魔法少女キラキラファンタジー   作:MOPX

12 / 39
密林に走る恐怖!! 折れない闘志と信じる心!!

 

ココが木によじ登り、頬を膨らませて口笛を吹いた。

それを合図に森の動物たちが駆けていく。

 

どうやら今のは危険を知らせる合図らしい。

 

森の動物たちはこれでひとまず安心ということだろうか。

 

 

「ヒカリちゃん……!! 魔法のエクスカリバーで()ぎ払ったりできる……!?」

 

「なぎはらう……? あ!! 横に斬り付けるってこと!? 確かにそれならモンスターがどこにいても当たるね!! ただ……威力は落ちちゃうかも」

 

「え? そうなんだ……」

 

天空まで伸びる剣を横に寝かせば、広範囲の攻撃になると踏んだんだけど。

詳しく理由を聞いてる時間はないが、直感的にはわかった。

ヒカリの出す巨大剣は、おそらく全部が同じ密度ではない。

 

でなければ、ほとんどの力を無駄にしていることになる。

実際に敵に当たる部分は一部なのだから。

 

おそらくはヒットの瞬間だけ一点に力を集中させているのだ。

だから、敵が見えている状態でなければ威力も十分に出ない――。

 

もっと言うなら、ヒカリの中に浄化技をそんな使い方をするという発想がないからだろう。

現に、私に言われてヒカリは初めてその使い方(なぎ払い)に気づいた。

 

本人のイメージする最善の状態でなかれば力が行使できない。

魔法少女というのは、そういうものなのだ。

 

 

木から飛び降りたココが跳ねるように動く。

 

「オマエタチ!! アッチの方にキマイラを誘導するの手伝ってくれるカ!?」

 

「あっち……? 何があるんです?」

 

小屋の脇の道。

その先に一体何が?

 

「ワナだ!! ヤツを倒すためのワナだ!! ワタシがこの時のためにシカケタ……!!」

 

罠?

私が最初に引っ掛かったロープみたいなやつだろうか?

正直、あれで巨大なモンスターが何とかなるとは思えない。

 

「アレはヤツをおびき出すための数あるワナのひとつに過ぎナイ!! ヤツを倒す本命のワナは……」

 

 

木々が黒く溶けた。

そう思うくらいに、よどみなく敵は現れた。

 

私達を見下ろす二つの頭。

鞭のようにしなるヘビの尻尾。

 

鋭い腕は私達三人をつかんでもなお、お釣りが出るだろう。

 

密林のボスモンスター・キマイラ。

 

私達の誰よりも素早かったヘビ型の尻尾は――。

 

 

ヒカリをとらえようとしていた。

 

「魔法の――きゃあぁ!!」

 

両手大剣を構える時間もなく、ヒカリの体には黒いヘビがぐるぐると巻き付いていた。

大技の一番の弱点、構える瞬間を狙われてしまったのだ。

まるで、こちらの行動を見通しているみたいに。

 

私とココが名前を読んだ時には、ヒカリの体は敵へと引っ張られていた。

その表情は苦痛に歪んでいて――。

 

「このやろおおおおぉぉぉぉ!! ヒカリを放せぇぇぇぇ!!」

 

無意識に、叫びながらヘビ型の尻尾をガシガシ殴りつけていた。

私はキレやすい(たち)らしかった。

 

などと、考えている場合じゃない。

モンスターに普通のパンチが効くわけない。

そんなことも考慮しないくらい、私は激高していた。

 

ヒカリの吐息がすぐそばだ。

私の名前を呼ぼうとしても、声になってないらしい。

 

 

――また、その子を犠牲にするのね。あなたが不甲斐(ふがい)ないばかりに。

 

 

うるさい。

うるさいうるさい!!

 

普段、何もしてくれない癖にこんな時だけ出てくるな!!

こうしている間も怪物はこちらの身を手繰り寄せつつ、こちらに一歩ずつ進んできている!!

 

距離が詰まれば、鋭い爪か、二つの頭にある牙か。

とにかくヒカリの身は危険に晒される。

 

こっちは猫の手も借りたい状態だというのに。

 

 

気付く。

ココは何をしている?

 

さっきまで、あんなによくしゃべっていたのに。

 

まさか――。

 

 

いない。

 

 

手はしっかりとヘビの尾を引っ張りながら、それでも無理やり振り返った。

ココの姿は、どこにも見当たらなかった。

あれだけ、手伝ってほしいと、啖呵(たんか)を切っておいて――。

 

ヒカリと一緒に体が引きづられる。

 

頭が、熱くなってきた。

こうしている間も打開策を考えはしたのだ。

だが、何も思い浮かばなかった。

 

ヒカリは身動きが取れない。

ココはいない。

私は何もできない。

 

完全に詰んだ。

 

 

勢いがついて、私とヒカリの体が前につんのめる。

怪物の頭はちょうど二つ。

私達を飲み込むにはおあつらえ向きだ。

 

「ナユタちゃ……にげ……」

 

かよわい声が聞こえた。

それだけはしたくないと思った。

 

走馬灯の逆パターンだろうか。

これから起こることが、映像で頭に流れるようだ。

 

獅子の頭が尻尾ごとヒカリを飲み込む。

手にした剣が地に落ち、寂しいくらいに鈍い音。

 

勇猛果敢な魔法少女はなすすべもなく魔物の口へ。

普段の元気さは見る影もなく、暗闇の中で小さなうめき声をあげている。

獅子の頭がその牙で、何度も何度も少女を――。

 

 

「いやああああぁぁぁぁーーーー!!」

 

 

喉の千切れんばかりの叫び声。

そのまま事切れるように意識が遠のく。

 

私は失神した。

 

 

 

 

歩いている道は、進んでいるものだと思っていた。

 

ずっとそう信じて進んでいた。

 

本当にそうだったのだろうか?

