「ここがお城だよ、ナユタちゃん!!」
「おお……?」
ヒカリに連れられて城の内部を見渡した私は、素っ頓狂な声をあげた。
誰でも入れるらしいその場所は、中央が吹き抜けになっており様々な人が行き来している。
「ヒカリさん……ここはどういう場所なの……?」
「お城はお城だよ!! いろんな人がお店を出したり、お祭りとかをやったりするらしいよ!! 私もヒメちゃん……あ、ここにいる魔法少女の子から依頼を受けてたの!!」
「……」
お城――国を治める者の本拠地。
しかし、人々が楽し気に行き交うその場所は、どちらかといえば集合施設と言った方がしっくり来そうだった。
国という概念自体がない(?)ので、見かけは城に見えても、全く別の役割を担っているのだろう。
しかし、揉め事が起こったり外敵が来たときは一体どうしているのだろうか。
などと考えていたら、ヒカリはほっぺたを膨らませていた。
なぜ。
「……どうしたの?」
「私がすっごい依頼を受けたのに……あんまり興味ないのかなって……」
「……!! ある。興味はある。すごいある。ヒカリさんがそれを受けた因果が巡り巡って、今の私達の状態を生んでいるから」
「あはは!! 何だか壮大なお話になっちゃった!!」
あまりにも無垢な笑顔を向けられて、私はたまらず目を逸らす。
勢い余って言ってしまったが、そう考えるとなんだか自分とヒカリが出会ったのは運命みたいで――。
――そんなにロマンチックなものじゃない。血塗られた宿命。
「……」
「ナユタちゃん?」
「……何でもない。妖精の声が聞こえただけ……」
「あっ、そうなんだ!! 何て言ってるの?」
「……。
「GO? 進めってこと? 妖精さんはなかなかにファンキーな性格なんだね!! いや~でも良かったよ!! 私も妖精の声が聞こえるのってどんな人かなって思ってたから、ナユタちゃんみたいな優しい子で!!」
「私は……優しくなんか……」
そこで言葉は途切れた。
……今、ヒカリが自分に期待をしてくれているのは妖精の声がどんなものかわからないからだ。
少女を不思議に導く、夢ある存在を期待しているからだ。
もしも、陰気で
その時は、私ともども失望するんだろうか。
そんな怖い存在は、イヤだって。
「お話は聞かせていただきました!!」
どこからともなく高い声が聞こえてくる。
吹き抜けの中央が、桃色にライトアップ。
各階にいる人々が身を乗り出して何だ何だと視線を飛ばす中、中央の床がせり上がった。
そこにいたのは目を閉じた長い桃色の髪を持つ少女だ。
手にしているは短いステッキ。
髪が彩度の高い単色なので、たぶん魔法少女なのだが……?
少女がかっと目を見開く。
ステッキを真上に放り投げたかと思えば、自身も天高くジャンプ。
三回転
「変身!!」
桃色の光が広がっていく。
爆発かと思わんほどの目もくらむ発光。
直視して大丈夫だろうか。
そう思う。
発光が終わった時には桃色のドレスの少女が一人、悠然と立つのであった。
「この地を
周囲の観客たちは満場一致の拍手喝采でスタンディングオベーション。
中央に桃色の紙吹雪がぶわっと舞い上がる。
ヒカリもにこやかな笑みで手をブンブン振っている。
私は真顔でその様子を見ていた。
伝説の魔法少女。
もしかして私のことか。
●
「あらめまして、私はこの城を治める魔法少女のマサヒメです!! ヒカリちゃん、早くも依頼を達成してくれたのですね!! すごいです!!」
「すごいだなんて、そんな~。ヒメちゃんも元気そうで良かったよ~」
城を治める魔法少女とは……? なんて聞く暇もなく、黄と桃の少女は熱いハグを交わしている。
桃の少女はもちろん、ヒカリも移動中になぜか変身したため、きらびやかなドレスを身に纏った少女の体が触れ合っている。
……。
微笑ましいはずなのに、何か、こう、もんにょりとした。
