魔法少女キラキラファンタジー   作:MOPX

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星空が見えなくなる日

 

知られてしまった私の心。

漏れてしまった心の残滓(ざんし)。

 

言うつもりはなかった、ただうっかりと口を滑らしたのだ。

 

世界よりもヒカリが大切だということを。

 

ヒカリがそれを聞いてどう思ったのかは定かじゃない。

 

 

気持ち悪いと思ったかもしれない。

 

 

それはそうだ。

だってそうだ。

 

この世の中全部と、一人の人間を秤にかけて。

後者だと言い切ってしまうなんて全く道理に合わない。

自分に酔っているか、あるいは罪悪感からの反動か。

 

私は知っていたはずなのに。

人の心は未知だと。

未知は恐怖をもたらすものだと。

 

私の未知を、ヒカリに知られるべきではなかったのだ。

 

いずれにせよ、もう後戻りはできない。

終着点へは刻一刻と近づいている。

 

私達の旅は、終わりを迎えようとしていた。

 

 

●

 

 

「大変だよナユタちゃん!! 空が……!!」

 

その日の夜は、いつものようにテントを張って野宿をしていた。

私はテントの中で荷物の整理を、ヒカリは周囲に危険がないか軽い見回りをしていた。

ヒカリにそれを任せたのは、既に高い丘からこの辺りにモンスターがいないのを確認済だったからだ。

 

しかし、私の思惑に反してヒカリは息を切らしてテントへと飛び込んできたのだ。

 

「落ち着いて。いったいどうしたの?」

 

「空が……星空が見えなくなっちゃったの!!」

 

外に出る。

普通に考えれば、空が曇って見えなくなっただけだろう。

 

心は不思議と落ち着いていた。

まるでわかりきった結果を確かめにいくみたいに。

 

空は真っ黒(・・・)だった。

それは、ただの黒ではなかった。

 

光を遮断するフィルターが、私達の世界を覆いつくしているみたいだ。

一様で、抑揚のない、単純で、どこまでも広がる黒。

 

そして、私はこれを知っている。

 

「モンスターだ……」

 

私のつぶやきに、ヒカリが驚きの声を漏らす。

自分でもおかしいとは思う。

この世界を覆うほどの巨大なモンスターがいるのだとすれば、もうこの世界は終わりだ。

 

だが、それが事実だ。

 

頭が痛む。

耐え切れず、うずくまる。

私を心配する声が、遠くに聞こえる。

まるで別世界。

 

最初からわかっていたはずだった。

私はこの世界から消えるべき存在だと。

 

声が聞こえてきた。

 

 

――さあ、全てを終わらせる時よ。『世界の柱』に向かいなさい。

 

 

「ナユタちゃん……!? 大丈夫……!?」

 

「……。妖精の声が聞こえた」

 

――わかっているでしょう? 自分がどうするべきか?

 

「妖精の声だよ。世界の柱へ向かえって言っている……。ヒカリちゃん、ここからは私ひとりで行く」

 

「どうして……? 私、ナユタちゃんのガイド役だよ!! これまでだってずっと二人で……!!」

 

「……」

 

私はふらふらと歩き出した。

ヒカリが私を抑えようとする。

 

駆け抜ける。

 

大丈夫だ。

こんなバカな人間、すぐに愛想をつかして諦めて帰る。

 

ヒカリが危険に陥(おちい)る前に、全てを終わらせてしまいたい。

 

歩みは止まらない。

目的地はすぐそこだ。

 

 

●

 

 

一晩駆けて、朝日が昇る時間になっていた。

そうだとわかったのは真っ暗な空からぼんやりと(・・・・・)光が漏れていたからだ。

 

私は丘の上から目的地を見下ろした。

辺りには、一面の廃墟が広がっていた。

 

私を呼ぶ声がした。

まさかと思った。

 

「やっと追いついた!! ナユタちゃん!! 一人でどうしちゃったの……!!」

 

「ヒカリ……ちゃん」

 

ヒカリが息を切らしてそこにいた。

一夜の間、駆けていたのに追いつかれたということは、ヒカリも同じように走ったということだ。

こんな私、放っておいていいのに。

 

――お前が巻き込んだんだろう。追ってくるのを期待してたんじゃないのか? 小さな子に責任をゆだねるなんて、最低のクズだ。

 

「妖精の声が聞こえるんだ。ここからは一人じゃないと、世界を救うのは無理ですよって」

 

私はウソをついた。

無論、ヒカリを納得させるためだ。

 

「そんな……!! でも私はナユタちゃんのガイド役だよ!! 妖精さんがそう言ってても、ついていく!!」

 

「魔法少女のガイド役は妖精だよ。ヒカリちゃんはここまで頑張ってくれたし……小さな子をつれていけないよ」

 

「ナユタちゃんだって同じくらいだよ!! なんなら私の方が背がおっきいし!!」

 

風を感じた。

正確には敵が迫っている気配だ。

 

「伏せて……!!」

 

私はヒカリを手で押さえる。

頭上に黒い巨大なものが通り過ぎた。

 

爬虫類(はちゅうるい)を思わせる体躯(たいく)はたくましく太い。

巨大な翼を広げて廃墟の方へと降り立っていった。

 

「ドラゴンだ……」

 

