乙女ゲー転生モノに出てくる性悪お花畑転生者女を曇らせてみたwww   作:見てアホ女がいるよ! かわいいね

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この物語は戦記物ではありません。ただの曇らせ小説です。
ただ郭文沢とかいう中華がゴキブリのようにしぶとすぎるだけなのです


この頭中華を殺すのに五話もかけてるんだが?

「──女様…聖女様……」

 

 ささやくような穏やかな男の声に、私は微睡みの中から覚醒する。

 

「お目覚めですか、聖女様……」

「えぇ、おはよう。司教様」

 

 私は柔らかな笑みを浮かべて司教に応対する。

 

「懐かしい夢を見ました」

「夢……ですか」

 

 司教は困惑の声色をわずかに覗かせながら聞く。

 

「レプティレスです」

「レプティレスですか……確か十年前のことですね」

 

 十年前。その傷は今も私たちの心と身体に深い傷を残した。

 司教は今も双眸の跡には黒い目隠しを纏う。

 あの日、ローデヴェイクでの籠城戦にて死兵となって時間を稼いだ当時大司教だった男は運悪く生き残ってしまった。

 足に重篤な障害を負い、拷問によって生殖機能と両目を抉られそれでも生きていたのだった。

 

 十年の月日は私たちに変化を強いた。

 東部諸侯領は中央政府の直轄地として代官を入れられ、当時の降伏派領地貴族は改易を余儀なくされた。

 その判断に不満を持った中小の領地貴族は反乱を起こすものの隣国である帝国軍の介入や帝国の軍事制度を真似した常備軍団の結成、元主戦派貴族であるゴールドスタイン公爵の活躍によりそれらの反乱は打ち砕かれた。

 

 現在、王国の派閥は二分にされている。

 一つはゴールドスタイン公爵が主導する保守派。

 一つは国王デズモンド一世が主導する中央集権派。

 

 王国の政治は中央と地方の対立へと変化した。

 減ってしまった貴族の代替として中央政府の官僚機構が発達したこと、また五年ほど前から学園制度が新たに設立され満15歳以上の貴族子弟が三年以上通うことを義務付ける制度が制定。

 

 中央政府は学識と教育を対価に地方貴族の子弟を人質として首輪をつけることに成功した。

 

 ヘクター・アーレンが後事を託した女は確かに優秀だった。

 

 政治的にも政略的にも、謀にも精通し。相反する貴族、王族、平民。その総てにとって良しとする結果を持ってくることによりこの王国唯一の学府を打ち立てた。

 この時点でフランカ・ウォルコットという女が傑物であることの証明と言える。

 

 ただ、あの女を天才と認めたくない私も居るのだ。

 

 貼り付けた笑みと濁った瞳。

 聡明であると見せつけながら、時たま狂人のように奇声を上げる。

 温厚で優しげでありながら、冷徹で残酷。

 衆人へ平等に学識と礼節を与えながら、個に対しては誰よりも差別主義者。

 

 相反する二つの性格を常に併せ持つイカれた女。

 私にとってフランカ・ウォルコットとは利用するには重要な人物だが、真に心を預ける仲間としては落第も良いところだろう。

 

 それでも彼女は確かに千年先の未来を見通すことができるという言葉に納得がいくほど洗練された学習プログラムを生み出し、優れた人材登用による教師陣の選定。

 そして、学園を卒業した中央政府の官僚である法衣貴族や領地貴族の子弟。富農や豪商といった階級に属する平民たちに対して多大な影響を保持している。

 

 今、二つの形成された派閥の若手はすべてフランカ・ウォルコットの育てた弟子たちである。

 たった10年。しかし、これが50年なら間違いなくフランカ・ウォルコットという人間はこの王国の陰の実力者になるだろう。

 

「ヘクター・アーレンが今のわたくしたちを見たら笑うでしょうか」

 

 自嘲するように私はふと言葉を零した。

 あの戦場で、あの戦争で誰よりも懸命で。

 誰よりも人を殺し、誰よりも人を生かし、誰よりも人を救った。

 誰よりも恨まれ、誰よりも蔑まれ、誰よりも罪を背負った。

 

