剣の勇者の成り代わり   作:min-can

22 / 35
次元の波

 それから、尚文やラフタリアちゃんに協力してもらいながらも呪いの治療を続けた...

 結局一つ用事が思い浮かんで、半日程度面倒見てもらって外出ができたから二人のお陰で大助かりだった。

 

 そういえば尚文達が龍刻の砂時計に行った時に、まるで運命とでも言うかのように三勇者が揃ったらしい。ラフタリアちゃんはそこでの元康や樹の態度に大層困惑したそうな。

 曰く、波を直前に控えた勇者とは思えない態度と。それを言われると今の俺にも若干刺さる気はするのだが、とにかく元康にしつこくナンパされて辟易したらしい。樹に関しても、尚文が強化方法について共有しようとしても盾がどうこう、犯罪者がどうこうと聞く耳を全く持ってくれなかったと憤慨していた。

 なんでそんな肝心な場面に俺は居ないんだよ...

 

 まぁ、そんなこんなで波を翌日に控えた今日、驚異的な回復力でサディナさんは車椅子に乗せれば外出できるほどに回復してしまっていた。

 他の皆はまだベッドの中で精一杯努力すれば少し体が動かせるかどうかというレベルなのだけど...やっぱこの人合法チートだろ。一人だけ作中でも能力がおかしいんだよな。

 

 今はラフタリアちゃんに両手を掴んでもらいながら歩いている最中だ。

 

「...っっ、なかなかっ、難しいわねー」

 

「頑張って下さい、サディナ姉さん!」

 

「えぇ、ラフタリアちゃんに情けない所、見せられないものね...!」

 

 えぇ...少なくとも幼児レベルには運動能力が回復していらっしゃる。

 いくら呪いの大本が消えているとはいえこのスピードで回復出来る物なのか?

 

「元々の筋力はそのままだから...少し力を入れられるだけでも案外コツを掴めば立てるのよー?」

 

 プルプルと震えながら俺の疑問に答えてくれる。

 

「戻ったぞ...って、なんでこいつはもう立ってるんだ?」

 

 尚文が城下町から戻って来たようだ。視線を向けるとお馴染みの蛮族の鎧を付けていた...ただ、見た所ヤマアラやらピキュピキュなんかの素材を利用していたはずの原作初期蛮族の鎧とは明らかに性能が違うのが分かる。俺の装備と同等か、下手したらそれ以上の性能を秘めていそうだ...主に防御方面で。

 

「分からない。まぁ強いていうならサディナさんだから?」

 

「あらー?」

 

「まぁスキル無し制限とはいえ、フル強化の鋼也をあしらって指導できるレベルだもんな。元々おかしいっちゃおかしかったか」

 

「ナオフミ様、あまりサディナ姉さんをバケモノのように言うのは...」

 

「実際にバケモノと言って差し支えないくらいには強いだろそいつ」

 

「お姉さん傷ついちゃうわー」

 

「はっ、言ってろ!...んで?他の面子はどんなもんだ?」

 

「見てくれよ盾の兄ちゃん!!俺、ついに寝返りが打てるようになったんだぜ!!うぉぉぉぉおおお!!」

 

 キール君が芋虫のようにうねうねと動いて、なんとか寝返りを打った。

 

「流石キール君!すごい!」

 

 俺は脳死でほめたたえる。

 

「だろー!?ニヘヘ...はぁ、はぁ...」

 

「...あっそう。で?」

 

「で!?...なんだよ!!ついこの前まで腕一本もまともに動かなかったんだぞ!知ってるだろ!?」

 

「あーはいはい、スゴイデスネー」

 

「んなっ!!」

 

「はぁ...もうこいつらのお守りは疲れた。ほんとお前は良くやるよ...ラフタリアがどれだけ楽だったか思い知らされた。ほんと、最初の夜泣きくらいだったな...あれもこいつらに比べりゃ可愛いもんだ」

 

「ナッ...ナオフミ様!!?」

 

 ラフタリアちゃんが赤面しながらシュバっとこちらを向いて睨んでくる。あっ、サディナさんが手離されて倒れた。

 

「なんだ、褒めてやったんだが?」

 

「褒められてません!!」

 

「そうか...難しいもんだな」

 

「流石に違うのは俺でも分かる」

 

「コウヤ―...お腹減ったなのー」

 

