剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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ちょっとこのままのペースだと波まで更に何話も重ねる事になりそうなので時間ぶっ飛ばします。
間の話に需要があったら、どこかのタイミングで閑話として書こうかと思います。


勇者パーティ

 次の日の朝、昨日のスープに色々と足してかさ増しさせて朝食を作っていた俺に、ウィンディアちゃんが卵を抱えて話しかけて来た。

 

「...その.....お願いがあるんだけど」

 

「俺に?」

 

「何よ、なんか不満でもあるわけ?」

 

「そういう訳じゃないけど...もちろん。なんでも言って」

 

「じゃあ、この卵に血を垂らして...私の血だけじゃ魔法が解けなかった。あんたの血も無いとお父さんの魔法が卵を封印したままになっちゃう」

 

「そうなのか?まぁ...それくらいするけど」

 

 俺は剣で手を切って血を卵にかける。

 

「ちょ...ちょっと、そんなにいらないわよ!!大怪我じゃない!!」

 

「あぁ、ごめんごめん...」

 

 デカいから必要な血も多いのかと思った。

 

「ファスト・サンダーヒール」

 

 俺は魔法で手の傷を癒やしていく。

 

「...全くもう......まぁ、少なくとも、お父さんがあんたの事もこの子の主に選んだ事だけは、認めてあげる...人攫いとか言ってごめんなさい」

 

 びっくりした。まさか一晩寝ただけで俺にごめんなさいだなんて言えるようになるなんて...!!

 この子どんだけ良い子なんだよ。だって俺達突然現れた他人で全然信用ならないんだぞ!?

 おいおい本当にあのドラゴンに育てられたのか?こんな子が!?世界の神秘か...?

 

「気にしなくていいよ。むしろ、少しでも気が楽になるなら俺の事なんか気にせず、好きに言ってくれていいから...な?」

 

「何それキモ...」

 

「うっ...!」

 

 キモって...こんな子供にキモって...

 

「...言っとくけど!!あんたの事信頼なんて微塵もしてないから...!!むしろ嫌いだし!!お父さんの事あんなにボロボロにしたし!!...そう、私はあんたを信用するだけなんだから。最低限あんたが勇者だって信じて!!利用してやるだけなんだから!!」

 

「お...おう...」

 

「昨日の夜...あのサディナさんって人に聞いたわよ。あんた、私に酷い事したらすごい目に遭う呪いをお父さんにかけられたんだってね!!」

 

 ウィンディアちゃんがニヤリと悪い笑みで俺の事を見て来る。

 

「そ...そうだけど...」

 

「精々お父さんの呪いに怯えている事ね!!その気になったらお父さんの力であんたなんてボッコボコにしてやるんだから!!」

 

「....お、おう」

 

 思ってたより攻撃的に嫌われてた...にしても、もしかして昨日の夜俺が寝た後にウィンディアちゃんが起きて来てサディナさんと話したりしたんだろうか?

 

 件の相手の方を見ると、ウインクされた。

 可愛い...でも寝起きでお酒飲んでるの怖い...

 

 にしてもなるほど。確かに養育費として金銀財宝渡してたり、俺に呪いかけてたり...後一応、魔物紋の主設定に俺とウィンディアちゃんの協同になるよう魔法をかけてたり...ガエリオンがちゃんとウィンディアちゃんの事を思っている証拠になるものは一杯あるもんな。

 ついでに呪いで俺に優位に立てるって思える事である程度心の余裕が出来たという訳か...

 それを一晩のうちに終わらせる...流石はサディナさんだ。

 

 そんなことを考えていると、卵から音が聞こえた。

 

「あっ...!」

 

 ウィンディアちゃんがゆっくりと卵を地面に置く。

 

「布と食べ物持ってきて!!お肉!!早く!!」

 

「え、あ、おう!」

 

 ウィンディアちゃんに怒鳴られて俺はそれらを急いで荷車から持ってくる...

 戻ってくると卵にバキバキとヒビが入って、中から中型犬くらいの大きさのドラゴンが這い出てきた。

 

「ガウ!」

 

「わぁ...!」

 

 ウィンディアちゃんがキラキラと目を輝かせて赤ん坊のドラゴンを見つめる。

 同時に、俺のパーティに魔物の項目が追加される。

 

「名前はもう決めてるのか?」

 

「....まだ。あんたの意見なんか聞かないから!!」

 

「分かってるって...」

 

 蛇蝎の如く嫌われてるな...

 

「ふぁぁ~...なんだうるさいなぁ...って、卵が孵ってる!!」

 

 ぐっすりと寝ていたはずのキール君が起きて来る。

 

「へぇー、ドラゴンの赤ちゃんかぁ...!可愛いなぁ!」

 

「....うん」

 

 ウィンディアちゃんはキール君の純粋な言葉にちょっとだけ顔を赤らめて頷いていた。

 

「あらー...ドラゴンの赤ちゃんなんて初めて見るわねー」

 

「待って!...あんまりみんなで寄ってたかると怖がっちゃうから、一旦離れて」

 

「お、おう...!」

 

 俺達がウィンディアちゃんの命令に従うと、ウィンディアちゃんは布で赤ん坊の体を丁寧に優しくふき取り、俺が持ってきた肉を細かく引き裂きながら食べさせていた。

 

「よーしよし...」

 

 食事が終わると、ウィンディアちゃんがドラゴンを慈しむように撫でながら抱きしめていた。

 幼女が慈愛の表情を浮かべている...これがバブみというやつか...?