 愚かなる武の頂点。それがヘクター・アーレンという男だろう。

 

 あの男が生かしたのがフランカ・ウォルコットだ。

 あの男が誰よりも信頼してたのがフランカ・ウォルコットだ。

 あの男が誰よりも期待してたのがフランカ・ウォルコットだ。

 

 ──あの男が壊してしまったのがフランカ・ウォルコットだ。

 

「結局は貴方の助言に従えなかった。愚かな女かもしれない」

 

 自分が幸せになる未来を切り捨てて誰かの幸せを願った。

 どうしようもなくダブってしまうのだ。私が愛した最愛に。

 

 犠牲とは奉仕とは素晴らしいものだ。

 素晴らしすぎる故に、私たちは狂ってしまったのだろう。

 

 きっと、今の私を姉は望まない。

 アーレン卿はすこしだけ困った顔をしそうだ。

 

「それでもわたくしは貴方達が何一つ変哲もない穏やかな日常で生きることを選んでほしかった」

 

 幼い心に灯った炎。その瞳に焼き付いた光景を生涯私は忘れないだろう。

 そう、だから私のこの心に灯る炎は消せない。消しようがない。

 私は願ってしまった。誓ってしまった。決めてしまった。

 

 ──私は特別という理を滅ぼしたいのだ。

 

「偽物でも本物を知ってれば真に迫ることができる」

 

 18歳、偽聖女ローラ・スカーレット。

 これは嘘つきで凡庸な人間(わたし)の物語だ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「敵軍が大街道を通ってくる可能性はないのですか?」

「あったとしてもどうとでも出来る。少なくともこの街道を使って大砲を持ち出すことはない」

 

 私の質問にアーレン卿は否と告げる。

 

「ウルスの第一目標は戦況を変えうる大砲を本隊に届けることだ。大街道でそれが不可となれば、必ず別のルートで大砲を届けようとする」

「リスク分散ってことだよね〜」

 

 私とアーレン卿の会話にしゃしゃり出てくるパルメ。

 

「ちょっと貴方黙ってくれません? 語尾が苛つきます」

軍神殿(ヘクトール)、この部隊にはイジメがあるよ?」

「おそらく赤龍山道に残りの砲門を輸送しているはずだ。兵だけ援軍として合流しても意味がない。兵糧を運ぶとしても補給線がぶった切られてる以上限りがある」

「ねぇ、無視しないで? パルメさんすっごい傷つくよ? いいの? いい年こいて泣くよ?」

「しかし、今から間に合うでしょうか」

「間に合わせるのがこのハゲメガネの仕事だ」

「マイネームイズ、クリストフ・パルメ。ノットハゲメガーネ」

 

 ついに名前すら呼ばれなくなったパルメ。残念ながらこの扱いは当然と言える。

 

「今から部隊を二つに別ける。フィリウスを呼んでこい、ちぃと七百人ほど指揮を任せる」

「……は?」

 

 ヘクター・アーレンは突如として意味のわからない発言をした。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「アーレン卿が行ってるのは遅滞戦術だろう」

 

 義兄上は残された700名ほどの軍勢と幌馬車を率いて王国の中央平野を経由し王国東部と南部の境目であるレイ子爵領へと向かう。

 

「遅滞戦術…ですか」

「ああ、相手は慣れない山道を通る。高低差に身を隠す森林、狭路など奇襲にはもってこいの地形だ。もちろん相手も警戒してるだろうけど被害をゼロに抑えることは難しいだろうね」

 

 ほとんど嫌がらせの区分でしか無いけどね。と義兄上は締めくくる。

 

「お二方、のんびりしてると置いてゆきますぞ」

 

 私と義兄上がそんな会話をしていると、不意に声をかけられる。

 

「済まないねマーシュ卿」

「決戦に乗り遅れたとなれば恥です。彼を守りきれず殺されたとなれば、私はお嬢様に顔向け出来ません」

 

