乙女ゲー転生モノに出てくる性悪お花畑転生者女を曇らせてみたwww   作:見てアホ女がいるよ! かわいいね

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※ネタバレ
上司(ゴリラ)はこの後ものすごいスピードで処刑されてザマァされます


上司に「天国の扉を叩きに行く」といわれ追放された中年犯罪者、八歳のロリに拾われる

「共和制は嫌いよ! だって共和制民主主義は私を特別にしてくれないもの!!」

 

 ウルスとの戦争が始まる前、ゴリラから飛び出た質問に私は鼻で笑いながら否定した。

 

「否定の仕方が俗物そのものだな、おい」

「はぁー!? 女の子はね、こんな蛮族ばかりの世界で一人で生きれるほど強くないのよ! 見なさい、この白魚のようなか弱く美しい腕を!!」

「俺のほうが太い、ちゃんと飯を食え」

「そういう勝負じゃないわよ!!」

 

 私がこの美しい御手をだすと、ゴリラは謎の対抗心を出して、ごんぶとい腕を出してくる。私の好みからすると筋肉がつきすぎかなーと思う。

 

「そもそも、階級制度の破壊はメリットよりデメリットが大きいわ。ウチの王国の政治制度は貴族寡頭政。だいぶ共和的よそもそも」

「そうなのか?」

「はぁー! これだから森で生きてるゴリラは!! このシティーガールである先進的な私の話を聞かせてあげようじゃない!!」

 

 かわいそうなゴリラ。森で遊んでて一般的な教養がないのね。

 哀れなものを見て仏心を出す私はなんて素晴らしいのだろうか。おい教会、いますぐ私を聖女認定しろ。

 

「そもそも、王国の政治制度は腐敗してどうしょうもなく破綻してるのは知ってるわよね?」

「お前、いますぐ不敬でぶっ殺されるぞ?」

 

 ちょっと何言ってるかわからないですね。

 

「一所懸命って言葉があるように、人間は元来土地に縛られて生きているわ。大地の糧(農作物)がなければ生きていくことが出来ず、家屋や農地といった財産はすべて土地を基本としているわ。住み慣れた土地、自分で耕した農地、居場所……故郷とも言うわけ。おらが村っていうのは馬鹿にできないわよ」

「……いまいちピンとこねぇ」

「そりゃアンタが法衣貴族の末席だからよ。ぶっちゃけるわね、領地貴族なんて土地持ってる野蛮なクソ国人でしか無いわよ」

「お前、殺されるのか?」

 

 ゴリラは困惑した素振りを見せる。

 理解力がないのかな? 類人猿だから仕方ないのかもしれない。

 

「土地は力で数で財よ。これほど分かり易いものはないわ。何千人を食わせられるか、何百人を戦争で動員できるか。公的ヤクザみたいなものね」

「お前、消されるのか?」

「人が死ぬ前提で話し進めるの辞めてくれない?」

 

 だってそういうものだから仕方ないじゃない。

 

「貴族とか高貴とか言ってるけど、結局のところモノをいうのは力よ。権力でも財力でも暴力でも、持ってるやつが強いわ」

「……まあ、そいつは否定できねぇな」

 

 世の中は持ってるほうが強い。

 人は生まれを選べないしそれを覆すのは天稟といった常識を乗り越える才覚と運だろう。

 

「野蛮だからこそ、強かった。強かったからこそ取り込んだし、国家という共同体や群れることによる利益を鑑みて貴族という地位や階級制度という社会が生まれる。王族というのは貴族同士が纏まるための調停機関であり、統治を合理化するために権威をつけた王冠だった」

 

 それがリュフト王国の成立よ、と私は締めくくる。

 

「今の時代、そんな野心と血に濡れるのを恐れない貴族がどれほど生き残ってるかしら? 私の見立てじゃ辺境伯家とか余裕のない木端の辺境小領主ぐらいじゃないかしら?」

 

