「お父さん...?大丈夫なの?」
「あぁ。もう戦いは終わりだ」
「お父さん...!!良かった!!」
「.....そうだな」
なんかガエリオンがすごく複雑そうな声で答える。
「...まぁいい。お前たちは巣穴に戻っていろ。我はこやつらと大切な話がある」
「...わかった」
ウィンディアが俺の方をギロリと睨んでくる。
「やめんか...全く」
なんか、こいつもお父さんなんだなぁ...
仲間に誘うの申し訳なくなってきた。冷静に考えたら、別にどうしてもガエリオンじゃないといけない訳でも無いんだよな。
ウィンディアちゃんもメスリオンもガエリオンの元の方が幸せかもしれない...居場所さえ移って貰えばもう村人に被害が出て依頼が出る事も無いだろうしな。
魔物達が巣穴に入っていくのを確認したガエリオンがずしんと座る。
「...貴様の言う通り、我はお前に殺されたも同然だ。どうとでも好きにするとよい」
「はい。とりあえず話を聞いてくれたらそれで良いです...」
「ふん。戦いの中でならば死ぬ覚悟も、膝を屈する覚悟もあったが...よもや幼子のように弄ばれた上に治療まで施されるとはな...あまりにも屈辱的で、もはや全てがどうでもよくなって来たわ」
「あらー。なかなか話のわかるドラゴンちゃんねー」
「えっ...こんなんでそうなんですか?」
普通にめちゃくちゃ説得に苦戦したんですけど...だって今ようやくまともに会話出来るようになったばかりなんだぞ...?
「えぇ。ドラゴンはプライドの塊だから普通だったらもーっと醜く足掻いてると思うわー。よっぽどあそこの子たちが大事なのねー」
「嫌味か貴様ぁ!!」
「違うわー」
「はは。まぁ...とりあえず俺は魔物の問題を解決に来ました。もう少し人里から離れた場所に巣穴を移してくれませんか?引っ越しも、縄張り予定地から魔物追っ払うのも手伝うんで」
「...いいだろう。我が眷属達にも縄張りをむやみに広げて魔物共を人里に追い込む事の無いように言っておく。場所もここから移す」
「ありがとうございます...えっと、一応。もう一回同じような事があったら今度は容赦できないので、お願いしますね?」
「分かっておるわ...それで?他にも竜帝がどうのと言っておったが」
「あぁ...そっちはもう良いですよ。めんどくさいんで適当なドラゴンを育てて竜帝にします」
「めん!?...貴様ぁ...!」
「それじゃあ引っ越ししちゃいましょうか。安心して下さい、終わったらすぐに消えるんで」
「待て...竜帝の欠片がどうのこうのと言っておったな...」
「え?もう関係ないでしょ?」
「いや...もはやこうなればプライドなどクソの役にも立たん。我は人間如きに弄ばれる程に弱い...最弱の竜帝と言っても過言ではないだろうな」
「はぁ...それで?」
「貴様は強い。恐らくよほど強大な竜帝でもなければ勝てぬ程に...我は決めたぞ。我が宿願を貴様に託す...我は真なる竜帝になりたいのだ」
「....」
どうしよ。思ったよりも話通じないからもう諦めてたのに、ここに来て話に乗って来やがった。
「巣穴の子達はどうするんですか?育児放棄ですか?」
「違うわ!!」
「育児放棄じゃないですか」
「ぐぅ...違う。貴様は亜人のガキを仲間に連れておるな...見れば分かる。ここ最近からのようだがきちんと食事や衣服が与えられている。貴様の腹立たしい律儀さも相まってそこに関しては信用できる。先ほど貴様を睨んでいた亜人の子供が居るだろう...あの子を人間の世界に戻してやって欲しいのだ。それが条件だ」
「育児放棄じゃ「しつこいな貴様ぁ!!!」」
「んんっ...!それはまぁ、別に俺は良いですけど、あの子の意思はどうなんですか?あの子が人間の世界に戻りたいと言うのなら良いかもしれませんが、俺はそれを望まない子を無理矢理引っ張って連れていく余裕はあんまり無いですよ。色々追手に襲われたりもしてますし」
「ぐぅ。まぁ構わん...我から話しておく」
「まぁ、お父さんと一緒なら行くつもりになるかもしれないか...」
「ん?何を言っておるのだ?我は貴様と共に行くつもりは無いぞ」
「は...?」
「貴様は我に竜帝としての力や知識を求める...我は貴様から竜帝の欠片を受け取り知識と力を得る。ウィンディアを人の世で生きていけるようにする...そういう話であろう?何かしらで我の加護や力が必要になれば呼び出せばよい。何も我が貴様の仲間になる必要など無いではないか」
う...うわぁ...こいつクズだぁ...
