乙女ゲー転生モノに出てくる性悪お花畑転生者女を曇らせてみたwww 作:見てアホ女がいるよ! かわいいね
──光を見た。
姉は素晴らしい人だったと皆が口を揃えて言うだろう。
幼い頃、花畑の中心で私に花冠を作ってくれた姉の姿を覚えている。
当時の私は花よりも花に止まっている蝶や森の昆虫。珍しいトカゲとかそういうものが好きだった。
笑ってくれても良い。どうにも私には普通の女の子というものから外れていることは自覚している。
ただ、そんな私でも誇らしいものがあった。
『はい、ローラ。貴方の花冠よ』
──美しいものを見た。
姉の笑顔を、その慈愛に溢れた笑みを私は美しいと思ったのだ。守りたいと思ったのだ。
槍を振るい、馬に跨り、辺境伯家の兵士に混じって訓練を受けたり、森や山に籠もって生活したり。私は修行を重ねた。
『ねぇ、ローラ大丈夫? 無理してない』
無理ではない。姉上を守るために必要なことをやっているのだと、私は思っていた。
貴族の社会になど興味はない。辺境伯家の血筋は姉上と
『わたくしはね、素敵なお嫁さんになりたいの』
ささやかな、それでいて素敵な夢を姉は持っていた。
私は
姉上は理想の淑女で優しい女性で。善き妻であり善き母になれる人だ。姉上のためならば私は死んだって構わない、そう信じていた。
「おめでとうございます、このお方は聖女であります」
厳格そうな僧衣の男はそう告げた。
この坊主はいったい何を言ってるのだろう。
冗談にしては笑えない。おかしいだろう。
──だって姉は、誰よりも辺境伯家の妻として相応しい人だったから。
私の理想は、私の世界はたった一つの特別によって打ち砕かれた。
淑女教育が始まった。
姉が辺境伯家の血を残していけない以上、その役目は私にしか出来ぬことであるからだ。
慣れない習い事、刺繍も茶会も談笑も。どれもこれもが肌に合わない。頭を空っぽにして野を駆け、槍を振るうほうがよほど有意義に感じてしまう。
義兄上とは今でも目を合わすことが出来ない。
だって、姉上は義兄上を愛していたから。義兄上だって姉上を愛していた。その間に
姉上は特別な人だと思っていた。
けれど、こんな特別はいらなかった。
そんなとある日、東より蛮族が攻め入ってきた。
ブルンツヴィーク、サイジリア、ホスロー、オスマニア。
東方の王国や砂漠地帯の過酷な環境を生きる大国。そのすべてを征服した偉大なる
敵の総大将はジャンガルの長子ゾルグ・ハン。砂漠の大国ホスローを降伏させ、オスマニアの首都ビザンティウムを陥落させ、暗殺組織アラムートのシリア城塞を破壊した天才軍略家である。
それが、王国の兵すべてを持ってしても足らないほどの大軍、総勢10万をもって王国を攻め寄せようとしている。
到底、このスカーレット辺境伯領最大の軍事都市であるローデヴェイク一つでは陥落するのも時間の問題といえる条件である。
恐らく──否、間違いなく勝てない。
スカーレット辺境伯家ができることはできるだけ城塞で粘り続け、そして王国の寿命をすこしでも延命させることしか出来ない。
ローデヴェイクが落ちてしまえば、雪崩を打ったかのようにウルスによる略奪と蹂躙が始まるだろう。
叔父上が亡くなった。従兄弟が亡くなった。爺やも神経質で嫌味な家宰も騎士団の兵士も、稽古をつけてくれた隊長さんもいい奴も悪いやつも平等に。
男たちは戦場へ向かい、その命を落とした。
老いも若きも男も女と関係なく戦禍は広がる。
『皆さん、諦めては駄目です。主はきっとお救いくださる』
姉は決して諦めなかった。決して挫けなかった。決して俯かなかった。
『神は自ら助くる者を助くと言います。貴方にできることをわたくしにできることをしましょう。その懸命を主は見ておられるのだから』
そう言って、姉はローデヴェイクの市民や兵士を励ました。
絶望の暗闇の中、姉は皆の希望の光であった。
「当主と聖女の首を差しだセ。そうしたラ降伏をみとめてやろうじゃないカ」
たどたどしくも西方大陸公用語を話す使者と名乗る男は狐のような笑みを浮かべながら、我々に最後通牒を突きつけた。
