夜を控え、喫茶店のような店で文字の勉強を終えた俺は、ギルドに向かって歩き始めた。
冒険者達が入っていくのを良く見ていたので場所は覚えていた。
「....ようこそ、剣の勇者様」
職員が若干不機嫌そうな雰囲気で俺に挨拶してくる。
なんだこいつ...
「ギルドで依頼を受けたいと思うんですけど」
「申し訳ありません。現在あなたは王からの依頼であるドラゴン退治の依頼を受注している状態です。そちらを解決していただかない事には次の依頼を斡旋する訳にはまいりません」
「なるほど...」
それは道理だな。けど、王様から直接言われたしダイレクトな依頼なのかと思ってたけど他の勇者と同じくギルド経由での依頼だったんだな。
それをちゃんと言ってくれよ!下手したらギルドに来ずにガエリオンの下に行ってたぞ!
「ちなみに、後どれくらいで依頼に向かわれるおつもりですか?竜の魔物の脅威は既に村の寸前まで迫っております。他の勇者様は迅速に様々な依頼を達成していらっしゃりますが、一体どこで何をしていたのですか?」
「何ってレベルを上げてクエストに備えてたんですが...」
「そうですか...とにかく、いち早く依頼の遂行をお願いしますよ」
何やら不機嫌そうに厭味ったらしく言ってくる。
まぁ身なりが良くて身分も高そうだし、貴族達みたいにこいつは多分俺の事を盾の悪魔に加担する偽勇者とでも思ってるのだろう。
そして偽勇者にドラゴン討伐なんざ出来る訳ないと思っていると...
ギルドになかなか来なかったのは達成出来ない依頼を受けたものだから、少しでも時間を稼ごうとしてんだとまで思われてるのかもしれない。
だったらこの態度も納得だ。実際に村に危険が迫ってるのに勝てもしない(思い込み)偽勇者が時間稼ぎするせいで村が魔物に滅ぼされる可能性が高いと考えれば、さっさと行って失敗するなり死ぬなりして他の勇者に依頼を回したいってのが本音だろうな。
「分かりました。明後日には向かうので...」
「...ほんと、お願いしますよ」
「あらー...」
サディナさんも困ったような顔をしていた。
俺達はさっさと居心地の悪いギルドを抜け出した。
「コウヤちゃん、大丈夫?」
「まぁ...はい。俺って、公の場で尚文の事庇うような事言ったからあんまり城下町での評判良く無いんですよね。ずっとレベリングしてて名声も一切稼いで無いですし」
「なるほどねー。だから、これからは国中を冒険していくって言ってたのねー」
「そうです。困ってる人達が居たら、ある程度は手助けしていこうかと...後はクエストで名声をと思ってたんですけど、この分じゃ厳しいかなぁ」
「あらー。大変なのね」
「サディナさんの目的としては俺の悪評はあんまりおもしろい物じゃないですよね。でも、まだ他国に行くにはやるべきことが...」
「分かってるわ。少なくともあの奴隷商の人はコウヤちゃんをぞんざいに扱う素振りは見せてなかったし問題は無いわよー。それに、ラフタリアちゃんが居るのに他国に行くのもねー」
「そうですね...まぁしばらく不便をかけるかもしれないですけど、我慢して下さい」
「全然良いわよー?獣人姿でこの国を闊歩するのに比べたらこんなの大したことないもの」
「...はぁ。シルトヴェルトもメルロマルクも、どうしてこう極端なんですかね...まぁ、戦争した二国だから極端になってるんでしょうけど」
「そうねー。他の国の方が住みやすいのは確かでしょうねー」
「尚文が地位を向上させればこんな苦労も減るんでしょうけど...」
「あらー。それでナオフミちゃんの事を支援してたのね。確かに盾の勇者様がこの国で名声を上げれば、改善の糸口も見えてくるかもしれないわねー」