「人には人の。魔物には魔物の領分という物がある。どれだけ頑張ろうと人がドラゴンの世界で生きていくことはできん。あの子は人の世で生きる方がよいのだ...いずれはと思っていたが、恐らくこれ以上の好機はそうそうあるまい。無論養育費はそれなりに用意する」
「まぁ言いたい事は分からないでもないんですけどね...俺は戦力としても竜帝がほしいのでそんな事するんだったら関係ない竜を赤ん坊から育てた方が懐いてくれるし良いんですよね。ウィンディアちゃんもあなたにべったりですから一緒に居てあげた方が良いんじゃないですか?別にいいじゃ無いですか。あなたが守ってあげればドラゴンの世も何も無いですし」
「ぐぅぅ!!貴様が我に竜帝の欠片を渡すと言ったのであろうが!!」
「もう少し聞き分けが良くて仲間になってくれるかもと思ってましたからね!!でももう一から育てる方が色々楽そうなんで断ってるんですよ!!!思ったよりコブ持ちでしたし!!」
「グルルぅ....分かった。あの巣穴には我の子がまだ卵で眠っておる。そやつを連れていけ...好きなように育てて、好きなように竜帝にするが良い。我が子が真なる竜帝に至るというのならばそれはそれで悪くない。それならばどうだ?」
「ウィンディアちゃんだけじゃなくて子供もなんてどういうつもりですか?」
「貴様、適当に約束するだけして我以外の竜に竜帝の欠片を与えるつもりであっただろう...!!ウィンディアを持っていかれて挙句適当な竜を育てるなど、言語道断だ!!それに、兄弟が居る方がウィンディアも淋しくないであろう」
「そんなに愛してるならウィンディアちゃんと巣穴で仲良く暮らしてたら良いじゃないですか...」
「ぐるるぅぅ」
ガエリオンが何かを言いたげにちらちらとこちらを見て来る...
「はぁ...はいはい。分かりましたよ。それで行きましょう...ただし、ウィンディアちゃんが納得した上で同意したらですからね!」
「よし。その条件で取引を受けてやる...ではしばし待っておけ!」
...なんでそんなに上から目線なんだよ...
どしどしと、ガエリオンが巣穴の方に入っていって....
「────!!!!」
「~~~~~~!!!」
すごい大声が洞窟から聞こえて来た...大喧嘩じゃねぇか。もう帰ろうかな...
「あらー、なんだか人間臭いドラゴンちゃんねー」
「俺、ちょっと幻滅しちまったぜ...」
しばらく待っていると、ガエリオンが意識を失っているウィンディアちゃんと卵を持ってきた。
「よし、話し合いは終わったぞ」
「いやいやいや!それ終わってないでしょ!!どう考えても魔法か何かで眠らせてるじゃないですか!!」
「そのようなことはない」
「あるじゃないですか!...そんな、無理矢理連れていかせるような事...あんた、それでもその子の親か!!!」
「.....剣の勇者。これでもな...我は生半可な覚悟で言っている訳では無いのだ!!」
ガエリオンがウィンディアちゃんと卵を優しく地面に置いて、俺の方に顔を近づけて来る。
「育児放棄だなどと...ふざけるのも大概にしろ!!我が子達を手放す事がどれだけの事が貴様に分かるのか!!!...それでも、それこそが我が子の人生の為だと...貴様なら、信用に値すると...そう思って貴様に託すと言っているのだ!!!」
竜の怒りが俺の体を叩いた。
「ぐっ...」
「....剣の勇者よ。お前の言う事にも一理ある。だが、それは貴様ら人間の世界の理だ。我らは大きくなれば必ず巣立ちの時が来る。いつ殺されるかも分かったものではない。何かあっても誰も助けてはくれない...ここはそういう世界だ。そんな世界に人間の子供を放り出すと言うのか...?それだけの力を持つのだ。貴様も数えきれんほどの魔物を殺して来たのだから分かるであろう?」
「.....」
「だからこそ、そうやって我に怒りを示せる貴様に託すのだ...分かってくれ。決して我はこの子が疎ましくてこのような事をしている訳ではない」
「それは...はい。育児放棄とか言ってすみませんでした。わかりました...その子にどれだけ恨まれようと、人間の世界に戻してみせます」
「良い。気にするな。それでは頼んだぞ...我は諸々の準備をしてくる。安心しろ、貴様がウィンディアと我が子を大切にしている限り、我も貴様との約束を守り人里には決して眷属達を近づけさせぬし魔物の住処も人里側には追い詰めぬ...これは契約だ」
ガエリオンがなんらかの魔法を唱えて、それが俺に向けて放たれる。
「貴様に呪いをかけた。我が娘達を不当に扱えば、それなりの報いがあるものと思え...発動するような事があれば我は死んでも貴様を呪うからな...」
「...わかりました」
「それでは少し待っていろ」
ガエリオンは再び巣穴に戻って行った。
「本当に人間みたいなドラゴンちゃんねぇ」
「兄ちゃん!その子の事、預かってあげようぜ!!」
「...うん。こうなったらちゃんと責任を持って頑張るよ」
俺はウィンディアちゃんをサディナさんに託して卵を抱く。
しばらくすればガエリオンが帰って来た。
「養育費を持ってきたが...そのような状態で山を下りるのは少々危険か。途中までは我が乗せていこう」
「お願いします」
..................
