魔法少女キラキラファンタジー   作:MOPX

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ほの暗い地の底で

 

「わわ!! すごい勢いで地面に潜ってる……!! どういう仕組みなんだろうね……!!」

 

重りを吊り下げて……なんて回答は別に望まれてないだろう。

私とヒカリが扉に入るなり、この『エレベーター』は動き出した。

 

電気が生きている?

いや、それは非現実的だろう。

私はこの部屋がわずかに、黄色と紫色を帯びているのに気が付いた。

 

思い出したのは、私達が使っている発光するテント。

あれは私達の魔法力に反応して、その色を変える。

 

だとするなら、ここも――。

 

がたんと揺れが収まる。

体勢を崩したヒカリを受け止める。

 

「大丈夫……?」

 

「う、うん。……」

 

「どうしたの? もしかしてどこか痛むとか……!!」

 

「あ、ううん!! ごめんね心配させて!! 私がナユタちゃんのガイド役なのに、全然わからないことばっかりで……だから……」

 

私はぽんぽんとヒカリの服を払ってあげる。

ここは、ヒカリにとっては未知の場所だ。

私がこの世界で目覚めた時に困惑したように、ヒカリもまた困惑している。

 

守らねば、と思った。

 

 

――それができなかったから、今の状況なんじゃないの?

 

 

「……行こう」

 

ヒカリの手を引いて私は一歩を踏み出す。

『エレベーター』の扉は勝手に開いた。

 

 

 

 

視界には無機質な廊下が広がっていた。

等間隔に並んだ扉のそれぞれには3桁の番号がついている。

多少は古びているものの、読むことはできそうだ。

 

ヒカリがぼそりとつぶやいた。

 

「ここってダンジョンなのかな……?」

 

「ダンジョン……?」

 

「あ、ううん!! ごめん!! 私の知っているダンジョンとフンイキがちょっと違ってたから……忘れて」

 

「合ってるよ」

 

「え?」

 

ここはダンジョンだ。

未知にあふれていた場所だ。

 

そして、恐怖に満ちていた場所だ。

 

「ここではね、たくさんの人が研究をしていた……んだと思う」

 

「ケンキュー? 学者さんみたいに何かを調べてたってこと?」

 

「うん、まさにその通り。……人々の傲慢(ごうまん)さの結晶だよ。ちっぽけな人間が、この世界の全てを知れるものだと、信じて疑わなかったんだ」

 

――あなたが、その最たる例よね。

 

「う~ん? でもナユタちゃんは本当に物知りだよね。もしかして妖精さんに教えてもらったとか……?」

 

「まあ、そんなところ……だと思う」

 

何となくだ。

しかし、その確信は記憶よりももっと深い『私』に刻み込まれている。

 

ここは始まりの場所であり、終わりの場所だ。

だから、もう一度始めるのも、この場所だ。

 

問題はどこへ向かったらいいのかということだけど――。

 

 

――496。

 

 

496? 最初の一桁が4だと普通は4階ではないのだろうか。

 

 

――三桁の完全数。ゲンをかつぐなんてふざけたことをぬかして、自分でつけたんでしょう。

 

そうなのだろうか。

……確かに『完全』という響きにはそそられるものがある。

 

「ヒカリちゃん、496……そこに何かがある」

 

「おお……!! すごいねナユタちゃん!! ……」

 

「どうしたの……?」

 

ヒカリは下を向いていた。

その瞳は少し寂しそうだった。

 

「ううん……。ナユタちゃんはやっぱり特別な存在だったんだなって……。何となくわかってはいたけど」

 

「ごめんね、気をつかわせて!!」と慌てて手を振る。

ヒカリがそんなこと言う必要なんて全くないのに。

 

全ては私が、落とし前を付けるだけのことだ。

薄暗い廊下に紫と黄の照明が灯る。

 

続く道に続くのは、未来か地獄か。

あるいは――。

 

――過去かもね。

 

 

 

 

『496』の中は存外広かった。

天井が吹き抜けのようになっている。

恐らくは地上を突き抜けて、この施設の上方まで伸びていた。

 

制御用と思われる機器がいくつか並んでいる。

「何を制御するための?」と聞かれれば、中央にそびえ立つポッドだろう。

半透明の縦に長いケースは、実験用のフラスコを思わせる。

 

「すごい……こんなところがあったなんて……。ナユタちゃん、ここが世界の柱なのかな……?」

 

「……。ここは……」

 

 

――悪の研究者たちの巣窟(そうくつ)、でしょ?

