魔法少女キラキラファンタジー   作:MOPX

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ビンボー暇なし!? 目指せ経済的自立!!

 

「タソガレ……ワオン……」

 

たった今、自己紹介された名前を口ずさむ。

頭がずきりと痛んだ。

でもそれは、決して不愉快な感覚だけではなくて。

 

この橙の魔法少女が『前の世界』を知っているように、私もこの人を知っている?

いったいどうして?

 

そんな疑問に解を出す間もなくヒカリとタソガレワオンは話を進めていた。

 

 

「タソガレワオンちゃん……かっこいい名前ですね!!」

 

「へへ……おだてても何も出ないよお嬢ちゃん……でも、もっと褒めて……。ここらでずっと弾いてたんだけど、みんな気味悪がって寄り付かなくてさあ……」

 

「あ、じゃあここで音楽をやっていたのはやっぱりタソガレワオン……ワオンちゃんでいいです? ワオンちゃんなんですね!!」

 

「Yes,Yes」とワオンが二回うなづく。

呼び方はワオンでいいし、ここで音楽をやってたのは彼女ということだ。

 

「私達、危ないところ助けてもらったのでお礼をしたいんです!! あ、あと記憶のことについて聞きたいです!! もちろんお礼も……あれ?」

 

こちらが都合二回お礼をする違和にヒカリの頭にクエスチョンマークが飛んだ。

……もともと世話になるはずの相手に、貸しを作ってしまったのが現状である。

 

「ああ、いいさいいさ……。ヒトハダが恋しかったことだし……そうだね、まずは助けたお礼として……」

 

突然に重低音が鳴り響く。

モンスターかと思い周囲を見渡すが、変わった様子はない。

ほどなくして音はワオンのお腹からだと気づいた。

 

「……何かおごってくれると助かる。飲み物買いすぎてドングリが尽きそうでさ、アハハ!!」

 

金欠の魔法少女。

あまりにも夢のない響きだなと思った。

 

 

 

 

「いやー食った食った!! もうちょい辛みがあるもんが良かったけど、まあカフェだしねあ……」

 

「へええ、ワオンちゃんは辛いものも好きなんだ!! なんだか大人みたい……!!」

 

「あー、まあー、うん。イザカヤとか行きたいけどこのナリじゃあ無理だしね」

 

「イザカヤ……? 聞いたことはあるけど……。ワオンちゃんはカフェよりイザカヤが好きなの?」

 

「あー、忘れて。私は甘いの大好きショウガクセー」

 

「あはは、ワオンちゃんって独特の言葉づかいだね!! ミュージシャンって感じ!!」

 

ヒカリとワオンの会話を私はグレープジュースを飲みながら聞いていた。

何だろう、ワオンの言ってること、絶妙に共感できるような、しちゃいけないような……。

 

 

「ナユタちゃん? さっきから静かだよ? ちゃんと食べてる?」

 

「う、うん……」

 

親から小さな子供への心配の仕方でちょっと恥ずかしくなる。

私が静かだったのにはちゃんと理由がある。

 

今、糸ようじで歯を掃除している橙の魔法少女は『何か』を知っている。

もしも会話が弾んで、その拍子に何かを言い出さないか。

私はそれが怖かった。

この少女の発言で、私とヒカリの旅のあり方が根本的に変わってしまうのではないか、と。

 

……でも助けてもらった恩を無下にすることもできず、こうして私は目の前でコーラ飲んでゲップ出してる少女にビクビクしている。

 

 

「さあて、ここからが本題だね……ゲプ。この世界のこと、まあ大したこと知ってるわけじゃないけど、教える前にやってほしいことがある……」

 

背筋が思わず伸びる。

ご飯代は助けた分のお礼ということだ。

ここからは世界の情報と(はかり)にかけるだけの対価。

 

……場合によっては、かなりの無理難題を吹っ掛けられる可能性もある。

もしもそうなったら、ヒカリを連れて回れ右しよう。

 

それが私の数少ない役割だ。

 

 

「よし、じゃあ君ら……」

 

ワオンが荷袋からごそごそと何かを取り出そうとする。

ヒカリは目を輝かせているが、良いものとは限らない。

 

そして、机の上にいくつかの円盤が並べられた――。

 

 

「レコード買ってくんない? 全然売れなくってさあ……。一枚銀のドングリ50個……いや!! おまけして49個で……!!」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「……ヒカリちゃん、帰ろうか」

 

「ああ~~~~!! 席を立たないで!! サイン!! サインを付けるから!! 握手券もおまけする!!」

 

目の前の人間の握手券をもらってどうするのか。

価格設定も吹っ掛けてる感があるし、この分だと本当は『前の世界』のことだって知らないのかもしれない。

……もちろん、私がそう思いたいだけの部分はあるにせよ。

 

席を立つ私に号泣しながら机につっぷすワオン。

ヒカリはといえば――。

 

じっと座ったまま動かなかった。

 

「ヒカリ……ちゃん?」「うおおお!! ヒカリは私の曲買ってくれるかー!! そうか10枚も!! いやーこれで明日のコーラ代にはなる」

 

 

「ダメです……」

 

 

空気がしんと静まり返る。

意味をはかりかねてるのは私もワオンも同じだ。

(いろいろダメな部分は多かった気もするが)

 

 

「10枚なんかで満足しちゃ……ダメです!!」

 

「ヒ、ヒカリちゃん……?」

 

どん!! とヒカリが机を叩いた。

 

「ワオンちゃんはあんなステキな歌が歌えるんだよ!? 100枚でも1000枚でも100万枚でも!! 100億枚だって!! 売れるようにみんなにアピールするべきじゃあないの!?」

 

