攻めた発言を行う。
「ローデヴェイクに二万を置く。此方は八万、辺境伯軍は多少抗い、兵力を損なうだろうが、6万は残すのではなかろうか?」
「ローデヴェイクにまで辿り着く前に兵を損ないたくないって話をしてなかったか?」
「いや、ヴァンダル案を飲むならむしろ敵主力の撃滅を主目的に変えるべきだろう」
郭文択は卓上の地図に対し指をさした。
「リュフト王国の後背にはオストマルク帝国とバイバルス=ケマルの連合がある」
西大陸最大にして最強と目されるオストマルク帝国。そしてホスローからの亡命移民であり、アブドゥルと同じ軍人奴隷から一国の王、そして多数の都市国家の盟主にまで登り詰めた天才バイバルス=ケマル率いる連合国。
これを相手取るためにはリュフト王国で手間取っているわけにはいかない。
出来うるだけ速やかに。そしてリュフトの豊かな穀倉地帯をスムーズに得たい。ウルスにとってはそんな狙いがある。
「郭将軍案に賛同いたしましょうぞ」
「理由はなんだ、アンドルシュ」
「リュフト王国が貴族議会制の寡頭政国家だからですな」
端的にかつ簡潔にアンドルシュは述べる。
「そいつがどうしたってんだ?」
「トクト殿、リュフト王国は特殊な成り立ちなのじゃよ。貴族による議会を舞台とした話し合いを尊重する気風の国であり、貴族間のパワーバランスこそを第一とする国なのじゃよ。そしてその国に必要なのはそのパワーバランスに唯一食い込める王政府」
「……! 王政府に力がなくなれば貴族たちは独立して個々の考えで動くってことか!?」
「然りですぞ、アブドゥル将軍」
ここに来て各将はアンドルシュの狙いを理解する。
「王政府という重しがなくなれば、他人を出し抜こうとする貴族が出る」
「調略を格段に仕掛けやすくなるな……」
俺は笑みを浮かべる。
「民衆にも王にも主権がない国。なるほど、貴族たちの国ってのは重しを外せば容易に各個撃破できるという訳か……」
ウルスはリュフト王国の弱点を明確に理解できていたと言えるだろう。
「リュフト王国主力の援軍を待とう。それまで我々は辺境でせいぜい嫌がらせに徹しようではないか……」
狡猾なる狼の狩り。
ゾルグ・ハンは何も間違っていなかった。
戦略目標も、戦術も、最上と呼べるものを用意していたのだ。わかっていたところで防ぎきれるものでは無かったのだ。
◇◆◇◆◇
「嫌な時期に戦争が始まったなぁ……」
馬上にて大きな樽のような腹を揺らしながらパーシヴァル・スティルウェルは独り言ちる。
「時勢を読むに聡いと言ったところでガンスな……!」
その隣りにいるのは実に特徴的な男であった。
魚のようなギョロリとした瞳、大きな前歯は口から漏れ出ており、口の周りには濃い剃り残し後の青髭。終いに語尾がおかしい。
「マッケンジー男爵、卿が頼りだ」
「お任せガンス、このエクター・マッケンジー!! スティルウェル公のため、あ、人肌! ならぬ二肌、脱がさせていただくガンスよ!!」
「語るぜ……」
こいつ馬鹿みたいな口調の癖にめちゃくちゃ頭切れるんだよなぁ……とパーシヴァルは呆れ気味な視線をマッケンジー男爵に向ける。
そして、男はリュートを奏でた……。
王国東部にウルスの軍勢が来たことを知らせる一報と援軍を求める報により、先王の死からまだ混乱が残る中。
即位した新王ウィリアム四世は王国最高司令官としてスティルウェル公爵となったパーシヴァルを派遣。王領、並びに中央貴族諸侯、そして傭兵を掻き集め6万の軍勢を率い、親征を開始した。
「不利は否めないな」
「単純な数で鑑みれば、我軍は不利でガンスが……なにも勝敗は軍の数でのみ決まるものではないでガンスよ」
「響くぜ……」
軍事において、パーシヴァルは高い知識を有している訳では無い。パーシヴァルの本分は政争や貴族間の調整だったり外交である。
そして男はリュートを奏でた……。
「勝てるか?」
「酷い大負けにはならないでガンスな。戦えるだけの陣容は整えてきたガンス。懸念点は多いでガンスが、数的不利を理由に負けることはないでガンスな」
「燃えるぜ……」
飄々とマッケンジーは述べるが、その懸念点が重要である。