 

「ガーウ...」

 

 しばらくすれば眠たげにしたドラゴンがそのまま寝落ちした。

 

「よしよし......ん、もう眠ったみたい。」

 

「随分と手慣れてるんだな」

 

「別に、巣穴ではこんなのしょっちゅうだから。何回も見てればこれくらいできるようになるわよ」

 

「へぇ...すごいな」

 

 素直に感心する。

 

「なぁなぁ、ちょっとだけ触ってもいい?」

 

 キール君がワクワクした顔でウィンディアちゃんに詰め寄る。

 

「う...起こしちゃだめだからね。優しくならまぁ...」

 

「やったー!」

 

 キール君がゆっくりと手を伸ばし...

 

「...へへ、可愛いなぁ」

 

「でしょ?」

 

 おまかわ...んんっ!

 不味いな。完全にキール君の保護者目線になってきている。

 

「よし、朝ごはん食べるぞ。食べ終わったら荷物を片付けて今日の予定の確認な」

 

「はーい!」「わかったわー」

 

 俺は皆に朝食を配っていく。

 ...キール君は旨い旨い言ってくれるけど、正直そんなにだしレパートリーが少ない。

 尚文に色々教えてもらいたいな...

 

 そんな事を考えながら食事をぱっぱと終わらせる。

 

「さて、今日の予定だけど...」

 

 波まで後一週間と2日。

 尚文との合流を考えるとそろそろ城下町方面に向かわなければならないだろう。

 それと同時に、ウィンディアちゃんとメスリオン(仮称)のレベリングもしておきたい。

 

「その前に、ウィンディアちゃんに聞きたいんだけど...ウィンディアちゃんは強くなりたい?」

 

「どういう事?」

 

「キール君なんかは強くなりたいって言ってたから戦いを教えたりしてるけど、別に強制しないってこと。戦いが嫌ならそれはそれでまぁ、多少レベルは上げさせてもらうけどその後はやりたい事を探したり、色々と生き方があるからさ」

 

「....巣立ちしたからには、お父さんを驚かせるくらい一人前になりたい。それに、この子をお父さんみたいに立派なドラゴンに育てたい...だから、私も戦う」

 

「わかった。それじゃあ二人とキール君のレベリングを中心に予定を組もう。後一週間くらいで波の刻限だから、城下町方面に戻りながらレベリングと魔物討伐をやっていこう。向こうに着いたら、一度サディナさんに海でのレベリングをしてもらおうかな...それで最低限ステータスだけでも戦えるようになると思うし」

 

「うぅ...あんな事がまた起こるのか...」

 

「勿論、こっちも強制参加じゃない。波と戦うのは勇者の使命だし、大量の魔物が湧いてくるから相応の危険が伴う...ただ、もしも戦うなら最大限の手助けはするつもりだ」

 

「私はやるわ。大量の魔物が出てくるってならいっぱい倒して少しでも強くなってやるんだから!」

 

「お...俺は...」

 

 キール君が何かを言おうとして、すぐに口を閉じる。

 

「キール君。怖いのは当然だ...魔物に襲われて、人間に襲われて、奴隷として扱われて...それがどれだけ辛かったか俺には想像もつかない。けど、それでも強くなりたいって前を向けるキール君を俺は本当にすごいと思う。だから、何の為に強くなりたかったのか思い出してみて」

 

「俺は...もう二度とあんな事にならないように...みんなを守れるように、強くなりたい...!波なんかに負けないくらいかっこよくなりたい...だから...!」

 

「うん。大丈夫!俺はまぁあれかもだけど、サディナさんもついてるからさ」

 

 俺はキール君の頭を撫でる。

 

「おう!...やってやるぜ兄ちゃん!」

 

「よしよし偉いぞー」

 

 ワシャワシャとキール君を撫でる。

 

「やめろって兄ちゃん!くすぐったい!」

 

「あははー...よし。それじゃあ、早速出発するぞ!」

 

「おー!」「おー」「....はいはい」

 

 若干1名反応が薄かったが、一致団結で頑張らないとな...!

 

 ────────────────────

 

 俺達は、行きに使ったものとは別の、少々遠回りなルートを利用してルロロナ村方面へと向かっていた。

 今日の昼前には着くかな...

 

 後波までの刻限は3日。少しレベリングと剣の解放に時間をかけすぎたかもしれない。

 

 ウィンディアちゃんがレベル25、正式にガエリオンと命名されたメスリオンがレベル26、キール君がレベル30、俺がレベル54、サディナさんが37だ。

 まぁサディナさんは資質向上してるので本来ならもっとレベルが高いんだけど...