 銀色の短髪に溌剌とした強い意志を感じさせる瞳。

 マーシュ卿はウォルコット伯爵家に仕える騎士の家系であるという。

 『雑草の騎士団(ナイト・オブ・ヴィード)』の兵士は元囚人や徴用兵であるが、小隊を率いる現場指揮者の多くはウォルコット伯爵家から派遣された陪臣貴族である。

 

「それにしてもよく思いつくものだ。行軍経由地の村々に金をばら撒き休息所と炊き出しをさせるとは……」

「ヘクター様の策です。今まで蓄えてきた略奪物を放流するならこの盤面が効果的ですから」

 

 東部諸侯の領地に比べ、王都を中心とする王国中央部の略奪はそれ程でもなかった。蛮族軍(ウルス)の目は東部諸侯領と王都に向いており、王都中央外縁部である我々の行軍地から略奪のダメージはほとんど無い。

 

 敵から鹵獲した幌馬車に糧秣と装備を詰め込み、兵士たちには最低限の荷物を持たせて走らせる。

 兵の展開を第一とする大返しであった。

 

「幌馬車が今回の作戦の肝です。フィリウス・デュドネイ卿、貴方の責任は重い。だからこそ失敗は許されないのですよ」

 

 ジロリとマーシュ卿は義兄上に睨みつける。

 

「わかっているとも、アーレン卿の作戦は間違いなく戦争の形式を変える。副将とは言うが、実質的に本隊の指揮を任されたんだ。信頼には応えて見せる」

「で、あるならば宜しいのですがね……」

 

 マーシュ卿はそう言うと、馬の横腹を蹴り上げぐんぐんと速度を上げていく。

 

「征こう、ローラ。おそらくこれが、僕たちの最後の戦いになる」

「はい、義兄上」

 

 決戦の地は王国南東部レイ子爵領。赤龍山道の出口であるレプティレス。

 史書に抹消されたレプティレス平原の戦いである。

 

「おう、来たか……」

 

 レイ子爵領ログラン村。赤龍山道にほど近く、レプティレス平原の直ぐ側にあるこの村は現在、軍を率いる者以外は無人もなった閑散とした村である。

 その村で椅子代わりに木箱に腰を落ち着けながらアーレン卿は干し肉を食らいながら我々を出迎えた。

 

「アーレン卿、その物資は……?」

「奪った積み荷さ、もっとも中にあるのは腹を満たす食料ぐらいなもんだ。奴さん本当に重要なものは厳重に管理してると見える」

「……よくそんなものを奪取出来ましたね」

「山賊の才能があるよね〜」

「黙れ頭民主主義(デモクラシー)

 

 ひょっこりと顔を出してきた前髪スカスカのヒゲ中年と漫才めいたやり取りをしながら軽口を交わす。

 

「あんなもん、投石かなにかで幌馬車の車軸にヒビでも入れれば簡単なもんだ」

 

 兵は拙速を尊ぶ。王都において兵糧攻めを受けている蛮族軍の本隊を救出するためにも落伍する部隊は見捨てざるを得ない。

 幌馬車の車軸を故障させれば、幌馬車を管理する部隊はそれに掛かりきりになる。

 当然のことながら、周りはそれに気づいても手を貸す余裕はない。

 

「分断された部隊を各個撃破すれば、物資は容易に手に入る。自明の理ってやつだ」

「山賊の才能がお有りですね」

「酷くね?」

 

 騎士の戦いではない……。いやアーレン卿は間違いではないのだ。間違いなく部隊にとっての最善であり敵にとっての最悪を常に強いている。

 勝つための鉄則を個人的な好悪を取り除いて効率的かつ合理的に進めているだけなのだ。

 ただやり方に品格が無いだけなのだ……。

 

「不満げだな、ローラ」

「……そのようなことはありません」

 

 私はアーレン卿から目を逸らし、虚飾を重ねる。

 わかっているのだ、これが私の我儘でしか無いことに。戦争は悲惨なもので、真っ向からは相手には敵わないから知略や謀で対抗するしか無いことに。

 私の嗜好だけで決められるものではないことなどわかっているのだ。

 