「ナユタちゃん!! ナユタちゃんもやろうよ!! 変身ハグは魔法少女の親愛の挨拶なんだよ!!」
「そう……なの? でもヒカリさん私とはやってないよね……?」
「ええ!? それはタイミングがなかったからで……」
「……あっはい。私の暗い色がヒカリさんのドレスに移ったら大変ですもんね……黙っておきます……」
「ナユタちゃ~~~~ん!!」
「ナユタちゃんの紫色、綺麗だよ~」とフォローを入れながらヒカリが抱き付いてくる。
そっけない振りをするも、上手くできていたかはわからない。
どうやら私は、嫉妬深いらしかった。
「ふふっ仲
マサヒメと名乗った少女が意味ありげな笑みを浮かべている。
この人も一癖ありそうだな、と思った。
「ヒメちゃんはこのお城……というか町全体を守っている魔法少女なんだよ!!」
「町全体を……? もしかして……」
その一言で思い出す。
城下町に入る時に桃色のベールをくぐったことを。
「お察しの通りです。この辺り一帯は私の浄化技……
「え……? じゃあかなり重要な人物なんじゃ……?」
「そうそうヒメちゃんはすごいんだよねー!!」などとヒカリはあっけらかんとしていた。
自分が魔法少女になったからわかるが、自分からあふれ出る力――仮にも魔法力としておこう――のコントロールはかなり難しい。
町を覆いつくすほどの防壁を、しかも常に張れることができる人物など限られているはず。
そんな要人が初対面の自分と話して大丈夫なのだろうか……?
主に、防犯の面で。
「あら、心配してくださっているの? 伝説の魔法少女様はとってもお優しいのね!! 暴漢ならちょちょいのちょいでやっつけれるから大丈夫ですわ~」
……確かに町を覆うバリアーを作れるほどの人間に手を出したら返り討ちに合うのが自然だろう。
この世界における魔法少女のカーストはだいぶ高いのかもしれない。
それよりも、だ。
「その伝説の魔法少女って……なんです?」
「ま……!! ヒカリちゃん、説明してなかったんですか?」
「あれ? してなかったっけ? ……してないね!! ごめん!!」
私もヒカリの拝みポーズが可愛らしいなあ、くらいの感想だったが思い至る。
これまでも聞く機会はあったはずだ。
「正直に言えば、私も聞くのが怖かったのかもしれない……『特別』ってことはそれだけ責任も発生することだから……」
「ナユタちゃん……」
でも――。
「話を聞くだけなら……まあ」
「……!! ナユタちゃーん!!」
ヒカリが感極まったか覆いかぶさってくる。
ドレスの感触は、暖かい。
……変身しておけば変身ハグになったのかな? と少しもったいなく思った。
マサヒメがうんうんと満足げに答えた。
「話を聞けばどれだけ大事なことか、わかってもらえるかと。……この世界には脅威が迫っています。私の桃色聖女領域が一時的にとはいえ破られたのもそのせいです。それを何とかできるのは妖精の声が聞こえる伝説の魔法少女だけ……そう言い伝えが残っています」
「言い伝え……? この世界ってみんな記憶を失ってるんじゃなかったんですか?」
「言い伝えは言い伝えです。多くの人の頭に残っていたのか、あるいは誰かの頭にぼんやりと残っていたものが口頭で伝わっていたのか……しかし、つい最近になってそれを裏付けるものが見つかったのです」
「それって……?」
「音声テープ、と私達は呼んでいます」
音声テープ。
その単語は私の頭にもすぐに馴染んだ。
きっとこの世界の人達にとってもそうだ。
だからこそ、そう命名された。
「最初はただの『テープ』と思われたそれは、魔法少女の持つ『力』に反応して復元される仕組みでした。そして、頭の中に語り掛けてくるのです」
『日、最も高く登りし時、漆黒の王、来たる。これを討てるもの、妖精の声が聞こえしもののみ。伝説の魔法少女、世界の柱に向かうべし』
「……と」
詠みあげた桃の少女は私をしっかりと見据えていた。