スティルウェル公爵を頂点とし指揮系統を確率はさせたが、諸侯軍となる以上連携においては一抹の不安が残る。
その中でも男はリュートを奏でた……。
「デクスターは愚かではあるまい、エクターやマチアスも居る。自由にやらせるのも手ではないかのぅ?」
エクターとは逆側。嗄れた老人の声がパーシヴァルの耳を打つ。
蓄えた白ひげに枯れ木のような細い腕。ローブを身に纏いながら額から左目、頬にかけて大きな裂傷を持つ魔術師の老翁──ピアーズ・ランズウィックが声を掛ける。
「『盤根』殿、それでは行き当たりばったりというものでガンスよ」
「フォッフォッ、儂は戦術は知らんからのぅ。儂に出来ることは眼の前の障害を打ち払い、道を作ることよ」
「はぁ……次席宮廷魔術師殿は言うことが違うでガンスな」
「沁みるぜ……」
豊かな経験と度重なる武勲を立て、宮廷魔術師のNo.2に登りつめた老翁の言葉にエクターは辟易する。
そして男はリュートを奏でた……。
「さっきからニコラス、ポロンポロンうるさいのだが……」
「公、こいつはこういうものだから仕方ないガンスよ」
「悲しいぜ……」
さっきからリュートを奏でる男、ニコラス・ウルフリック・サウスは一言呟くとリュートを奏でる作業に入る。
本当にコイツ等大丈夫かな? とパーシヴァルの疑念は高まるのだった。
それから馬に揺られること数日、王国軍は東部諸侯領デュドネイ子爵家が治めるタントラムへと辿り着いた。
「お待ちしておりましたスティルウェル公爵」
「嗚呼、息災で何よりだ……状況をうかがっても良いだろうか」
出迎えたのはスカーレット辺境伯の実弟にして分家筆頭当主として爵位を持つオーガスト・スカーレット男爵とデュドネイ子爵家当主パイアス、ロー子爵家当主エドワード。所謂東部諸侯の中でも辺境伯派閥の代表格たちであった。
「現在、ウルスの軍勢はオルクボルグ平原にて駐屯し、波状的に近隣の村々を略奪している」
葉巻タバコを加えながらぶっきらぼうそうに答えるのパイアス・デュドネイ。もとは土着化した狩猟民族であり、近隣の貴族から血を受けることで貴族化した彼らは東部諸侯随一の武闘派として名高い。
「現状は公爵の軍を警戒している様子ではあるようですが、現行兵力は八万。残り二万はスカーレット辺境伯領のローデヴェイクにて包囲を行っておりますな」
それに対して口ひげを生やし、やや肥満気味の体躯ながら重い全身鎧を身に着け、傍らに大きな鎚を背負うエドワード・ロー子爵。こちらは王国から派遣された元法衣貴族の出身が土着の民衆と血縁関係を深めることで領主化した一族である。
此方もまた東部諸侯きっての武闘派であった。
「東部諸侯軍1万6000。公爵の指揮下に入ります」
逆立った直毛の髪に髭をきれいに剃り上げた精悍な顔つき。東部諸侯領において数々の軍役を担い周囲からは一目置かれる人物オーガスト・スカーレットはそう締めくくる。
「卿等の献身に感謝する。必ずや、ウルス西征軍を打ち破ろう」
これで連合軍の数は凡そ7万6000。数の差では互角。斥候によって辺境伯領ローデヴェイクに二万の軍勢が張り付いていることを比べれば地の利を踏まえて決して不利ではないとエクター・マッケンジーは計算する。
「マッケンジー、どのようにすべきと思う?」
「東部諸侯軍の厚みが欲しいでガンスな、軍の中央を王領軍、左翼を中央諸侯軍、右翼を東部諸侯軍で固めるでガンス」
「その心は?」
「連携不足を補うためでガンスな」
常在戦場の覚悟ができている東部諸侯の軍勢をバラして編入すれば連携が取りづらくなる。
ある程度ドクトリンが定まっている軍勢を固めることで軍全体でなく中央、右翼、左翼とそれぞれ別個に動いたほうがまだ軍勢を動かしやすいとエクターは述べた。
「右翼が薄くなっているなら
エクターの采配により王領軍から5000の兵と指揮官を右翼へ引き抜き、中央3万、左翼2万5000、右翼2万1000へと軍を再編させる。
全体の指揮を総大将パーシヴァル・スティルウェルが執ると名目上はそうしているものの、実際の指揮は侍従武官にして参謀であるエクター・マッケンジー男爵が執り、左翼は中央貴族ロックウェル侯爵が、右翼はスカーレット辺境伯家のオーガスト・スカーレット男爵が指揮を執る。
