三人と別れた俺は開放していない魔物を見つける度に狩っては剣を解放していった。
海では動きを阻害するスキルや遠距離攻撃のスキルが必要不可欠だった。
とにかく魔物に逃げられるからだ。純粋な泳力では勝負にもならないので、遠距離から確実に当てるか動きを封じて近づきでもしないとまともに狩りなんか出来やしない。
それと比べれば地上の魔物はかなり楽だ。音やら気配やらで近づく予兆がわかりやすいので事前に対処できるし、五感も海に比べると断然鋭敏に機能している。
...まぁ、その分経験値がしょっぱいけど。
とにかく森の奥へと入っていく。
流石にもうちょっと強くないと張り合いがない。
そんな事を考えながら歩いていると...ゾクリと何か雰囲気が変わったのを感じた。
これはあれだろうか、何かしらの魔物のナワバリというやつだろう。
海の魔物にはあまりなかった概念だ。
ピタリと魔物が現れなくなる...
俺は能力解放用の適当な剣から、戦闘用の剣に切り替えた。
木の葉のさざめき以外の音が消える...まだ。まだ。まだ...
来た!上からだ...!!
俺は全力で飛び退くと、大きな影が元居た場所へと高速で飛来した。
「チェーンバインドⅢ!!」
俺は拘束系のスキルを即座に発動する。海でなら虚空から鎖が生えてくるのだが、地上では地面からと決まっているらしい。ちょっと不便だな...
ギャリギャリと音を立てて、鎖が魔物を拘束していく...この抵抗力から考えるとそこまで強い魔物では無いようだ。
改めて観察すると、鷹の頭に獅子のような体躯、純白の翼...まさしくグリフィンというやつだろう。
お目当ての魔物だったけど...こいつは弱いな。
「水斬波Ⅲ!」
俺が虚空に描く剣筋が、そのまま水の斬撃となってグリフィンへと飛んでいく...首と上半身、下半身で3等分になった。
...うん。まずまずの経験値だな。
これならいい具合のレベリングになるかもしれない。
けど、多分こいつは下っ端も下っ端。
ここのボスはどれくらい強いだろうか。海の魔物は強い魔物ほど単独行動をしていたので、陸の魔物の群れ社会の長がどれくらい強いのか検討もつかない。
「さて...と」
強さがわからない以上、群れのボスとはあまり戦いたくないけど、もっとレベリングはしておきたいな。一匹だけじゃグリフィンの素材がまだまだ足りてない剣も多いし、折角ならある程度までは今日中に解放しておきたい。
余った素材は尚文へのお土産になるしな。
そんな事を考えながら、巨大なグリフィンを捌くという初めての経験に悪戦苦闘していると...新たに何かが近づいてきた。バッサバッサと音を立ててゆっくりとこちらに下降してくる。
俺は解体を止めて、グリフィンの死体をそのまま剣に吸収させた。
「我が領域に侵入者が居るというので息子を向かわせたが...こうも容易く殺されていようとはな」
明らかにさっきよりも強大なグリフィンがこちらに問いかけてくる。初めて人間の言葉を操る魔物に出会った。意外に違和感のようなものは感じないな。
「む、息子さんですか....殺してしまって、すみませんでした...?」
「良い。あやつが人間如きにやられるほど脆弱なのが悪い。食らおうが消し去ろうがお前の自由だ」
グリフィン Lv82
かなりレベルの高い魔物である事が分かる。我が領域とか言ってたしこいつが会いたくないって言ってた群れの長だろうな。
...まともに戦えるか?海ではレベル70くらいの魔物を狩った事もあるけど、レベルが同じなら地上の魔物の方が強いはずだ。
「だが...故に、我が領域に入った不届き者を食らうのも!!この我の自由だぁぁ!!」
グリフィンがそう叫ぶと俺に爪を振り下ろしてくる。
「...!!」
俺は後ろに下がって避け、スキルを発動していく。
「チェーンバインドⅢ!!エアストスラッシュⅢ!!」
拘束した所で首筋に向かって斬撃を飛ばす。
鱗のように硬い羽毛を斬り裂いて、中の肉に刃が届いたが...命を揺るがすほどの裂傷にはならなかった。
「グ...グォォォォオ!!!」
グリフィンが痛みに呻いている。
ガキンガキンと鎖を鳴らし、大暴れしている...