 貴族は平穏に生きすぎたのだと私は嗤う。武力と生産力を骨子にして文化文明を二の次と考えていた封建領主は王国の設立により、それぞれの文化が混合し始める。

 そうなると法の整備や儀礼といった常識というものが形作られる。

 礼法や立ち振舞い。元々貴族とは面子商売なのだ。舐められたら恥と思う心理があり、領主は領地の代表でもある。周囲の領主たちから孤立すれば交易や婚姻にも差し支える。

 

「ガチの蛮族になるのを辞めて表面は紳士たること。高貴であることを求めた結果、貴族は弱体化したし、階級制度の結果、支配階級と被支配階級に分断することで支配層の領主と非支配層の富農や商人、陪臣騎士といった者たちと明確な区分別けができる」

 

 同格となるのは領主という地位にある貴族階級。領地という共同体の代表であった過去から貴族階級に位置する共同体の一員という意識に貴族たちの意識は変化する。

 

「同じ共同体に居る身内よ。喧嘩売ってぶっ殺してどうにかなる問題じゃなくなるわ。対話や交渉で話をつけて、どうにもならなくなったら王室という調停機関や大貴族という第三者機関に判断を委ねる。牙が抜けるのも当然よ」

 

 そしてそれらを味方につけるために賄賂や策謀といったものが渦巻き、政争へと戦いの舞台を変化させる。

 

「そして、結局は腐敗にたどり着く。道理ね」

「……時々、お前はとんでもなく賢くみえるんだが?」

「はーっ!? アンタ私のこと馬鹿だと思ってるの!? 心外ね、これでも王国の貴公子たちの心を射止めるために王国の制度や成り立ちを調べるのは至極当然なんですけど!?」

「その努力は素直に関心だわ、すげー女」

「もっと褒めて。私はチヤホヤされて伸びる女よ」

 

 ぐふふ、と私は胸を張りながらゴリラのやるじゃねぇか。の素直な称賛を身に受ける。き、気持ちいい……!

 

「貴族は明確に支配階級と被支配階級を区分して見てるわ。そんな状況で共和制? いまからお前ら全員被支配階級と同格な? って言われたら王が狂ったと思われて首をすげ替えられるのがオチよ」

 

 人間は見下されてきたやつと同じ扱いをされるのは嫌がる。というよりも被支配階級と同格である(人間以下の言葉を操る猿扱いされる)ことを認めることが出来るとは思えない。

 

「プライドの問題もあるし、既得権益もそう。なにより貴族階級にまるでメリットがない。共和制が三方良しとなる制度なら誰だって共和制を選ぶわ。でもそうじゃないでしょ?」

「共和制は貴族を特別としない……か」

「そうね、結論そこに辿り着くわ」

 

 長く話したために喉が乾き、私は紅茶を口に運ぶ。

 あー転生者特有の知識マウントとるの気持ちいいわぁ!! これが猿に叡智を与えるという行為の素晴らしさなのね!

 

「それでも持たざるものからすれば魅力的に見える。中身は兎も角ね」

 

 耳障りのいい言葉だからこそ、人は騙される。

 自由と平等、そして権利。共和制国家において付き纏う言葉であり、人を動かしうる重大な麻疹ともいえる。

 

「民主共和制を実現するには二つの壁を乗り越えなきゃならない。一つは貴族階級。そしてもう一つは教会の知識独占よ」

「教会?」

「教会ってのは宗教機関であるのと同時に教育機関であり学術機関であり、司法機関であり、武力装置であり、国家でもあるわ」

 

 この世界の、そしてこの時代の宗教機関は大きな力を持っている。

 

「教会寄進地と言われる場所は王国内にも多々あるわ。王国が聖教に寄進した土地であることを明確にして聖教が運営する自営の荘園よ」

「それっておかしくねぇか? 領地貴族からしたら土地を取り上げられてるってことじゃねぇか?」

「逆よ、面倒な土地を教会に押し付けることができるのは大きなメリットになるわ」

 

 私は机に羊皮紙を広げ、羽根ペンで円を描く。

 