 ガエリオンちゃんがしおらしい顔をしながら俺に要望を伝えてくる。

 

「はいはい。今すぐお肉買って来るから待っててね」

 

「ごめんなさいなのー」

 

「しょうがないよ育ちざかりなんだし」

 

「おい...山のように魔物の肉を用意してやったはずだが?」

 

「とっくにお腹の中だよ」

 

「信じられん胃袋だな。お前に用意された卵をふ化させるのが真剣に怖くなって来た」

 

「大丈夫大丈夫。旅しながらだったら道中おやつがたくさんあるからー」

 

「...死んだ目で言うな」

 

「お姉さんもお酒―」

 

「病人なんですから控えめにしてくださいね...一本だけですよ?」

 

「はーい」

 

「あっ!!じゃあ俺も屋台のお肉食べたい!!」

 

 キール君が声を上げる。

 

「了解。ウィンディアちゃんは?」

 

「...甘い物食べたい」

 

「オッケー。肉に酒に屋台串焼きに甘味ね...」

 

「おい...どれだけ自由なんだこいつらは」

 

 尚文が顔に手を当てて項垂れる。

 そうか?動けないんだしこんなもんじゃないか...?

 

「....お前はまだ静かにしていて偉いな。うるさいガキとか言って悪かった」

 

 尚文がウィンディアちゃんの方を向いて言う。

 

「...別に、みんなのお世話で大変そうだから私くらいは少しでもしっかりしようと思っただけ。ただでさえ迷惑いっぱいかけてて屈辱なのに、それ以上なんて嫌だもん」

 

 ウィンディアちゃんが布団に顔を埋めながら答える。

 

「まぁ...ここ数日で良くも悪くもこいつらの事が随分と分かったから良いか。一応これから共に戦う仲間なんだろうしな...とりあえずお前には心底同情するぞ鋼也」

 

「そんなに言われる程じゃないと思うんだけどな」

 

「既に洗脳されてるのか...まぁいい。とりあえず俺は鋼也と買い物に行ってくる。ラフタリア、留守番頼むぞ」

 

「わかりました」

 

「あっ、魔力回復した...」

 

 俺はみんなにターゲットして魔法を紡ぐ。

 

「アル・ツヴァイト・カースブレイクⅢ!!」

 

 中位の解呪の魔法を覚えたので使っている。

 ...そろそろ覚えた魔法も増えて来たし龍脈法にも挑戦してみようかな。ガエリオンちゃんに頼めば祝福してもらえるだろう。

 

「毎度毎度良くやるよ」

 

「一応効果はあるはずだしなぁ...尚文はどうだ?」

 

「あぁ。まぁ半分近くには体力が戻ったな...これだけあれば普通に過ごす分には心配無さそうだ」

 

「おぉ。俺も体力減少の方はだいぶ治って来たな...ステータス減少の方は変わって無いけど」

 

「三割だったか?随分手痛い置き土産だな...まぁそのお陰で俺達の回復が早いってんだ。それなりの手助けはするつもりだが」

 

「ありがとう」

 

「あぁ...にしてもいよいよ明日が初めての波か。色んな事がありすぎて正直ピンとこないな」

 

「そこまで身構えなくてもいい...はずなんだけど、最悪は想定した方がいいかも」

 

「ま、どの道やれる事を精一杯こなすだけだ」

 

「うん」

 

 そうして俺達は山ほどのお土産を抱えて部屋に戻った。さっき騒ぎすぎてて治療士さんに怒られた。

 

 ───────────────────────────

 

 いよいよ今日の夕方、波が発生する。

 

 尚文達は最後の準備をしてくるとの事で別行動だ。

 

 さて、この二日間襲撃は無かったしここは安全だと考える事もできるかもしれないけど、逆に言えば波で俺が消えた瞬間に皆を襲う可能性もあるという事だ。

 

 どこに匿うのが安心だろうか。

 いっそ波に一緒に転送されて、ラフタリアちゃんの避難誘導の際に連れて行ってもらうという考えも浮かんだが...