「え、ええええ……」

 

思わず声が漏れてしまった。

そう来たか。

ワオンも口をあんぐり開けている。

 

純情な魔法少女に押し売りは効かない。

なぜならもっと大きな夢を見させてくれるからだ……。

 

「ナユタちゃん!! ナユタちゃんはワオンちゃんの曲を聴いて何も思わなかったの!? 何かこう……心がポカポカ、ムズムズ、痺れるぅ~!! って感じの!!」

 

「ま、まあ正直に言えば、うん」

 

「でしょおぉ~!!」

 

決してヒカリに押し切られたわけはなく、これは本音。

タソガレワオンの音楽は静かさの中に熱さがあり、かなり私の好きな『音』だった。

繰り返すが、決してヒカリに押し切られたわけではない。

 

 

「でもぉ……、私の音楽ってニッチっていうか? マニアックっていうか? とにかく一般受けはしないみたいでぇ……、」

 

「曲を作ってる人が、自分の曲に自信を持てなくてどうするの!? もっと自分を信じてください!!」

 

「うぐ」とワオンがのけ反った。

だいぶ痛いところを突いたらしい。

こうなったヒカリはもはや無敵状態。

もはや誰にも止められぬ。

 

「街の外れじゃなくて、街で演奏をしたことは!?」

 

「ありましぇん……恥ずかしいから……」

 

「よし!! じゃあ街のまとめ役の人に許可を取ってみるね!! ナユタちゃんは配布するレコードの準備をお願い!! ワオンちゃんは楽器とかの準備を入念にね!! あっ、看板とか作るのもいいかも……!! うーん、忙しくなってきちゃった!!」

 

ヒカリが手を差し出す。

察した私が手を重ね、ワオンもよたよたと手を出した。

 

「それじゃあワオンちゃんが経済的に自立できるように……ファイトォ!! オォォォォ!!」

 

「お、おー」「おお……」

 

……。

ワオンが持つ記憶の話がうやむやになってる気がするが、その方が都合いいし、まあいいか。

 

 

 

 

「タソガレワオンのレコード……いかがですか……今なら生演奏も……はあ……私が何でことを……」

 

「私のレコード売れてね~。ゲプ」

 

人が慣れない売り子をやってる横でコーラを飲んでる人間をドツきたくなる衝動に駆られるが、ぐっと抑える。

結局、ヒカリが手際よく準備をし、街の中央の広場でこうして『タソガレワオン、メジャー化計画』は実施されることになった。

ヒカリはもう少し離れた場所で声をかけていたのだが、話しかけてきた子供たちと雑談が弾んでいるらしかった。

 

ヒカリは功労者だから多少息抜きしてもいいと思うけど……。

 

「もうやる意味ないんじゃないきゃな~これ」

 

「誰のためにやってると思ってるんですか……!!」

 

当のワオンは持ちこんだ御座(ござ)の上で寝っ転がっていた。

私達に押し売りしようとした強引さはどこに行ったのか。

 

「まあまあ……。そんなに頑張ってやっても変わりゃしないって……。一日やりゃヒカリも諦めるだろうよ……」

 

「……」

 

私も、正直そう思う。

だけどこの人と同じ意見なのは……何となくイヤだ。

音楽は好きなのに、なぜかはわからない。

 

当てつけのつもりで、道行く人に声をかける。

 

「あの……タソガレワオン……今、一番イケてる……どう……ですか……?」

 

「ああ? そんなマイナーなやつ知るかよ。……あんたここで見ない顔だな。じゃあ聞いてないのか。この街はもう終わりだよ……」

 

「……?」

 

中年の男はそう吐き捨てると、とぼとぼと歩き出す。

私はしゃべり慣れてないとはいえ宣伝の内容に問題はなかったし、レコードを売るのは難しそうだ。

 

 

「ナユタちゃん!! ワオンちゃん!! どう!?」

 

ヒカリがこちらに戻るなり聞く。

私は当然首を横に振った。

 

「まだ1枚も……。これじゃあ難しいかも……」

 

「ヒカリちゃんお帰り~。私も0枚ーーーー!!」

 

あんたはくつろいでコーラ飲んでただけだからな、なんて(げん)をぐっと飲み込む。

ヒカリは少しの思案顔。

 

「うーん、ワオンちゃんの音楽を聴いてもらえれば、絶対に良さをわかってもらえるのになー」

 

「いやあ、どうだろうねえ……。ちょっと民衆に幻想を持ちすぎでは~?」

 

「何を弱気になってるの!! まだまだこれからだってば!!」

 

「でもでもぉ、こうしてレコードも売れなかったわけでぇ」

 

「ふっふっふ……次の手は、あるよ!!」

 

ヒカリの黄金(こがね)色の目がかっと開かれる。

……思い起こせばナギサの時も歌声コーチをやっていた。

ヒカリ、プロデューサー適性があるのか。

 

 

「ナユタちゃん……得意な楽器は?」

 

「へ……? ……。いやいやいや!! もしかしてと思うけど……!!」

 

この質問の流れ。

どう考えても思い当たるのはひとつしかない。

 

「私もやったことない。いっしょに頑張ろうね!! さっき子供たちと話したけど、やっぱり楽しい系の曲も良さそうだな~なんて」

 

「えっと……一応聞くけどヒカリちゃんの言う次の手ってのは……」

 

「魔法少女の……バンド!!」

 

 

 

 

「ワオンちゃんが注目されてないのは、企画力が低いから!! 魔法少女のバンドで曲を出せば話題フット―間違いなし!! 私達三人で……曲を出そう!!」

 

ワオンが持ってる記憶の話。

本格的にどこかへ行ってしまった。

 

 

 

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