ガエリオンの背に乗って山の下の方まで降りて来た。
「そろそろ人の目に見えてしまうであろうな...ここまでだ」
俺達はみんなで降りた。
「では、二人を頼んだぞ。剣の勇者よ...」
そう言うとガエリオンは最後にウィンディアちゃんを爪で優しく撫でて、のっしのっしとナワバリへと戻って行った。
「それじゃあ戻りましょうか。この子もちゃんと横に寝かせてあげたいわ」
「そうですね」
そうして村の方へと戻った。
「...勇者様!どうでしたか...!?」
村長が俺に詰め寄って来る。
「ドラゴンは撃退しました...話が通じる相手だったので、人間の村に二度と近づかないように約束したので大丈夫です。ナワバリも移動してもらいました。これで魔物の生息域も元に戻ると思います」
「そ、そうですか...いえ、剣の勇者様が大丈夫と言うのならそうなのでしょう」
「はい。これでもまだ問題が起こるようならその時はもう一度教えてください。たまにこの村に来るようにしますので」
「おぉ...!それはありがたい。是非よろしくお願いします!」
「それじゃあ俺達は次の場所に向かわないといけないので失礼しますね」
「この度はありがとうございました!!」
俺は村人達に手を振って村を離れた。
───────────────────────
「ふぅ...これでクエストは終わったけど、問題はウィンディアちゃんが起きてからだな...」
一体何を言ってから無理矢理寝かせたのやら。
多分この子の中で俺はお父さんをボコボコにした悪い奴だろうし、先が思いやられるなぁ。
そんな事を考えながら馬車を引っ張っていると、馬車の中が若干騒がしくなっていた。
「離して...!!私はお父さんの所に戻るの!!!」
「あらー...落ち着いてちょうだい、ウィンディアちゃん?」
「うるさい!!お父さんはあんなこと言わないもん!!あの剣の人に言わされたに違いないんだから!!!」
「おいおい、兄ちゃんはそんな事してねぇぜ?」
「そんな訳ない...!!じゃないと...うぇぇぇん!!!」
う...凄い事になってる...
俺は馬車を停止させて、荷台の方に入る。
「えぇっと...ウィンディアちゃん?」
「...っっ!!気安く名前を呼ぶな!!はやく私とこの子を元の場所に戻してよ!!どうせ、私たちの事をどこかに売り払うつもりなんでしょ!!!このクズ!!」
「うっ...!!」
滅茶苦茶言われてる...!結構心に来るなぁ...
「えっと、俺の名前は剣崎鋼也。剣の勇者をしている。君とその子の事はお父さんに託されてるんだ。人の世で生きていって欲しいって...だから、ゆっくり一緒に頑張ろう。きっと一人前になればもう一度お父さんと会えるから」
「ふん!...如何にもなセリフねこのクズ!!お父さんにあんなに酷い事した癖に...!!!お父さんがあんたみたいな人に私を預けるわけないもん...!!あんなの...私はもう子供でもなんでもないだなんて、二度と帰って来るななんて、そんなの言わないもん...!!」
ウルウルと涙が溢れて来る。
「大丈夫...?」
「触るなクズ!!!」
差し出した手がバシンと叩かれた。
「いくらなんでもそれは...!」
「キールちゃん」
サディナさんが口元に人差し指を持ってきて、静かにとジェスチャーする。
「ウィンディアちゃん。私達の事を信用できないのは仕方ないわ...でも、今その卵を守れるのはウィンディアちゃんだけなんじゃないかしら?」
「それは...」
「外の世界はとっても怖いわ。魔物は襲って来るし、人だってウィンディアちゃんやその子を奴隷にしようと襲ってくるかもしれない...私達が信用出来なくても、せめてその子が大きくなるまでは私達を利用してみないかしら?」
「...利用?」
「えぇ。私達はウィンディアちゃん達に酷い事なんてしないわ...同じ亜人同士、コウヤちゃんよりは信用してくれても良いんじゃないかしらー?」
「....そんなの」
「お父さんに教わらなかったかしらー?」
「...何をよ」
「外の世界では誰が味方で誰が敵かちゃんと見極めないといけないって」
「...言われた」
「その子を抱えながら、一人で外で生きていけるかしら?ご飯は?寝床は?襲って来る魔物は?どうにかできるかしらー?」
「.....」
「だったら、信頼はしなくたっていいから、私たちの事一度だけ信用してみないかしら?」
「一度...だけ...?」