「例えば、ウチのウォルコット伯爵家だけれども仕えてる騎士にマーシュって家があるわ」

「おう、銀髪の兄ちゃんだろ。知ってる」

「彼の家はウォルコット伯爵領に土着化した教会司祭の末裔よ。いまでも教会の管理と世話をして教会寄進地を領地としている神官騎士よ」

「……?」

 

 ゴリラは困惑した表情を浮かべる。

 

「ウチに仕えながら、神にも仕える。宗教は人々の生活には切り離せないモノよ。だったら取り込んでしまうのが手っ取り早い」

「それってアリなのか? 教会は何も言わねぇのか?」

「教会にもメリットがあるわ」

 

 そう、これは双方にメリットがある。教会には知識があり、領地貴族には力がある。

 知識の見返りとして教会は保護を受けられる点。そして、教会の思想を民衆に広く布教しやすくなり、その土地の領主に布教活動を合法なものとお墨付きを得るためである。

 

「神官を抱えている家なんていくつもあるし王家だって利用してるわ。戴冠のときに教国から偉い枢機卿を呼んでるじゃない。それと同じことよ」

「うわ、すっげぇ分かり易い。ようはあれか、権威をやるから権利をくれってやつか?」

「物わかりのいいゴリラね。そういうことよ」

 

 もっともそれだけではない。教会寄進地の管理する陪臣はいわゆる教会とのパイプ役でも有るし、外交官でもある。また、そもそも僧侶は知識階級に属する存在だ。

 麦の実りや河川の整備、産業の管理といった俗世間においても利益になる知識がある。政を行う実務官僚としても優れているのだ。

 これを手中に収めることは領地の運営を行うのに重要な鍵となる。現に教会の地位ある司教にして公爵家に仕える家臣を兼ね備える人物もリュフト王国にチラホラと居る。

 ほかにも領地の境目などの係争地帯になりそうなところをあえて教会寄進地にして貴族間の争いが起きないようにするなんて方法で寄進地を利用する貴族も居る。

 前世の世界だって同じだ。今川義元には大源雪斎がいたし、フランスのルイ13世にはリシュリューがいた。

 聖職者でありながら俗世間の君主に仕えることは矛盾はないのである。

 

「でもねゴリラ。知識を与えるってことはどのように教育するかも決められるってことなのよ」

「……どういうことだ?」

「察しが悪いわね。いい、教育ってのは簡単に言えば自分の都合の良いように人物を創り上げ、洗脳することと同義なのよ」

 

 神官は知識人であり教育者を担う。これが繫がってしまうと最悪の場合、貴族の跡取りが教会にとって都合よい人間になってしまうということだ。

 

「教会の思想に被れて廃嫡になったり消された貴族の元跡取りなんて探せばいくらでも出てくるわよ」

「お前やっぱり消されるんじゃ……」

「はいはい、で問題はこれからなんだけど……」

 

 私は深くため息を付いて、顎に手をおいて横目でゴリラをジトーっと見つめる。

 

「領民に最低限の読み書きや地主層に農業知識を教えたり、冠婚葬祭でいつも世話をしてもらうのって誰かわかる?」

「……領民は教会の思想にどっぷり浸かってるってことか?」

「正解……」

 

 支配階級と被支配階級に分かれる民衆と貴族。

 民衆に思想をどっぷりと浸からせている教会勢力。

 

 民主共和制はこの二つをどうにかしなければならなく、そしてこの二つに明確に喧嘩を売る政体なのだ。

 

「両方に共通するのは知の独占よ。そんな明確な優位性を簡単に溝に捨てるほど、貴族も教会も軽くはないわ。だから、その独占をどうにかしない限り、民主共和制はまともに機能しないわ」

 

 私はやれやれと首を振りながら、ゴリラに知識マウントの成果を披露する。やれやれ、私またなにかやっちゃいました?

