突如明かされた真実。
この世界は滅びつつあること。
そして、それを救えるのは妖精の声が聞こえる魔法少女だけであること。
かいつまんだ説明が終わった後、桃色魔法少女ことマサヒメが聞く。
「……ということで、ナユタさん!! あなたは世界を救う存在なのです!! わたくしもバックアップいたしますので、存分に世界を救う旅にお出かけくださいませ!!」
「すごいよナユタちゃん!! 私も手伝うからいっしょに頑張ろうね!!」
……。
「……質問いいですか?」
「ええ、もちろん!! 旅の準備やテントの張り方、おすすめの自炊飯まで!! 何でも教えてさしあげますわー」
「妖精の声が聞こえるのって私の自己申告だから……それで伝説認定しちゃうのはまずいんじゃないでしょうか……?」
「え?」と二人分の声が重なる。
どうやら本気で驚いているらしい。
桃と黄の少女が身を寄せ合い作戦会議を始める。
「ジコシンコクって……?」「自分で言ってるだけってことでは……?」そんなやり取りを交わして改めて二人が向き直った。
「ナユタちゃん……ウソをついたの? そんな……信じないよ……」
「ナユタさん!! わたくしの目はごまかせません!! あなたの瞳の輝きは決してウソをついたのではないと、信じております!!」
「いや、嘘をついたわけじゃないけど……」
「な~んだ」と二人がふにゃっと笑顔をのぞかせた。
この二人は息がぴったりだな、と思う。
「じゃあ問題なしだね!!」
「本来は盛大にパレードを行うところですが……私達は魔法少女!! 魔法少女の戦いは人知れず行われるものでなくてはいけない……。その代わりに精いっぱいの真心と少しのドングリを送らせてもらいますわ!! さあ!! 伝説の幕開けですわ~!!」
「その……まだ質問があるんですが……」
「どうぞですわ~」
「その……確かに声みたいなものは聞こえてるんだけど……これがその妖精の声とは限らないのでは……?」
「……」「……」
今度は二人分の沈黙が重なる。
二度目の作戦タイムが始まった。
「ヒカリちゃん、よく確認しましたの?」「え? わかんない……」「ええ!? じゃあ人違いならぬ妖精違いかもしわませんわ!!」「えええ!? じゃあ私達……ナユタちゃんを無理やり巻き込んじゃってる?」
もう少し小さな声で話合うべきだと思う。
作戦タイムが終わったのか、二人の少女は神妙な面持ちでこちらを見た。
「ナユタさん」
「はい」
「え~。残念ながら今はあなたを伝説の魔法少女と認定することはできません、今は……。しかし案ずることはありません!! 必ずやあなたの聞こえる声が妖精のものであると証明し、冒険へと導いてあげましょう!!」
「ごめんねナユタちゃん!! 私、てっきりナユタちゃんも冒険に出たくてうずうずしてると思ってたから……」
「いいよ」と軽く返事をする。
人の心はのぞくことができないものだ。
それにきっと、この世界では私の考え方こそがおかしいのだと感じていた。
「ナユタさん、他にもまだあるのならこの機会に言われては?」
「そうだね!! 私、ナユタちゃんにあんまり話さず連れてきちゃったし……」
「じゃあ……」と私は口を開いていた。
もしも、仮に、私に聞こえていたのが妖精の声で、私が伝説の魔法少女だったとして――。
「これって……私がやらないといけないことなの……?」
今度の沈黙は、長かった。
●
窓から空が良く見える席に座っていれば、メイド服に身を包んだお姉さんが食事を運んできた。
「ほら、お魚料理だよナユタちゃん!! この城下町はね、近くに魚がたくさんいる湖があってそこでお魚がたくさん取れるんだよ!! 冒険者の人は釣りが得意な人も多くて……」
「……」
「ナユタちゃん? おーい?」
「あっ、ごめん……」
あらためて、食事を見る。
……記憶の片隅では、これは食べれるものと判断している。
その一方で自分の中でどうしようもない部分が、違和感をうったえ続けているのだ。
「このマグロも湖で……?」
「うん!! 取れたて新鮮だよ!! あっ、武器用のマグロと食べる用のマグロは違うから安心して食べていいよ!!」
「……」
味は、悪くなかった。
でも、同時に申し訳ない気持ちになってくるのだ。
この状況を、素直に楽しむことができない自分に。
自分が何でも受け入れて無邪気に楽しめる人間でないから、ヒカリが困惑するばかりなのだ。
さっきの城での一件もそうだ。
自分が特別な人間だと、世界を救える人間だとそう言われたのだから、素直に喜べばよかったのだ。
はしゃいで、浮かれて、そのまま冒険の旅に出発すればいい。
冒険とは未知に挑むものだ。
結局のところ私は未知を恐れてしまった。
自らの
ちょうど頭の中で声が鳴り響いた。
――あなたみたいな存在が世界を変えるなんて、おこがましいにも程がある。
そうだ、この声のことだって話していない。
自分はヒカリが期待するような人間でないことを、正直に謝るべきで――。
「ごめんね!!」
「えっ……」
謝罪の言葉を口にしたのは、ヒカリだった。
どうして?
