剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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予定調和

 城の庭に松明が焚かれ、戦闘用のフィールドが形作られる。

 広々とした庭には、しかし戦うには少々手狭に感じる程に人が立っていた。

 

 樹の仲間がフィートさん含め5人、元康の仲間がビッチ含め4人。

 計11名。

 

 対する俺達は尚文、ラフタリアちゃん、俺の3名だ。

 

 一見俺達が不利に見えるのだろうが、正直勝負にはならないと思う。強化方法の量が違いすぎる上に、レベルすら同等か俺達が少し上だ。

 問題はどうやって元康と樹を説得するかだけど...

 

「あぁいうバカ共は徹底的に鼻をへし折ってやれば少しは落ち着く。後はあいつらが強化方法を解放するまで徹底的に追い詰めるだけだ...問題は、この国の奴らがどんな妨害を仕掛けて来るかだな」

 

「弱体魔法だのは基本かな」

 

「最低限、決闘と銘打ってるんだから露骨な支援はしないだろうが...」

 

「後は暗器の類か?黒塗りした小さな刃物や針なら観客席からは見えないし、あいつらの魔法攻撃に紛れさせればより発見が困難になる」

 

「じゃ、初手は決まったな...どうせ魔法やらスキルぶっぱしてくるだろうから、第一波は俺に任せろ」

 

 尚文が自信ありげに言う。

 

「頼む」

 

「あぁ...さて、恨みつらみなら腐るほどある。折角発散するならめいっぱいすっきりしたいし、煽ってやって来るかな」

 

「ナオフミ様...」

 

「ラフタリア、悪いが今日ばかりは勇者らしいだのなんだの期待するなよ」

 

「分かりましたけど...それでは余計に悪評が広まるのではないですか?」

 

「知るか。もう手遅れだろ...だったら盛大にやってやる」

 

「はぁ...もう好きにしてください」

 

 ラフタリアちゃんがため息をつく。

 それを横目に尚文は少し前に踏み出した。

 

「おいお前ら!初撃は全部受けてやるから全力で打ち込んで来いよ...あ、なんならスキル無しで相手してやろうか?」

 

「何だと!?」

 

「ふざけるのも大概にしてください!!鋼也さんのチートを自分も手に入れたからって調子に乗らない事です!!」

 

「乗ってないさ。ただの事実として言ってやってるんだよ...なんなら今一撃入れてみるか?ほら元康、盾は構えないでやるから突いてみろよ」

 

「っ...ふざけやがって!...後悔するなよ!」

 

「いいからやってみろって、ほら...がら空きだぞ?それとも、怖気づいたのか?ハッ!勇者様が聞いて呆れるな」

 

「このっっ...!!」

 

 元康が尚文の腹に向かって突きを入れる。

 ガキンと音が鳴って、尚文は微動だにしない。

 むしろ、突いた元康が反動で痛がっているくらいだ。

 

「かっっっ...!!は!!?」

 

「そんなバカな!いくら盾と言ってもそこまでの防御力は...!」

 

「これで分かったかよ...今から行うのは決闘じゃない。お前らが泣きを入れるまで止まない蹂躙劇だ!!」

 

「....っっ!」

 

「....負けません。チートなんか使うあなたがたなんかに僕たちが負けるわけがありません!きっと何かデメリットや穴があるはずです!じゃないとこんなのあり得ません!!倒す隙があるはずです!!」

 

「あ...あぁ!そうだ!...きっとそうだ!俺達が負けるはずがない!!」

 

「だから、聖武器の正式な強化方法だって何回も言ってるだろうが!!お前らが勝手に強化方法を制限して縛りをかけてるだけなんだよ!!」

 

「まだそんな苦しい言い訳をするんですか!」

 

「...あっそ!じゃあ満足するまで穴でも隙でもデメリットでも好きに探してろ...無い物は無いと心底理解するまでな...!!」

 

