魔法少女キラキラファンタジー   作:MOPX

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世界の柱

 

――あの子は無事だろうか。

 

そうじゃなきゃ困るよ。

私はそのために戦ってきたんだから。

 

――そう、自分の命に代えてでも。

 

何もないと思っていた世界に、それでもあなたがいてくれたら。

それだけで救われた気分になるから。

 

――真っ暗な空の下で。

 

私は紫の髪をはためかせ、歩く。

 

黒い渦のもとへと。

 

 

 

 

「こいつが……」

 

街一つ分までの距離まで近づいた。

黒い渦による風圧――正確にはそう感じれるものが私の小さな体を押す。

 

視界を凝らせば、渦の中心には核のようなものが見えた。

否、それは核そのものだった。

見様見真似で形作られる漆黒の存在。

その親玉は細胞の在り方を参考にした。

 

 

――世界を覆いつくすスライム型モンスター。それが世界の柱の正体ってわけ。

 

 

荒唐無稽(こうとうむけい)

しかしその存在は確かに私の目の前に存在した。

前の世界を滅ぼすにいたったモンスター。

私がこの世界に免疫を与えてからは、活動を弱めていたはずだが……。

 

「克服しつつある……ってことかしら」

 

――だから私がセットされた。私が自然と思い出して全ての決着を付けれるように。

 

「あまり役に立ってなかったけどね。それよりも倒す手段は……」

 

――最後のキーを解放するわ。これもあなたの仕込みだけどね。

 

「ん……前の私はずいぶんと用意周到だったみたいね」

 

――サバサバしてるわね。世界を救うなんてガラじゃないくせに。

 

「うるさい……」

 

 

あらためて、黒い渦を直視する。

 

そう、全ては私がやらなければいけないことだった。

大きくなってから、ずっと私の胸にあった疑問。

 

モンスターは果たして、どうやって発生したのか?

この(いびつ)としか言えない存在が、本当に自然に生まれたのか?

 

私の答えはこうだ。

どこかの誰かがモンスターを作り出したのだ。

 

それは遠い星の知的生命体かもしれないし、別の宇宙の人間なのかもしれない。

しかし恐らくは科学者――それに準じるものが生みだしたのだ。

 

これは何の根拠もない私の直感だ。

何となくだが、フラスコに薬品を入れてかき混ぜるがごとく。

そんな無機質さがこの存在には漂っているのだ。

この星そのものを実験体にしているような、そんな邪悪な設計思想を。

 

だから――。

 

 

「――止めなくちゃいけないんだ、私が」

 

紫色の半透明なウィンドウが幾つも周囲に浮かぶ。

淡い紫をまとった指先が、高速で詠唱(コード)(うた)いあげる。

 

この世界で、いろんなものを武器として、変身アイテムとして使ったが結局しっくりくるものはなかった。

当然だ。

私は何にも想い入れなんか持てやしない、そんな冷たい人間だ。

だから、せめて――。

 

 

――この体を捧げよう。

 

 

「魔法の世界改変(チートコード)

 

 

左手で思いっきり疑似エンターキーを叩く。

思えばあの時と同じだ。

この世界を書き換えてしまったのも、この左手だ。

 

Keen(鋭敏たる) Fixer(修正者).

本来は存在しないもの(モンスター)を消し去るその能力は、皮肉にもこの世界をつくり変えたものだ。

 

周囲の空間が紫に歪んでいく。

そうだ、このエネルギーは単純な密度で表されるもの。

一瞬に近い時間、限りなく小さな点にエネルギーを集めると最も強くなる。

 

ならば、人の一生分の力をそこに込めれば。

 

「あいつを……倒すことができる!!」

 

――その時に、私は消えるだろうけど。

 

――でも、何かが残るんならそれでいい。

 

――さようなら、ヒカリちゃん……。いや――

 

 

私は涙を流していた。

 

 

「光、さよなら」

 

 

私の全身全霊をかけた力は、ビームとなり黒い渦へ。

外殻を突き破り、『世界の柱』の核へと――。

 

 

 

 

 

届かなかった。

 

 

 

 

 

「え……?」

 

――単純な話よ。あなた自身、そんなことは無理だと思っているからでしょ?

 

「そんな……私は……」

 

信じていなかった。

魔法の力なんて。

 

それどころか恐れていた。

未知なるものを、最初からずっと。

 

私は免罪符を欲していただけだった。

それは正義の行いから、もっとも離れたところにあるように思えた。

結局、命をかける覚悟もそれを成す勇気も私は何一つ持っていなかった。

 

――最初から無理だったのよ、私には。

 

黒い渦が吹き荒れる。

 

「きゃああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!」

 

窓枠が吹き飛ぶ。

私の体が大の字になる。

 

そこにいるのはちっぽけで情けない少女。

いや、良い歳の大人か。

 

視界に広がるのはいっぱいの暗闇。

黒が、落ちてきた。

 

「あ……あ……」

 

酷く情けない声だった。

かつて思い至っていたことではないか。

形はこいつらの本質ではない。

だからこそ、形状が決まってないやつが一番厄介だと。

 

空から無数の、スライムが降り注ぐ。

『世界の柱』はこの世界を完全に終わらせるつもりだった。

恐らく、世界中が同じ状態になっている。

 

――私には何もできない。

 

降り立ったスライムにあっという間に囲まれ、そのまま押しつぶされる。

視界が真っ暗に染まっていく。

 

――ああ、最初から無理だったんだ。

 

――わかりきっていたはずなのに。

 

――最後まであがくつもりもなく、信念も大義もなく。

 

――私に見えていたのは一人の少女だけ。

 

――世界なんて背負える器、持ってるはずがなかった。

 

――だから、当然の結末でしかないのに。

 

 

何で……涙が止まらないのだろう……。

 

あまりにも卑近で、ちっぽけな願い。

だからこそこれは、私の本心なのだろう。

 

会いたいと思った。

消えたくないと思った。

 

何だよ、達観した振りをして。

未練がましくダダをこねる子供みたいじゃないか。

 

でも、願わくは。

 

どんなに不合理でも、もう一度叶うのなら。

 

 

「もう一度会いたいよ……ヒカリ……」

 

 

視界は完全に閉じた。

体は動かない。

ジェット音が聞こえた。

 

 

……?