そんな言葉をかける前に、ヒカリが顔を下げたまま説明をする。
「私……ずっとナユタちゃんが喜んでくれると思って……でも、ナユタちゃんの気持ち、全然考えてなかった……」
「……!! そ、そんな!! 顔を上げてヒカリさん!!」
謝るのは自分の方なのに。
ややもして顔を上げたヒカリの顔は少し涙ぐんでいた。
表向きは明るく振舞っていたヒカリが何を考えていたのか。
怖かった。
このまま黙っていれば、傷つくことも傷つけられることもない。
でも、何となく、イヤだと思った。
「ヒカリさんは悪くないよ……。私が、怖くなったの……。世界を救う旅に出るって、世界がどうなるか私のせいで決まるってことだから……」
ぽつぽつと溢れた心情。
ヒカリは黙って、聞いてくれた。
「ヒカリさんは? ヒカリさんは怖くないの? この世界で旅に出るって、何が起こるかわからないんだよ? もしかしたらものすごい怖いモンスターが出てくるかも……」
キョトンとした顔をするヒカリ。
何を言ってるんだ私は。
すぐに前言を撤回しようと思った、その瞬間だった。
「確かにモンスターは怖いけど……。いろんな場所に行けば、いろんな人に出会えるし、楽しいって気持ちが勝つかも」
キラキラした黄の瞳に心を奪われそうになる。
ああ、そっか。
この子にとって、未知って楽しいものなんだ。
考えてもみればわからないんなら、怖いものか楽しいものかもわからないんだ。
私は悪い方にしか考えれなかったのに。
でも――。
「私はこんな性格だから……どうしても怖くなって。自分のやったことが悪い結果になったらどうしようって。何もやらなければよかったなんて後悔するんじゃないかって……」
「……そう考えるのって、きっとナユタちゃんが優しいからじゃないかな」
「優しい……? 私が?」
「うん。きっと自分のやったことで人を幸せにしたいから、だからそれができないとヘコんじゃうんじゃないかって」
「違ってたらゴメンね!!」と即座に拝みポーズの謝罪。
……ヒカリには悪いけど、私が優しい人間だなんて全くの見当違いだ。
小賢しくて、臆病で、冷淡。
それがこの世界で目を覚ましてから、私自身に対する評価だ。
本当に、まぶしいくらいの見当違いだ。
「ヒカリさん、私が旅に出ないって言ったらどうする?」
「ええ? その時は……他の人を探しに行く、かな……。他にも妖精の声が聞こえる人はいるかもだし、もともとそれを探しに旅に出るつもりだったから」
「……」
この純真な子が一人で。
そう考えると胸が引き締められる気がした。
だったら――。
「私……やっぱり行くよ」
「え?」
「伝説の魔法少女として……旅に出る。ヒカリさんと一緒に……」
「ええええ!? やったー!! うれしー!! でもどうして急に? ナユタちゃん、わからないことは怖いんじゃあ……」
「やっぱりわからないことは、わからないから……」
「ぷっ……」
ヒカリが笑みをこぼす。
私も釣られて笑っていたと思う。
そうだ、わからないことなら怖いかどうかもわからないはずだった。
それを確かめにいく。
結局、私は旅に出る口実を探していたのかもしれなかった。
目の前で笑っている少女が、それを与えてくれた。
――結局、一人じゃ何もできないじゃないの。
そうだよ。
――認めるの? みんなを欺いて、褒めたたえられてそれで満足?
イヤミを言う暇があるなら、どこに行けばいいのか教えてほしい。
――あなたは何を言ってるの?
伝説の魔法少女の条件がそうなら、妖精の声が目的地を示す。
それが自然な結論だ。
――……。
いや、それより前に確認することがある。
あなたは本当に、妖精なの?
――ええ、そうよ。世界の柱は脅威の源泉。そこに行けば全てがわかる。
「ナユタちゃん……? どうしちゃったの……?」
「やっぱり私に聞こえていたの、妖精の声だったみたい。本人に聞いたから間違いない」
「なるほど!! それなら確実だね!!」
……。
本当に、この子は1ミリも私のことを疑ったりはしないらしい。
「お話は聞かせてもらいましたわ!!」
「この声は……!!」
桃色のスポットライトがどこからともなく――以下略。
最初と同じ演出で桃色の魔法少女マサヒメがどこからともなく登場した。
街の人は慣れたものなのか、歓声をあげたり気にせずご飯を食べたりしている。
「マサヒメさん……? どうやって?」
「ふふっ、この町一帯は私の
「ええ……?」
驚いてはみたが、すぐに気を取り直す。
彼女は魔法少女、そんなこともできるのだろう。
「ヒカリちゃん、ナユタさん。この町の魔法少女の代表として、あなた達にお願いします!! この世界を救うため……旅に出てくださいまし!!」
「うん!!」とヒカリが元気よく答える。
私は――。
「……はい!!」
出来る限り、はっきりとそう答えた。
「ふふ、良い返事です!! ヒカリちゃん、お食事が終わったらナユタさんを少しいいですか?」
「え? ナユタちゃんが大丈夫ならいいけど何で?」
「二人だけで話がしたいのです」
桃色の少女は、年齢に見合わない気品のある穏やかな笑みを浮かべていた。