 

『前』なんてものは、本当はどこにも存在しない。

 

そう思い込みたかっただけだ。

 

私は歩みを止めた。

 

周りを見ればどこまでも深い闇。

 

『……ん』

 

最初から道なんてなかった。

 

『……ちゃん』

 

私は、その場に立ち尽くしていた――。

 

『ナユタちゃん!!』

 

 

 

「ほわ!!」

 

びっくりして体を起こす。

視界にはヒカリの心配そうな顔。

 

「ああ!! よかったぁ!!」

 

ヒカリが勢いのまま抱き付いてきた。

何が何やらわからない。

でも、確かなことがひとつある。

 

私はヒカリを抱き返した。

……ちょっと、控えめに。

そしてびっくりしたヒカリに声をかけるのだ。

 

「ヒカリちゃんも……無事でよかった……」

 

酷く弱々しい声だった。

 

 

 

 

「それであいつは……?」

 

あいつというのはキマイラの()だ。

「あいつ」と呼びたくなるようなのがもう一人いるのだが、意識すらしたくない。

……一度は見直したのに。

 

私達は戦った地点からほとんど動いていなかった。

見逃した……?

あの無慈悲なまでに力をふるった怪物が?

 

「きっとココちゃんが引きつけてくれたんだよ!! 早く助けに行きゃなきゃ……!! ……っ!!」

 

「ヒカリちゃん!! 無理しないで!!」

 

慌てて肩を貸す。

……ヒカリの全身はところどころがただれたように傷になっていた。

可愛らしい剣士の服も、こうなると傷ましい。

 

「あはは……薬草を塗れば大丈夫だよ」

 

「そういう問題じゃない……!! あんまり無茶をするなら私が止めるから……!!」

 

「ご、ごめん……。でもそれでも、やっぱり行かなきゃだよ」

 

「何で!? 私達、まったくあいつに敵わなかった!! 魔法少女の力があったって、モンスターには敵わないんだよ!!」

 

自分でもわからないくらいムキになった。

たぶんヒカリは信じているのだろう。

 

自分達が正しい想いをもって戦えば、自ずと良い結果が訪れるのだと。

 

残念ながら、世界はそうできていない。

世を司る法則が、私達の頭をのぞいて物事の結果を決めているわけじゃない。

正義の味方が正しい行いをしてうまくいくのは、そういうルールの世界で生きているからだ。

悪役が「悪い考え方の例」を示しながら無様に血反吐を吐いて倒れてくれるからだ。

 

モンスターはそうじゃない。

やつらは純粋な暴力だ。

こっちが形勢を立て直す暇も与えてくれない。

 

ヒカリだって、そんなことはわかっているはずなのに、困ったように微笑んでみせるのだ。

 

「魔法少女は……みんなを守るために戦うから。今も、きっとココちゃんがどこかで戦ってるんだよ。放っておけないよ」

 

「……死ぬかもしれないんだよ」

 

「それでも、だよ。正直どうすればいいのかいいのかわからないけど……」

 

「……。ひとつだけ逆転の手がある……かも」

 

「え?」

 

言おうか悩んだ。

これを伝えるのはヒカリに希望を持たせるということだ。

死地に(おもむ)かせるということだ。

 

でも、私も腹を決めた。

 

「ココが言ってたワナ……あれだけ切羽詰まった状況で言ってた……。恐らくはキマイラを倒せるくらいの威力がある……」

 

「あ!! それだよナユタちゃん!! すっかり忘れてた!! そっちの方向に追い詰めろって話だったもんね!!」

 

やっぱり忘れてたか。

薬草をヒカリの体にこすりながら、ため息を吐く。

 

この策を信じるのは、ココを信じるということだ。

自分達の近くからいつの間にか姿を消した少女を。

 

それでも信じることにした。

少女が森の動物たちを見ていた眼差し。

その綺麗さを思い出したから。

 

 

ドタドタと何かがこちらに近付いてきた。

モンスターではない。

もっと小型の見覚えのある生物だった。

 

「クルッポークルッポー!!」

 

「この子は……小屋にいた飛ばないオウム!!」

 

「フクロウだよ、ナユタちゃん」などとツッコミが飛んできたが置いといて。

ともかく小屋にいた鳥が私達の前をせわしなく走っている。

必死に何かを伝えようとしていることだけはわかる。

 

「ええ!? ココちゃんが危ないんだね!!」

 

「ヒカリちゃん!? この鳥の言ってることがわかるの!?」

 

「何となくだよ!! でもあっちの方向でココちゃんが戦ってるって!!」

 

「何となくって……!! まったくもう……早く行こう……!!」

 

「いいの……? ナユタちゃん……?」

 

「いいも何も止めてもヒカリちゃんは行くでしょ……それに」

 

「それに?」

 

「……何でもない。さ、行こう」

 

「ああ!! 待ってよナユタちゃん!!」

 

走る鳥の先導で私達は森を駆けていく。

 

信じるって決めたから。

姿を消した緑の少女を。

 

そして魔法少女の力を。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。