「もう少し右翼を厚くするべきではないか?」
「これ以上右翼に兵力をやっても足手まといでガンス。それに、殿下のことを考えれば中央を薄くして一点突破された日には目も当てられないでガンスよ」
遊撃にするには多すぎ、一翼を担わせるにはやや少ない。エクターは心のなかでため息を吐く。
このまま睨み合っている状況のままだったら良いのに……、そう思わずに居られないが状況はそうはいってられない。
「誘われているでガンスなぁ……」
ほぼ同数の兵力で戦いたくはなかった。
弓を主とした軽装騎兵と長槍を備える重装騎兵。その2つによる波状攻撃。ウルスの戦術は単純であるがそれ故に明確な弱点がない。
戦場に配備できる馬の数が戦力に直結する時代であり、騎馬の術に優れた
「このまま足止めに徹するのは駄目なのかね?」
ふとそんな疑問が中央貴族の諸侯から上がる。顔を見ると青い髪に豊かな口ひげ、やや肥満体の身体を揺らす壮年の男。
「無理でガンスね。やりたい、やりたくない以前に出来ないでガンス」
「そ、それは何故かね?」
罠であることは承知の上、戦場を指定したのはウルスが前提の上、戦わなければならないことを告げると、男──ウォルコット伯爵は額に脂汗を滲ませながら理由を問う。
「危機的状況であることは承知の上でガンスが同時に好機でもあるでガンス。ウルスの軍は騎馬主体の軍勢。その気になれば一昼夜駆けられる機動力に富んだ兵でガンス」
「兵は拙速を尊ぶ。というものだね」
「いかにもでガンス、ロックウェル侯」
ロマンスグレーの髪に整った口髭を生やす男。顔は整い体つきも筋肉質。ウォルコット伯爵と比べてより貴族なのはどちらかと問うと十人中十人はロックウェル侯爵をあげるだろう。
「足の早い軍勢とは追うにも一苦労で、逃げるに易いところがあるでガンス」
「その通りだ、奴らをここで逃がせば東部は略奪で壊滅的な被害を受けかねない」
エクターの発言にオーガスト・スカーレット男爵が同意し、補足を重ねる。
ウォルコット伯爵は中央貴族で最も豊かな貴族と言われるだけあって経済感覚や農地指導、また教会勢力との折衝など優秀な人材ではあるが、軍事には疎い。
彼が居なければ酒保商人やら糧秣の用意、中央貴族の援兵もままならなかっただろう。
「王族として、臣下の窮地を見捨てるなど恥知らずなことは出来ない。必ずやウルスの軍勢を追い返さなければ我々に明日はないのだ」
それでこそだ、とエクターはパーシヴァルに視線を送る。
木端貴族の長子として生まれたエクターは忌み子だった。その理由は偏に醜男だったから、それだけである。
貴族は整った顔立ちで生まれる。理由としては村一番の器量よしである娘を妾に取ったり、より顔立ちの良い令嬢を血を継ぐ嫡男に娶わせるといった連綿と受け継がれる遺伝子のためと言える。
ぎょろりとした魚のような眼に突き出て歯並びの悪い歯。
エクターの母親は姦通を疑われた。
父母に似てないのだ。顔立ちの良いお坊ちゃんといった父と自分の顔はあまりにも違いすぎた。
母親に似てるかといえばそうでもなく、祖父母にも似ていない。
成長するとともにエクターは疎外された。別に暴力を振るわれたわけでもない。ただ、家族という輪から彼だけが居なかっただけの話である。
父親は自分と顔を合わせることはないし、母親に罵倒されたことは一度や二度じゃない。夫婦仲が冷え込み、離婚したことで自分を睨みつけながら出ていったため、致し方ないとも言える。
醜く生まれてきたことが原因なのは見て明らかだったからだ。
継母が産んだ子供がマッケンジーの家を継ぐことも納得している。
成人とともに家を追い出されたことも仕方ない。
『私を助けてくれ、マッケンジー』
始めてだった。王族である天上のお方が自分なんかの力を求めてくれたのだ。
自身の命は、プラティナム王家のために使うためにあったのだと思ったのだ。
仕方ないのだ。
あの真っ直ぐな瞳に惚れてしまったのだから。
「私とともに、王国を救ってくれ」
まあ、