「我々ハこれでもあなた方ヲ認めているんダ。よく頑張ったジャないカ、ソノ献身に報いるためにモ。当主と聖女の首だけデ済ませてやるといってるんダ」
戦争となれば多くの者が死ぬ。二人の犠牲と数千の兵士の犠牲。算数であれば簡単な答えだ。
だが、人の命は数じゃない。
「儂だけなら首を差し出しても構わない」
父は作戦会議の場でそう言った。
「敵は狡猾だ。辺境伯家の主要指揮官が討たれ、東部諸侯からの派兵も討ち破られた。ここで降伏するのは決して恥ではない」
貴族としての理屈から父は自身の首で収められるならそれで収めるのも手であると再交渉を前提に言葉を紡ぐ。
「断固として反対です。聖女の首を差し出すということは、辺境伯家は西部大陸の宗教的権威との決別を意味します。異端と破門の烙印を押されるのは都市ローデヴェイクだけの問題ではありません」
聖女を差し出せば、命を長らえることのできるローデヴェイクの教区大司教は断固として反対の意見を述べる。
「徹底抗戦すべきです。たとえ我らがその結果全滅したとしても殉教者として名誉は保持される。それはスカーレット辺境伯領の遺民を唯一守る方法にもなります」
降伏を受け入れれば異端者として教会勢力の大規模派兵と辺境伯領の徹底的な焦土化が実施させられる。
そうなれば国も守ることは出来ない。
結局のところ、都市の民衆から絶大な支持を受けている姉を切り捨てる方針は選べない。
ローデヴェイクはウルスとの徹底抗戦を選択することになった。
「我々ノ意志はかわらナイ。いずれあなた方ハ、降伏ヲ選択するだろウ」
その意味を我々は知ることとなる。
ローデヴェイクを取り囲むウルスの将兵は約二万。それでもウルス征西軍の本隊からすればわずか1/5に過ぎない小勢。
軍旗には見慣れない『郭』と書かれた旗とウルスによって滅ぼされた隣国サイジリア王国の御旗がそこにはあった。
ウルスは蛮族である。しかし強者を尊び、その内実は力あるものを頂点とする実力主義の社会を形成する。
ウルス本国に生きるオイラト民とウルスが滅ぼした諸国民。我々を囲うのはウルスによって国を滅ぼされながらもその実力をもって征西軍の幹部たる万騎将にまで上り詰めた勇将であった。
「『鉄槌』のアンドルシュ……」
サイジリア王国元将軍スタニスラフ・アンドルシュは鉄槌の異名を持つ名将であり、その恐ろしさは我が辺境伯家にも轟くほどである。
それほどの男が敵に回っている。悪夢を見ているようであった。
「城攻めならアンドルシュは恐ろしくはない」
「アンドルシュの歩兵部隊は確かに強力だ。オーソドックスな鉄床戦術を必殺の包囲殲滅陣に変えた手腕は素晴らしく恐ろしいものだ。ウルスの騎馬部隊も併せればその脅威も跳ね上がっているだろう。──だが、野戦において絶対的でも城攻めにおいては無力だ」
そう、野戦の名将であるアンドルシュは確かに恐ろしいが、こと城攻めにおいてはその強みを半減させている状況である。
アンドルシュがここにいる意味は敵に偉大なる名将があり民衆の不安感を煽る為であろう。
「それだけではない。アンドルシュはサイジリアの遺民であり、ローデヴェイク攻めの大将だ。すなわちローデヴェイクに対する交渉的権限を持ち合わせている。肌の黄色い蛮族より、人種を同じくする我々の降伏のハードルを下げる意味合いもあるのだ」
話の通じない蛮族より肌の色が同じな元隣国の将軍なら誰だって後者を選ぶ。父は戦術家としては平凡なそれだが、戦略的思考においては辺境伯としての資質を然りと受け継いでいた。
「恐ろしいのはもう一人です。敵の副将、郭文沢は砂漠の暗殺組織アラムートを滅ぼし、ホスロー略奪に参加した征西軍の大幹部。城攻めの名手です」
大司教は『郭』と書かれた軍旗を靡かせるもう一つの軍に目を向ける。
「ウルスはローデヴェイクに高い戦略的価値を認めています。ローデヴェイクを攻め落とせば王都につながる街道を自由に行き来出来ます。王都攻めの後方基地として最適なのです。できるなら無傷で手に入れたい、それが彼らが力攻めにでない理由でしょう。だからこそ彼らは我々の心を折ろうとしています。彼らは非常に合理的なプロフェッショナルだ」