 

 後は奴隷商の所か、親父さんの所か...親父さんは霊亀の眷属を追い払える程度の実力は持ってるし、かなり有力かもしれない。魔物商も情報の秘匿という点では信頼できるはずだ。

 一応、昨日のうちに海でさっさと一レベル上げて転送剣を使えるようにしてから、魔物商のテントの近くにポイントは立てている。

 

 秘匿して移動する分には魔物商の元が確実ではある。魔物商さえ情報を漏らさなければまず間違いなく居場所はバレない。

 ついでに、もしもルロロナ村の奴隷の子が入荷していたらその子に面倒見るよう頼むこともできるかもしれないし...

 

「コウヤちゃん」

 

「サディナさん、どうかしたんですか?」

 

「もうすぐ波だけど、みんなの事はお姉さんに任せて安心して戦って良いのよ?」

 

「それは...」

 

「その為にお姉さんリハビリ頑張ったんだから!車椅子でなら移動もできるし、少しなら銛でも戦えるわ...魔法は健在だしね。これなら充分皆を守れると思うわー」

 

「それであんなに...」

 

 確かに、サディナさんにしては随分と懸命にリハビリを頑張っていると思ったけど、そんなことを考えてくれていたのか...

 

「わかりました。皆の事お願いします」

 

 サディナさんもこう言ってくれてるし、いざという時逃げることを考えれば魔物商の所が妥当かな。

 

「それじゃあ、俺の剣のスキルで皆を魔物商の所に転送するので、そこで波が収まるまで待っててください。もしもの時は敵の撃退と、魔物商に移動を手伝ってもらえるよう頼みます」

 

「転送...?一瞬で城下町へ行っちゃうって事かしら?本当、勇者様の武器はすごいのねー...お姉さん頑張る必要無かったかしら?」

 

「そ、そんな事ないですよ!!気持ちはすごくうれしかったですし、サディナさんが制限付きとはいえ動けるなら後顧の憂いを断って波に挑めます!!」

 

「そうかしらー?」

 

「もちろん!...まぁ、あんまり過ごして気持ちのいい場所でも無いですし、もう少し波の刻限が近づいたらにしますね」

 

「分かったわ...コウヤちゃん。情けないけど、私はこんな状態だから波には向かえないわ。どうか、ナオフミちゃんと一緒にラフタリアちゃんをお願いね」

 

「もちろんです。絶対にラフタリアちゃんの事は守ってみせます」

 

「えぇ。私もこれで安心できるわー」

 

「なら、良かったです」

 

 ...そうして、波への刻限が近づいたタイミングで魔物商の元に転移して、事情を説明し皆を匿ってもらった。

 ついでに、本当に一人だけ村の子が入って来ていたようで仮面奴隷の契約だけして皆の面倒を見るように頼んでおいた。

 ルスタイ種という牛の亜人の子のようで、名前をニーナちゃんと言うそうだ。

 他の奴隷商の所の、奴隷を痛めつける為だけに格安でレンタルし、期間が経てば返却する...なんていう最低最悪のサービスに利用されていた所を魔物商が口八丁でかっさらって来たらしい。

 かなり気弱な子のようで人間の男である俺の事を大層怖がっていたが、キール君やサディナさんの説得にうなづいて俺の言う事を聞いてくれた。

 事あるごとに体をビクつかせながらだが、なんとか俺の治療を受け入れてくれる...ほんと、子供相手に、しかもこんなにも気弱な子に酷い事をする奴らだ。これほどのむち打ちキズに打撲痕、青痣....

 本当に虫唾が走る。

 俺はそんな傷跡がせめて少しも残らないように丁寧に治療した。

 

「それじゃあ皆、俺は今から波を沈めに行くから留守番を頼んだよ。場所が場所だからなるべく静かにするように。そしてサディナさんの言う事をしっかり聞いておくように!」

 

 皆が頷いてくれる。

 

「兄ちゃん...俺、波で戦えなくて悔しいけど、絶対勝ってくれよ!!次こそは俺も頑張るから!!」

 

「あぁ。キール君の分も頑張ってくるから」

 

 俺はキール君の頭を撫でて少し離れる。

 

「それじゃあ魔物商さんも、よろしくお願いします。突然無茶言ってすみません」

 

「いえいえ、ちょうど檻に空きが出来ておりましたのでこれくらい造作もございません。お役に立ててなによりでございます。勇者様のご健闘をここでお祈り申し上げておきますです、ハイ」

 

「もちろんですよ」

 

「フフフ...心強い限りですな」

 

 それから、皆の応援を背に受けて俺は全員とパーティを解除した。

 

 00:01

 

 魔物商のテントを出て、適当な建物の屋根に立つ。

 

 後一分で転送だ。

 この世界で初めての波が始まる...

