魔法少女キラキラファンタジー   作:MOPX

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魔法少女に聞いてみよう!! ここは記憶を失った世界!!

 

――また、その子に(すが)るのか?

 

――恥知らずの愚か者。

 

――さっさと消えてしまえばいいのに。

 

 

「……」

 

「ナユタちゃん? どうしたの?」

 

「何でも……ない。それよりヒカリ……さん。さっきのケガは……?」

 

「ああ、これ?」

 

ヒカリと名乗った少女の腹部は、いまだ血がにじみ、白い洋服を赤く汚していた。

当の本人はポケットから手のひらサイズの緑の葉っぱを取り出している。

 

「何それ……?」

 

「薬草だよ。こうやって傷口に薬草を~ゴシゴシゴシゴシ~♪」

 

「ええ……!?」

 

ヒカリは服をまくしあげて、傷口に薬草を擦り出した。

薬草ってそうやって使うものだっけ……? と思ったが、とりあえず止血はできたらしい。

……消毒できているのか気になったが、そういう効果がある植物なのかもしれない。

 

ここは、魔法少女がいる世界なのだ。

何があったって別に不思議ではない。

 

「ナユタちゃんもゴシゴシする?」と(のぞ)き込んできた少女の瞳は直視するのが眩しいくらいの黄金(こがね)色。

私は思わず目を()らしてしまう。

 

「どうしたの?」「その瞳……綺麗だなって」「え? ありがとう!! ナユタちゃんの紫の瞳もとってもきれいだよ!!」「あ、ありがとう……」

そんな無軌道なやり取りが続く。

あまり気にしていなかったが、私の髪は長めの紫色。

自分では確認しようもなかったが、瞳の色も同じく紫色らしかった。

 

……暗い色調は、私にお似合いなのだろう。

うっすらとそんなことを思った。

 

 

「クエストも達成したしとりあえず町に戻ろうかと思うけど、ナユタちゃんは? どこからきたの?」

 

「……わからない。何も思い出せない」

 

気付けば森の中にいて、狼に追いかけまわされていた。

名前だって今しがた思い出したばかりだ。

 

ヒカリは驚く表情は見せず、むしろ納得といった様子でポンと手を叩いた。

 

「ああ~。じゃあここに来たばっかの人か~。それでモンスターと出会ったの、大変だったね!!」

 

「ここって……この森のこと?」

 

要領を得ない私にヒカリが首を振る。

 

「この世界のこと」

 

そして屈託なく、言う。

 

「この世界の人たちはね、みんなどこから来て、いつからいるのかわからない……。みんな記憶を失っているんだって!! 不思議だよね!!」

 

 

 

 

結局、私はヒカリに着いて行くことにした。

 

理由は3つほど。

行く当てがなかったのがひとつ。

せっかくの好意を無下(むげ)にできなかったのがひとつ。

何となく、ヒカリといっしょにいたいと感じたのがひとつ。

 

薄暗かった森を抜けていく。

ヒカリの先導は慣れたもので、この森にはよく来ているようだった。

この世界では長いのか聞けば「けっこう!!」とのこと。

 

……頭には暦だとか季節だとかのワードが浮かんでいるがとりあえず置いておく。

この世界が、私の頭にうっすらとある『常識』と同じ仕組みで駆動しているとは限らないからだ。

島が浮いていたのだって、普通ならありえないと頭はいまだに拒絶反応を起こしている。

 

私はそのことに、なぜか寒々しさを覚えるのだった。

 

そう、この世界は『未知』だ。

この世界は恐怖そのものだ。

この世界に私はいるべきじゃない。

この世界に私の居場所は――。

 

「ナユタちゃん!! 見えてきたよ!!」

 

「ひゃう!!」

 

思わず情けない声を上げてしまった。

ヒカリが「ごめんごめん~」と謝る。

 

……こういう勢いのあるタイプの子には向いている世界なんだと思う。

クソデカ両手大剣を出したり、薬草をゴシゴシしてたし……。

 

「あそこが私が今、宿を取ってお世話になってる町……」

 

森を抜けて視界が開く。

桃色のベールに区切られた空間の中央に、屋根が尖がっている大きな建物が見えた。

いかにもという感じだが、あれは『城』……らしい。

 

その周囲一帯には、建物が並んでいる。

 