「まぁ...はい」
そんな事を話しながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「おい...剣の勇者だな」
「はい?」
そいつは剣を振り下ろしていた。俺の目の前には剣の切っ先がある。
「...!?」
俺は意識を集中させ、スローモーションになる世界の中でその切っ先を片手で弾いて下手人の頭を掴む。
「ぬぐ!」
そのまま地面に後頭部を叩きつけた。
「ぐはっ!!」
「おのれ剣の偽勇者め!!ついに正体を見せよったな!!街中で暴れて!ただで済むと思うなよ!!」
後ろの奴が叫んでくる。その他にもやる気の奴らが数人居るようだ。
「なんのつもりですか?」
他の奴等がそれぞれ武器を振るって来るので、俺はそれを適当にいなして腹パンで行動不能にした。
「ぐはっ...!!おのれ...盾の悪魔に加担する偽勇者が...」
「おぉ...どうか神の裁きをこの偽勇者に...!!」
「あらー?白昼堂々と凄い事をする人達ねー。ちょっと痛い目に遭わせた方が良いかしら?」
「黙れ亜人風情が...!!汚らわしい亜人など連れてる辺り、頭からつま先まで悪魔に染まったようだな、剣の偽物!!」
「サディナさん良いですよそんな事しなくて。はぁ...なるほど。そういう感じか」
確かに街中で尚文と親し気に行動したっちゃしたけどさ...それだけでいきなりこうなるか?
全く...なんだか良く分からないがこれで俺も追われる身か?
俺は一番元気が有り余ってそうな男の襟元を掴んで引っ張り上げた。
「すぐに暴力に走るのか...!流石は悪魔の手先だな!!」
「好き勝手言ってちょっとでも俺の悪評を広めたいんでしょうけど...本当にそれでいいんですか?」
「ど、どういう意味だ...!」
「俺は武器を使っていない。あんたたちは武器を使っている...少なくとも正当防衛の範疇に入ると思いますけど」
「はっ!何を言うかと思えば...!貴様が我々に手を出したから応戦したまでよ!!」
はいはい。そういう事ね。俺が応戦さえすれば後はどうでも良いと。過程は関係なしに俺の罪をでっちあげるってわけね。
「はぁ...もういいや。で、誰の命令でこんな事をしたんですか?」
「誰が貴様などに...!!」
「...本当に手を出してやっても良いんですよ?」
「が...!!ぐぉぉぉぉ!!」
俺は男の手を強く握り込む。ステータスの暴力で今の握力は如何ほどか、少なくとも相当の痛みは走ってるはずだ。
「はっ...すぐに、増援が来る...!もう終わりだ悪魔の手先め!!」
情報は引き抜けそうに無いので、俺は男を背中から地面に叩きつけておく。これでしばらくは痛みで動けないだろう。
「...仕方ないですね。どこかに潜伏しましょう」
「えぇ...それにしても、一体何が目的だったのかしら?」
「詳しくは分かりませんけど...一つ言えるのは三勇教か、貴族か、あるいは両方...ついでに王族もかな?俺の事を盾の悪魔に加担する偽勇者として扱う事に決めたって事ですかね」
「偽勇者...えぇっと、それに何の意味があるのかしら?勇者は波に対抗する為の戦力でしょ?」
「俺の予想ですけど...あいつらは俺達三勇者に、悪魔である尚文を倒して欲しいんですよ。だから尚文に冤罪をしかけて援助や社会的信用を剥奪して強くなれないようにしてたんです。だってのに、俺は尚文と仲良くしてるわレベリングに協力してるわで、もはやその役割を果たすことは無いと斬り捨てられたんでしょうね」
「なるほどねー...本当、どうしようもないわね」
ガシャガシャと複数の足跡が向こうから聞こえて来る...