大司教は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、相手を称える。
「援軍の見込みはなく、相手に焦りはない。儂らは確実に詰ませられに来ている」
敵兵に囲まれたローデヴェイクには外界との情報はまるでわからない。有利なのか、不利なのか……。我々の心は既に追い詰められ始めていた。
交渉を突き返した翌日。ローデヴェイク城塞から敵の軍中に動きがあった。
髪を捕まれ、若々しい貴族服を着た男が引き立てられる。
「兄上……」
それは東部貴族、デュドネイ子爵家の嫡男。
ローデヴェイクから見晴らしのいい荒地で子息は蹴られ殴られ嫐られる。猫が鼠を弄ぶように時にはウルス兵の腰に刺した湾曲刀で切りつけられながら。
一通りの拷問が終わったあと、子息は衣服を奪われ、四肢を縛り上げられる。
ウルスが用意したのは鋭く長い鉄杭だった。
「やめろ……」
巫山戯るな、こんなこと認められない。
響き渡る絶叫。子息の身体が二、三跳ね上がり、痙攣する。
肛門からハンマーで鉄杭を叩く甲高い音が静まり返ったローデヴェイクの都市に響き渡る。
悪い人ではなかったのだ。
傲慢で、失礼でそりゃあ性格的に合わない人だったことは知っている。姉上に色目を使っていたし、私に対しては品がないとかムカつく嫌な男だったことは知っていたのだ。
こんな酷い殺され方をされるほどの人間ではなかったのだ。
杭に肉体を中程までに貫かれた子息はウルス兵によって首を切断される。
口に何かしらのものを含ませたあと、袋詰にされ巨大な
街中に投げ込まれた首には苦悶な表情と、口内には瓶詰めにされたメッセージが添えられていた。
『これから毎日籠城を続けるたび、毎日一人ずつ民衆を殺していく』
敵の卑劣な、それでいて合理的な言葉だった。
「辺境伯、デュドネイ子爵家は滅んでいると考えるべきです」
青い顔で義兄上は父に告げる。
「兄上は臆病ですが、卑怯者ではない。領民のためなら泣きながらその生命を差し出せる人です。当然、戦場へ出れる人ではないです。──デュドネイ子爵領はウルスの影響下にあると考えられます」
その後も日が経つにつれて多くの人が殺されていった。
同じく辺境諸侯であるロー子爵、王国より派兵された騎士団の団長、辺境伯領の大地主である富農の当主、辺境伯家に仕える騎士、なんの罪もない幼い少女。
老若男女問わず、一人ずつ殺されていく。
眼の前で殺されていく人間の立場や地位で、王国がどれ程追い詰められていくかが如実に明らかにされている。
「敵の謀略だ……」
そう、口で嘯いても敵の術中に嵌っていることは事実であるのだ。断言しても良い。
悔しかった、自身の無力さが。悔しかった、何も出来なかった自分が。
私が積み上げて備えてきた力は、籠城戦では余りにも無力だった。
それから一月ほど経った頃だろうか。
突如として
「降伏は認めない、逃げることも認めない。生きることを認めない。──都市もろともローデヴェイクの総てを破壊し尽くす」
敵が用意したのは見覚えのない鉄製の筒だった。
私たちは勘違いしていたのだ。敵が心を攻め、兵糧を尽きるのを待つのはひとえに騎馬民族はこの城塞を突破する方法がないからだと。
敵は最初からローデヴェイクを滅ぼせるだけの力を有していたことに。
鉄製の筒──大砲から放たれた多大な質量を備えた砲弾は、たった一撃でローデヴェイクの堅牢なる城壁に穴を開けた。
「なんだ、それは……」
おかしいだろう、そんなのあり得ない。こんなもの、私は知らない。
私の中にある戦争というものがガラガラと音を立てて崩れ去るような、そんな衝撃だった。
私は聞いていたはずだった。敵は暗殺組織アラムートが所持する堅牢不落の
知っていて、聞いていても。それが目の前に起こるまで一体どういうものだとか私は想像もしてなかったのだ。
笑われても仕方のない、とんだ愚か者だった。
