東の村に向かい始めてから数日、大きな山脈が見えて来た...恐らく、あれがガエリオンが縄張りにしている山だろう。
「兄ちゃん!本当にドラゴンと戦いに行くんだよな!」
「そうだよ。まぁ、仲間になるようスカウトしに行くんだからキール君の思うような戦いが見れるかは分からないけど」
「すげぇなー...!流石兄ちゃんだぜ!」
「あはは、ありがとう」
移動を始めてから数日、最初は少しよそよそしかったキール君だが、レベリングの為に色々と連れて回って居たら気が付くと懐かれていた。
かっこいいもの好き的には剣の勇者は憧れる物があるのだそうだ。
ふふ...キール君は亜人だけど盾よりも剣の方が好きだそうだ。ぶっちゃけ悪い気はしない。
「一応危ないかもしれないから、しっかりサディナさんと一緒に居るんだぞ」
「おう!」
一度、何度か通りがかった村や町に立ち寄ったが特に指名手配をされている訳ではなさそうだった。
ただ、剣の勇者が乱心したみたいな噂が聞こえたりもしたのであまり芳しい状況ではないかもしれない。
後ついでに盗賊とかも良く襲ってくるようになった。たまに三勇教の刺客っぽいのも混ざっている。後は影っぽいのも襲って来る事があるな...こっちは殺す為ってより捕えるためって感じだったけど。
適当に退治して武器やお金になりそうなものだけ奪っている。
盗賊は資源とか原作では言ってたけど、納得してしまった。
これだけの頻度で襲われるのならいい小金稼ぎになる。
まぁキール君やサディナさんには微妙な顔をされたけど。
他にも初見の魔物を倒したり、ちょくちょくレベリングをしたりしてキール君のレベルは今の所レベル16になっている。そこまで念入りに魔物と戦っている訳じゃないんだけど、成長補正が凄まじいな。
そんな事を考えながら荷車を引っ張っていると、ガラガラと前方から馬車がやって来る...
御者の人がぎょっとした目で俺を見ながら通り過ぎていく。
最初は恥ずかしかったんだがもう慣れてしまった。
一応立ち寄った村でフィロリアルか馬でも買おうかと思ったんだけど、フィロリアルはこれからドラゴンをスカウトしにいくつもりだから一緒にするのは良く無いだろうと諦め、馬はすれ違う馬車の速度を見た感じ俺が引くのとそれほど速度が変わらなかったのと思ったより値段が高かったのでやめておいた。戦闘には使えないしな...
もう折角だから体力をつける為のトレーニングとして利用させてもらっている。
スタミナの装備ボーナスも増えてきたのが相まって、今では数時間くらいなら連続で走っても大丈夫だ。いよいよ人間を辞めて来たように思える。
サディナさんも交代してくれるし、最近だとキール君も俺がトレーニングだと言うと引っ張りたいと言い出している。
そういう時は魔法書の解読を進めている。
サディナさんのお陰で文字はかなり理解出来たので、後は読み取るだけだ...
一応、ファストボルト、ファストチェインボルト、ファストサンダーヒールは覚える事が出来た。
サディナさんという見本があるので、観察する事で効率よく魔法書の内容が理解できたと思う。
そんな風に考え事をしていると、いよいよ山脈を切り出して作られた道に入った。
ここを登れば例の村にたどり着くだろう。
しばらく進むと、村の入り口の門が見えて来た...
ここの人達って、あんまりいい人達じゃ無いんだよなぁ。槍直しで尚文が死体の処理をした方がいいと忠告しても観光資源になるからと死体を放置するし、それで疫病が蔓延したら剣の勇者やウィンディアの責任にしようとするし...
まぁでも、城下町の一件であの依頼がどういう扱いになったかは分からないけど念のため顔だけは見せておくか。
乱心の噂がまだこの辺りには広まっていない辺り、最低限剣の勇者として迎えてくれるかもしれない。
そうして村に入ると、村長と思しき男が近づいてくる...
