魔法少女キラキラファンタジー   作:MOPX

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世界の柱

 

――あの子は無事だろうか。

 

そうじゃなきゃ困るよ。

私はそのために戦ってきたんだから。

 

――そう、自分の命に代えてでも。

 

何もないと思っていた世界に、それでもあなたがいてくれたら。

それだけで救われた気分になるから。

 

――真っ暗な空の下で。

 

私は紫の髪をはためかせ、歩く。

 

黒い渦のもとへと。

 

 

●

 

 

「こいつが……」

 

街一つ分までの距離まで近づいた。

黒い渦による風圧――正確にはそう感じれるものが私の小さな体を押す。

 

視界を凝らせば、渦の中心には核のようなものが見えた。

否、それは核そのものだった。

見様見真似で形作られる漆黒の存在。

その親玉は細胞の在り方を参考にした。

 

 

――世界を覆いつくすスライム型モンスター。それが世界の柱の正体ってわけ。

 

 

荒唐無稽(こうとうむけい)。

しかしその存在は確かに私の目の前に存在した。

前の世界を滅ぼすにいたったモンスター。

私がこの世界に免疫を与えてからは、活動を弱めていたはずだが……。

 

「克服しつつある……ってことかしら」

 

――だから私がセットされた。私が自然と思い出して全ての決着を付けれるように。

 

「あまり役に立ってなかったけどね。それよりも倒す手段は……」

 

――最後のキーを解放するわ。これもあなたの仕込みだけどね。

 

「ん……前の私はずいぶんと用意周到だったみたいね」

 

――サバサバしてるわね。世界を救うなんてガラじゃないくせに。

 

「うるさい……」

 

 

あらためて、黒い渦を直視する。

 

そう、全ては私がやらなければいけないことだった。

大きくなってから、ずっと私の胸にあった疑問。

 

モンスターは果たして、どうやって発生したのか?

この歪(いびつ)としか言えない存在が、本当に自然に生まれたのか?

 

私の答えはこうだ。

どこかの誰かがモンスターを作り出したのだ。

 

それは遠い星の知的生命体かもしれないし、別の宇宙の人間なのかもしれない。

しかし恐らくは科学者――それに準じるものが生みだしたのだ。

 

これは何の根拠もない私の直感だ。

何となくだが、フラスコに薬品を入れてかき混ぜるがごとく。

そんな無機質さがこの存在には漂っているのだ。

この星そのものを実験体にしているような、そんな邪悪な設計思想を。

 

だから――。

 

 

「――止めなくちゃいけないんだ、私が」

 

紫色の半透明なウィンドウが幾つも周囲に浮かぶ。

淡い紫をまとった指先が、高速で詠唱(コード)を謳(うた)いあげる。

 

この世界で、いろんなものを武器として、変身アイテムとして使ったが結局しっくりくるものはなかった。

当然だ。

私は何にも想い入れなんか持てやしない、そんな冷たい人間だ。

だから、せめて――。

 

 

――この体を捧げよう。

 

 

「魔法の世界改変(チートコード)」

 

 

左手で思いっきり疑似エンターキーを叩く。

思えばあの時と同じだ。

この世界を書き換えてしまったのも、この左手だ。

 

Keen(鋭敏たる) Fixer(修正者).

本来は存在しないもの(モンスター)を消し去るその能力は、皮肉にもこの世界をつくり変えたものだ。

 

周囲の空間が紫に歪んでいく。

そうだ、このエネルギーは単純な密度で表されるもの。

一瞬に近い時間、限りなく小さな点にエネルギーを集めると最も強くなる。

 

ならば、人の一生分の力をそこに込めれば。

 

「あいつを……倒すことができる!!」

 

――その時に、私は消えるだろうけど。

 

――でも、何かが残るんならそれでいい。

 

――さようなら、ヒカリちゃん……。いや――

 

 

私は涙を流していた。

 

 

「光、さよなら」

 

 

私の全身全霊をかけた力は、ビームとなり黒い渦へ。

外殻を突き破り、『世界の柱』の核へと――。

 

 

 

 

 

届かなかった。

 

 

 

 

 

「え……?」

 

――単純な話よ。あなた自身、そんなことは無理だと思っているからでしょ?

 

「そんな……私は……」

 

信じていなかった。

魔法の力なんて。

 

それどころか恐れていた。

未知なるものを、最初からずっと。

 

私は免罪符を欲していただけだった。

それは正義の行いから、もっとも離れたところにあるように思えた。

結局、命をかける覚悟もそれを成す勇気も私は何一つ持っていなかった。

 

――最初から無理だったのよ、私には。

 

黒い渦が吹き荒れる。

 

「きゃああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!」

 

窓枠が吹き飛ぶ。

私の体が大の字になる。

 

そこにいるのはちっぽけで情けない少女。

いや、良い歳の大人か。

 

視界に広がるのはいっぱいの暗闇。

黒が、落ちてきた。

 

「あ……あ……」

 

酷く情けない声だった。

かつて思い至っていたことではないか。

形はこいつらの本質ではない。

だからこそ、形状が決まってないやつが一番厄介だと。

 

空から無数の、スライムが降り注ぐ。

『世界の柱』はこの世界を完全に終わらせるつもりだった。

恐らく、世界中が同じ状態になっている。

 

――私には何もできない。

 

降り立ったスライムにあっという間に囲まれ、そのまま押しつぶされる。

視界が真っ暗に染まっていく。

 

――ああ、最初から無理だったんだ。

 

――わかりきっていたはずなのに。

 

――最後まであがくつもりもなく、信念も大義もなく。

 

――私に見えていたのは一人の少女だけ。

 

――世界なんて背負える器、持ってるはずがなかった。

 

――だから、当然の結末でしかないのに。

 

 

何で……涙が止まらないのだろう……。

 

あまりにも卑近で、ちっぽけな願い。

だからこそこれは、私の本心なのだろう。

 

会いたいと思った。

消えたくないと思った。

 

何だよ、達観した振りをして。

未練がましくダダをこねる子供みたいじゃないか。

 

でも、願わくは。

 

どんなに不合理でも、もう一度叶うのなら。

 

 

「もう一度会いたいよ……ヒカリ……」

 

 

視界は完全に閉じた。

体は動かない。

ジェット音が聞こえた。

 

 

……?