 一度元康達に背を向け、思い出したかのように振り返った。

 

「あ...バカ勇者共は簡単には終わらせないが、お前らは速攻ぶっ倒してやるから死にたくなかったら今すぐ降参するんだな...鋼也の攻撃力は見たんだろ?お前らみたいな一般人があれを受けて生きていられるかな?」

 

「...っっ!盾如きがほざきおって!!」

 

 燻製が尚文へと叫ぶ。

 

「金魚のフンが偉そうに...お前の言う盾如きに一撃でも入れられると良いなぁ...あ、無理か。どうせ樹の腰巾着するくらいだし大したこと無さそうだもんなぁ!」

 

「な、ぐ...貴様ぁ!!!」

 

 燻製が顔を真っ赤にして尚文に襲い掛かった。

 

「ふん!」

 

 尚文が盾でぞんざいに斧を受け止めて、そのまま相手を膂力に任せて吹き飛ばす。

 

「ぐおっ...!!ぐが!!ぬぐっ...!!!」

 

 盾の補正でダメージはほとんど入らないだろうが、凄まじい距離吹き飛ばされてテラスの壁にぶつかった。

 

「ぐはっ...!」

 

「御大層な鎧の割に小石かと思うくらい軽いな。お前、ボールの才能あるぞ?ククッ!頭もスカスカそうだしなぁ!」

 

「ぬぐぅぅぅ!!殺す!!殺すぞ盾ぇぇぇ!!!」

 

「精々期待させてもらうぞボール君。鋼也ですらスキル無しじゃ傷つけられない俺を殺せるってなら、是非ともやってもらいたいもんだ」

 

「ぐぬぬぬ....」

 

「落ち着いてくださいマルドさん!...尚文も!ペラペラと余計な事を言わないで下さい!!神聖な決闘にケチをつけるつもりですか!?」

 

「こんなもんトラッシュトークの一環だろ...ま、どの道勝てやしないんだ。言い訳には丁度良いだろ?煽られて本来の力が出せませんでしたーってな!」

 

「さっきから一体なんのつもりなんですか!!」

 

「決まってんだろ、こっちはこの世界に召喚されてからずっっっっとお前らや国のバカ共のせいで苦しんで来たんだ!絶好の復讐の機会を精一杯楽しんでやろうと思ってな!」

 

「...それはあなたが犯罪を犯したからでは無いですか!!」

 

「してねぇつってんだろ!!...まぁいい。どうせ話なんかお互い通じないんだ。だから今から決闘するんだろ...違うか?」

 

「...そうですね。だったらさっさと向こうに行ってください。もう充分でしょう」

 

「そうだな」

 

 尚文がバサリとマントを翻して俺達の元に帰って来た。

 

「ふぅ...これで少しはすっきりしたな。後は勇者様らしく、丁寧に説得してやるとするか」

 

「そう言う割に顔が凶悪なままですよ...」

 

「あ?あぁ、これからの事を思うとつい...な」

 

「お前えげつないな。マルドとか言う奴すごい形相になってるぞ」

 

 燻製だし仕方ないけど、愛の狩人がスキルを使わなくても燻製になりそうなくらい顔が真っ赤っかだな。あ、ちょっと湯気出てる...

 

「許可もしてないのに決闘前に襲い掛かって来るバカが悪い」

 

「そりゃそうだけど...」

 

「ふん。初手は俺が流星盾を展開するから、破られたらバカ勇者共の取り巻きから崩すぞ。お前らの力なら適当に蹴りでも入れれば降参するだろ」

 

「まぁ、バカ正直に剣で攻撃したら死ぬかもだけど...」

 

「それかあれだな、武器を全部ぶっ壊してやれ。さっさと退場してもらわないとバカ共の教育が始められん」

 

「...分かりました。それでは武器の破壊か没収を優先しますね」

 

「じゃあ、俺も」

 

「あぁ...そんじゃ、そろそろ始めるかな」

 