 

 俺は魂癒水と魔力水をホルダーに差し込み、防具がきちんと装備されているか等を確認し頬を叩いた。

 

「よし...」

 

 そして遂に、その時がやって来た。

 

 00:00

 

 俺の視界が急速に伸びていく...

 

 ──────────────────────────

 

 バキリと大きな音が世界に鳴り響いた。

 非常に不快で、この世界が割れたのだとしか表現できない音だった。

 

 数瞬後、視界が安定する。無事、転送されたようだ。

 

 横を見れば尚文とラフタリアちゃんが居る。

 更に横を見ると元康と樹、その仲間達が照明弾を上げた後ぞろぞろと波の大本へと駆け出していた。

 

 空は赤黒く染め上げられ、波の亀裂からは凄まじい量の魔物があふれ出していた。

 

「ここは...リユート村周辺です!このままでは...」

 

 ラフタリアちゃんが叫ぶ。

 

「リユート村!?避難誘導は...進んでいる訳ないか。鋼也!まずは波の前に村人の避難誘導をしたい。その間皆を魔物から守るぞ!!」

 

「了解!!」

 

「お前らも...!!...チッ!!もういい!俺達三人だけでやるぞ!!」

 

 尚文の号令に従って、俺達は村方面へと全力で駆け出した。

 

 ........

 

「ツヴァイト・チェインネストライトニング!!!」

 

 俺は村の広場に飛び込んで、魔法を発動する。

 地面に剣を叩きつけると、蜘蛛の巣状に地面を雷が走り、範囲内に存在する魔物全てに地面から雷が襲い掛かった。

 念の為に空中で影響範囲内に人が居ない事は確認済みだ。大量の魔物が燃えカスと化した。

 

「ラフタリアちゃんと尚文は避難誘導と逃げ遅れた村人の救助を!俺はとにかく魔物を狩り続ける!!」

 

 ヘイトはひとまとめにした方がやりやすいはずだ。

 

「分かった!!...エアストシールドⅤ!!!シールドプリズンⅣ!!...お前ら!!前線は俺達が引き受ける!!逃げ遅れを助けるから手伝え!!」

 

「はぁっ...!!皆さん!!こちらです!!こちらに集まってください!!」

 

 尚文がスキルやけん制で魔物のヘイトを集め、その隙に男達が逃げ遅れたりはぐれそうになっている人達をかき集める。

 ラフタリアちゃんはそれを補助しつつ、確実に避難経路の安全を維持し続けていた。

 あちらはあの二人で充分だろう...となると俺の役割は二人の負担を少しでも減らすために魔物を殺し尽くす事だな。

 

「さて...」

 

 俺は剣を構えて、魔物の群れに突撃する...

 

「水斬波Ⅴ!!ハンドレットソードⅢ!!エアストスラッシュⅣ!!!」

 

 俺は兎に角広域に攻撃できるスキルを発動する...念のため、確実に人の居ない平地しか狙っていないので若干効率は悪いが、仕方ないだろう...

 

 まずい!尚文達とは反対方向に逃げ遅れている人が!!

 俺は急行して襲い掛かる魔物を切り裂く。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ひっ...!は、はい!!」

 

「あっちに盾の勇者とその仲間が居ます!!避難先はあちらなので急いで!!」

 

「ツヴァイト・チェインサンダーボルトⅢ!!」

 

 俺は村人の為に魔法で道を開く。

 

「早く行って!!...」

 

 魔物達は、たった一人で暴れまわり虐殺を繰り返す俺に完全にヘイトを向けている...それでいい。正直村人やらなんやら分散して狙われる方がよっぽど辛い。

 

「くそ...にしても数が多すぎるな」

 

 今の所魔法が一番討伐数を稼いでいる。スキルは火力が高いがイマイチ広域殲滅に適している物が少ないのが難点だ...それでも魔法詠唱の隙間を埋めてくれているから助かるのは助かるが...

 

 後、あまり建物を壊せないのも地味に負担になっている。

 もし逃げ遅れて隠れている人が居るかもと思うと不用意に破壊出来ないし、そうなると攻撃出来る方向が限定されてくる...