「多分兵士が来てますね。どうしましょう...無理矢理包囲網をこじ開けますか?」
「ううん、それならもっといい方法があるわよー?」
「それは?」
『力の根源たる。私が命ずる。真理を今一度読み解き、雷の幻影で私達の身を隠せ』
『アル・ドライファ・サンダーミラージュ!!』
「おぉ...!」
サディナさんの魔法によって俺達の姿が薄くなる...パーティメンバーだから若干見えているけど、外からは透明になっているはずだ。
「後は屋根の上を飛び上がりながら移動すれば見つからないわ...それで、どこに隠れるのかしら?」
「この騒動がどこまでの範囲に及んでるのか分からないですし、明日には魔物商の所で色々と受け取らないと...いや、逆にもう行っておくのが良いか?あそこなら身を隠せるし、金さえ払えば...」
「決まったかしらー?」
「はい。魔物商のテントに向かいましょう。金さえ払えば一日くらいは匿ってくれるはずです。一応、俺は大口の取引相手のはずですし」
「わかったわ。それじゃ、行きましょうか」
俺達はなるべく静かに屋根から屋根に伝って、魔物商の下へと駆けていった。
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「おやおや、剣の勇者様...随分と大変な事になっておりますなぁ!」
魔物商がにやにやと俺に話しかけて来る。
「すみませんが、お願いした奴隷と金銭が来るまでここで匿ってくれませんか?もちろんそれなりのお礼はします」
「いえいえ、構いませんとも...元を辿れば此度の騒動、我々の不手際もございますので。謝罪の意味も込めて是非匿わせて下さい、ハイ」
「どういう意味ですか?」
「ルロロナ村出身の他の奴隷を集める為に、剣の勇者様がルロロナ村出身の奴隷を求めているという話を同業者の伝手にも伝えておいたのですが...勇者様とのパイプをと焦った者でも居たのか、その話がどこかから漏れてしまったようでして...恐らく、手持ちの奴隷と貴族の所有するルロロナ村の奴隷を交換しないかなどと話を持ち掛けたのでしょうなぁ。人間の仲間を全て解雇した癖に亜人を仲間にした剣の勇者が今度は亜人の奴隷も仲間にしようとしている...という話が貴族の間で流れてしまったのですよ」
「はぁ...それになんの問題が?」
「剣の勇者様はただでさえ危うい立ち位置でした。そんなお方が亜人ばかりを仲間にするような事をすれば、疑念はより一層強まる訳でございます。剣の勇者様は盾の勇者様に、ひいては亜人の味方をするつもりなのだと...そして盾の勇者様と親しくしている姿も、そこの亜人が盾の勇者様の狩りを手伝っていた様も確認されております。もはや剣の勇者様に、三勇教の求める勇者になってもらう事は不可能だと判断したのでしょうな」
「なるほど。だからあなたの不手際...と」
「ハイ。本来顧客の情報を流すなど言語道断なのですが、そのような愚か者が混じっている事に気付けなかった私共の不手際でございます...ハイ」
「いえ。それを言い出したらそもそも俺の立場が良くなかったのが原因ですし、悪いのはその奴隷商ですよね...もう特定は済ませてあるんですか?」
「えぇ。その者には既に厳重な罰を与えている所でございます、ハイ」
「そうじゃなくて、そいつが交換を持ちかけたと思われる奴隷の事ですよ」
「ほう!このような事態だと言うのに、まだルロロナ村の奴隷の事を...?随分と余裕があるようですな!」
「少なくとも命の危機は無いと思いますし...こんな騒動も女王が来るまでの茶番にすぎません。俺は粛々と対応するだけです」
「なるほど!...既にこの状況を打開する術は用意してあると!!流石は剣の勇者様でございます!盾の勇者様はいずれ素晴らしき商売相手となるお方ですが、まだ使える物には限りがある...その点、剣の勇者様は既に金も、力も、様々な物を手に入れていらっしゃる。是非これからも御贔屓にお願いしますです、ハイ!」
「はは...お願いします」
「それでは、明日の昼までここに匿わせていただきます。私は情報収集も兼ねてお預かりしている財宝の換金をしておきましょう...ルロロナ村の奴隷については既に手配しておりますので本日の深夜には到着するでしょうな」