「お城の『城下町』だよ!!」

 

「……え? 城下町……? なんて名前の城下町なんです……?」

 

「『城下町』は『城下町』だよ!! みんなそう呼んでるよ!!」

 

「……」

 

この世界は、割とざっくりしているらしかった。

 

 

 

 

桃色のベールをくぐり、城下町へと入る。

どうやらこれは外敵から守る外壁の役割を果たしているらしい。

ヒカリが使っていた力と、色は違えど効能は同じのようだ。

 

「ナユタちゃん!! 城下町にようこそ!!」手を広げて歓迎のポーズを取るヒカリとは対照的に、私は息を()んでいた。

頭の中に湧いてきたファンタジーという単語。

それを体現するかのような街並み。

看板を出してる露店がならび、子供たちが走りまわり、街の中央には噴水のある庭。

碁盤のように整理された通路からは、白々しささえ感じる。

 

 

ヒカリはと言えば、私に町のことを紹介するのが嬉しいのか、意気揚々と案内をしてくれた。

 

「あそこが魔法少女ギルド!! あの森に行ったのもここでボスモンスター討伐の依頼を受けたからなんだー。いやあ、運よくナユタちゃんを助けられて良かったよ!!」

 

「魔法少女ギルド……? 冒険者じゃなしに……?」

 

「うん!! 冒険者ギルドもあるよ!! でも冒険者さんは未開の土地に行くのがお仕事だから……町を守るのは私達、魔法少女のお仕事!!」

 

鼻を鳴らすヒカリは誇らしげな様子。

魔法少女というものにだいぶ思い入れがあるらしい。

 

「……そうなんだ。ギルドは職能別の組合のことだから、おかしくはないのかな……うん」

 

「え? ショクノーのクミアイ……? ナユタちゃん、難しい言葉を知ってるね!!」

 

「……」

 

「あれ、ナユタちゃん。どうしたの?」

 

「……褒められて、ちょっと嬉しいかも」

 

「そうなんだ!! もっと褒めるね!! ナユタちゃん、いよっ物知り!!」

 

「えへ、えへへへ……」

 

……どうやら私は調子に乗る性格らしい。

これでは話が進まないと、自分に(かつ)を入れて問いかける。

 

「それじゃあヒカリさんはあのギルドで普段仕事をしてる感じなんですか……?」

 

「んー。ちょっと違うかな。ギルドを手伝ったのはみんな忙しいみたいだったからついついって感じで……」

 

小さな女の子がついついであんな危険そうな怪物と戦うのはいかがなものか……。

そのおかげで助かったわけではあるけど。

 

「まあ、お城の人に頼まれてることが他にあるんだけど……後でいっか。そんなことより……」

 

「……?」

 

「ほら、ナユタちゃん!! 見て見て、露店だよ!!」

 

ヒカリにはモンスター退治とは別にやることがある。

それでも目の前の自分がこの世界に馴染むようにと案内を優先してくれているらしかった。

 

 

「ほら、ナユタちゃん!! 変身アイテム!!」

 

「え……!? 変身アイテムって売ってるの……!?」

 

気さくそうなお姉さんが立っているその店では、化粧ポーチ(?)らしきものやら、光っている石やらが無造作に並べられている。

案内をしてもらって悪いが、いよいよこの世界のことがわからなくなってきた。

 

「変身アイテムを売っているというか……魔法少女にとって思い入れのあるものなら、何でも変身アイテムになるんだよ!!」

 

「な、何でも……!? じゃあ奥に置いてるマグロやモップも……?」

 

「モップは槍系、マグロは殴打系の武器だね!! 魔法少女のイメージ力を高めて変身アイテム兼武器として使用できるよ!!」

 

「あ、頭が痛くなってきた……」

 

「ええ!?」と大袈裟に驚くヒカリをよそに、私の頭は何とか理屈を付けようとする。

何となく、認識の力――想像力がそのまま具現化できる世界というのはわかってきた。

露店に並んでいるこれらも、「どんな物質であるか?」よりも「どんなイメージを持つか?」が重要なのだろう。

 

だからこそ、魔法少女というイメージありきの存在が、この世界では重要な役割を果たす。

先の戦いでヒカリが剣を持った時に姿を変えたのも、剣士としての姿になったからだろう。

何も持たない時でも変身はできるが、その時はドレス姿ということか。

 