 

「風烈剣!連爪剣!ハンドレットソードⅢ!!エアストスラッシュⅣ!!」

 

 いよいよ効果の確認以外で使った事もない範囲攻撃スキルも駆使して少しでも数を減らしていく。

 

「ツヴァイト・チェインネストライトニング!!」

 

 再び、魔物の溜まっている場所に飛び込んで全方向への雷を放つ。

 

「ふぅ...」

 

 第一波はこんな所か。これで少しは落ち着けるかな...

 俺は全力で駆けながら残党を斬り殺していく。

 

 俺は魂癒水と魔力水を飲み干す。

 

「...鋼也!そっちは順調のようだな!」

 

「尚文!そっちは?」

 

「一応大方の避難は終えて、今は最後の逃げ遅れの確認だ...ラフタリアは避難してる奴等の殿を務めている。終わったら合流する予定だ」

 

「了解!...にしてもキリが無いな」

 

「波のボスとやらをさっさと殺しに行った方が良いのか?」

 

「行くなら俺だな。尚文達には村の物的被害もなるべく抑えるためにこの周辺の防衛をしてもらいたい」

 

「まぁ、鋼也とバカ二人がいればボスは充分か...にしても、数は多いが大したことない魔物共だな」

 

「ふっ...!そりゃあRPGの最初のダンジョンのボスに中盤以降の装備で挑むみたいなもんだろうしな」

 

 そんな事を話しながら俺達は村の敷地から出た。

 村の中の魔物は倒し切ったので、前線を村の外に押し上げたのだ。

 その間、多少時間がかかったので足が遅い魔物と第二波の魔物と接敵した。

 

「...ヘイトリアクション!!」

 

 尚文がスキルを発動する。

 ...瞬間、誘蛾灯のように魔物達が尚文に突撃していった。

 

「うげ!」

 

 思わず引いてしまう。気持ち悪い...

 

「おい!さっさと攻撃しろ!」

 

「わ、悪い...」

 

 俺は詠唱を唱えて剣を振り下ろす。

 

「ツヴァイト・チェインネストライトニング!!!」

 

 今回一番活躍してる魔法に委ねる。

 尚文を囲んでいた大量の魔物は一気に死に絶えた。

 

「...ふぅ、流石にあの量の魔物に囲まれると無事と分かっててもクルものがあるな」

 

「そりゃああんだけ囲まれたらな...」

 

 雑談をしながらも、確実に魔物を減らしていく。

 しばらく狩っていると火の雨が降って来た。

 

「...あ?」

 

「おっと!」

 

 俺は剣で火の雨を切り落とす...尚文は素でノーダメージだな。多分俺も大丈夫だけど、まぁあえて攻撃を受ける必要も無いし。

 

「ふん。盾の勇者に剣の勇者か...頑丈な奴らだ」

 

 振り返れば、騎士団が到着したようだった。原作通り尚文ごと魔物を倒そうと...いや、あんまり周りに魔物居なかったし俺達を明確に狙って攻撃してきたな。

 

「おい...!どういうつもりだ!!」

 

 尚文がギロリと騎士団を睨みつける。

 

「なに!弓と槍の勇者様とは違い、波の元へと向かう事も出来ぬ勇者殿の為に助太刀したまでよ」

 

「周りに魔物なんてほとんど居なかったろ...波の最中、俺達を狙って攻撃するとは随分余裕じゃないか!」

 

「はっ言いがかりはよしたまえ」

 

「ナオフミ様!!」

 

 突然の声に目線を向けると、ラフタリアちゃんが駆け寄って来ていた。

 

「一体何があったのですか!?」

 

「あいつらが俺達をどさくさに紛れて攻撃してきただけだ」

 

「なっ...よくもナオフミ様に!!」

 

「落ち着けラフタリア。ちょうどいい事を思いついた」

 

 尚文がニヤリと悪そうな笑みを浮かべる...うわぁ、これは碌な事考えてないな。

 

「鋼也!ここはもう俺達で充分だ。お前はさっさと波のボスとやらを倒してこい!」

 

「....分かった。あんまり酷い事するなよ?」

 

「それはこいつら次第だな」

 

「はぁ...行ってくる」

 

 少し駆け出した所で尚文の声が聞こえる。

 

「大して魔物も居ない場所に魔法を放てるほど余裕があるのなら、俺が前線を維持しなくても充分だよなぁ!お前らのありがたい助太刀に感謝して向こうに行ってやるよ...!!」