 途中でドラゴンを狩ったりもして、ガエリオンちゃんも会話出来るようになっていた。

 

「ねぇ...」

 

「何?」

 

 えっちらほっちら荷車を引く俺にウィンディアちゃんが声をかけてくる。

 

「前から思ってたんだけど、なんで勇者の癖に馬車なんか引いてんの?」

 

「うっ...!」

 

「普通、魔物かなんかに引かせるわよね...それとも、文字通り自分は馬鹿ですって言いたい訳?」

 

「うぐっ!!」

 

 俺の心にクリティカルヒット。

 

「違うぜウィンディアちゃん!兄ちゃんは体を鍛えるためにやってるんだからな!」

 

「だからって...ねぇ。通り過ぎる人の顔とかちゃんと見てる?すごい顔してるわよ?」

 

「言わないで...これ以上言わないで...」

 

「コウヤが可哀想なのー」

 

 なんで俺のパーティ内でのヒエラルキーこんなに低いの...?

 一応俺剣の勇者だよね?このパーティのリーダーだよね?違うかったかも...

 

「あらー...でも、確かにそうよね。魔物を買う機会ならそれなりにあったのに買わなかったのはコウヤちゃんだものねー」

 

「だ、だって...!高いんですもん!ただでさえお金に余裕無いし!これからもっと食費とか色々かかるかもしれないのに、お金手に入れる手段が盗賊かドロップ品と素材の売却だけで!!...うぅ」

 

「あらら...大丈夫よー。コウヤちゃんは頑張ってるわよー」

 

「サディナさん...!」

 

「みんなも、あんまりコウヤちゃんに好き勝手言ってたらいつか怒っちゃうかもしれないわよー?」

 

「兄ちゃんが...?ははっ!そりゃねぇぜサディナ姉ちゃん」

 

「ふっ」

 

「無いなのー」

 

「ふふ、それもそうねー」

 

 散々だ...見とけよ。いつか爆発してやるからな...いつって具体的にいつかと言われると分からないけどとにかくいつかだ。

 

「はぁ...なんでもいいですけど、そろそろ目的地ですから準備しといてくださいね」

 

「もうすぐかぁ...!ラフタリアちゃんに会えるんだよなー!」

 

「そうねぇ。キールちゃんも随分成長したし、ラフタリアちゃんも見違えちゃうかもしれないわねー」

 

 そう。キール君もウィンディアちゃんも亜人特有の成長を見せた...のだけど、なんでだろう。若干幼い。

 年齢的には14とか15くらい。

 精神的な問題だったっけか?ラフタリアちゃんははやく大人になりたかったからそうなったんだっけ?

 

「なんでも良いけど、海で魔物を倒せばもっと強くなれるんでしょ?はやく連れて行きなさいよね」

 

「お姉ちゃんは焦りすぎなのー」

 

「そんな事ないでしょ...まだ、剣の勇者に全然届いて無いもん」

 

「はいはい。向こうに着いたら皆を海で降ろしてから俺は別の用事を済ませに行くから...その間にサディナさんに沢山レベリングに付き合ってもらってて」

 

「ふん!帰って来たらもう一回勝負よ!」

 

「なのー...ガエリオンはコウヤと戦いたくないなの」

 

「何言ってるのよ。お父さんに酷い事した奴なのよ?私達で仇を討たないと!」

 

「ガエリオン的にはコウヤがお父さんみたいなもんなのー」

 

「もー!またそういう事を言う!!」

 

「なのーん」

 

「姉妹喧嘩もほどほどにねー」

 

「うるさい!」

 

「はは...はぁ」

 

 こんな具合に、このパーティにおける力関係がはっきりしてきた。

 

 一番上にサディナさん。その下に言葉と気が強いウィンディアちゃん。少し下に自由気ままなガエリオンちゃん、キール君。そして最後に俺だ。

 

 戦闘力で言えばまた変わるけど、結局サディナさんがトップなのには変わらない。もうあんたがリーダーでいいよ。

 

 とはいえ別に辛い訳じゃ無い。キール君は相変わらず無邪気で可愛いし、ウィンディアちゃんもたまに心を抉られるけど基本は可愛いもんだ。最近は少しづつ気を許してくれてる気がしないでもないし。ガエリオンちゃんは赤ん坊の頃からウィンディアちゃんの目を盗んでは遊んでやっていたのでそれなりに懐かれている。

 サディナさんはそんな俺達の事を優しく包むように纏め上げて、フォローしてくれる。

 

 はっきり言おう。俺はこのメンバーが大好きだ。

 だから、この世界の理不尽から絶対に守り抜きたい。

 

 そんな決意をするには充分なだけの時間が流れた。

 まずは最初の波と、その後のクズ共の策略だ。

 

 俺はどうやってそれらをやり過ごすかを、何度も頭の中でシミュレートした。

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