「くそ、もう保たないな...」
「ライトニングソードⅡ!!」
俺はグリフィンに全力で駆け寄り、その胴体目掛けて雷撃を纏った斬撃を放つ。
胴体には硬い羽も無いし、近距離での斬撃スキルだったのでかなり手応えを感じる一撃になった。
「ギャォォォォォオオ!!」
「っ....!!」
凄まじい絶叫が響き、そのあまりの音量に俺は一瞬動けなくなる。
「ガァァァァア゛ア゛アア゛!!」
グリフィンが一際大きく暴れると、鎖が砕け散ってその勢いで俺も吹き飛ばされた。
「ぐっ...がはっ!!」
木の幹に背中からぶつかって、肺の中の酸素が全て吐き出される。
「う...ぐ...!」
俺は明滅する視界の中で、我武者羅に動いて逃げる。
すぐ横にグリフィンの爪が、牙が、通り過ぎていく...
「...水瀑剣!!」
大量の水を放出するスキルを発動して、グリフィン目掛けて叩きつける。
突然の出来事にグリフィンが怯んだ隙に俺は森の中に逃げ出した。
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「イテテ...はぁ、まいったな」
咆哮によるスタン、周囲の障害物、地面を走っての戦闘...
ここ一週間海でのレベリングにばかり時間を費やしていた俺には慣れない事ばかりだ。
それに、俺はかなり水中戦を見越した強化を施しているので、あのグリフィンに対しては思っているよりも更にステータスが下がっていると考えていいだろう。
ヒール軟膏を塗って、怪我を治療していく。
攻撃力は充分に確保出来ている。あの腹の傷は軽症という訳にはいかないはずだし、首筋の傷からも絶え間なく血が流れていた...
勝ってやれない事はない。
ただし、問題は俺の防御力だ。
俺達四聖の中で剣は攻撃力が2番目に高い代わりに防御力は2番目に低い。攻撃力トップで防御力最下位は遠距離武器の弓なので、実質俺は接敵して戦う四聖勇者の中で最も防御性能が低い...尚文ほど極端じゃないけど、俺も装備ボーナスになかなか防御力の項目は出てこないからな。
おまけに今の俺の防具は壊れかけとドロップのありあわせで誤魔化した状態だ。
直接あの爪や牙を受けてしまえば命は無いだろう...
向こうの方で、先程のグリフィンが暴れていた。
とっくにあいつのナワバリであろう場所を越えており、その行く先は少しずつ人里の方へと向かっている。
あいつはこのまま俺が見つからなければ手近な村や町を襲うつもりかもしれない。
...そんな事をさせる訳にはいかない。これは俺が起こした問題だ。俺が今ここで解決するしかない。
俺は今持ってる剣の中で最も素のステータスが高い剣に、でき得る限りの強化を施しながら、グリフィンの下へと走っていった。
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剣角竜の剣(覚醒)+4 10/25 R
能力解放済み...装備ボーナス、スキル「水斬波」 斬撃補正(中)
熟練度 15
アイテムエンチャントLv4:斬撃ダメージ増加 5%
デスバイトフィッシュスピリット:斬撃ダメージ増加 6%
ステータスエンチャント 敏捷23+
エアウェイク加工 〇
俺が海で戦った中で一番苦戦したソードレヴィアタンという魔物の素材で解放した剣だ。
水斬波が優秀なので最初は使っていたが、これを手に入れる前に強化していた剣の方がまだ性能が上だったのでもっといい剣がいつか手に入るかもと強化のリソース温存の為に放置していた。
逆に言えば強化無しで俺の戦闘用の剣に迫る性能の剣という事だ。
エンチャントで斬撃に補正が入っているし、これならばあのグリフィンの羽毛すら容易く切り裂けるかもしれない...
ついでにスキルもさらに強化しておいた。
ついでにエネルギーブーストを全力でかけているので、今から放つ俺のスキルは現状の最大威力と言っても過言じゃない。
俺は全速力で音の鳴る方に近づいていき...グリフィンの姿が視界に入った瞬間に剣を振るった。
「水斬波Ⅴ!!」
水の斬撃が空気を、木々を切り裂いてグリフィンの体に殺到する。
片目と右足と胸に斬撃は到達し、肉が裂けビチャビチャと血が噴き出す音が鳴った。取った!!これは確実に致命傷だ...!!