 ゴリラは瞳を閉じて、私の言葉をゆっくり咀嚼して口を開く。

 

「……どうしてそこまで考えが及ぶのに、デズモンド殿下(第二王子)と出会ったときがアレなんだ?」

「それはね、女の子にも性欲があるからよ」

 

 ヤバいと思ったが性欲が抑えきれなかった。そういうことだって女の子にも有るのだ。

 

「眼の前にイケメンが現れたら抱いてもらいたくなる!! 人として当然のことよ!!」

「頭かりー女……!」

「それに頭働かすの面倒なのよね。ほら私って可愛いじゃない? 男ってのは顔が良くて自分より馬鹿な女が好きじゃない?」

「俺馬鹿だから良くわかんねぇけどよ、それって偏見なんじゃねーの?」

 

 男なんて生き物はみみっちぃプライドに支配されて生きているものなのだ。王族となればまあまわりから愛されて来たのだろう。

 ただのボンボンじゃないわよ、ボンボンを超えたド級のボンボン。ドボンボンなのよ!

 

「思春期の男なんてみんな猿なのよ。シコることしか考えてないわ。真実の愛なんて結局はヤラせてくれる手頃な女に性欲が負けるだけのことよ。それに乗っかって既成事実を作ることが悪いっていうのかしら?」

「俺は今本物の悪女をみているのかもしれねぇ……」

「お、やるのか? 我転生者ぞ? この世界のヒロインぞ?」

 

 私が転生したのは悪役令嬢憑依モノだった…? それだと第二王子と婚約してないのは明確なバグなのでは?

 原作がわからないから私の立ち位置もわからないのよね。たぶんどっかの乙女ゲームに転生したんだとおもうんだケド……。

 くそっ、どうして私にキラキラの貴公子を攻略させてくれないんだ……!

 

「ゴリラはもしかして攻略を邪魔する鎖マンだった…?」

「俺馬鹿だから良くわかんねぇけどよ、とんでもねぇ侮蔑を受けてるんじゃねぇか?」

 

 君のように勘の良いゴリラは嫌いよ……。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 骸が並ぶ。崖道の下にはあらぬ方向に首や四肢が折れ浮かぶ骸が川を赤く染め、崖道には踏まれて圧死した死体の山が築かれる。

 赤龍山道の逆落とし、並びに山道の出口であるレプティレス平原の戦いは此方の圧倒的勝利を収めた。

 

「俺達の勝利だ」

 

 アーレン卿はいつもとは違う、気が抜けたような声で宣言した。

 20000対1000。兵力差20倍のそれを覆し、一万の軍勢を殲滅した手法。士気を挫き、敵司令官をピンポイントに潰し、地形を利用し、荷車城塞(ワゴンブルグ)という画期的な新戦術を秘匿しここ一番でぶつけた。

 

「良くやった、お前ら。俺達の戦いはこれで終わりだ」

 

 アーレン卿は平原にて兵士たちを労う。

 

「終わり……ですか?」

 

 私はふと湧き出た疑問をアーレン卿にぶつける。

 

「俺達の仕事は王都を包囲するウルスの殲滅じゃない。王都が陥落しないようにウルスの作戦を潰し、ウルスを自壊させることが戦略の骨子だ」

 

 総勢10万の大軍。それを打ち破るためにアーレン卿が選択したのは直接の目的の撃破ではなく、遊撃として立ち回り只管に時間を稼ぐことだった。

 

「敵の有利な点は10万の軍勢という圧倒的兵力だ。弱点は大軍故の小回りの利かなさと物資の負担が大きいことだ」

 

 だからこそ、アーレン卿は補給線をズタズタに切り裂き、相手の物資補給の要を潰し、その果てにローデヴェイクを包囲する別働隊を動かさざるを得ない状況とした。

 

「それにな、王都の奴らが俺達に一点賭けするような博打好きでもねぇんだ。第二の保険は打ってある」

「保険……ですか?」

 

 アーレン卿頷き、神妙に口を開く。

 

「帝国軍が動いた」

「──ッ!?」

 