「えぇ。もしも私達がウィンディアちゃんに酷い事を一回でもしたなら、もう私達は信用できないから逃げたらいいと思うわ...けど、そうじゃないならいいじゃない。信頼出来なくたって一緒に居る事は出来るのよ?ご飯を食べれて、寝るところがあって、魔物を倒してくれて、戦い方も教えてくれる...それだけあったら充分だと思わない?」
「............」
ぐぅっとお腹が鳴った。
「ほら、まずはご飯を食べて落ち着きましょー?...コウヤちゃん。今日はこの辺りにしましょうか」
「...わかりました」
俺が話しかけると余計に刺激してしまうだろう...今はサディナさんに任せよう。
荷馬車を道の邪魔にならない場所に移動させて、テキパキと野宿の準備をする。
火を焚いて、鍋を用意して食材を切って入れていく...水と調味料を入れて、スープを完成させる。
四人分の食器にスープをより分けて、パンと一緒に配っていく。
「ほら、出来たわよー?さ、食べましょ?」
「....うぅ」
「それともお姉さんが食べさせましょうかー?」
サディナさんがウィンディアちゃんにぎゅっと身を寄せてスプーンを差し出す。
「...!!一人で食べれるわよ!!」
ウィンディアちゃんはサディナさんの元から離れると、たどたどしくスプーンを使いながら...おっかなびっくりスープを口に入れた。
「....!!?」
一口、二口...あっという間に飲み干してしまった。
「美味しい...」
「おかわりもあるけど...」
「!!?ふん...!!」
俺が声をかけると露骨に態度を悪くして卵の方へと戻ってしまった。
「んふふ、大丈夫よコウヤちゃん。ゆっくり慣れていけば良いんだから。キールちゃんも最初はコウヤちゃんの事あんまり信頼してなかったでしょー?」
「うーん...まぁ、サディナ姉ちゃんが居なかったらウィンディアちゃんみたいになってたかなぁ」
「今日は色々あって疲れちゃったでしょうし、一人で考える時間も必要よー?」
「...そうですね」
そういうとサディナさんはウィンディアちゃんの居るキャビンの方へ歩いて行った。
「それじゃあ、お姉さん達はお外で眠るから、もう朝までここには入らないから安心してね?それと...卵が冷えちゃいけないから毛布も使ってねー。おやすみなさい」
「.....」
そう言って毛布を渡すと完全にキャビンの布を閉じてしまった。
「さて...それじゃー飲みましょー!」
「...そうですね」
「いいなー俺も飲んでみたいなー!」
「もう少し大人になってからねー」
「えー、いいじゃんか!!なぁ兄ちゃん!」
「お酒は大人になってからね...知ってるか?子供がお酒を飲むともう身長が伸びなくなるんだぞー?」
「えぇ...!?それはやだ!!」
「じゃあ我慢しないとな。ほら、寝る子は育つからしっかり寝るんだぞー」
「はーい。そんじゃーおやすみー」
「おやすみなさーい」
「おやすみ」
キール君は寝床に入った。それから、しばらく...キール君の方から寝息が聞こえてくるとサディナさんが話しかけて来る。
「コウヤちゃん。大変かもだけどウィンディアちゃんの事ちゃんと見てあげなきゃだめよ?」
「分かってます...ガエリオンの呪いとか関係なく、ちゃんと一度受け入れたからには最後まで面倒見るつもりです」
「えぇ。キールちゃんも、同い年くらいのお友達が仲間に増えて遊び相手が出来て嬉しいと思うわ...」
「そうですね...これからは遊べる時間とか道具も用意しないとですね」
「うふふ、大変だろうけど安心してちょうだい?これでもお姉さん子供の相手は昔から得意なのよー?」
「はい。すっごく頼もしいです...ほんと、いっつも頼ってばっかで申し訳ないです」
「そう?そう思うならお酒もうちょっと買って欲しいわねー」
「...そうですね。ちょっとだけですよ?ドラゴンに貰ったお金はちゃんとウィンディアちゃんの為にしか使いませんから」
「そんなの当たり前よー。お姉さんそんなに酷い人だったかしらー?」
「はは、違いますね」
火を囲いながら、ぽつぽつとサディナさんと会話を交わしていく...
メルロマルクに多少睨まれてても、別に大丈夫って思ってたけど...こうやって小さな子供を預かるようになり始めるとそんな事は言っていられないかもしれない。
キール君が、ウィンディアちゃんが...他の村の子がきちんとのびのびと生きていけるように。
俺が責任を持ってやらないとダメなんだ。
より一層気合を入れていかないとな...