「ナユタちゃん……!! ねえ……しっかりしてナユタちゃん……!!」
私は、
体が平衡感覚を失いグラグラと揺れる。
喉を突き抜ける不快感が限界の近いことを告げていた。
「ナユタちゃん……ナユタちゃーーーーん!!」
「ヒカリちゃん……できれば……」
「背中さすって……」
「うん!! すりすりすりすり……!!」
ここは船の上。
私は袋を手にして、いつその時が訪れてもいいよう準備をしていた。
どうやら、私は酔いやすい体質らしかった……。
●
「どう、ナユタちゃん?」
「……。すっきりした」
とりあえず水を
……ちなみに島から島を繋ぐ巨大な大橋を渡った時も、あまりの高さにへっぴり腰だった。
前途多難というやつである。
「あはは。まあこんなこともあるよね!! ほらほら、海がキレイだよ!! キラキラしてる!!」
「本当だ……」
海面は光を反射して不自然なまでに輝いていた。
宝石をちりばめた、といっても大げさではないくらいだ。
そもそも海があると知った時も驚いたけれど。
最初に私達がいた島は空の上に浮いていた。
同じくらいの高さの場所に、海があることにある。
いったいこの水はどこから来ているのだろう。
そしてどこまで続くのだろう。
「ナユタちゃん、次の街が気になるの?」
「あ……うん。そうかも……」
ココの案内で港に着いてこうして船に乗ったけれど、行先について私はよく知らない。
……あの森をココが守っていたように、この世界では地域ごとに魔法少女がモンスターから世界を守っているようだ。
最初にいた城下町にしても、ヒメがくそでかいヴェールで守っていたわけだし……。
だとしたら、次の街にも魔法少女がいるのだろうか。
「見えてきたよ!! あれが次の街!!」
「え……!?」
まだ海も海の上。
陸地には程遠いはずだった。
しかし、私の目には確かに、街の姿を映し出していた。
建物がまるで海から生えているようだ。
周辺には桟橋でできた通り道が迷路のように張り巡らされている。
狭い水路は通り道になっているのか、人が小舟で移動しているのが見える。
「あそこが次の街……」
「水上都市だよ!!」
●
「いやあー、このクラゲみたいなゼリー、おいしいね!!」
「うん……」
私達は船を降りてすぐのカフェでとりあえず腹ごなし。
(支払いはいつも通りヒカリのドングリ)
お店の外の席で、潮風が鼻をくすぐる。
二人で同じシーフードグラタンを頼んだが、皿からはみ出んばかりの大きなエビがずらっと並んでびっくりした。
今はデザートを突っついているところなのだが……。
「ナユタちゃん? また考え事?」
顔に出ていたらしい。
まあ隠すようなことでもないけど。
「うん……こんな海のど真ん中に街を作った理由ってなんなんだろ……って」
不便な場所に人が集まる道理はない。
街の機能を維持するコストが無駄にかかるだけだ。
「たとえばこの辺りで貴重な資源が取れる、とか……?」
「ふっふっふ……ナユタちゃん。聞きたい? 聞きたいよね? ガイド役であるこの私からその理由を!!」
「え、うん、まあ、はい」
ヒカリのテンションがおかしい。
どうも密林で迷い気味だったことを気にしていたらしい。
聞かせてもらおう、ガイド役の名誉
「この辺りでは……おいしいエビが取れるんだよ!!」
「……ヒカリちゃん、もしかして、いま思いついた?」
「うん!! グラタンおいしかったもんね!!」
「……」むしゃむしゃ
「あー待って!! それだけじゃないって!! この街には伝説があるんだよ!!」
「伝説って?」
合いの手で返事をしてしまったが、ヒカリは不敵な笑みを浮かべている。
今度こそ、ガイド役として汚名返上。
「この町の守り神は……巨大ザメなんだよ!!」
「……ヒカリちゃん、ゼリー最後の一口もらうね」
「あーもう!! ナユタちゃんさては信じてないね!! ゼリーはどうぞ!!」
海色のゼリーはおしかった。
たぶんサイダーで味付けしてるのかな。
カフェのおじさんは「うちのはB級だよ!!」なんて言いながらにこやかに出してきたが、
巨大ザメについては聞かなかったことにしよう。
ヒカリだって、そんな与太話をしたい気分の時もあろうだろう。
「いやいや!! だから本当なんだって!! 前に聞いた話なんだけどね、ここはもともと小さな島だったんだって!!」
確かに、最低限の陸地がなかったら人も住まないだろう。
私がいきなり森にいたみたいに、島にいる人はいきなり島にいて驚いたかもしれない。
「そこで住んでる人たちは協力して生活してたんだけど……問題が起こっちゃったの……。モンスターのやつらが海から島を襲ってきたの!!」
ここでもやっぱりモンスター。
どうやら本当にどこにでも出現するらしい。
……モンスターはそういうものだって、何となくわかるけど。
「そこに!! 困ってる人たちを助ける存在が現れたの!! それはなんと……!!」
「魔法少女?」
「巨大ザメ!!」
「ええええ……。サメって人を襲うものじゃないの……?」
