魔法少女狩人。
お世辞にも語感が良いとは思えないその言葉を、緑の少女は高らかに宣言した。
「魔法少女狩人!! 私も聞いたことはあったけど実際に会うのは初めて!! すごい!!」
「フッフッフ……。そうカシコまらなくてイイ。魔法少女狩人は、誰とでもワケヘダテナクセッスルのだー!!」
瞳を輝かせるヒカリに気づかれないように、私はため息を吐いた。
ヒメが地図にKと書いたのは「この人がいる小屋に寄れ」ということだったのだろう。
……まあ小休憩もできたし、どちらにしろここに
考える間でもなく、世界を救うのと狭い地域を荒らしまわるモンスターを退治するのだったら、前者の方が――。
――ずっと逃げてばかりのあなたにぴったりな答えね。
妖精が、
頭にずきりと痛みが走った。
気のせいじゃない。
もたげるように、ぐるぐると。
頭の中をかきまわすように。
心なしか、重たくなった感じすら――。
「……って何か……乗ってる!?」
「クルッポー!! クルッポー!!」
慌てて振り払えば、緑色の大きな鳥が床を走り、ココへと乗り移った。
「何ですか……そのオウム!!」
「え? フクロウじゃない? かわいい~」
「ウチで保護してる鳥だゾ。名前は……私にもワカラナイ!!」
オウムだかフクロウだかわからない鳥は、今度はココの頭に乗っている。
「ナユタの頭が鳥の巣みたいだから、よじ登ったのかもナ!!」
「……」
「ナ?」
無言の圧力というやつを使ってみた。
ココに悪気はないのは、何となくわかっている。
でも、ノリがあまりにも違うのだ。
私は出口へと向かった。
「ナユタちゃん……?」
「外の空気……吸ってくる……」
私は小屋の外に出た。
ヒカリの心配する声から、逃げるように。
●
「って出てみたけど……行くところはないと」
はあ、とまたもやため息を吐いた。
今、どこにいるかといえば小屋の裏。
遠出するのは危険だし、かといってすぐに戻るとめちゃくちゃバツが悪い。
しょうがないのでこうやって立ち往生して、ヒカリが心配しないくらい時間に戻ることにした。
手持
小屋の周辺にも野鳥などの生き物は生息しているらしい。
……こうした生物たちが、私達を襲うことはないようだ。
モンスターとの違いは何なのだろう。
ふと気になった。
この辺りにいるというモンスターは頭がライオンとヤギ、尻尾がヘビだったか。
それらの生物のだいたいの容姿は私の記憶にあるし、それら全ての特徴を合わせているのが
この世界にもともといなかった生物。
自然のサイクルの中から明らかに外れた存在。
私達を襲うが、その目的は?
鳥が虫をついばむように、魚がもっと小さな微生物を食べるように私達を食べるのか?
今までに
あれだけの巨体を維持するのに、必要な食事量は?
考えてもキリがない。
魔法少女はモンスターから人々を守る。
ヒカリが持つその信念はもっともだ。
でも、私の頭の冷徹な部分が言うのだ。
使命を優先するのなら細事は無視するべきだと。
効率を優先するなら、無駄なことをすべきでないと。
そもそも、この辺りには人なんかいない。
野鳥やその他の生き物がいるだけで――。
「あれ……?」
思わず声が出たのは、私の前に一羽の小鳥が姿を現したから。
ただの鳥であったのなら私も気にも留めなかっただろう。
だが、鳥は足に包帯のようなものを巻いていた。
手当をした人間がいるということだった。
「ナユタちゃん、ここにいたんだ」
「あ……」
振り返れば黄色い髪を揺らして私に近付く影。
その瞳は、やっぱり私をまっすぐに捉えている。
「よくわかったね……」
「うん、ココちゃんのおかげだよ!! ナユタちゃん、慎重そうな性格だからそんな遠く行ってないだろうし、『小屋をくるっと回れバ?』って!!」
何だか思考を読まれたみたいでむずがゆい。
ヒカリとココもこの時間で何か話したんだろうか?
どうであれ、そろそろ戻ろう。
「あ……」
それを許さないのは包帯を巻いた小鳥。
私の肩に停まって、離れようとしないのだ。
ケガをしているようだから、振り落とすのはためらわれた。
「その子、ココちゃんが手当したのかな?」
「あの子が……?」
「うん。ココちゃん、モンスターにケガをさせられた生き物を治してるんだって」
それがこの包帯。
魔法少女の持つ魔法力は、人には危害を与えない。
それは生き物の体に大きく影響を与えないということだ。
この世界には傷を治療するような『魔法』は存在しないのだろう。
だから、こうやって、真っ当な手段で治療しないといけない。
「でも……あの人は狩人なんだよね……? どうして傷を治してるの……?」
『フッフッフ、よくぞ聞いてくれタ!!』
「え!? この声はいったい……!!」「いや、ココでしょ……」「ナユタちゃん!! こういうのはノリだよ!!」「ええ……」
屋根の上から緑の影が飛んだ。
何たる跳躍力。
そしてあらかじめスタンバっていたのか。
「3つのKをツカサドル、魔法少女狩人、ココちゃんダー!!」ばばーん!!
「それはもう……わかってます……」
空中で三回転
魔法少女はポーズを決めなきゃ気が済まないのかな……?
そんなことより、だ。
「狩人は動物を狩るものですよね。どうしてケガを治してるんですか……?」
「フ、それはダ……」
緑の少女が、やや大げさに拳を握った。
「魔法少女狩人が狩るのはモンスターだけ!! 魔法少女狩人はこの地の生態ケーを守る魔法少女なのダァー!!」
……そうなの?
戸惑いのあまりヒカリに視線を送ればにっこりと笑っていた。
そうか、と合点する。
この森には人はいないが、たくさんの動物たちがいる。
日々、自然のサイクルの中で平穏を過ごしている。
破壊者であるモンスターから魔法少女が守るのは、人間の生活だけじゃないということか。
肩に乗っている小鳥が、私の首をつつく。
ちょっとびっくりはしたが、悪い気はしなかった。
ココは腰に手を当てて満足げな表情だ。
「……ごめんなさい」
「ウヌ? どうした?」
「私……ココがノリが軽くてヘラヘラしてるだけの魔法少女だと思ってました……。でも、違ってた……」
少女は守るべきもののために戦っていた。
私なんかより、ずっと立派な魔法少女だったのだ。
「すごいと思う……。ココは」
「……ム」
「ココ……? どうしたの……?」
「エエイ!! 面と向かってホメるな!! 調子がおかしくなる~」
「ご……ごめんなさい……」
謝るのも変だったかな……?
どうやら私は、人とコミュニケーションを取るのが
頼みの綱のヒカリはさらにニコニコ具合を強めていた。
「ナユタちゃん、ちゃんと謝れてエラい!!」
「そう……かな? でも……私も決めたよ。少し遠回りになってもここのモンスターを倒すって――」
ばさばさと音が聴こえた。
鳥たちが羽ばたく音だった。
ただならぬ気配がした。
私は肩の小鳥をそっとリュックに入れる。
ちょっと狭いかもしれないが、ここなら安全だ。
ヒカリも同じ様子だ。
ココの瞳が、その深さを増した。
森林を思わせる、濃い緑だった。
生命の力強さを思わせた。
「ヤツがきた……!! この辺りを荒らすモンスター……通称、キマイラが!!」
戦いの始まりを告げる音だった。