頭の中にイメージが流れ込んでくる。
上から見下ろすは西洋風の見覚えのある城。
地面へとズームアップしていけば、門のあたりに一人の少女が立っている。
見覚えのあるとても長い桃色の髪。
あれは――。
「ヒメ……!?」
「聞こえていますかヒカリちゃん、ナユタさん!! 私達はまだ諦めていません!! ですからあなた達も最後まで希望を見失ってはいけません!!」
諦めていない。
その言葉を
あっという間に地面を埋め尽くし、城下町へと
その時、違和感に気づいた。
城を覆っているはずの桃色のベールがなかったのだ。
そして思い出す。
これを創り出していたのは、当のヒメではないか。
そのヒメが諦めないと言っているということは――。
「見せてあげましょう……言葉だけではなく、力で!! 決して希望を見失わない輝きを!!」
「この地を
少女が一層の輝きを放つ。
「魔法の
少女が手を天高く掲げれば、武器がそこに出来上がる。
「
少女が
放射状に拡散する桃色の閃光が、黒の大軍を焼き尽くす。
閃光の通った後が綺麗に元の野原へと戻る。
だが、まだだ。
敵は四方八方から湧いてくる。
倒しきれてない敵が、そこら中に――。
「そう……まだですわ!!」
少女が杖を、天高く掲げた。
「
暗黒の空を突き破って桃色の隕石が飛来。
それもひとつではない。
無数の隕石が、地面へと落ち、巨大なドーム状爆発を巻き起こしていく。
スライム達は一撃ごとにその数を減らしていく。
確かに魔法少女が圧倒的優勢のように思えた。
だが――。
「……っ」
「ヒメ!!」「ヒメちゃん!!」
私達の半ば叫ぶような声はどれくらい通じているのか。
桃色の魔法少女は力を使い果たしたのか、その場で屈んでしまった。
その隙が見逃されることはなかった。
残った少量のスライムが桃色の魔法少女へ対象を変える。
一人の少女のもとへ、大量の黒い物体が押し寄せていく。
「逃げて……!!」
私は思わず叫んでいた。
だが、遥か遠方にいるその少女の口元は――。
にやりと笑っていた。
「今です!! 魔法少女ギルド一斉攻撃!!」
城下町から、少女達が我先にと飛び出していく。
各自色とりどりの武器を手に添えて。
そうだ、私は一度挨拶に顔を出しただけだがこの街には確かにあったのだ。
魔法少女だけの、
先頭に立った魔法少女が、気勢良く掛け声を発する。
「てやんでぇ!! べらぼうめ!! おいお前ら!! ヒメ様に指一本触れさせるなよ!!」
剣が、槍が、斧が、弓が。
桃、赤、橙、黄、緑、青、紫の個性豊かな色が。
真っ黒な群れへと放り込まれていく。
スライム達を各個撃破した後、ヒメが改めて宣言をするのだ。
「私達は決して一人ではありません!! そして、あなた達もまた、一人ではないのです!!」
視界が切り替わる。
今度は密林だ。
緑に覆われているはずの場所は、ところどころが黒く侵食されていた。
そこを鹿に乗り、疾走する少女がいた。
……鹿?