「儂が出る。フィリウスは城塞の指揮権限を引き継げ」
恐慌と混乱の中、
「儂は鬼畜の父親だ。家のために娘二人の幸せを奪った悪魔のような男だ。だが、儂は父親で領主なのだ。ここが命の張りどころだろう」
このままでは城壁を破壊され、都市の臣民たちは虐殺される。
敵は歴戦の名将だろうが、誰かが前に出て決死の覚悟で大砲を使用不可能な状態にしなければ生還の芽はない。
「いいえ辺境伯、僕が出ます」
それに否を突きつけたのは義兄上だった。
「辺境伯は
「フィリウス、お前はまだ若い。生きて帰れるかわからんのだぞ」
「僕の故郷はもう無い。端的に言えば外様で替えが効く将です。それにデュドネイ子爵家が滅んだとすれば政略結婚にはもう向きませんよ」
義兄上は肩をすくめながら、自身が決死隊を率いるに足る理由を述べ続ける。
「貴方では駄目です、信徒フィリウス。兵士を確実に死兵とするならば、精神的支柱も必要です」
そこに待ったをかけたのは都市随一の知識人階級であり、姉上の補佐としてローデヴェイクに留まった大司教だった。
「私も向かいます。聖教大司教の肩書は聖女様に次ぐものです。すこしでも勝率が欲しいならば、私を連れていきなさい」
西方大陸における宗教的権威は高い。聖職者が軍中にいるということは、兵士たちの精神的な支えになることをこの大司教は知っていた。
「だが……」
「辺境伯は言いました。ここが命の張りどころだと。私も同意します。防衛において最低限の数を残して全力で敵の大砲を破壊、鹵獲しなければ勝ち目はありません」
「辺境伯、物事には優先順位があります。守るべきは都市の住民と聖女、そしてあなたの家族です。あなたの優先順位に僕は本当に必要ですか?」
父上は拳を握り締め、苦悶の表情を浮かべる。
「辺境伯も判ってるはずだ、相手がこの状況で力攻めに出た理由。
「相手は待つことが出来なくなった。つまりここからは少しでも時間を稼ぐことが勝利に繋がるかもしれないのです。僕たちが少しでもあの大砲を押し留めることができれば、もしかしたら援軍が来てくれるかもしれない。もしかしたら、間に合うかもしれないのです」
わかっているのだ、義兄上と大司教は正しいと、父上は辺境伯として二人を切り捨てるべきなのだと。理性の上で、計算の上で。それは合理的で正しいのだと。
「済まない……」
「辺境伯家に栄光あれ」
「人民に救いあれ」
謝る父上の言葉に
「儂は何をしてるのだろうな、ローラ」
「父上……」
「息子になるはずだった男と恨みこそあれど苦楽を共にした戦友を見捨てたのだ」
父上は情が無いわけではない。本当に情が無ければ私は姉上の婚約破棄まで自由に過ごせるとは思えない。
甘く優しい男だった。本当に鬼畜のような男であれば、こんな苦しみはしなかっただろう。
「何も恐れることはない、何も怯えることはない、何も屈することはない!! 主の加護は我らにあり、聖女様の加護は我らにあり、さあ、偉大なる聖典の民よ進むのだ!! 敵を打ち払い、勝利の栄光を掴むためにっ! 天国の門は蛮族を打ち払った先にあるのだっ!!」
ローデヴェイクの城門にて大司教の雄々しい声が響く。決死の覚悟で進む兵たちを鼓舞させ、死兵とするために。
「見事なものです」
「ありがとう、これですこしでも崩れにくくなったはずだ」
ゴテゴテとした黒い僧衣を纏いながら大司教は自嘲する。
「私は、貴方を憎んでました」
「だろうね、信徒フィリウスにも同じことを言われたよ」
あの日、この男が姉上を聖女だと言わなければ姉上は義兄上の妻として生きれたはずだった。
「私は力ない人々を救うために、君らの家庭をめちゃくちゃにした」
いけ好かない男だと思っていた。大司教の年頃は40程だろうか、その年で大司教という教皇、枢機卿に継ぐ地位を得たことから男が聖教において優れたエリートであることがわかる。
「祈りは人々を救うのだと。いかなる艱難辛苦が訪れようと、人は祈ることで心の安らぎを得て、祈ることで救いを得るのだと。私はそれを真実と信じて居たのです」
大司教は懐かしむように、それでいて美しいものを見たかのように目を細める。