 俺達が戦闘準備は終わったとばかりに相手の方を向き直ると、樹と元康、その仲間達も同じように俺達の方を睨んでくる。

 

「で、では...これより勇者四人とその仲間による決闘を開始する!トドメの寸前になるか気絶、もしくは降参した者は速やかに会場から離れるように...!最終的にこの会場に立っていたものが勝者とする!それでは...勝負、開始!!」

 

 立会人の掛け声と同時に元康達が大きく膨らみながら俺達の方へと走って来る...おそらく、魔法攻撃が届くと同時に責め立てる為の遠回りだろう。

 

 後ろでは後衛の奴らが魔法を詠唱していた...あ、フィートさんは弓を使うようだ。一応レンジャーだし弓もお手の物なのか?樹のパーティで弓って使い道無さそうだけど...

 

「流星盾Ⅳ!!」

 

 尚文がスキルを発動すると、俺達の周囲に青白い光の壁が生成された。

 

 ガキンガキンと弓矢が弾かれる。

 

「...っっ!!ウィンドアロー!!エアストアロー...!!セカンドアロー...!!」

 

 樹のスキルをも物ともせず、全てを弾く。

 

「ツヴァイト・ウィンドブロー!!」「ツヴァイト・ファイアボール!!」「ツヴァイト・アクアショット!!」「ファスト・ロックブラスト!!」「ツヴァイト・ファイアレイン!!」「ファスト・エアブラスト!!」

 

 明らかに後衛の数よりも多い魔法が飛んでくる...あれで紛れ込ませているつもりなのだろうか?いや、一応紛れてはいるのか...誰がどれを打ったかは分かりづらいし。

 

 魔法が着弾し、土煙が発生するも...やはり盾は健在だった。

 

「このっ!!!」「ふん...!!」「死ねぇぇ!!」

 

「...ライトニングスピアー!!...乱れ突き!!鎧通し!!」

 

 ガンガンと元康を含めた前衛達が流星盾を斬り、突き、殴り掛かるが...全て同じように弾かれた。

 

「くそっ...!なんでこの時期に流星シリーズを...!!どこで手に入れた!!」

 

「そりゃお前...言う訳ないだろ?」

 

 ニヤリと尚文が嫌らしい笑みを浮かべる...

 

「クソがっ!!イナズマスピアー!!」

 

 元康が大きな溜めを作って雷の槍を放ったが、無情にも弾かれる。

 

「嘘だろっ...!!」

 

 他にもガキンガキンと毒の塗って居そうな暗器が投げつけられるが、当然弾かれる。

 

 そんな意味の無い攻撃が...流星盾が崩れるまでの数分間続いた。

 

 ──────────────────────

 

「や、やりました...!」

 

「はっ...はっ...よ、ようやく破れたか...っ!!」

 

 元康と樹が、疲れた様子を見せながら喜色をあらわにする。

 

「とうの昔にクールタイムは終わってるけどな...流星盾Ⅳ!」

 

 再びシールドが張られる。

 

「う...そだろ...!」

 

 元康の顔が蒼くなる。

 

「あのさぁ...いくら弱いからってこれは無いだろ。あんだけバカスカ全員でスキルだの魔法だの撃ってここまで壊せないもんか普通?」

 

「...おのれっ!!」

 

 相手全員が疲労困憊で斬りつけるが、もちろん難なく受け止める...というか、最初にあれだけやって壊せなかった時点でもう終わりだ。消耗が激しい以上絶対にクールタイムが終わるまでに破る事は無い。

 

「もういい。鋼也、ラフタリア!仕事の時間だ...!一応暗器には気を付けろよ!」

 

「はいっ!」

 

「了解!」

 

 俺達は盾の保護域から出て敵に襲い掛かる。

 剣を、槍を、斧を、杖を...切り裂き、打ち砕き、蹴り飛ばし...相手の攻撃手段を消失させる。

 