「団長、準備が整いました」

 「……そうか」

 

 不意に近づいてきた兵士がアーレン卿に声をかける。

 アーレン卿は齧っていた干し肉を木箱の上に置き、軽く身だしなみを整えるように首元に手をやったり、外していた篭手を身に着ける。

 

「ローラ、お前も見ていくと良い。きっと、コイツぁお前にとって必要なことだ」

 

 その姿は何時もとは違う真剣な眼差しで、私は首を縦に振りアーレン卿の後を追う。

 

 ログラン村の郊外、魔物よけの鉄柵が直ぐ側に見える村の共用墓地。

 そこには真新しい墓穴と、胸元を一突きされた遺体が六つあった。

 

「この村に残った村人だ。俺達が殺した」

「──」

 

 言葉が出なかった。

 

「そこの三人は老人、二人は病人。最後の一人は殺してくれと頼み込んできた」

 

 到底、村人の逃避行についていける体力はなかった弱き人々だった。

 

「村を捨てるってのは、今まで積み上げてきた財産を、繋がりを、土地を、思い出をすべて捨てるってことだ。裸一つで放り出されて子爵の膝下に行ったとしても生き残れるのは五分五分だ」

 

 冷たい、感情のない真顔でアーレン卿は呟く。

 

「俺しか居ねぇんだ、俺が死ねば。俺の部隊が滅びれば王国はその時点で滅びる」

 

 王国は追い詰められている。着実に…確実に。

 蛮族の包囲を受け続けている王都がいつまで持つかもわからない状況で真っ暗闇の中をアーレン卿は手探りで進みながら懸命に進み続けている。

 

「コイツらはなんの罪もない。弱いことが罪だというのなら、そんなモンはクソだ。だから、これは俺の罪だ。わかるだろローラ」

 

 アーレン卿は白い花を遺体の一つ一つに手向けながら言葉を紡ぐ。

 

「平和に暮らし、平穏に生き、なんてこと無い日常を生きて、懸命に毎日を生きていた彼らを殺した俺は……紛れもない悪だ」

 

 こんな悲しい悪があってたまるか。

 国のために奔った男を、部下のために献身した男を、自身の行動の結果犠牲になった人々を謹む男を。そんな軽い言葉で決めつけたくはなかった。

 

「ローラ、お前はまだ若い。これから色んなことを知るだろうさ。だからよ、忘れちゃならねぇ──戦争はクソでそれに加担することは紛れもない悪事だ」

 

 俺のようになるな、と。アーレン卿は私の頭を優しく撫でる。固く、ゴツゴツとした手はどれ程の鍛錬を積んだのだろうか。どれ程の労苦を歩んだのか。

 私には推し量ることのできない重圧を一人で抱えてたのか。

 

「お前は当たり前のように生きて、当たり前のように旅立つんだ。笑って恥じない生涯を生きろ。神様はそういうやつが一番好きだろうからな」

 

 お前は、天国の門を潜るんだ、と。アーレン卿は犠牲になった村の人々一人一人に祈り続けた。──人を殺す。その罪を重ねながら。

 

「良い人だよね〜我らの軍神(ヘクトール)は」

「クソメガネ……」

「パルメさんだよ?」

 

 小太り気味の腹を揺らしながら目を細める糞メガネ。

 

「あれで、焼かれるなって方が無茶だよ。知ってる? この部隊の消耗率、戦争初期からわずか二割程度なんだよね〜」

「それは……」

「大小併せて20数度はウルスと会敵してその程度で済んでいる。紛れもなくあの男は戦争の神様に愛されてるよ」

 

 人を狂わせるのは悲しみだけではない。

 希望や眩い羨望すら人々を狂気へ駆り立てる。

 

 現地支給される金品も彼の支持の根底の一つだろう。

 しかし、もっとも大きいのはヘクター・アーレンという男に対する光だ。

 勝利の栄光を、英雄譚の登場人物になるという誇らしさを、死者に対する弔いの慈悲が雑草の騎士団を常勝不敗の精兵へと変えてきたのだ。

 