 西大陸最強にして最大の大国。

 隣国オストマルク帝国。それが動いたという発言は私にとって十分過ぎるほどの衝撃だった。

 

「オストマルク帝国東部方面軍、総勢5万の軍勢だ。率いるのは若かりし頃の英雄王としのぎを削った『隻眼の魔女』クヴェストラヴァ・ヤヌーだ。万が一負けるとしても、そうひどい負けにはならんだろう」

 

 私は身震いをする。『隻眼の魔女』クヴェストラヴァ・ヤヌー帝国軍大将。平民出身かつ女性という圧倒的不利な性差と身分でありながら貴族交じる帝国最強の常備軍である帝国軍にて初めて将官となり、元帥に次ぐ軍事の最高階級である大将に任じられた女傑である。

 私のような女らしくない女にとってクヴェストラヴァ・ヤヌーという名前は密かな憧れと尊敬に値する戦う女性のシンボルとも言える。

 

「動かしたのはウチの第二王子だ。この援軍は、戦争を終わらせる鬼手になる」

「……それって」

 

 ──王国の勝利ということである。

 

「戦争の終わりだ」

 

 実感はない。私達がやったことはウルスの別働隊を散々に振り回しただけだからだ。

 

「鉄槌のアンドルシュは?」

「決戦には間に合わん。大砲で散々に打ち払った山道を超えるには大砲を捨てなきゃならん」

 

 奇襲によって大砲の強撃を受けた山道は土砂崩れによってまともに馬車など通れない道に成り果てていた。

 もう一度山道を進もうとしても、身重な大砲では動けない。いまから大街道に進路を変えたとして到底王都近郊の決戦には間に合わない。

 

「──『雑草の騎士団《ナイト・オブ・ヴィード》』は解散だ」

 

 静かにヘクター・アーレンは私達に告げた。

 

「奪った掠奪物は土産だ、郷里に戻って好きに使うと良い。お前たちを阻むものはなにもない。好きに生きろ!!」

 

 高らかにヘクター・アーレンは部隊の解散を告げた。

 

「アーレン卿、貴方はどうするの?」

「王都に戻るさ、最後の仕事が残ってるんだ」

 

 嘘だ。王都に帰ればアーレン卿がどうなるかなど火を見るより明らかだ。

 良くて追放、悪ければ投獄もありえる。

 私達は見てきた、見てしまったのだ。この男が勝つためにあらゆることに手を染めてきたことに。

 

「それは認められないよ我らの軍神(ヘクトール)

 

 一瞬、その声を発した人物が誰かわからなかった。

 いつもの愛想笑いを潜ませ、眉間に皺を寄せ、目元はただ真っ直ぐにヘクター・アーレンを見つめる。

 

「──君は、共和国の英雄になれる」

 

 クリストフ・パルメは断言した。その言葉は王国に対する明確な挑戦であり、明確な反逆だった。

 

「俺は英雄じゃない」

「いいや英雄さ。君は、国を救った英雄だ。おれは知っているぞ。おれは見ていたぞ。最初から、ずっと……」

 

 おちゃらけた仮面を脱ぎ去って、クリストフ・パルメはアーレン卿に叛意を促す。止めるべきだ。貴族として今すぐこの男を叩き切るべきと、槍の柄を握る力が強くなる。

 

「君は、新しい時代を作れる人間だ。世界に流される大多数の凡人じゃない、世界を回していく少数の秀才じゃない。世界を変革して新時代を創り上げられる天才だ……!」

 

 その言葉に、一抹の同意があった。だからこそ、私は動けなかった。

 理解してしまったからだ。たった一人、あらゆる罪科を背負って処刑台に向かう男が生き残れる方法だったからだ。

 

「必要だったんだ、民主共和制を進めるためには偉大な英雄がいる。ヘクター・アーレン。君は英雄として生きるべきだ!!」

「1ミリも興味が湧かねぇな」

「民主共和制の欠点は理解している。それは参政権を担う民衆たちによる政治知識と興味の欠如だ!」

 