「動きが見えないっ...!!」

 

「ぬぐぉ...!!」

 

「バカなっ!!」

 

「あぐっ...!!」

 

「きゃあっ!!降参します!!」

 

「降参」

 

「おのれっ...亜人と剣の勇者如きがっ...!!」

 

 最後にビッチが悔しそうな顔をする。

 

「みんなっ!くそ...どけ!!尚文!!」

 

「バカなのか?邪魔させない為にお前を拘束してんだよこっちは」

 

「くそぉっ...!お前らなんかにどうして...!!」

 

「だから...いい加減に認めろよバカ共!!!お前らも強くなれるって言ってんだろ!!こんなにボロカスにされてもまだ認めないつもりか!?俺達はお前らにも強くなって貰わなくちゃ困るんだよ...さっさと負けを認めて大人しく強化方法を信じやがれ!!」

 

「ふざけるな!お前らの不正チートなんかに魂を売ってたまるか!!」

 

「っ...だったら良いぜ...フック!!」

 

 尚文の盾から出て来た蛇が元康の腕に噛みつく。

 

「ぐあっ...!毒!!?」

 

「あぁ。強化方法を解放しないってならこのまま嬲り殺してやるよ...!安心しろ、鋼也は治癒の魔法が使える...しばらくは生き永らえられるだろうさ。思い出せないなら俺が全部教えてやるからさっさと強化方法を解放しろ...!!!」

 

「ふざけ...」

 

 元康が槍から解毒薬を出そうとして、尚文に殴り飛ばされる。

 

「飲ませる訳ねぇだろ...今すぐ強化を解放しろ...!!まずは四聖からだ!!バカ同士相性良さそうだし弓からいくか!!?」

 

「ぐっ...一体、何がしたいんだお前らは...!!」

 

「頭湧いてんのか!!?強化方法の共有だっつってんだろ!!!」

 

「くそ...くそぉ...!!」

 

「出来るまで逃がさないからな...!!」

 

 ..........

 

 一方、俺は樹の相手をしていた。

 

「くっ...!!」

 

 樹が全力でバックステップを踏みながら俺に弓を放つ...俺はそれを切り払って、たまに飛んでくる暗器はいけそうと思って、事実刺さらない事が分かったので無視して樹に襲い掛かる。

 

「よっ...!」

 

「ぐぅぅ...!!うわぁ!!」

 

 軽く斬りかかってやると、弓でそれを受け止めようとして...そのまま吹き飛んだ。

 倒れ伏す樹に向かって剣を向ける。

 

「樹...そろそろ分かってくれたか?これだけ力に差があるのはチートなんかじゃ無い。純粋に強化方法が足りてないんだよ...前に渡したろ?あんなものを本当にごまかしの為だけに書いたと思うのか?」

 

「...チートを誤魔化す為ならするかもしれないじゃないですか」

 

 樹がジロリと睨んでくる。

 

「樹はさっきチートには穴や弱点があるって言ったよな。その程度のものをお前らに教えない為に、わざわざ誤魔化しの材料にあんな回りくどい設定を作ったって言いたいのか?」

 

「それは...弱点さえ突かれなければチートだから...」

 

「強情だな...じゃあ目に見える強化をしてあげるから良く見てろよ。ほら、パーティ申請を受け取って」

 

「誰が...!」

 

「受けないならこのまま倒すぞ?」

 

「くっ...分かりましたよ...」

 

「ほら」

 

 樹がパーティ編成を受け取ったタイミングで、俺は自分に資質向上をかける。分かりやすいようにHPの実数値を伸ばしてやる。

 

「なっ...」

 

「これが資質向上だ。レベルを下げる代わりにレベルアップ時の成長率を高めたり、実数値を据え置きで伸ばしたり出来る...ちゃんと見えただろ?」

 

「...確かに、レベルが下がってHPが増えたのは見えましたが...」

 