 

 

何の音だ、このくぐもった重低音は?

力強くて、それでいてどこか優しくて。

 

黄色い光が差し込んできた。

ちょっと強引に、暗闇を引き裂くように。

 

ああ、私はこの光を知っている。

これは――。

 

 

「ナユタちゃん!! 助けにきたよおおおおぉぉぉぉ!!」

 

「ヒカリちゃ……!?」

 

衝撃と共に私の周囲に纏わりついていたスライム……と、私の体が吹っ飛ばされる。

大丈夫、魔法少女の力は人間には危害を与えないから……。

 

起き上がった私の視界に入ったのは信じがたい光景だった。

 

「魔法のリアカー回転斬りーーーー!!」

 

リアカーに乗ったヒカリは私の周りをグルグルと暴走走行(ドリフト)をしていた。

噴出(ふんしゅつ)している黄色いジェットを、そのままスライムに吹き当ててなぎ倒していく。

 

「何やってるの!? ヒカリ!?」

 

「そこにナユタちゃんがいるってわかったから!! 紫の光がちょっと漏れてたから!!」

 

――私が聞きたいのはそういうことじゃなくて。

 

「何で……助けにきたの!? 私のことなんか放っておいてくれたらいい!!」

 

「放っておけるわけないよ!! 私達、いっしょに旅をしていたから!! 困っている人がいたら助けるのが魔法少女なんだよ!! ナユタちゃんがこれまで他の人を助けたみたいに、私だってナユタちゃんを助けたいよ!!」

 

――私は。

 

「私は……そんなんじゃない……私は……魔法少女じゃなくて悪い科学者だったんだよ……!! この世界のことなんかどうでもいいと思っていた!! 最低のクズなんだよ!!」

 

「違う……!! 自分でも気づいてないだけだよ!! ナユタちゃんは優しい子だよ……だって!!」

 

黄色い光が車上で輝く。

それはまるで、地上に降り立った太陽。

 

この暗闇の中で、しっかりと輝く光。

 

「私をずっと守ってくれたのは、ナユタおねえさんだったから!!」

 

「……!!」

 

リアカーが私の前で止まった。

 

「今までだって二人でいろんな街を守ってきたじゃない!! 本当に冷たい人は……そんなことやんないよ……」

 

「私は……」

 

何て答えたらいいかわかならなかった。

私は自分の気持ちすら、わからなかった。

 

でも、もしも。

こんな私の気持ちに、価値を感じてくれるのなら――。

 

救われた気分だった。

 

 

「きっとこの世界はキラキラに満ちているから……それを教えてくれたのは、あなただから!! 私は……この世界を守りたい!!」

 

リアカーの上でヒカリが剣を振り上げる。

必殺の両手大剣。

敵の核を狙えばいいなんて、説明するまでもないだろう。

 

だから、私は叫んだ。

 

「頑張って……ヒカリ……!!」

 

光の帯が天を突き抜ける。

それは、黄色い柱となった。

 

黒い渦に対抗する、光の剣へと。

 

「闇を斬り裂く光の(つるぎ)!! 魔法少女ヒカリ!!」

 

ヒカリの体がまぶしい光を放つ。

そのまま光の帯を振り下ろそうとした。

 

その瞬間だった。

 

「危ない!!」「え……?」

 

黒い渦から、無数の矢が飛んできていた。

防衛機構。

形状を変化させれるということは、人に害をなすのに最適な構造を取れるということだ。

 

ヒカリが纏っていた光のガードに、無数の矢が突き刺さっていた。

天高く貫く光の剣は、ヒカリの叫び声とともに消失した。

 

「ヒカリーーーー!!」

 

私はリアカーに飛び乗りヒカリにおおいかぶさる。

そのままもみくちゃに地面に伏せる。

 

しばらくて矢は止んだ。

 

「大丈夫!? ヒカリ!?」

 

「う、うん……何とか」

 

二人で無事を確認する。

ヒカリの手には剣がしっかりと握られていた。

 

しかし状況は(かんば)しくない。

 

黒い渦はその勢いを増していた。

また、無数の矢が飛んでくれば、防ぐ手段はないだろう。

 

いや、それよりも――。

 

「空が……!!」

 

空の黒さは一層その濃さを増す。

世界中でモンスターを降り注がせる雲と化し。

 

「ナユタちゃん……!! このままじゃ……!!」

 

まだ、黒い渦を倒す手段も見つかってないのに……。

時間をかければ、私達が倒す前に世界の方が滅んでしまう。

でも、私とヒカリがここから何かをするなんて、不可能だ。

 

いったいどうしたら……。

 

 

『話は聞かせていただきました』

 

 

「この声は……!!」

 

それはどこからともなく聞こえた。

聞き覚えのある声は、どことなく凛とした響き。

 

桃色のお姫様の姿が、脳裏によぎった。

 

 

 

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