「ヘクター・アーレンは救国の英雄(不可能を可能に変える男)だ」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 瞼を閉じると何時もその光景が浮かぶ。

 帝都京陽。華国の都は燃えていた。

 祖父は地方官、父と兄は役人

 郭一族は華国に仕える何処にでもある士大夫の家であった。文を尊ぶ気風の中で、己は槍術や馬を好む武辺者だった。

 

「勿体ない文沢は頭も切れるのに……」

 

 三つ上であった兄はよく嘆息していた。

 穏やかで虫一匹すら殺せない小心者。喧嘩もできず、常に誤魔化し笑いを浮かべていた兄。

 嫌いではなかったのだ。誰よりも甘く、誰よりも優しい兄だった。

 政争など柄ではない。何処か地方の小役人でもしていればよかったのだ。

 

 兄が首だけになって帰ってきた。

 上の役人から無茶を押し付けられ、その失敗を咎められ賜死を得たと言われている。

 

 既に父は亡く、母は気をやった。

 己の中には政を行う役人たちへの不審感があったことは否定できない。

 

 それから暫くして北の異民族がやってきた。遙か北の高原、オイラトと呼ばれる土地に住む騎馬民族である。

 

 北部の節度使は降伏し、官僚たちは我先に都を抜け出す。

 偉大なる中華の姿か、これが?

 

 直ぐ様中華の北部は異民族に切り取られ、己は河北と江南を分け隔てる大河の中心部たる瀋陽の守りについた。

 

 それから先は見ての通りである。

 六年もの我々の献身は無駄であった。

 

 己は国を救えなかった。英雄にはなれなかった。

 

 西へ進んだ。故国の誇りは亡く、家族も亡く、ただこの身ひとつだけ残った。

 己には理想があった。夢があった。

 かつて中華は偉大だったという。ならばそれを創ろうと。愚かな代替行為ということはわかっている。

 それでも己にはこれしか残ってなかった。僅かばかりの夢にかけ、かつての将兵を焚き付け。西へ西へ進軍する。

 

 それが、この手に残った僅かなものを拾い集めて突き進む。己の役目と言い聞かせ。

 その果てに、己等は破滅と隣り合わせの綱渡りをしている。

 

 聖女という奇跡が二度もおこって溜まるかと手綱を引く手に力が入る。

 赤龍山道の崖道。隊列はある程度縦長を取らざるを得ないが此方側についたレイ子爵領から王都に進軍するには最速の道であり、地元のものしか知らない抜け道でもある。

 

 案内役である子爵領の陪臣に導かれながら進む、この難所さえ切り抜ければ王都まであと少し。そうすれば我が軍勢の生き残る芽が出てくる。

 

 砲兵はこれからの戦の時代を変える。圧倒的火力は城門を紙屑にし、歩兵の戦列に穴を開ける。

 遠距離から一方的に敵を打ちのめす。そこに誇りはなく、冷徹な屍の山という結果を残す。兵数の有無でなく財貨に裏打ちされた国家の体力こそがこれからの戦争を大きく変化させると己は予測する。

 

 今は騎馬部隊の補助でしかないこれはいずれ戦争の主軸になる。そしてそれは中華の偉大さを表す一手となるはずだ。

 本隊を救い、王都を陥落に追い込めばローデヴェイクを落とせなかった失敗を補える。さすれば首の皮も繋がる。

 

 切り立った崖道を降る。山道を抜ければレプティレス平原という平野部に出る。安心は出来ないが、子爵領の領都まで足を運べたのなら馬の補給と兵を休ませねばならない。

 最悪は公孫達のように幌馬車と騎馬部隊による高速輸送を考えねばならない。

 

 だが、それも難しいだろう。騎馬兵力の殆どは本隊が受け持ち、此方に居た騎馬兵力はローデヴェイクや公孫達に与えたもので殆ど機能していない。

 