「それじゃあ...今日の夜奴隷が到着次第城下町を出るので、ここで前金として金貨10枚を下さい。それだけの財宝なら金貨10枚で足りない事は無いでしょう?手数料を引いた残りは...次のルロロナ村の奴隷の購入に充てておいてください」
「ふむ...確かに夜の方が脱出しやすいのは確かですが、その分門での検閲も厳しくなります。どのように避けるおつもりで?」
「奴隷を運んで来た馬車でそのまま城下町を出てください。彼女は高位の幻惑魔法が使えるので多少中を覗かれるくらいなら問題ないです」
「なるほど!かしこまりました。そのように手配いたしましょう...勇者様がこちらに駐めてある荷車は如何いたしますか?」
「あー、出る馬車に連結させられますか?」
「不可能ではありませんが...牽引する魔物は居ないのですかな?」
「あー、どうせなら戦闘にも使える魔物を育てたいんでまだ何を選ぶが迷ってるんですよ。なんで一旦俺が引くので気にしないでください」
「そ...そうでございましたか、ハイ。流石は、勇者様でございます...」
なんか汗拭きながらドン引きされてる。いや、別に良いけど。
「それでは勇者様の荷車の方には適当に荷物を詰めておきます。どうせならばこれからの活動のお役に立つ物を入れておきましょう」
「...ルロロナ村以外の奴隷は要らないですよ」
「当然でございます!そうではなく、馬車での旅に必要な物を詰めさせていただきます、ハイ。食料や水分、毛布や薪など必要な物はいくらでもありますでしょう?」
「なるほど...じゃあお願いします。代金は預ける予定の金から引いておいてください」
「かしこまりました。それでは勇者様、必要な物資等は私の部下に手配させておきましょう...私は本日はもう戻ってこれないのでしばしのお別れですな。ルロロナ村の奴隷集めはお任せください」
「...預ける金から引いていいので、ある程度健康的な食事は用意しておいてください。ボロボロで売られても治療やらが手間なんで」
「勇者様は盾の勇者様と同じく亜人奴隷を戦力として扱うのですな!かしこまりました。そのように手配させていただきましょう」
「それじゃあ、また会いましょう」
「えぇ。剣の勇者様が何を成すのか、私草葉の蔭から見守らせていただきますです、ハイ」
魔物商がにやにやと笑いながら俺達に一礼して去っていく。
...なんか、変な期待かけられてるな。本当に勘弁して欲しいんだけど。
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このテントに匿ってもらってから、一度だけ騎士がこのテントに俺達が居ないか確認しに来たけど魔法で隠れてやりすごした。
それからはずっと平和な物だ。快適に過ごさせてもらっている。まぁ、テントの中の匂いにはいまだに慣れないけど...
そうして、魔物商の部下を名乗る人が用意してくれた食事に手を付けてからしばらく...テントの近くに荷馬車が近づく音がした。
「来たか...」
「そのようでございますね。お食事が済み次第、奴隷紋の更新をさせていただきます」
「いや、もう食べ終わるんで今すぐでいいですよ...って、そうだ」
俺はお酒を飲んでいるサディナさんの方を向く。
「あらー?どうかしたのかしら?」
「奴隷紋なんですけど、サディナさんが主になりますか?」
「...いいえ。剣の勇者様の奴隷と、剣の勇者様の仲間の奴隷だったら何かあった時の対応に違いが出るかもしれないもの。コウヤちゃんが主になってほしいわ...ただ、できればあまり禁則事項はつけないで欲しいわねー」
「当然です。それじゃあどんな子が来たのか見てみましょうか」
「えぇ」
サディナさんも立ち上がってテントの入り口を見る。
やがて入り口は開かれて、小さな人影が鎖に繋がれて別の部下と思われる者に連れられてきた。
「こちらが剣の勇者様がご所望のルロロナ村出身の奴隷でございます。ほら、挨拶をしろ」
「ぐっ...!うっせぇ!どうせまた俺の事を殴る奴の所に連れてくんだろ!!」
「お前な...新たな主の前だぞ!」
部下が奴隷紋を起動しようとしているのが見えたので俺はそれを制止する。
毛先が白い黒髪に、犬のような三角の耳と尻尾を携えた亜人がそこには居た。
キール君か!...確かに、槍直しでもすぐに取り寄せれてたのはキール君だった。
思わぬ所で再びネームドキャラに会ったな...