「信徒フィリウスは言った。『貴方を恨んでいた。だが逆恨みだった』と聖女様は言いました『聖女だからやらなければならないのでなく、わたくしがそうしたいからそうするの』だと」
人は弱さに理由をつけたがる。誰が悪かったたのかを、何が悪かったのかを。
「誰かを赦すという行為は人のもつ理性の中で最も尊きことだというのを、私は知ったのです」
「大司教、貴方は……」
「祈りは尊きもの、しかしより尊いのは祈りなく自らを勝手に救う人間なのでしょうね」
真面目な男なのだろう。この時私は、この男を冷たい感情のない機械の男だと誤解していたことを知った。
「私はあの素晴らしきものを守りたいのです」
大司教はその言葉を最期に義兄上率いる決死隊に参加し、そしてローデヴェイクに戻ってくることはなかった。
決死隊で生き残ったのは義兄上を含めて僅かな数だった。決死隊900人はローデヴェイクで出せるギリギリの数で、敵の大砲を潰すのに足りなかった。
兵も将も質も量も、敵に比べれば何もかも何もかも足りないことはわかってた。だが、それでもと思いそして失敗したのだ。
「フィリウス様……」
──そう、私たちは失敗したのだ。
見せるべきではなかったのだ。見せてはならなかったのだ。
「だ、大丈夫です、姉上……」
言うべきではなかったのだ。意地を張るべきではなかったのだ。
「私が、守ってみせます。……姉上を決して危険には晒しません。わ、私はそのために鍛えてきましたから」
手が震えている。勝利なんて見えなくて、死へのカウントダウンが聞こえてくる状況で。
それでも私は姉上を助けたくて、少しでも気が晴れればとそんなことを言ってしまった。
「ローラ、お父様……」
「済まない、済まないフィリウス。必ず、必ず貴様の死を無駄には──」
義兄上は背に何本も矢傷を負い、腹部には槍の一撃で穴が空き、盾を吹き飛ばされても篭手で致命傷を守るために左手は千切れかかっていた。
──光を見た。
白金に輝く光を。
「あ、ね……上?」
私は知っていたはずだ。義兄上は姉上を愛していて、姉上は義兄上を愛していたことに。
私は知っていたはずだ。姉上は誰よりも優しく、美しく、気高く。それでいて誰よりも優しかったことに。
私は知っていたはずだ。姉上が
姉上は両手を握り、祈りを捧げていた。
白金の光の奔流が姉を包み込み、眩い光の粒子が城塞都市を包み込む。それはまるで神話の光景のようで、まるで奇跡のような姿だった。
「わたくしは、貴方がたに奇跡を祈りましょう」
止めなければならないと思った。このままでは姉が何処か遠くへ行ってしまうようで、続けさせては必ず後悔してしまうと頭の中で警鐘が鳴り響いていた。
「姉上……駄目です。姉上……」
縋り付き、姉上に近づこうとしても光の奔流がまるで盾となり、身体を阻む。
「やめろ…やめてくれコルネリア」
異常は既に始まっていた。満身創痍で息も絶え絶えだった義兄上の傷が塞がり始めている。
死に瀕していた者すらその淵から引き上げる。それはどんな高位聖職者とて不可能な奇跡。
そう、奇跡なのだ。都市すべてが光に包まれ、多くの病傷を負った兵士たちが息を吹き返す。
──こんな奇跡、揺り戻しがないなんてことあり得ない。
「逝くな、逝かないでくれ……!! 親よりも先に死ぬ娘があるか……ッ!!」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」
父上と母上の懇願にすら、姉上は止まらない。止めることが出来ない。
「心から、わたくしは……」
「やめろおおおおおおおおおおおおお」
喉が壊れても構わない。姉上を止めなければ。どうにかして辞めさせなければ。
お願いします神様。姉上を連れて行かないでください。私の家族なんです。大好きな姉上なんです。もう二度と姉上を悲しませたりしません。もう二度と離したりしませんから。だから、だからどうか──
「──わたくしは貴方がたの幸せを願います」
──私の幸せを奪わないでください。
ダメです。