「とっても良いサメさんだったんだね!! でも魔法少女も頑張ったらしいよ!! サメさんと魔法少女は協力してモンスターを倒しました!! そして!! 巨大サメは島を守る神様としてみんなから
「そ、そうなんだ……」
おかしなところは放っておくとして、確かにそんな言い伝えがあるなら興味本位で見に来る人もいるだろう。
加えてこの温暖な気候、きらめく海、おいしいご飯……。
この水上都市は主に観光で栄えたのだろう。
「よし!! 腹ごしらえも終わったし泳ぎに行こうよ!! 次の街に出る船は明日みたいだし!!」
「ええ……? でも水着とか持ってないよ……?」
「も~、ナユタちゃん。私達、魔法少女だよ!!」
何となく察する。
服がないなら、生み出せばいい。
それが魔法少女のスタイル――。
「もしかしたら巨大ザメに会えるかもしれないしね!! それじゃあ海岸へレッツゴー!!」
「会ったら命が危ないと思う」
勢いよく席を立つヒカリに突っ込まずにはいられなかった。
●
島の海岸まではすぐだった。
(そもそも島自体がそんなに大きくなく、半日もあれば一回りできそうだった)
砂浜には人がまばらにいた。
やはり観光目的なのか、長椅子に座ったり日傘の下で本を読んでいたりだった。
砂浜を歩いていたヒカリが何かを拾ってくる。
「じゃ~ん!! キラキラの貝殻!!」
「……? 確かによく光を反射してるけど、それがどうかしたの?」
「まあまあ、見ててね……!! 変身!!」
ヒカリの体が黄色い光に包まれる。
終わった時には、服装は変わっていた。
水着。
私の語彙力では表現しづらいが、黄色いフリフリのかわいらしい水着はとてもよく似合っていた。
変身を活用すればこうやって場所に合わせた服にすぐ着替えれるということか。
……魔法少女、便利だな。
「これが
「へ? 私も?」
「ほらほら!! 早く!! 海が私達を呼んでるよ~!! ナユタちゃんの水着みたいみたいみたい!!」
「ヒカリちゃんが駄々っ子になっちゃった……。まあそこまで言うなら……」
ここにもモンスターが出る可能性がある以上、慣れておくのはいいことだろう。
私は適当に拾った貝を手にして、声をあげた。
「……変身!!」
紫の光が以下
私は紫色のぴっちりとした水着をまとっていた。
「何か……すごい恥ずかしい気がする……」
「ナユタちゃんとっても似合ってるよ!! さあ、海で遊ぼー!!」
「そんなにはしゃがなくても……あれ?」
歌が聞こえてきた。
とても清らかで、穏やかな旋律。
私とヒカリはしばし、その歌声に身をゆだねた。
お互いに、この時間に何かをするのは野暮だと思ったのかも。
歌が途切れた時、砂浜に一人の少女が立っているのに気づいた。
長い青い髪の彼女は、歌声の主なのだと気づいた。
ヒカリと私は顔を見合わせて頷くと、少女のもとへ。
「すごかったね、今のはあなたが?」なんて声をかけようとしたのだけど――。
「ダメ……やっぱり私なんかじゃ……」
先に聞こえてきたのは、後ろ向きな独り言。
何となく胸をつくような感情になっていたら、海から爆音が聞こえた。
モンスターだ!! 逃げろ!!
誰かが叫んだその一言が答えだった。
「ナユタちゃん!!」
「うん、わかってる……!!」
ここにいる魔法少女はおそらく私達だけだ。
だったら、私達がみんなを助けないと。
浜辺にいる人たちが逃げていくのを確認して振り返れば、敵はいた。
黒い触手みたいなのが、水面からぽっかり突き出していた。
「え……?」
そして気づく。
髪の青い少女が逃げ出していないことに。
呆けたように、モンスター……いや、海を眺めていた。
「危ない!!」
伸びていった触手が少女を襲う。
ヒカリに目配せだけして、私は駆け出した。
間一髪。
少女に横から飛びついた私は、そのまま砂浜を回転。
横たわる触手を確認すると、叫んだ。
「ヒカリちゃん!!」
「任せて!! 戦いでも最近良いところがなかったからね……!!」
水着のまま両腕を掲げれば光の巨大剣が。
……というか水着でも使えるんだ、両手大剣。
「魔法のエクスカリバー!!」
触手を綺麗に真っ二つ。
それで辺りはしんと静かになった。
どうやら他に敵はいなかったらしい。
私はとりあえず、傍らの青の少女に声をかける。
「大丈夫だった……?」
「……」
「あの……?」
「ああああー!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
一秒四回の高速謝罪。
あまりの勢いに頭突きで瓦を割れそうだな、なんて感想が出てくる。
あんまりネガティブな対応をされると反応する方は困るんだなと思った。
……私も人のこと言えないけど。
「ごめんなさいごめんなさい!! 本当は……私が退治しなきゃいけなかったのに!!」
「え……? じゃああなたは? あと首を振りすぎて風圧がすごい」
「あ、ごめんなさい!!」
最後に一回分の風を受けて首振りが止まる。
「私は……ナギサ。この町を守る魔法少女です……一応……」
やはりというか、少女は魔法少女だった。