赤色。
記憶を失った世界であっても、それが色彩の中でも一際目を引くものなのは変わらない。
私とヒカリが港町を出て、日が暮れてきた時に見つけた建物も真っ赤な屋根が目印になった。
「あの建物は何なんだろう……?」
「ふふ、あれはね……教会だよ、ナユタちゃん!!」
ガイドの本領発揮と言わんばかりの得意げな顔は置いといて、あそこは教会らしい。
特にそれらしいシンボルも……と思ったら屋根の上に「×」マークが立てられていた。
私の記憶にはないが、この世界ではあれが教会のシンボルなのだろうか……?
外では子供たちが二人ほど、建物のすぐ近くで遊んでいた。
ヒカリが声をかけてみれば、教会に住んでいる姉妹ということだった。
どうやら身寄りがなく教会に住まわせてもらっているらしい。
「遠くとかに行っちゃダメだよ……」
あんまり元気に走り回っているものだから、私もつい声をかけてしまった。
手を振って見送った後、ヒカリが「ナユタちゃんは優しいね!!」と言ってくるものだから、全力で否定しておいた。
本当に、私なんて流されているだけの存在だから。
たまに聞こえる妖精の
二人で教会の扉をくぐりながら、ふと思う。
この世界に
言うなれば、そう、神様だ。
そうした存在を信じる風習があったのは、私の頭にも残っている。
もしかしたらこの施設は、そのために存在しているのかも……。
教会の奥では一人の少女の後姿が見えた。
何となく、祈っているのだとわかった。
屋根よりもずっと鮮やかな赤い髪。
長くて綺麗なそれを
「ようこそおいでくださいました。私は魔法少女のシスター。名はセイカと言います」
もはや魔法少女の何が存在しようが驚かない。
丁寧なお辞儀に釣られるように、私達もお辞儀をするのだった。
●
「まあ……それでは二人で世界を救うために冒険を……?」
「はい!! そうです!! 今日は一日泊めてほしくてうかがいました!!」
ヒカリが元気よく答えるのに、シスターはニコニコと聞いていた。
(というかシスターは基本的に笑顔を絶やさない人で、常に目を細めていた。ヒカリみたいな子が好きなのかもしれない)
「ええ、もちろんいいでしょう。私はシスターであり魔法少女ですから。世界を救うための冒険、是非とも協力をさせていただきます」
「やったあ!!」とヒカリが飛び跳ねて私の手を握った。
……いざとなれば魔法のテントがあるし、そんなに
そんな様子を見てシスターはますますその笑みを強めてる感じがする。
何だろう。
私達があんまりはしゃいでるから子供っぽいって思ってるのかな……?
シスターが微笑みのまま問いかける。
「不便がありましたら何でも言ってください。お二人の力になれるよう、私も全力を尽くします」
「だってさ!! ナユタちゃんも何かあったら言ってね!!」
「え……じゃ、じゃあ……不便なことというか単に興味からの質問なんですけど……」
長机の奥で微笑むシスターに、少しの緊張感を覚える。
さながら己の罪を告白する
一瞬、ヒカリに下がってもらって妖精のことを告白しようかと思ったが、止めておいた。
言ったところでどうにもならない。
もともと頭にあった他愛のない質問をすることにした。
「この世界に神様っているんですか……?」
ふむ、とシスターは考え込む。
真面目に考えられると緊張をする。
やっぱりこんな質問すべきじゃなかったかな……?