「キールちゃん...キールちゃんね!」
サディナさんが珍しく大きな声を上げる。
「え...なんで俺の名前を?お姉ちゃん誰だよ...」
「私よ。サディナよ」
「サディナ...姉ちゃん?嘘だ、だってサディナ姉ちゃんは...」
「あらー...じゃあ、これなら信じてくれるかしら?」
「...っっ!!サディナ姉ちゃん!!」
キール君がサディナさんに抱き着こうとする。
「あっこら!」
「良いですよ。好きにさせてあげて下さい」
「え...?あ、はぁ...」
キール君を連れて来た部下がキール君を罰そうとしていたので止めておく。
折角の感動の出会いなんだ。邪魔しないであげて欲しい。
「俺...一生懸命戦おうとして...!!だけど皆を守れなくて!皆...奴隷にされちゃって...!!」
「えぇ...辛かったわね。ごめんね、あの時私があそこに居さえすれば...こんな事にはならなかったのに...」
「ううん、サディナ姉ちゃんは悪くないよ!」
「いいえ。ごめんなさいね...」
二人はしばし抱き合って...というか大きさ的には一方的にキール君がサディナさんに抱き着いていた。
「...そういや俺、新しい人の奴隷になるって聞いてたんだけどサディナ姉ちゃんの事だったのか?」
「いいえ。そこの剣を持ってるお兄さんがキールちゃんの新しい主になるのよ...でも、安心して。お姉さんが絶対キールちゃんを守ってあげるし、あのお兄さんもすごく良い人だから、大丈夫なのよ?もう、この国の人達がするような怖い目には遭わないわ」
俺の話題になったようなので、俺はキール君の前に歩いていく。
目線を合わせる為にしゃがむ。
「剣の勇者の剣崎鋼也だ。よろしくキール君」
「剣の...勇者様?」
「そうよ。コウヤちゃんは剣の勇者様なの。私が村の皆を集める為のお手伝いをしてくれてるのよ」
「村の皆を...」
「えぇ。お姉さん一杯頑張って、皆をもう一度あの村に集めてみせるわ。キールちゃん...だから、コウヤちゃんの事を新しい主として認めてくれるかしら?」
「...村の皆を集める為に、俺も精一杯努力する事を誓うよ。だから、俺に手を貸してくれないか?」
「う...うん。よろしく...兄ちゃん」
キール君がおっかなびっくりに俺の差し出した手に手を重ねる。
そうだよな。信頼できるサディナさんならまだしも、メルロマルクの奴隷を酷使する奴等と同じ種族の俺は怖がってもおかしくないよな。
「さて、それじゃあ奴隷紋の登録をお願いします...あと、剣の素材にするので墨を少し貰えますか?」
「それはもちろん構いませんが...」
魔物商の部下の人と、サディナさんに連れられているキール君、そして俺で奴隷紋を刻む場所へと来た。
早速インクを剣に入れて奴隷使いの剣を解放しておく。
「それでは早速刻ませていただきます。勇者様、こちらに血を垂らしてください」
俺は言われた通りに血を皿へと滴らせる。やがて墨と混じって何やら魔力的な反応が起こり、奴隷紋用のインクが完成した。
「ぅぅぅ...!!」
キール君の奴隷紋にインクが塗られると、魔力反応を起こして彼に痛みを与えた...そして、俺の視界に奴隷のアイコンが現れた。
禁則事項は...見た感じ特に必要そうな項目は無かった。全て外しておく。
「これで奴隷の登録は完了です...それでは勇者様、脱出の用意は全て滞りなく済んでおります。早速出発なさいますか?」
「あぁ、ちょっとだけ待ってください...キール君大丈夫か?」
「う、うん...これくらい、なんて事ないぜ...です...」
「別に無理して敬語にしなくていいよ。どうせ仮面奴隷だし」
「か、仮面奴隷...?」
「キール君が俺の奴隷って事以外には、何の制限もしてない状態の事だよ。そっちにも禁止項目が行ってるから分かると思うけど?」
「う...うん。そういう事か」
「よし...それじゃあ、早速出発しましょう。みなさんお願いします」
「かしこまりました。それでは、皆さんは勇者様方の荷台の方にお乗り下さい。念のため早いうちに幻影魔法をかけていただけるとありがたいです」
「分かりました...それじゃあ、二人とも。悪いけど俺達は早速城下町を出ていかなくちゃいけない。早めに出たいから、キール君は長旅で疲れてるかもだけど、もう少し頑張れる?」
「お、おう!」
「あらー。偉いわねー。それじゃあ早速行きましょうか!」
俺達は荷台に乗って、サディナさんに幻影魔法を唱えて貰った。
「ばれたら大変だから、町の外に出るまでは声を出しちゃだめだからな?」
コクコクとキール君が頷く...