 荷駄車のいくつかは隊列から落伍している状況や意図的な泥濘や土砂崩れといったトラブル。此方の歩みは遅々として進まず、将兵には焦りの感情が浮かぶ。

 

「よくない傾向だ……」

 

 指揮官としての勘がそう囁くのだ。無論、表情には出さない。

 顔に出して指揮官が狼狽えれば将兵は不安がるだろう。そしてそれは己の挑戦に付き合わせた将兵たちに対する裏切りになる。

 

 奇襲に対する備えはしてきた。第一に己等が守るべき大砲は荷駄隊を合計五つに分け、兵糧の輸送に混ぜるように置く。

 一隊が奇襲されても破壊される大砲は五つないし六つ。奇襲とて何度も使えるものではない。

 

 己は大砲の利点と欠点を理解している。

 だからだろう、己以上に大砲を扱えるものが居ることが頭から抜けてしまったのは。

 

 ──雷鳴の如き轟音が響き渡る。

 この音を己はよく知っていた。

 

「……そうか、公孫達は敗れたのか」

 

 山道から真向かいの断崖。そこには三門の大砲があった。

 

「赤龍山はかつて活火山で、乾燥した石灰質の土壌なんだ〜」

 

 今は火山活動を停止しており、人々は子爵領の開拓によって山間に住むように変化する。山林付近に住むとなると平地のような農耕主体ではなく、山の恵を利用した産業を営む。

 

「ログラン村の主要産業は林業だよ。祖先が開拓するために植林した杉といった人工林はあまり山間に深く根を張るとは言い難い」

 

 クリストフ・パルメは知っている。白砂(シラス)型の地質の脆さと人工林による土壌の弱体化。それは非常に土砂災害を引き起こしやすい地質であることに。

 

「外れたか……大砲は厳密な数学知識がなければ当たるものではない」

 

 クリストフ・パルメの指揮により放たれた大砲は郭文沢の部隊から大きく外れ、崖道の斜面を大きく削る。

 

「満点だ、パルメ」

 

 崖の斜面が崩れ落ちる。それは崖道の下にいる部隊を大きく飲み込む土石流と化してウルスの軍を横薙ぎに打ち据える。

 

「し、将軍。部隊が……部隊が分断されました……!!」

 

 外してなどなかった。敵の狙いは元から土石流による軍の分断にあったのだ。

 

 山道をあえて渡らせて、兵力を半数削る。

 緻密な計算と冷徹な戦略に基づいた行為だ。

 後方に残った大砲は十門程しかないとはいえ、兵糧を運ぶ荷駄の多くと分断されてしまった。

 

「さて、野郎ども。逆落としの時間だ…!」

 

 そしてさらに追撃を加えるように敵の伏兵が姿を見せる。

 土砂崩れによってなだらかになった崖道を数百の森に潜ませていた伏兵が落下しながら降る。

 

「狼狽えるなァッ!!」

 

 後方にて部隊を荒らされながらも己は叫ぶ。

 奇襲を決められてしまった。あれほど見事に決められたのだ。反転して対応するには立て直す時間はない。

 

 大砲の欠点は知っている。それは再装填に時間がかかることだ。脆い地盤の上で戦っている状況、此方の大砲は野戦にて使えないこと、敵の再装填で道そのものを潰されてしまえばジリ貧になるのは此方であるということ。

 

「敵に横腹を突かれて狼狽えるなど貴様らは真に戦士か!! 雑兵の相手をしている時間など無いぞ!! 進めッ!! 一心に王都まで突き進むのだ!! 王都に着きさえすれば己等の勝利は揺らがない!!」

 

 最適解は、奇襲部隊の相手をしないこと。当初の目標を完遂すること。

 

「心配はいらん! なんのために後方にアンドルシュ将軍を置いたというのだ!! 貴様らはこの郭文沢を信じ、着いてくれれば良い!!」

 

 破綻しかけた士気が戻る感覚がある。

 舐めるなよ、たった一度の奇襲で崩れるなら己はこんな場所まで来ていない。

 