 民主共和制は国民一人ひとりに主権を委ね、議会という集合知による議会制度を用いて運営する政治である。

 しかし、クリストフ・パルメはこの政治制度には限界があることを知っている。

 

「平等と自由が理想論だと言うことは理解している。真に自由民主主義を行うには時代が追いついていない。今無理やり行ったところで衆愚に陥り、民主共和制は最悪の愚民政治と歴史に名前を刻むだろう。我らの軍神(ヘクトール)、だからおれは自由を捨てる」

 

 クリストフ・パルメは狂信者である。既存の政治体制に絶望し、共和制という理想に夢を託した夢想家であった。

 だが、そんな彼がたった一人の男と出会い新しく作り上げたのは──

 

「おれは君を頂点にした軍事独裁型の共和制国家を作るべきだ。我が軍神(ヘクトール)、いやヘクター・アーレン。君は最高最強の独裁者になるべきなんだ」

 

 大きく声を張り上げ、クリストフ・パルメは興奮を露わにしながら一歩、また一歩とアーレン卿に近づく。

 

「この国は亡国寸前だった、だからこそ、貴族や民衆の国防意識が高い瞬間だからこそ軍権が重要になる。軍によって圧倒的な暴力を背景にして軍事国家を設立する」

 

 クリストフ・パルメはぐるりと視線を周りに向け、嗤う。

 

「帝国式の軍事階級を導入するんだ、あれは極めて実力主義的なモノだ。地縁や血縁ではなく優れた指揮官、優れた軍政家。能力と地位による誤差はゼロじゃないが極めてイコールだ」

 

 その言葉に、私は魅入ってしまった。

 

「上意下達の組織だからこそ、教育は大事だ。下級指揮官を育成する学校と上級指揮官を育成する学校がいる。仮に下士官学校と士官学校として、身分に囚われない個人の軍事能力や実務力を背景にした将軍を育成する。──真に優れた人間が上に登れる、賢人政治が可能なはずだ!!」

 

 軍事知識、国際政治、数学や歴史それらを兼ね備えた人物の育成。そしてこれは特別なものではない。

 凡人でも努力すれば身につけられることの出来る汎用的な能力でしかない。

 決して、特別な力や特別な血筋やそんなものに付随するものではないのだ。

 

「平等だよ、みんな平等に戦える。そして、そんなみんなを守れるのは君しか居ない。ヘクター・アーレン。君は最強だから!」

 

 圧倒的な強さで、軍事独裁制という新しい政治制度を守れるのは卓越した戦略理解度と作戦構築力、鉄壁の統率を可能とする生来のカリスマ。そのすべてを持っている軍神の寵愛を受けた天才(ヘクター・アーレン)しか居ないのだ。

 

「世界の時計の針を進めよう!! 新しい時代の幕を開けるんだ!! ヘクター・アーレン、おれと新時代を創ろう!!」

 

 それはクリストフ・パルメにとっての夢だったのだろう。希望だったのだろう。或いは運命とそう信じたに違いない。

 何かが欠けていれば、ヘクター・アーレンはこの手を取っていたのかもしれない。

 

「悪いなパルメ。その道を選ぶには余りにも血が流れる」

 

 ヘクター・アーレンの優しさは、他者に対する博愛はそれに優ってしまったから。その手を取ることはなかった。

 

「──それが、なんだって言うんだ……」

 

 クリストフ・パルメの顔が歪む。顔を赤く染めて、パルメはアーレン卿に掴みかかった!!