 

「ヘイトリアクション!!」

 

 俺を襲おうとしていた魔物まで、尚文の方へ殺到する。

 うわぁ、やっぱりえげつない事するつもりだあいつ...まぁ良いか。人死にを出すつもりはないだろうし、それで尚文が少しでもすっきりするなら良いし、騎士団達にもいい薬だろう。

 どうせ最後は自分達で処理するつもりなのは、今日までの付き合いで分かるしな。

 

 俺は意識を前に向けて全力で疾走した。

 

 ────────────────────────────────

 

「乱れ突き!!」

 

「エアストアロー!!」

 

 波のボスであるキメラの元へとたどり着くと、元康と樹がスキルで攻撃していた。

 ...あんまりこういう事を言いたくは無いんだけど、火力がしょっぱすぎるな。

 多分今の俺が普通に斬りつけてももうちょっとダメージ出るぞあれ。

 

「鋼也!今まで何をしてたんだ!!」

 

「てっきり逃げたのかと思いましたよ!」

 

「いや、村の避難誘導とかを...」

 

「お前は勇者なんだぞ!?そんな事は騎士団にでも任せれば良いんだ!」

 

「そうです!どの道波を沈めなければ無限に魔物が湧き出るのですから、ボスを倒す事が勇者の使命ではないですか!」

 

「何をそんなにイラついてるんだよ...別に今から戦うってば」

 

 あれか?ダメージリソースが少なすぎて少しでも火力が欲しかったとかか?

 そういえば周りにこいつらの仲間が...あぁ、波から湧き出る魔物の方を対処してるのか。めちゃくちゃ討ち漏らしてるけど...

 

 あっ、フィートさん...一瞬目が合って露骨に逸らされた。

 そりゃそうだわな。普通に気まずいよな。俺も気まずい。

 

 どうしよう。ここで実力を見せて二人に強化方法の宣伝をしておくか...?

 でも、尚文が話を聞いてもらえなかったあたり、俺が事実を見せても強固に反発するだけかな...

 

 いや、この前の経験からもはや何があるか分からないこの世界だ。少しでも可能性があるのならやるべきだろ。

 

 俺は剣を上段に構えてキメラに飛びかかる。

 

「....っっふん!!!」

 

 俺はキメラの真上から落下し、ライオンの首を切り落とす。

 

「んなっっ!!」

 

「そんなバカな!!」

 

 二人の驚愕の声が聞こえる。

 デモンストレーションとしちゃこれ以上無いだろう。後はこいつをさっさと倒して俺に詰め寄る二人に懇切丁寧に強化方法を伝えるだけだ。

 

 俺はキメラの胸を横一文字に切り裂く。溶けかけのバターのように容易く刃が通っていく。

 ...森の奥のドラゴンの方がよっぽど強いな。

 

「ま、負けてられるか...!!ライトニングスピアー!!!」

 

「ウ...ウィンドアロー!!」

 

 二人がスキルを発動するが、キメラに浅い傷を作って終わる。

 

「なんでこんなに攻撃力に差が...!?」

 

「あ、あり得ません...!」

 

「水斬波Ⅴ!!」

 

 俺は再び飛び上がって、スキルでキメラの残り二つの首と尻尾を切り落とす。

 そして空中で姿勢を整えて...

 

「エアストスラッシュⅣ!」

 

 波の亀裂に向かって斬撃を放ち、波を終了させた。

 ワインレッドの空は、鮮やかなオレンジの空へと様変わりしていった。

 

「よし...と」

 

 着地して周囲を見る...全員の顔が驚愕に彩られていた。

 

 う...冷静に考えると痛い転生者みたいな行動じゃないか?これ...恥ずかしくなって来た。

 いや、これは二人を勇者にする為に必要だったんだ。そう思うとしよう...