「これはこれは冒険者のお方。このような村に一体何のようでしょうか?」
「俺は剣の勇者の剣崎鋼也です。ドラゴンの問題の解決に来ました」
「剣の勇者様...!?おかしいですね。依頼はキャンセルされたと先日報告があったのですが...」
「ちょっと手違いがあったんじゃないですかね?とにかくドラゴンを退治しに来たので荷車をこの村に置いて行きたいんですけど良いですか?」
俺は剣を適当な種類に切り替え続けて自分が勇者だと伝える。
「本当に勇者様...!そ、それはもう!剣の勇者様が解決して下さると言うなら是非ともお願いします!!良かった...!見捨てられた訳では無かった...!!」
「遅くなってしまってすみません。是非任せてください...お待たせしている間、何か被害はありましたか?」
「いえ、魔物が住処を押しやられてこの村に迷い込む事があるくらいですが、一応最低限戦える者も居ない訳ではないので怪我人はまだ出ていません...ただ、この状況を不安に思う者も多く...事態の解決まで村を出ると言う者も増えてきておりまして...」
「本当にすみませんでした」
「あ、頭をお上げください剣の勇者様...!」
この分だとかなり申し訳ない事をしてしまったようだ。彼らはもう国や勇者に見捨てられたかもと思い込んでしまっていたらしい。
いや、言い訳したい事はあるけど俺にも非があるのは明確だ。お詫びと言っちゃなんだけどきちんと解決しないとな...
俺は荷車を言われた場所に置いて、装備を点検していく。
サディナさんとキール君も武装して準備は万端だ。
「それじゃあ、今からドラゴンの所に向かいます...サディナさんが居れば大丈夫だと思いますけど、一応ドラゴンの縄張りは危険地帯だから油断の無いように!」
「おう!」「分かったわー」
「よし...それじゃあ出発」
俺達はドラゴンの巣穴へ向かって、山道を登り始めた。
──────────────────────────────ー
「はぁー!!」
キール君がカエルの魔物をショートソードで斬りつけて倒す。
よしよし、だんだんきちんと戦えるようになってきた。
別にキール君を戦闘員に絶対にしないといけないって訳じゃ無かったけど、本人がやる気充分だったので戦えるようにサディナさんと色々と指導したりしている。
「やったぜ兄ちゃん!」
「うん、ナイスファイト!」
「へへ」
うーん。可愛い。
ここ数日、キール君と過ごした事で俺は完全に絆されてしまった。
可愛くて手のかかる年の離れた弟...いや、性別的には女の子なんだけど、が出来たような気分だ。
はぁ癒やされる...
魔物を倒すといちいち報告してくるのとかすごくかわいい。
なんか、今から結構緊張する戦いが控えているはずなのに、気分はピクニックだな。
「うわっ!」
キール君の驚く声が聞こえた。ぎょっとしてそちらを見やると、トカゲのような魔物が草むらの陰から飛び出して来ていた。
ちょっとキール君には厳しそうかな。
俺は剣を振るってトカゲを真っ二つにする。
「あ、ありがとう兄ちゃん」
「うん...そろそろ魔物も強くなって来たから、今からはこの荷物を持っててもらって良い?」
俺は回復薬等が詰められているカバンをキール君に渡す。
「おう!」
キール君の今日の実戦訓練はこんな所で充分だ。
ここからは少しペースを上げようか。
俺達は次々に襲い掛かって来る魔物を倒しながらグングンと山道を登って行った。
念のため...ドラゴンの血が混じってそうな魔物に関してはスキルやサディナさんの魔法で状態異常にしていった。
もしもガエリオンの勧誘が上手くいったらこれから巣穴や仲間を守るのは彼らになるだろうし、そうでなくとも血族は殺さない事に越したことは無い。
...................
いよいよ山頂が近づいてきた辺りで、周囲に違和感を感じ始めた。なんとなく、魔力が満ちて来たというか...
「いよいよね。親玉のドラゴンが来るわよー...キールちゃん。私の後ろに隠れててねー」
「わ、わかった!頑張って兄ちゃん!!」
「もちろん!」
俺はキール君に親指を立てて答える。
剣もフル強化している海帝の剣に変更しておく。
この剣に付属している専用効果、水属性攻撃消費軽減なのだが、やはりスキルにも適応されることが分かった。なんだかんだ水系のスキルを多く使う俺にはまさに最高の一振りだ。
「グルァァァァアアアア!!!!」
上空から叩きつけるように、この前のグリフィンにも負けない程の咆哮が響き渡る...
地に写る陰はだんだんと巨大になっていき、ガエリオンは俺達の目の前にある小さな崖の上に降り立ち、こちらへと炎のブレスを放った...!!