 

 

「悪い人たちの、本拠地だよ」

 

「悪い人たち……? それって……?」

 

「子供たちに悪いことをする、悪い大人だよ」

 

ヒカリは小首をかしげてしまった。

それでいいのかもしれない。

 

私は片隅にある端末と向き合った。

ホコリは積もっているが、何十年も経っているかと言われれば違うだろう。

さて、ここまで来た手段を考えれば……。

 

端末に力を込めれば、傍のモニターに文字が表示された。

 

「わ!! なに!?」

 

「情報にアクセスするには、このキーボードに正しい文字を打ち込めばいいはず……さて、と」

 

周辺を見渡すが、さすがに文字列をそのまま残しているなんてことはなかった。

私の名前……もさすがに不用心すぎるからないだろう。

そもそも、大文字小文字の区別がわからない。

闇雲にやれば、途中でロックがかかる可能性がある。

 

「困ったな……何て打てばいいんだろう……」

 

「うーん、そもそも私はこの文字がわかんないけど……。妖精さんは? 何か言ってないの?」

 

……。

 

「妖精は肝心な時には役に立たないみたい……」

 

「そうなんだ……。うーん、じゃあ……ナユタちゃんの好きな言葉とか!!」

 

「私の……?」

 

私の好きな言葉?

物語の中だって、そんな風にはできてないだろう。

 

だが――。

 

私は手を動かす。

モニターに文字が表示される。

 

 

『Hikari』

 

 

手を大きめのボタンに打ちつける。

渇いた音が、部屋に響いた。

 

画面が切り替わる。

いくつかの文字列が、勢いよく画面に走った。

 

「わわ!! すごい!! これって成功だよね!! なんて言葉だったの?」

 

「……その」

 

何も言えなかった。

こんなの伝えたら、気持ち悪いと思われるに決まっている。

 

 

――ええ、気持ち悪いわね。さ、操作の手順を伝えるわよ。

 

 

いまさら出てきたか。

ヒカリには「妖精の声がまた聞こえた」とちょっと大げさ目に言って、話題を切り替える。

 

カタカタとキーを打ち、より深い層へ。

情報の階層を、上から下へ。

もぐるように、下へ下へ。

 

 

そして行き着いた。

ある文字列に。

 

 

『Fuji Nayuta』

 

 

「……」

 

「何だか文字がいっぱい出たり消えたり……!! ナユタちゃん……何だか……」

 

「悪魔みたい、かな」

 

「え……? いやいや!! そうじゃなくて、私はすごいと思って……」

 

そう、これは悪魔の儀式だ。

電子を使った、呪詛(コード)の塊だ。

この世界に呪いをかけてしまった、哀れな女だ。

 

 

――さあ、フォルダを叩いて。実行ファイルがあるから、後は手順に沿って。

 

 

打鍵をする。

最後と思われる過程で、傍らに置いてある怪しい器具を頭に付ける。

……低予算の映画でももっとマシなセットを用意しそうだが。

 

どうやらこれを作った人間は、美的センスはないらしい。

 

「ナユタちゃん……?」

 

「下がってて。頭に刺激を加えるから」

 

「え……!? どういうこと!?」

 

 

始まる。

私の記憶を、呼び覚ます作業が。

 

 

「あ あ あ あ !!」

 

「ナユタちゃん!? ナユタちゃんってば!?」

 

古い人間の残した遺産だ。

記憶が電気信号の集まりなら、それを人為的によみがえらせるのも可能なはずだ。

変化のもとを辿って過去へと逆流をする。

さながら時間旅行。

主観的な事象において、人は何でも起こしうる。

 

その主観を、外界にまで延長できる存在がいた。

 

それは人類を救う希望の光とされた。

それは効率的に運用され、消費された。

それは最後には光を放たなくなり、身勝手に失望され、打ち捨てられた。

 

「ナユタちゃん!! ナユタちゃーーーーん!!」

 

それは――。

 

その中の一人は――。

 

 

 

私が好きになれた人だった。

 

 

 

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