ヒカリが口にしたその名称が、一般的なものだろう。

でも私は知っている。

やつらにとって姿形は便宜(べんぎ)上のモノ。

ヒトの頭にあるイメージを、模しているに過ぎない。

 

薄明りに照らされた廃墟の上空を旋回している。

遠くに別の個体も見えた。

一体だけで十分な威圧感があるのに二体、三体ともなると最早この世の光景ではないようだ。

どうやら複数の個体が分担するようにこの場所の周囲を徘徊(はいかい)しているらしい。

 

「ヒカリちゃん、ここからは本当に危ないから――」

 

「イヤ!! 絶対についていく!! 危ないならなおさらだよ!! だって……!!」

 

ヒカリの目は少し、うるんでいた。

 

「ナユタちゃんを、そんな場所で一人になんかできないよ!!」

 

「……」

 

思案する。

もうここまで来たら連れて行った方が安全かも――。

 

――なるほど。そうやって連れ込むわけだ。まるで子供を誘い込む悪い妖精(・・)だ。

 

「……」

 

「……ナユタちゃん?」

 

「行こう……ヒカリちゃん」

 

ヒカリがこくんと頷く。

私達は丘をくだった。

 

 

●

 

 

廃墟は、無機質な冷たさに満ちていた。

ところどころに立った柱の間に、線が張り巡らされている。

 

「ナユタちゃん、ここの地面、とっても固いね」

 

ドラゴンに見つからぬよう建物の陰に隠れながら進んでいれば、ヒカリがそんなことを言った。

最初、ヒカリはここにいるモンスターが町の方へ向かわないか心配していたが、距離もあるし大丈夫だろうとなだめた。

どちらにしろ、ここでどうにかできなければ世界は終わるのだから私はあまり気にしなかった。

 

そんなやり取りを経て、先の一言だった。

 

「……ここは廃墟だからね。もともとは大きな街だったんだと思う」

 

「でも、これ石じゃないよね……? 黒くて、文字が掘ってあったりするし……」

 

廃墟の道の上には、二桁の数字が。

私はこれが何だか、わかる。

 

「道を走っていた人は、この数字を超えないような速さで走ってた……んだと思う」

 

「それで50……? お馬さん、50頭分の速さとか……?」

 

「……うん、そんな感じ」

 

ヒカリのことを侮ってこう言ったわけではない。

本質的には同じことだ。

何かしら決めた単位を、私達の認識できる共通の枠組みとして使用する。

それは人間が勝手に決めたルールだ。

普遍的な意味はない。

 

頭で声が響く。

 

 

――そこが地獄への一本道。あなたの、そしてこの世界の墓標よ。

 

 

横に大きい建物の横に、扉が見えた。

扉の中は狭い個室になっている。

 

「動くといいけど……いや、動くようにしている、か」

 

「動くって……まさか、あの部屋(・・)が動くの!?」

 

「うん、下に」

 

「下……? 地面の中に入っていくってこと……!? それで世界は救われるのかな……?」

 

私は何も答えない。

目下のところ考えなければいけない問題が発生したからだ。

 

背後からドラゴンが迫っている。

 

「ヒカリちゃん、走って!!」

 

「え、ええ!?」と驚くヒカリの手を引く。

私達のいた位置に、黒いブレスが照射される。

 

漆黒のドラゴンは悠々と空中を旋回している。

 

「私の両手大剣で……!!」

 

「待って!!」

 

大技を使えば、その魔法力に反応する形で周囲のモンスター全てがここに集まる。

そうなれば完全に詰みだ。

私ひとりじゃ、ヒカリを守れない。

 

じゃああの扉の中に逃げ込む?

それもダメだ。

 

ドラゴンが追ってきて、施設ごと破壊されれば終わりだ。

この一体だけは、何とかして倒さなければいけない。

 

 

――あなたが死ねばいい。世界のことなんて、本当はどうでもいいんでしょ?

 

 

「うるさいな……」

 

「ナユタちゃん……?」

 

「妖精だよ、全部」

 

ドラゴンが巨体で突っ込んでくる。

私達は転がるように横に回避。

硬い地面の上を、少女が二人寝そべる形。

 

 

――少女って歳じゃないでしょ。

 

 

「だからうるさいな……こいつを倒す手筈はできてるよ」

 

ドラゴンが勢い余って、柱を繋ぐ線に絡まる。

それを振りほどくようにこちらを向く。

 

私は柱へと触れた。

 

「ナユタちゃん……!? 何をするの……?」

 

「電気は大学でやったから」

 

この世界では、魔法少女が思い入れを持つものは何でも武器になる。

それが大学時代の選択科目でも。

 

「魔法の電信柱!!」

 

紫の交流がばちばちと弾けながら進む。

効率よく伝送されたそれはドラゴンの羽を、牙を、胴体を、手を、足を、首を、粉々に砕いた。

 

名残のように、紫の電気がばちばちと弾けている。

他のモンスターも反応する様子はない。

 

「すごい……!! ナユタちゃん、いつの間にこんなに強く……?」

 

「……」

 

答えない。

いや、答えたくない。

 

――本当に逃げてばっかり。イヤになるくらい。

 

その通りだ。

きっとこの力をもって私は世界を救わないといけない。

 

いや、違う。

 

この力を、世界に捧げなければいけないのだろう。

 

 

 

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