「水瀑剣!!」
炎のブレスに大量の水をぶつけて相殺する。
「竜帝よ!!俺は剣崎鋼也!剣の勇者です...!今回はあなたと取引がしたくて来ました!!戦闘の意思はありません...!話を聞いてくれませんか!?」
俺は出来るだけ大声で叫んだ。
「グルァァァ!!!」
ガエリオンは俺の言葉を無視して、俺の方向に跳んできて勢いそのままに爪を振り下ろして来た。
「...っっ!!ふん!!」
俺はガエリオンの一撃を避けて、剣の腹を前足に思いっきり打ち付けて少し吹き飛ばした。
「俺はあなたの竜帝としての知識と力が欲しくてここに来ました...!俺と一緒に来てくれるなら他の竜帝の欠片集めの手伝いと、更なる力を与える事を約束します!!」
「ギュァァアアア!!!」
もう一度、爪を振り下ろしてくる...
「っっ...はぁっ!!」
更に回避し、今度はガエリオンの方へと飛び出して顎へと剣を叩きつけた。
「こんな事は言いたく無いですけど...多分俺の方が強いです!!どうか話を聞いてくれませんか!?」
「グ、グゥ...グルァァアアアアア!!!!!」
一度呻きが止まったと思ったら、更に苛烈な叫びと共に俺に何度も爪が振り下ろされる...
俺はそれを全て避ける。
当たらないのを察したガエリオンは空中へと跳ね上がって、一回転。遠心力を利用して俺に尻尾を叩きつけて来た...!
「ぬぅ...!!!」
剣の腹を盾のようにして受け止める。
...ぐ、流石に重いしちょっとはダメージが入ったな...けど受け止められない攻撃じゃない。
「グルルルルル...」
流石に生半可な攻撃じゃ効かないと分かったのか、連撃をやめて向こうも一歩下がった。
「.....貴様ぁ、なんのつもりなのだ!!!」
ようやくガエリオンが口を開いてくれる。
「なぜ攻撃してこない...!!我を愚弄しているのかぁぁ!!」
「だから、俺はあなたを仲間としてスカウトしに来たんです!!」
「ふざけた事をぬかすなぁ!!この我が人間如きの下に降るだとぉぉぉ!?」
かなりの量の魔力が吹き上がり、口内から大量の炎が吐き出される...というか、ここまでくると炎というよりは熱光線だな。
ちらりと後ろを向くと、サディナさんがアクアシールを発動していた...龍脈法使ったのかな?
「流星剣Ⅲ!!!」
最近ようやく条件解放された隕鉄の剣から手に入れた皆大好き流星剣で迎え撃つ...!
熱線と流星がぶつかり合い、対消滅を起こした。
「グォォォオオオ!!」
あっ...星がガエリオンの首を少し掠めてしまっていた。鱗を抉って血が噴き出す。
「...話だけでもちゃんと聞いてください!!対話しないと何も始まらないでしょう!!?」
「ギャアアアアア!!!」
「どうしても、話を聞かないって言うなら...ちょっと痛い目を見てもらいますよ!!」
「グルルォォォォォォオオ!!!!」
この様子だとガエリオンを無傷で制圧なんて出来ないし、全然話も聞いてくれないし...まずは暴れられないように弱らせよう。これ以上はキール君に流れ弾が行ったら危ない。
『力の根源たる剣の勇者が命じる。理を今一度読み解き、かの者に連鎖する雷を』
「ファスト・チェインボルト!!」
俺の魔法の雷がガエリオンの体を連鎖しながら走り、一瞬スタンさせる。
「エアストバッシュⅢ!!」
動けなくなっている間に俺はガエリオンの下に駆けだして胸を斬りつけた。血が俺の方に降って来る。
「ォォォォオオオ!!!」
そのまま横に飛び出して、致命傷にならないよう気を付けながら剣を振るう。
「水斬波Ⅴ!!」
前足二本に斬り込みを入れる。
...痛みで立てなくなったようでズシンと前に倒れ込んでしまった。
俺は下がった頭に向かって駆け出して、眼球の前に剣をつきつける。
「いい加減、話を聞いてくれませんか?」
「グルルルル....」
「自然界の掟は弱肉強食...ならば、あなたを殺せる俺に従うべきだ...違いますか?」
「グルァァァア!!」
ガエリオンは首を跳ね上げて俺を吹き飛ばした。