 

「鋼也...!今の時点でそんな力を手に入れられるはずがない!!どんなバグ技を使ったんだ!?」

 

「そうです!さては...あなたチーターですか!?」

 

 二人が詰め寄って来た。

 

「違うって...!これはれっきとした聖武器の強化方法による力だから!今から二人にも教えるから!」

 

「嘘言うなよ、ちょっとやそっと強化したからってそうはならないだろ!」

 

「そうです!それほどの能力、ゲームの終盤にも匹敵していますよ!明らかに不正じゃないですか!!」

 

「違うってば...!あのさ、武器にはそれぞれの強化法があるだろ?元康の槍だったら失敗ありの鉱石での精錬、スピリットエンチャント、ステータスエンチャントの三つ」

 

「それは...そうだな」

 

「なんですかそのふざけた強化方法は」

 

「樹の弓だと失敗無しの鉱石での強化、アイテムエンチャント、ジョブLvだろ?」

 

「それですよ!なんですかスピリットだのステータスだの...」

 

「そっちこそなんだよジョブレベルって!しかも失敗無しの強化ってふざけてるのか?」

 

「待て待て...!そんで俺の強化は熟練度とエネルギー付与とレアリティアップなんだ」

 

「は...?さっきから何を言ってるんだ?」

 

「そうですよ!妄言ばかりじゃないですか...」

 

「違う!俺達の武器の強化方法はそれぞれ違うって話だ。納得できるだろ?」

 

 二人はしばらく黙り込んだ後、頷いた。

 

「まぁ...元康さんの反応と、僕の強化方法が正解だったので一理はあるかもしれません」

 

「まぁ...そうだな」

 

「でだ。盾の強化方法には、エネルギーブーストと信頼、そしてこれが一番大事なんだが、強化方法の共有という物がある」

 

「強化方法の共有...?」

 

「あぁ!実は俺達の武器はそれぞれの強化方法を共有する事が出来るんだ。だから俺はお前らの強化方法を知っていたし、それら全てを実践してるから強くなれた訳」

 

「....理屈は分かったけどさ、そんなもんでないぞ?」

 

「えぇ。ヘルプにも載っていません」

 

「そりゃあその強化方法があると信用しないと出てこないからな...ほら、全部詳細に書いた紙を渡すから、それを見ながら信じ込んでみてくれ!」

 

 俺は二人に紙を手渡す。

 

「と、とんでもない量だな...まぁ、これを全部出来るとすれば鋼也の強さにも納得出来るのか...?」

 

「そうですね...」

 

 お?これはかなり好感触なんじゃないか!!?

 それからしばらく時間が経った。

 

「いやぁ...一応真剣に信じ込んでみたんだけどさ、こんなもん出なかったぞ?」

 

「え...?」

 

「同じくです...そういえば、嘘つきは一部の真実を混ぜる事で嘘に説得力を持たせると言います。大方チートの存在を隠したくて適当な事を言ったのでしょうね。こんな紙まで用意している辺り、随分と用意周到なように感じますが..僕らをはぐらかそうとしているのは手に取るように分かりますよ」

 

「本当の事を教えろよ...!」

 

「だからそれ以上の事は無いって!本当にそれで強くなれるんだってば!!尚文も同じように強くなってるんだぞ!!同じ四聖勇者のお前らも絶対に強くなれるんだ!!」

 

「騙されませんよ!...最低です鋼也さん。やはりあなたは噂通りの酷い人のようですね」

 

「あぁ。折角少しは見直してやろうかと思ったのに残念だ」

 

「待てって!俺は本当にお前らの為を思って言ってるんだってば!!」

 

 そう言うと二人は俺に踵を向けてキメラの方へと歩き出してしまった。

 

「あぁ...はぁ」

 

 まぁ、そりゃそうか。こんな事で上手くいくなら原作であぁはならないよな。

 一応それなりに好感触だったからワンチャンいけるかなと思ったんだけどなぁ...

 

「...チートを使ったとはいえ倒したのは鋼也さんです。道理を示す為にも素材の分配は必要ですね...僕は羊の頭さえ手に入ればいいので後はお好きにどうぞ」

 

「じゃあ俺はライオンの頭だな」

 

「...分かった。じゃあ俺はドラゴンの頭を貰って、尚文に尻尾を渡すよ」

 

「...好きにしてくださいと言いました」

 

「あぁ。尻尾はハズレだし、ドラゴンは微妙だからな、残りは勝手にすりゃいいぜ」

 

 二人は不機嫌そうに各々の武器に素材を入れると、仲間を引き連れていってしまった。

 

「はぁ...」

 

 波は迅速に解決できたから良かったけど、やっぱりなんでもかんでも上手くはいかないよなぁ。

 俺は尚文にお土産を渡すべくキメラの死体を持って駆け出した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。