「叔通っ!」

「ここにっ!!」

殿軍(しんがり)を頼む」

「承りました、郭将軍」

 

 部隊の足を早め、早急に赤龍山道を超える。後方から追撃が来ようと殿軍に残した楊叔通が文字通り盾となり死ぬまで戦ってくれる。

 

 敵の再装填が終わる前に最速で山道を駆け下りる。平野部に出れば戦況は五分になる。

 楊叔通は死ぬだろう。だが、それと引き換えに20門の大砲と六、七千の軍は生き残る。

 

 畜生の如き考えだが、兵数は減っても構わない。それこそ大砲さえ本隊に届けることができれば全滅したとしても良いのだ。余計な食い扶持は少ないほうが良い。

 

 大砲を運用する華人技術者さえ生きているのなら、どうとでもなる。王都の城門を破壊したあと、蓄えていた財貨を掠奪すれば何度でも建て直せる。ホスローの二の舞いになるが致し方ない。

 

「山道を抜けるぞ! 己について来いっ!!」

 

 士気を高めるため最前線にて馬を駆ける。指揮官先頭は危険は多いが効果的でもある。蛮勇に頼らなねばならぬ状況が歯がゆいが打てる手はこれしか無いのだ。

 

 そうして山道を超えた先。

 ──ありえぬものを見た。

 

 それは城であった。幌馬車を改造して作られた荷車の城塞だった。

 山道を抜けた我々に対して半円形を描くように作られた出城である。

 

「総員、止まッ──」

「進めっ、我らの勝利はあの道の先にっ!!」

「退けぇ! そのような障害物、我らオイラトの馬術では障害にすらならんっ!!」

 

 号令を掛ける前に、飛び出していく若きオイラトの騎馬民族の若者。

 

 焚き付けすぎたと、後悔するよりも早く。真っ直ぐに荷車城塞(ワゴンブルク)に向かって突撃した若者達が急に落馬し転げ落ちる。

 

「──郭文沢。あなたは名将だ」

 

 荷車城塞の隙間から、見覚えのある若き騎士の姿が見える。

 

「クリストフ・パルメの知略を、アーレン卿の奇襲を受けて。潰走させることなく軍の体裁を保っている。本物の名将であることの証左だ」

 

 あの男だ。ローデヴェイクにて我が軍の騎馬部隊を尽く潰した死兵の青年だ。

 よく見れば、転げ落ちたオイラトの青年たちに絡まる光に反射する鉄の網が見える。

 

「貴方をここで殺す。貴方が生きていれば、必ずやこの戦訓を糧にしてより強大な砲兵部隊を創り上げるだろう。それはこの国にとって脅威だ」

 

 これは攻城戦だ。野戦ではない。

 野戦築城とでも言うべき、荷車の城壁、騎馬殺しの鉄条網、半円形による包囲殲滅陣。そして最後のピースは──

 

「貴方を殺す。貴方はここで死ぬんだ。何も残らず、何も残さず、僕らは貴方を愚将として貶め、大砲という戦争を変える時計の針を押し留める」

 

 ──大砲による十字砲火(クロスファイア)

 

 こういう使い方があったのか。

 己は敗北とともに感心を得る。

 

 ──本物を見た。

 己のような偽物でない。本物の英雄を。

 己が出来なかった救国を成し遂げた男が居たのだと。

 

 願わくば、一度相まみえたかったと心残りを残して。

 己は頭蓋を砕かれ脳漿を撒き散らしながら、意識を奪われた。




元ネタは史天沢×郭侃✕呂文煥=郭文沢です。
本隊が追い詰められた結果、戦略を変更せざるをえなくなり。
高速輸送部隊を作り何十に保険を張りながら慎重に軍を進めるもパルメさんの土砂崩れとゴリラの鵯越の逆落としと義兄上の荷車城塞(ワゴンブルク)と鉄条網による騎馬殺しの四重のハメ技で最終的に脳筋にせざるを得なくしてようやく殺せました。
作中で五指にはいる強キャラだったと思います。
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