「ドレスは魔法少女の基本フォーム!! 基本的には剣士フォームの方が浄化技が強いから、そっちで戦うようにしてるんだ~。防御力は落ちちゃうけどね」

 

「落ちちゃうって……。いや、そもそも何でヒカリさんみたいな小さな子が戦ってるの? 危ないことは大人に任せたらいいんじゃあ……」

 

「あ、大事なことを言ってなかったね」

 

ヒカリは屈託のない笑顔で言った。

 

 

「モンスターはね魔法少女じゃなきゃ倒せないの」

 

「え……?」

 

 

背筋がひんやりとした。

その事実が何を意味するのか、すぐにわかったからだ。

 

この世界は、少女が戦わなければ滅んでしまう。

モンスターと呼ばれる種が世界を闊歩(かっぽ)し、魔法少女が抑えることで維持している。

 

歪んでいる、そう思った。

 

 

「……」

 

「あれナユタちゃん静かにどうしたの? あ!! もしかして欲しい変身アイテムある!? ふふーん、私こうみえてたくさんドングリを持ってるから買ってあげるよ!! ちなみにドングリは金と銀と銅の三種類があって……」

 

「……いい」

 

「え……?」

 

「私は……いい」

 

私は(なか)ば反射で答えていた。

 

きっと肯定したくなかった。

この世界の在り方を。

 

ヒカリが申し訳なさそうにほおをかいた。

 

「あはは……ごめんごめん……。私ってば自分がこういうの見るの好きだからつい……。ナユタちゃんが喜ぶとは限らないのに……」

 

「……。ヒカリさんは全く悪くないと思う。でも、どうしてこんなものを私に……?」

 

「ナユタちゃんも魔法少女に興味があるかな、って」

 

「私が……魔法少女……?」

 

「あっ!! うん!! イヤなら全然いいんだけど!! ほら!! ナユタちゃんの髪、綺麗な紫だし!! 魔法少女映えしそうだな~なんて!!」

 

「私は……」

 

風が、私達の間を通り過ぎた。

 

「小さな子供が戦う世界、おかしいと思う……」

 

 

 

 

時間が止まったように静けさ。

 

くすぶっていた本心を隠しとおすこともできなかった。

きっと、私自身がそれを抱えたままでいる強さを持ち合わせてなかったから。

 

この純真な子に、本音を漏らしてしまった。

まるで夢見る子供に、サンタさんはいないんだよって伝えるみたいに。

 

 

困ったように微笑んでいたヒカリが、やがて口を開いた。

 

「……うん、おかしいのかもね」

 

「だったら……なんで? 何でヒカリさんは戦うの……? この世界に来たのだって『そこそこ』の長さなんでしょ……? だったら、あなたがみんなのために戦うことなんか……。この世界がどんなところかすらわかってないのに!!」

 

言葉が溢れてきて止まらなかった。

自分でも何をこんなに熱くなっているのか。

 

「確かに私もまだこの世界、わからないことだらけだなあ」

 

「だったら……!!」

 

「でも守りたいから」

 

「守りたい……? 何を……」

 

その時だった。

けたたましい警報音が、町中に鳴り響いたのは。

 

町の人がざわめきだす。

ヒカリはといえば、一転して真剣な顔つきになっていた。

 

「ヒカリさん、この警報って……!!」

 

「モンスター……!! ヒメちゃんのバリアーを突き破って町の中に来るなんて……!! やっぱり凶暴化が進んでたんだ……!! ごめん!! ナユタちゃん!! この場所に逃げて!!」

 

そう言われた時には地図の切れ端を差し出されていた。

バツ印がひとつ。

避難場所なのだと察しがついた。

 

「でも、ヒカリさんは……!?」

 

「私は戦わなくちゃいけないから……!! 他の魔法少女もクエストで出払ってて、私が行くしかないから!!」

 

「あ……」

 

止めることはできなかった。

黄色い髪を揺らしながら、少女は既に駆けだしていた。

 

視線の先――空には黒い点がいくつか浮かんでいた。

目を()らせば、それらが近づいて来ているのがわかった。

 

翼竜。

頭の中にあるそのイメージと合致した。

 

 

 

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