スターに捧ぐスペシャルメニュー   作:ナメクジ次郎

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レモンジェラート

 スターとは、人々を熱狂させる存在である。

 歌で、踊りで、お芝居で。そして時にはポケモンバトルで。その一挙手一投足でもって魅せつけて、観客を虜にする。

 華やかで煌びやかな非日常の象徴。別世界の人間。

 けれどもそんなスターにもプライベートは存在するし、帰る家もある。

 

「つっかれたー!」

 

 そんな声を上げながら、緑とライトブラウンの特徴的な髪が揺れる。

 トレードマークの帽子とステッキをラックに掛けながら帰宅するのは今や誰もが知る大スター。ミクさんだ。

 

「お疲れ様。今日はいつになく疲れてるね」

「この前の公演も大成功だったからね~。稽古も仕事も増えてお休みなんて全然取れないから大変なんだよね」

「それで仕事の日なのに俺の事呼んだんだ。しかもカフェの営業中に」

「悪かったって~」

 

 急に呼んでごめんね~。なんて軽く言っているが、本当に、本当に急だった。

 仕事終わりに電話ひとつで呼び出される気安い関係。相棒のポケモン達と共にスターの座に登り詰めた彼女が俺を呼ぶ理由は、一つだ。

 

「それで、私の専属シェフは今日は何を食べさせてくれるのかな?」

 

 そう、ミクさんが疲れた時とか、ご飯を作るのが大変な時とかそんな時に俺の料理を求めて連絡してくる。結構な頻度で。

 頼られるのは嬉しいけど別にミクさんの専属ではないんだけどな……と思いつつも口には出さない。

 前にそう言ったらたいそういい顔で「いずれ君の方から頼んでくるようになるんだよ」なんて言い出して少しだけ怖かったので、同じ轍は踏みたくない。

 なんて余計なことを考えながらも、手持ちのフロストロトムに冷やしてもらっていたある料理を取り出す。ありがとね。と一声かけると自慢げに笑った、かわいい。

 

 いつものようにテーブルに座る彼女の目の前に料理をサーブする。今日は仕事終わりに会食があると聞いていたので軽いものを。

 二段重ねのレモンジェラートに、チョコレートで作った目や鼻や口。電気袋はイチゴのソースで表現して、耳はウエハースの先端にチョコをつけたもの。

 でんきタイプの中でも人気が高くて誰でも知っているあのポケモン、ピカチュウを模したジェラートだ。

 

「これって……」

「前にパルデアで仕事した時に気になってたみたいだから。研究して作ってみたんだ。結構上手くいったでしょ」

 

 少し前、パルデア地方での巡業中に彼女が見つけたメニュー。どこにでもあるファミリーレストランのデザートの一つでしかないけれど、でんきタイプ使いのミクさんの琴線に触れまくっていたらしい。

 しかし悲しいかな、巡業中のスターがファミレスで食事なんてお忍びでだって難しい。誰かに気づかれてしまえばたちまち騒ぎになって食事どころじゃなくなってしまう。

 そんな理由もあって涙を飲んで諦めたデザートをなんとか模倣して、やっと納得のいく出来栄えになったので提供した次第だ。

 

「君ってやつは本当によく見てるというか、私のことが好きだね」

「そりゃもう何年一緒に居ると思ってるのさ。いっつも振り回されてるんだからミクさんのことくらいわかってるよ」

 

 同じ街で生まれて、同じポケモンを貰って、同じ時に旅に出て。

 そして全然違う世界に身を置くようになったのにそれでも一緒に居るんだから筋金入りの腐れ縁だ。相手のことくらいわかってなきゃやっていけない。

 

「それよりもほら、溶けちゃうから早く食べなって」

「おっとそうだね。いただきます!」

 

 木匙を手に取ってどこから食べようかと悩んでいたミクさんは、意を決して胴体の方から一口掬って口へと運ぶ。

 ジェラートの味と、口内の温度で溶けて広がる香りを堪能した後に、飲み下す。そしてまた一口掬って、食べる。

 お気に召してくれたのか、一匙、もう一匙と食べ進めていく度にその速度は上がっていき、その目は輝いていた。

 少しだけ子供っぽいその反応に、思わず顔がほころんだ。良かった、ちゃんと美味く作れてたみたいで。

 わざわざ個人的にパルデアまで行って店の味や盛り付けをリサーチして、そのうえでミクさんの好みに合わせてアレンジも加えて作ったものなのでこれで美味しくないと言われたら凹んでいたところだった。

 

「うん……うん、やっぱり君の作る料理、好きだな」

「……よせやい、そんな今更改まって褒めても今日は何も出ないよ」

「あっ、照れてる? ねえ照れてるよね?」

「そりゃ、それだけ面と向かって言われたらこっちだってこっぱずかしいし……」

 

 楽しそうに距離をこちらに顔を近づけてくるミクさんにそう素直に答えると、彼女は小さくふふっと笑った。

 

 ────

 

「ねえ、本当に専属シェフになる気……ないの?」

 

 ジェラートを全部食べて一息ついたミクさんは真剣な目をして、真っすぐこちらを見据えてからそう言った。

 

「うーん、今はまだお店もあるし、ミクさんの専属って絶対世界中飛び回って忙しくなっちゃうだろうし」

「いいじゃ~ん! 絶対楽しいよ!」

「そりゃ楽しいだろうけど……そうだな、例えばミクさんが引退して落ち着いた頃に。なんかじゃダメ?」

 

 俺のその返答を聞いたミクさんの纏う雰囲気が変わる。真剣だったそれから一転して、少しだけ揶揄うような、気安いような。そんなものへ。

 

「それは無理かな~、私一生現役だから。君がお店閉める方が早いんじゃないの~?」

「む、今のはカチンときた。じゃあそっちが引退するまで絶対うちの店は潰さないよ」

「大きく出たね~。ならどっちが長く続けられるか勝負ってことで! 勝つのは私だろうけどね」

「言ったね? じゃあ負けた方は相手の言う事なんでも聞くってことで」

 

 まるであの日と同じように、子供の時みたいに交わす軽いやり取り。

 同じ街に生まれて、同じポケモンを貰って、同じ日に旅に出て。そして何度も競い合って、ここまで歩いてきた。

 君も俺も、違う道を行ったけど。それでも一緒に居る。

 だからきっとこの先もずっと二人で、お互いに誰よりも近くで、二人の道の終着点まで見ていたいって。そう思ったんだ。

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