 

「それがどうした!! そんなもの君がいればどうにでもなる。殺せば良い、殺し尽くせるだろ!! 君なら、反対するものをその力で捻じ伏せられる!!」

 

 ヘクター・アーレンは軍事の天才で、戦争における神様で、その言葉は事実だろう。

 

「君に逆らうやつなんか出ない! 出ようはずもない!! 英雄になれ!! なるって言えよ!! なあ!!」

 

 もう、論理も何も無い。ただの感情論だ。

 

「おれは、おまえに、死んでほしくないんだよ!!!!」

 

 それでもその気持ちが痛いほどわかってしまう。

 

 私がこの男が嫌いな理由がよく分かった。同じなのだ、大切なモノを今まさに失いそうな。私も失ったからこそよくわかってしまう。

 

「夢を見ちゃ、悪いのか? 陪臣騎士の小倅が、夢を見ちゃ駄目なのかよ?」

 

 初めて、この男の素を見てしまった。気色の悪い笑顔の画面の裏側を覗いてしまった。

 ナニカに打ちひしがれ、世界に絶望し、理想に逃避した。それがこの男なのだろう。私が歩んでしまうかもしれない成れの果てなのだろう。

 

「パルメ、ありがとな。だから、俺の夢の話をしてやる──」

 

 その夢はありきたりで平凡で、なにより尊い夢だった。

 波乱もなく悲しみもなく、凪のような平穏を愛し、日々の生活の中で小さな幸せを見つけ、凡庸に生き、そして死ぬ。

 物語にすれば山も谷もオチもない、そんな駄作のような夢。

 

 もしも、もしもがあるなら。この男は騎士にならず、小さな都市の小役人として生きて、そして死んだだろう、と。

 英雄には程遠い生涯をアーレン卿は誇りながら死ねただろう。

 

「王政とか、共和制とか。正直俺はどうでもいいんだ。俺はさ、その時代に生きる人間が穏やかで笑って暮らせれば、それが最高なんじゃねぇのか、って思ってる」

 

 そしてその時代を守れたのなら、ヘクター・アーレンは自分がその柱石になっても構わないのだ。

 

「俺は、天国の扉を叩きに行くんだ。その扉をくぐる資格は俺には無いだろうけど、それでも道を見失う人や天国の扉をくぐる人を導いてやりたい」

 

 聖教の言葉の一説を、アーレン卿は彼らしく弄りながら笑う。

 

「死ねば良いなんて言うなよ、民主共和制ってのは力のない人々のための考えだろ? 可能不可能はともかく、立派な考えだ。全部が間違えってわけじゃねぇだろ?」

 

 だから胸張ってちゃんと背筋を伸ばして生きろ。神様はちゃあんと見てくれてる。

 そう、アーレン卿は呟き、パルメの背中を二、三軽く叩く。

 パルメは堪えきれず、涙を流してそのままうずくまった。

 

「犠牲だなんて考えるなよ」

 

 私の心を見透かしたかのようにアーレン卿の瞳は私を捉えていた。

 

「ケジメつけに行くだけだ」

 

 それが、アーレン卿の最期の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──アーレン卿は特別な人だった。

 ──姉上は特別な人だった。

 

 誰かに頼られ、何かを為し。意思を貫き通せる人だった。

 

『わたくしはね、素敵なお嫁さんになりたいの』

 

 その夢を私は覚えている。

 

『お前は当たり前のように生きて、当たり前のように旅立つんだ。笑って恥じない生涯を生きろ。神様はそういうやつが一番好きだろうからな』

 

 何よりもそう生きたかったのは貴方であろう、と。

 

 ──特別が彼らを殺したのだ。

 抜きん出た才覚が、突出した能力が、彼らを駆り立て殺したのだ。

 

 特別が彼らを殺すのなら、私はその特別を滅ぼさなければならない。

 

「起きなさい、クリストフ・パルメ」

 

 私はうずくまるパルメに近づく。

 民主共和制は階級制度を破壊する。民主共和制は宗教に対する分離を意味する。民主共和制は特別を廃した普遍的な能力によって形作られる。

 

「特別を殺すためには、普遍で凡庸な新しい理を作らなければならない」

 

 平等な世界を作り、平等な政治制度のもと。

 普遍の理を世界に敷く。

 

「──私に民主共和制を教えなさい」

 

 特別という犠牲(姉上やアーレン卿)を生み出さないために。




 ヒロイン面してますが、元々パルメさんは賑やかしで生み出したギャグ要員です。追放モノの主人公ではないです。
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