「ぐぬぅぅ...!!そ、こ、かぁぁ゛ぁ゛あ゛!!!」
グリフィンが激昂する。
「嘘だろ...!?まだ死なないのか...いや、もう瀕死のはず...!」
俺はトドメに追撃を焦り接近しようとしたが、その隙にグリフィンは何かを呟いていた...それが魔法の詠唱であると気付いた頃には、俺は既に射程範囲に入ってしまっていた。
『力の根源たる我が命じる。理を今一度読み解き、かの者に絶大なる風の猛威を知らしめろ...』
「しまった...!」
俺は急いで飛び退こうとする。
「もう遅い...!ドライファ...サイクロン!!!」
グリフォンが詠唱を終えると、俺の周囲に風が吹き始める...それは加速度的に勢いをまして、一瞬で俺は宙に浮いてしまった。
風の刃が俺の体をズタズタに切り刻んでいく...!!とにかく生きる為に、急所を守る事しか出来なかった。
「ぐ...ぐあ...あ゛ぁ゛!!」
しばらく風刃に晒された後、風が霧散した事で俺は地面に叩きつけられた。
「ぐぁっ...っ...くそ...」
体が言うことを聞かない。
この一週間受けたどんな傷よりも痛い。とにかく体中が痛くて泣きそうになる...だけど、それは相手も同じだったらしい。
地面に血だまりが出来るほどに血を流したグリフィンはもはや立っていられなくなったらしく、倒れ込んでしまった。
今は弱弱しく息をしているのみだ...
「ぐぅぅ...人間...貴様、名はなんという...」
グリフィンが俺に問いかけて来る。
「ぐ...鋼也...剣崎鋼也だ」
「そうか...く、よもや...この我が、人間如きに...殺される事になるとはな...決死の覚悟で、一撃は入れたが...その命には届かなんだか...」
「っ゛...!!」
俺は剣を杖のようにして、痛みを懸命に堪えてフラフラと立ち上がる。
今回は完全に俺の慢心が全ての元凶だ。
ある程度レベリングしたし大抵の魔物なら大丈夫だろうと油断していた。そして不用意に縄張りを荒らしてこの様だ...
反省はしよう。だけど、俺はこんな所で殺される訳にはいかない。
「はぁ...っ、はぁ...っ、エアストバッシュⅢ!!」
俺はスキルを発動して、グリフィンにトドメを刺した。
Lv Up
凄まじい量の経験値が加算されて、レベルが上がった。
「うぐっ...!」
再び痛みで倒れ込んだ俺は剣からヒール丸薬やら軟膏やらを取り出して飲んで塗ってを繰り返した。
...少しずつHPが回復していく。
本当に...本当に危なかった。特に最後の魔法...HPが1/4以下にまで削られた。
「はぁ...ほんと、俺最近調子に乗ってたんだな...」
面白いようにレベルが上がって、どんどんステータスも伸びて、自分よりずっとレベルの高い魔物も一撃で倒せるようになって...色々と麻痺してしまっていたようだ。
いまだに手が震える...あの時、俺は明確に死を隣に感じた。
後もう少し俺が弱かったら、後もう少しグリフィンが強かったら、後もう少し俺が戦闘続行していたら...色々なもしもが俺に死を告げて来る。
これからはきちんと安全マージンを取るようにしなければ...
ある程度動けるようになって来たので、グリフィンの死体の傍に立つ。
解体してやろうかとも思ったけど、なんとなくそんな気分にならなかった。
最後のあの潔い姿が妙に頭によぎる...こいつはこのまま剣に吸い込もう。
グリフィンが俺の剣の宝玉に時間をかけて吸い込まれていく...そして、グリフィンのシリーズの剣がかなりの数解放された。
特に終盤の方の剣は剣角竜の剣に追いすがる程性能が高い。
...おまけにドロップの方に出た剣も滅茶苦茶性能が良さそうだ。親父さんの所に持って行ってみるか。
もう少し戦って行くべきなのかもしれないが、もう体も装備もズタボロだし、尚文に渡すお土産が無いのは残念だけど得る物も多かったし、ここらが引き上げ時だろう。
俺は重い体を引きずりながら、森を抜けだした。