ちなみに頭にはオウムみたいな鳥が乗っかっていた。
「ウオオオ!! この森の平和はこの魔法少女狩人ココちゃんが守って見せる!! だから安心してくれナユタ、ヒカリーーーー!!」
叫びながら緑の矢を乱射し、森を浄化する様は当に狩人と呼ぶにふさわしいもの。
瞬く間に元の美しい森へと姿を戻していく。
「森だけではありません!! 海だって!!」
張りのある声に意識が引っ張られる。
水上都市……の周囲の海では巨大ザメが海面を爆走していた。
どうやら海に湧いたモンスターを片っ端から粉砕しているらしい。
サメの上にいる大勢の人の中には、やはり見覚えのある顔が。
「私の背中を押してくれたのはナユタさん、ヒカリさん、あなた達です!! だから、今度は私達があなた達の背中を押します!! 街の人といっしょに……この巨大ザメの戦い振りで!!」
「あらあら、ずいぶんと盛り上がっていますね。こちらもですが」
今度は森の中の教会だ。
言わずもがなセイカ……ともう一人見知らぬ魔法少女がいた。
手には
「ひええええぇぇぇぇ!! セイカさーん!! こいつらいくら倒してもやってきますよー!!」
「あわてる必要はありませんよ街の魔法少女さん。あなたの能力でより大きな個体を探し当ててください。そいつを倒せばこの辺りの敵はいなくなるはずです」
「ま、任せてください……敵は……」
ガサッ。
「私の後ろおおおおぉぉぉぉ!?」
「ふん!!」
魔法少女の横をナイフが横断。
瞬時に移動したセイカから赤いフレイルでの連撃も飛び、スライムは粉微塵となった。
「思った通り通常のモンスターと同じくより大きな個体を倒せば消え去るようですね。だとすれば持ちこたえている間にあの二人がクソ親玉を倒してくれるかが鍵……そう、愛の力で!!」
「せ、セイカさーん?」
「おほん。あなたは姉妹のことを頼みました。私は街の方でひと暴れしてきます」
……。
どうやら世界中が同じ様子だった。
確かにモンスターはいたるところに大量発生している。
だが魔法少女が中心となり、その侵攻を抑えていた。
「でもどうして……」
空が覆われた異常事態でみな警戒はしていたのだろうが、各所用意周到と言っていい戦い振り。
それにさっきから流れてくるイメージは明らかに私達に問いかけるものだ。
いったい何でこんなことが……。
「それは私だよ」べぇーん
琵琶の音が聞こえた。
橙の少女がべんべんと琵琶を打ち鳴らしている。
「私の力を限界まで薄く引き伸ばして、他の街へと伝搬させたのさ。今、モンスターの親玉を何とかしてるやつらがいるから何とか粘れってね。どの街にも音楽ができるやつは一人くらいいるだろ? そうやって街から街へ連絡していったのさ」
まるで基地局のように。
メッセージを伝搬するリレーを形作って。
「ほら、さっさと親玉をやっちまいな。世界が平和じゃなきゃ音楽もおちおちできないだろ? ……大丈夫、あんた達ならきっとやれるさ」
「ワオン……あなたはいったい……」
「ただのコーラが好きな琵琶法師……もとい魔法少女だよ」
●
意識が戻る。
ヒカリもまたそうであったのか、
「……」
「どうしたの、ナユタちゃん?」
「私……今まで自分のことだけを考えてた。自分のせいでこうなったんだから、自分が何とかしないとって……でも」
息を吸う。
ヒカリはこんな状況にも関わらず、それを待ってくれた。
「世界にはいろんな人がいて……いろんな想いを持っている……まだまだ生きていたいってみんな思ってる……そんな当たり前のことに……やっと気づいたんだ」
自嘲の笑みすらこぼれてくる。
「こんなことにいまさら気づくなんて……本当に小さな子供みたい」
「私達は子供だよ、ナユタちゃん」
そうだった。
だから、私が小さな姿だったのは、無垢ともいえる未成熟さを持っていたからで――。
だから、ヒカリといっしょに戦うことができたんだ。
魔法少女として、隣で。
二人で黒い渦へと向き合う。
各地で
やはり、本体を倒さなくちゃダメだ。
でも、方法はまだ何も――。
「変身しよう、ナユタちゃん!!」
「え?」私が素っ頓狂な声をあげた。
「忘れたの? 魔法少女が想い入れを持っているものなら、何でも変身アイテムになる……だったら!!」
ヒカリが叫んだ。
「この星を変身アイテムにしちゃえばいいんだよ!! 夜の星がキラキラしていたんなら……私達の星だってキラキラするはず!! ナユタちゃんが教えてくれたことだよ!!」
「星を……変身アイテムに?」
思ってもみなかった。
冒険が始まる前の私だったら否定して終わっていただろう。
場所は、場所に過ぎない。
私達が足場にしているこの世界がいかようであっても、意味などさしてない。
でも、そこにいる人達の息吹を感じることができたなら。
そこで生活する人の営みを感じることができたなら。
意味はあったんだと思う。
「やろう、ヒカリ」
こくんとヒカリが頷く。
そして、二人で叫んだ。
『変身!!』