ガラガラと音を立てて馬車が出発し始めた。
しばらく時間が経って、そろそろ検問所と思う所で馬車は立ち止まった。
「すまないが、馬車の中を検めさせてもらおう...特に今は少々問題が起こっているのでな」
「おいおい勘弁してくれよ...こっちは急な仕事で徹夜で走らなくちゃならないんだ。急いでるんだよ...ほら、これやるから...な?」
「しかし...いや、ほんの少しだけ確認させてくれ。すぐに通す」
「分かったよ...そんじゃ手短に頼むぜ」
「あぁ...」
そんな言葉が聞こえると、門番と思われる男が俺達の乗っている荷台をじろりと見渡して...やがて離れていった。
「問題ないようだ。とどめて悪かったな...通って良し」
「あいよ」
そんなやり取りが聞こえると、馬車は再び動き出した。
ふぅ、なんとかなったな...これで俺達は騒ぎを起こすことなく脱出する事が出来た。
「...ここまでくればもう問題ないでしょう」
御者をしている部下の方が俺達に話しかけて来る...
「それでは、私はアリバイ作りの為にも実際に支店の方に向かいますのでここでお別れです...」
「何から何までありがとうございました!」
「いえ。それでは失礼します...」
部下の方が見えなくなると、俺は荷台から降りて前の持ち手に手をかける。
そのまま牽引用の魔物のようにガラガラと引っ張り始めた...
流石に行きの時ほど重い事はないけど、二人と荷物があるとそれなりの重量は感じる...後、なるべく揺らさないようにとか気を付けているとそれなりにしんどいかもしれない....
「あらー眠いのなら寝ても良いのよ?朝にはお姉さんが起こしてあげるから」
「うーうーん...ふぁぁ」
後ろでは何やら穏やかな会話が聞こえて来る。
「それでコウヤちゃん、どこに向かうのかしらー?」
「多分報酬は貰えないかもしれないですけど、どのみち東の村のドラゴンはなんとかしないといけないし個人的にも用事があるのでそっち方面に向かいます。まぁ、まずはその前に拠点に戻って本格的に旅の準備を始めますけど」
「分かったわーそれじゃあ出発は明日かしら?」
「いえ、確かあの場所は影に補足されてたと思うので荷物だけ纏めたらすぐに出立しましょう」
「あらー。それじゃあ夜は交代して荷台を引きましょうか。コウヤちゃんは先に寝るのと後で寝るのどっちがいいかしら?」
「えっと...じゃあ後で寝たいですね」
「わかったわ。それじゃあひとまず村に戻りましょー」
「はい。キール君はまだレベル3なので、一応しばらくは周囲の警戒もお願いしますね。影は吹き矢を使ってたはずです。毒矢が刺さったら危ないですから」
「えぇ。もちろんよー」
そんなこんなで、キール君を寝かせながらさっさと最後の準備を整えて村を出発し、東の村の方へと歩み始めた。