ハンドラー・ウォルター先生概念の幻覚   作:rantia92

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めちゃめちゃ反応が来ていて、本当にすごい。
もう戻れねェぞォ…という感情が。


来訪者

窓の外は、気づけば夜。

 

当番を任せられていたユウカも無事に定時帰宅し

時刻は既に12時に差し掛からんとしていた。

がらんとしたオフィス内に残るはやはり彼一人。

昼と変わらず続くペンの音に

新しく、衣擦れの音が響いた。

 

「…前に、深夜に外を出歩くのは感心しないと言ったはずだったが。」

 

音の響いた箇所に、チラと目線を向ける。

そうすれば、もはや彼とはいくらか顔馴染みとなった少女の姿があった。

 

「…こんなに月が美しい夜。」

 

「思い人との逢瀬を夢見てしまうのは、いけないことでしょうか。」

 

和服の様な意匠を組み合わせた、黒のセーラー服。

目元を赤く塗りあげられた、狐の白面。

その身長には、やや身に余るサイズの型の古い小銃。

 

「貴方様。」

 

狐坂ワカモ。キヴォトスでも有数の問題児、災厄の狐。

開けられた強化ガラス製の窓から

ゆらりと、その脚が踏み出される。

 

「…この地の治安は、俺も身に染みて理解している。」

 

「お前も、恐らくそうだろう。」

 

少し目を細め、手に付けていた書類を置き言えば

まるで親が子に諭すよう。

 

「それでも。…厭、それだからこそ。会いたくなって、仕方がなかったのです。」

 

「この月夜によく似た、貴方様に。」

 

「…俺が、か。」

 

少し寒さの目立ち始めた気温を無視するように

半ば上気した顔色を浮かばせながら

ワカモは言葉を滑らせる。

 

「夜は、すべてを包むのです。」

 

「どれだけ、激しい光が身を貫こうとも。」

 

「どれだけ、日の温かさが心を焼こうとも。」

 

「最後にやって来るのは、仄暗く、しかし優しい。」

 

「夜なのです。」

 

「…その在り方は、正しく貴方様によく似ています。」

 

「冷酷にも聞こえるそのお声。」

 

「しかし、生徒には心を通わせ、答えへの道を記す、その優しさ。」

 

「…そのくせ、何人たりともお心には寄り添わせない、仄暗さ。」

 

「えぇ、えぇ。正にピタリと。『夜』ではありませんか。」

 

うっとり、といった様子で微熱の漂う目線を

ハンドラーに向ける彼女。

 

「…随分と、買われたモノだな。」

 

相対する彼の反応は、芳しくはない。

 

「…よく視られるのは、お嫌いでしたか…?」

 

「いや…ただ、馴染みが無い。というだけだ。」

 

「…それは。」

 

少し細められた彼の眼が、今まで捉えていたワカモの瞳を手放す。

 

「…お前たちが思う程、俺は良い人間ではない。」

 

「…己が使命のために星を犠牲にし。」

 

「独りよがりの罪滅ぼしの為に、他人の命までも食い潰した。」

 

「そういう、悪しき男だ。」

 

首をだらりと下げ、ハンドラーはニヒルに自嘲する。

 

「狐坂。お前もまだ学生だ。」

 

「今後の人生で、誰かに焦がれ、慕う機会は幾らでもある。」

 

「だが。」

 

「俺の様なつまらん人間に、その機会を奪われるな。」

 

「…純粋な献身。それをお前は、躊躇いなく他人に向けられる。」

 

「そんな好意を受けるには、この身は穢れ、古ぼけすぎた。」

 

そう言いながら、窓の外。どこまでも広がる闇を見つめる。

雲すらも見えず、ただ月だけが空に浮かんでいた。

 

「…私は、貴方様だからこそいいのですよ?」

 

「例え、火に焦がされ。」

 

「水に溺れて。」

 

「…命を捧げるとしても。」

 

そう言い切ったのち、彼女は見た。

 

「…狐坂。」

 

彼の瞳。その奥が。少しぐら、と歪むのを。

普段は厳しく、生徒を震えさせるほどの鋭い眼光。

ほんの、ほんの一瞬だけのソレは。彼とは似ても似つかぬ、泣きだしそうな子供を連想させた。

 

「…いけずなヒト。」

 

「貴方様は、あんなにもわたくしの心に寄り添おうとするのに。」

 

「わたくしには、その心に、一歩も歩み寄らせては頂けない。」

 

「…ずるい、ですよ。」

 

光に手を伸ばして、しかし届かない。

照らしてくれるのに、然しそれを両の手で包み込むことは許さない。

 

「…俺には、お前たちにそうされる資格がない。」

 

「…慈しんでいるわけではない。感じているだけだ。」

 

「『先生』としての責務。『生徒』を、戦場に送る罪悪を。」

 

くしゃり、と普段逆立てている前髪を強く握り込むハンドラー。

 

ワカモは、彼の肩に寄り添うように体を彼に重ねる。

 

顔に掛けていた狐の面は、気づけば取り払われていた。

 

「本当に…不器用なのですね。」

 

「わたくしに…いえ、わたくし達には、戦場なんて日常の一部でしかないのに。」

 

「…本来なら、あってはならん事なのだ。」

 

「子供が、銃を向けあう世界など。」

 

「あっては、ならなかったのだ。」

 

「……俺は、お前たちを守る『力』を持たない。」

 

「だからこそ、せめて、お前たちに降りかかる『責任』は。」

 

「…しかし。それでは、貴方様が。」

 

寄り添う手が、ハンドラーの肩を掴む。

しかし、それを彼は許さない。

 

「…俺が持たなければならん。」

 

「それが、きっと俺がここに来た『意味』だと。」

 

ワカモは再び彼の眼を見据えなおす。

決意に満ちる、覚悟を持ったヒトの眼。

 

「…強情ですのね。」

 

「それだけが、取り柄でな。」

 

「そうであるならば。私は、その生き方に寄り添いましょう。」

 

「夫の後ろをつかず離れず。それが良妻というものなのですから。」

 

「たとえ行き先が地獄でも。わたくしは、ついてゆきますとも。」

 

「…強情だな。」

 

「えぇ…それが取り柄なので。」

 

クスリ、仕返しとばかりに

ワカモは笑みを浮かべる。

 

「…」

 

「さて、これ以上居ては夜が明けてしまいます。」

 

「貴方様は、ゆっくりと休息を。」

 

「…そうだな。お前も、早く帰って休め。」

 

「そうさせていただきます。」

 

彼に預けていたその華奢な躰を放り、また窓口へ向かうワカモ。

 

「貴方様。」

 

「なんだ。」

 

「ワカモは、貴方様をいつでもお慕いしております。」

 

「何かあれば、申し付けください。」

 

「飛んででも、貴方の元へ向かいますので。」

 

「…そうか。」

 

「えぇ。では、御機嫌よう。」

 

ふら、と窓口から姿が掻き消え

 

オフィスは、再び彼一人を残した。




慣れていない感覚だ。
ソシャゲ特有の、主人公に惚れてる系のキャラって。
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