と、思っていたらシスターが口を開いた。
「あなたにとってはどうでしょうか、ナユタさん」
「私……私にとっては……」
わからない。
わからないからこそ、聞いた。
……もしもいるんだとしたら、ろくでもない神様だと思う。
真っ黒で凶暴な怪物がそこら中にいて、少女しか戦う力を持っていない。
そんな世界を創ったのだから。
「その様子でははっきりとした答えを持ってないようですね?」
「はい……ちょっとした興味で聞いただけなので」
ヒカリが横で「そうなんだ!!」と勢いよく言う。
何となく、ヒカリみたいな純粋な子にはあんまり深く考えてほしくない話である。
シスターが笑顔を崩さずに話を続けた。
「この世界ではみなが記憶を失っている……当然、私もです。誰しもが信じるものがあったはずなのに、それを思い出すこともできない……。とてもつらく、悲しいことです」
記憶は単なる技術や知識だけではない。
当人が感じてきたもの、信じるに足ると思ったもの。
それすらも失ったということだ。
実際、私も気づけばいきなり狼型のモンスターに追いかけ回されて、だいぶ混乱したわけだし。
「私は思うのです……きっと信じるに足ると思うもの……それこそがその人を形作る神様であると。ですから私は、そうしたものをみなさんが思い出せるようにお手伝いをしてるのです」
「思い出せるよう……? それって記憶を取り戻すってことですか……?」
「はい」とシスターが頷いた。
なるほど、この世界における教会は地域一帯の安全を守ると同時に、記憶に関するケアもしているわけだ。
考えてもみれば、この世界において誰しもが困っていることだ。
こうした施設があるのも当然なのかもしれなかった。
少し難しい話だったのか、静かにしていたヒカリが口を開く。
心なしか、しょげているように見えた。
「私は記憶がなくてもみんなが元気ならそれでいいかなって思ったんだけど……そうじゃない人もいるよね」
「そ、その……ヒカリちゃんみたいな子がいるからみんな暗くならずに済んでると思うから……だからヒカリちゃんはそのままでいいと思う……!!」
「うん……ありがとうナユタちゃん!!」
思わず大きな声を出してしまったけど、まあ本心だし……。
ちょっと恥ずかしかったが、シスターもそんな私達を見てニコニコと舌なめずりをしてるし――。
……?
「シスター、どうしましたか……?」
「いえいえ!! 私のことはお気になさらず!! さあ!! 部屋を一部屋用意しましょう!! お二人で冒険していたのですから、水入らずでくつろいでくださいまし!!」
何だか様子がおかしい気もするけど……。
だが、この疑問について私が考える時間はなかった。
勢いよく成人男性が教会へと入ってきたのだ。
体中汗ばんでいて、急いでここへ来たのだとわかった。
「大変だシスター!! ここに住んでる女の子達が……カタコンベで迷子になったらしいんだ!!」
「……カタコンべ!?」
「ナユタちゃん!? 知ってるの!?」
私の記憶にうっすらとあるその単語。
巨大な地下墓地……だったか。
もともとのそういう場所だったのか、
「子供が二人、あそこに入っていくのを見たって言ってるやつがいて……!! 街の魔法少女にセンサーで確認してもらったらカタコンベのど真ん中にいたらしいんだ!! 近頃あそこはモンスターが出て危ないのに……!!」
「で、でもその魔法少女は……!? 知った時点で助けに行けますよね……!?」
成人男性が、力なく首を振った。
「入り口あたりでモンスターに普通にやられて今は寝込んでいるらしい……」
「そ、そんな……」
それほどまでにカタコンベのモンスターは強力なのか。
だが、そんな時こそ私達――魔法少女の出番だ。
「行こう!! ナユタちゃん!!」
「うん!! シスターも魔法少女なんですよね……? よかったらいっしょに……」
「……」
「し、シスター……?」
冷静そうなシスターがいれば心強い。
そう思っていた私が言い
シスターは赤い瞳を鋭く開いていた。
さっきまでのニコニコ糸目だったシスターはもういない――。
「やはり、クソモンスターは滅ぼすしかありませんねえ……」
ゾクっとした。
本当にその力があれば、秒で実行して世界中の怪物を根絶やしにする。
シスター……いや、セイカの言葉にはそんな凄味があった。
セイカが長机をドン!! と押した。
ずれた空間には秘密のくぼみ。
そこには大量の武器が置いてあった。
フレイル、鞭、先に鉄球がついてるのはモーニングスターか……?
やたらと痛そうなラインナップからいくつかを取り出し、完全武装を決めた。
「行きますよ!! ウチの子たちに手出しなんかさせはしません!!」
「あ、あのシスター……?」
うろたえる私にセイカがチッチッチと指を振る。
「魔法少女のシスターは世を忍ぶ仮の姿……私は魔法少女
魔法少女
急に不安になってくるネーミングだな、と思った。