「ぐっ...!!」
俺は空中で体勢を立て直す。
「エアストスラッシュⅣ!!」
肩に向かって飛ぶ斬撃が放たれる。かなり深く入った。
そのまま着地する。
「あなた達が縄張りを拡大する事で、魔物が人里に降りて来てしまってます。なので近隣の村から救援依頼が入りました!...最低限俺はそれだけは解決しないといけません...今ここで俺の下に降るか、ここから出ていくのか、どちらか選んで下さい!!」
「グァァァアアア!!!ォォォォォッッッ!!」
怪我で動き辛くなったガエリオンが俺に叫んでくる。
「それともここで死ぬつもりだとでも言うんですか!?」
「グルルルル...!!」
「あんたはそれで良いかもしれませんけどね...そうなった時、あなたの家族はどうなるか考えないんですか!?」
「ギャッ...!」
「あなたがここで死ねば、あなたの巣穴の魔物達がどうなるか分からない訳じゃないでしょう?」
「グルゥゥゥ...貴様...この我を脅迫すると言うのか...!!」
「えぇそうですよ...!竜帝の仲間が欲しかったんですけど、それはもう最悪あなたじゃなくてもいい...でも、あなた達がここに巣を作った事で、もうどうしようもなく目を付けられてるんですよ。俺にはあなたを殺すつもりはありませんけど、例えここで俺が帰ったとしてもすぐに別の勇者が今度はあなたを確実に殺しに来る...そうなればあなたの持つ財宝を求めて冒険者達はここに群がります。冒険者達は全てをむしり取っていきますよ。あなたの家族は殺されるか、売られるか...どのみち碌な事にはならないでしょうね」
「き...さま...」
「そして俺も、仲間にならない人の家族を守るために動けるほど余裕はありません。どのみち、何かしらの方法でナワバリの長であるあなたには責任を取ってもらう...それがあなたにとってどれだけ傲慢で理不尽な事かは多少理解してるつもりです...けど、俺にも立場と目的がある。このまま何もせずに帰りますってのだけはありえません」
俺は剣をガエリオンに向ける。
「主張が交わらず対話もしないのならば、より強い方が我を通すのが道理だ!!あんたには俺に従ってもらいます!!」
「グルルルルルル...」
ガエリオンが喉を鳴らしながら俺を睨んでくる。
しばらくそんな時間が続くと、誰かが近づいて来ていた。
「やめて!!お父さんに酷い事しないで!!!」
「え...?」
声の方を向くと、茶髪の犬耳の女の子がこちらに涙を流しながら叫んでいた。
その子の周囲にはドラゴンと魔物の混血と思われる存在達が沢山いた。
「ギャゥゥゥ!!来るなと言ったであろうが!!!」
「だって...お父さんが殺されるかもしれないって...!!」
「グルゥゥ...」
「お父さんに酷い事しないでよ!!!帰ってよぉ!!!」
ウィンディアに大声で叫ばれる。
「......」
や、やりづれぇ...
「と、とにかく...一旦戦いどころじゃ無いですし、休戦しませんか?傷つけた体も治療しますから」
「......こうなっては仕方あるまい」
ガエリオンはゆっくりと立ち上がった。
『力の根源たる剣の勇者が命じる。理を今一度読み解き、かの者を癒せ』
「ファストサンダーヒールⅡ!!ファストサンダーヒールⅡ!!ファストサンダーヒールⅡ!!」
俺はガエリオンの肉体が回復するまで魔法を唱え続ける...
「もう良い。これ以上は不要だ...治療は感謝する」
ガエリオンが俺を制止した。
「我の巣穴に向かう...話はそこで聞いてやる」
のっしのっしと疲れを感じさせる歩みで進んでいくのでそれについて行く事にした。
「これで終わりでいいのかしらー?」
「多分、まぁ...ようやく話を聞いてくれそうで助かりました」
「流石兄ちゃんだぜ!!あんなすごいドラゴンをこう...シュババって!!」
「はは、ありがとう...」
さてと、この具合だと勧誘は上手くいかなさそうだけど...少なくとも住処を移動くらいはしてくれるかな?
彼らにとっても悪くない落としどころを探さないと...