 

 

何の音だ、このくぐもった重低音は?

力強くて、それでいてどこか優しくて。

 

黄色い光が差し込んできた。

ちょっと強引に、暗闇を引き裂くように。

 

ああ、私はこの光を知っている。

これは――。

 

 

「ナユタちゃん!! 助けにきたよおおおおぉぉぉぉ!!」

 

「ヒカリちゃ……!?」

 

衝撃と共に私の周囲に纏わりついていたスライム……と、私の体が吹っ飛ばされる。

大丈夫、魔法少女の力は人間には危害を与えないから……。

 

起き上がった私の視界に入ったのは信じがたい光景だった。

 

「魔法のリアカー回転斬りーーーー!!」

 

リアカーに乗ったヒカリは私の周りをグルグルと暴走走行(ドリフト)をしていた。

噴出(ふんしゅつ)している黄色いジェットを、そのままスライムに吹き当ててなぎ倒していく。

 

「何やってるの!? ヒカリ!?」

 

「そこにナユタちゃんがいるってわかったから!! 紫の光がちょっと漏れてたから!!」

 

――私が聞きたいのはそういうことじゃなくて。

 

「何で……助けにきたの!? 私のことなんか放っておいてくれたらいい!!」

 

「放っておけるわけないよ!! 私達、いっしょに旅をしていたから!! 困っている人がいたら助けるのが魔法少女なんだよ!! ナユタちゃんがこれまで他の人を助けたみたいに、私だってナユタちゃんを助けたいよ!!」

 

――私は。

 

「私は……そんなんじゃない……私は……魔法少女じゃなくて悪い科学者だったんだよ……!! この世界のことなんかどうでもいいと思っていた!! 最低のクズなんだよ!!」

 

「違う……!! 自分でも気づいてないだけだよ!! ナユタちゃんは優しい子だよ……だって!!」

 

黄色い光が車上で輝く。

それはまるで、地上に降り立った太陽。

 

この暗闇の中で、しっかりと輝く光。

 

「私をずっと守ってくれたのは、ナユタおねえさんだったから!!」

 

「……!!」

 

リアカーが私の前で止まった。

 

「今までだって二人でいろんな街を守ってきたじゃない!! 本当に冷たい人は……そんなことやんないよ……」

 

「私は……」

 

何て答えたらいいかわかならなかった。

私は自分の気持ちすら、わからなかった。

 

でも、もしも。

こんな私の気持ちに、価値を感じてくれるのなら――。

 

救われた気分だった。

 

 

「きっとこの世界はキラキラに満ちているから……それを教えてくれたのは、あなただから!! 私は……この世界を守りたい!!」

 

リアカーの上でヒカリが剣を振り上げる。

必殺の両手大剣。

敵の核を狙えばいいなんて、説明するまでもないだろう。

 

だから、私は叫んだ。

 

「頑張って……ヒカリ……!!」

 

光の帯が天を突き抜ける。

それは、黄色い柱となった。

 

黒い渦に対抗する、光の剣へと。

 

「闇を斬り裂く光の剣(つるぎ)!! 魔法少女ヒカリ!!」

 

ヒカリの体がまぶしい光を放つ。

そのまま光の帯を振り下ろそうとした。

 

その瞬間だった。

 

「危ない!!」「え……?」

 

黒い渦から、無数の矢が飛んできていた。

防衛機構。

形状を変化させれるということは、人に害をなすのに最適な構造を取れるということだ。

 

ヒカリが纏っていた光のガードに、無数の矢が突き刺さっていた。

天高く貫く光の剣は、ヒカリの叫び声とともに消失した。

 

「ヒカリーーーー!!」

 

私はリアカーに飛び乗りヒカリにおおいかぶさる。

そのままもみくちゃに地面に伏せる。

 

しばらくて矢は止んだ。

 

「大丈夫!? ヒカリ!?」

 

「う、うん……何とか」

 

二人で無事を確認する。

ヒカリの手には剣がしっかりと握られていた。

 

しかし状況は芳(かんば)しくない。

 

黒い渦はその勢いを増していた。

また、無数の矢が飛んでくれば、防ぐ手段はないだろう。

 

いや、それよりも――。

 

「空が……!!」

 

空の黒さは一層その濃さを増す。

世界中でモンスターを降り注がせる雲と化し。

 

「ナユタちゃん……!! このままじゃ……!!」

 

まだ、黒い渦を倒す手段も見つかってないのに……。

時間をかければ、私達が倒す前に世界の方が滅んでしまう。

でも、私とヒカリがここから何かをするなんて、不可能だ。

 

いったいどうしたら……。

 

 

『話は聞かせていただきました』

 

 

「この声は……!!」

 

それはどこからともなく聞こえた。

聞き覚えのある声は、どことなく凛とした響き。

 

桃色のお姫様の姿が、脳裏によぎった。

 

 

 

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