「なら!」

 

「やはりあなた方の使うチートにはデメリットが存在するようですね!...他の強化方法とやらも大事な物を削ってしまうのではないですか?例えば...寿命とか!」

 

 樹がパーティから抜けてゆっくりと立ち上がる。

 

「そんな訳無いだろ!...それはデメリットじゃなくて強化のコストだ!お前だって強化に鉱石やアイテムを使うじゃないか!」

 

「それは...」

 

「じゃあもうチートでもなんでも良いからさ、一回だけ信じてみてくれよ。それで使えるようになって良くない物だと分かったならすっぱりやめれば良いじゃないか」

 

「犯罪者はそうやって一度だけだと言って人々を闇へと引きずり込むのです!騙されませんよ...!」

 

「あー...はぁ。そう来るかー...」

 

 面倒臭い事この上ない...

 もはや何を言ってもダメなんじゃないかとすら思えて来る...俺達は完全に敵で、悪への道にいざなおうとしてくる悪魔だとでも信じ切ってしまっているのだろうか。これだけ説明してもまだここまで否定されるとなるともうどうすればいいのやら...

 

 にしてもちょっと変だな。勇者二人がここまでやられてるんだし、そろそろクズ達が乱戦をけしかけてきてもおかしく無いんだけど....まぁいい。邪魔しないならこのまま説得を続けるだけだ。

 

「悪いけど、何を言おうと少なくとも...四聖の強化だけでも覚えてもらうからな!!せめて元康の強化だけでも信じられないか?あの時元康は俺の言った強化方法に同意してただろ?何か副作用があるように見えるか?そんで、自分自身の強化方法に副作用があるか?」

 

「それは...例えそれぞれの強化法が正しくても規格が違う強化を行う事で負担かバグが起こる可能性が...」

 

「あのさぁ、さっきから全部否定してくるけど!強化方法への否定に一貫性が無いんだよ!!あれ全部誤魔化しならそもそも強化方法は共有できない事になるはずなのに、やれデメリットがあるだの寿命を使うからだの、規格が違うから負担やバグが起こるだの...!」

 

「それらの中のどれかが真実の可能性があるという話です!」

 

「だったら俺の話が真実の可能性も考えてくれよ!!」

 

「今日やって出来なかったから言ってるんじゃないですか!」

 

「それはお前が心の底から信じてくれないからだよ!...さっき見ただろ?俺のステータスの最大値は3割減少してる...これはこの前遭遇した敵にやられた呪いなんだ。たった一人で樹とその仲間を簡単に倒せる俺が、仲間と尚文とラフタリアちゃんの全員でかかって、ギリギリ勝てた相手だった...俺はステータスが低下して、体力の最大値も低下した。尚文は体力の最大値が3割程にまで低下した。俺の他の仲間は体が動かなくなった...そんな奴がこれから、樹達を襲うかもしれないんだよ...だから、少なくとも抵抗できるくらいの力は付けて欲しいんだよ!!」

 

 俺は樹に頭を下げた。

 

「頼む...もう一度、いや何度でも...成功するまで強化方法を出来ると思い込んで欲しい...お前たちに死なれる訳にはいかないんだ...!!」

 

「そ...そんな敵が存在する訳が...それに、僕たちは死にませんよ。勇者の加護があるから全滅したって治療院で目が覚めるだけで...!」

 

「そんな訳ないだろ!!この世界はゲームの中じゃない!!異世界で、現実だ!!死んだら本当に死ぬ!!そんな加護なんか存在しない!!」

 

「...何を言って」

 

「いい加減目を覚ませ!!いつか本当に死ぬぞ!!」

 

 俺は樹を思いっきりビンタした。

 

 樹は少し吹き飛んで、そのまましばらく倒れる...

 

「い、樹...?」

 

「.......」

 

 無言でむくりと立ち上がる。

 

「わ、悪かった...手を上げるのは違うよな...」

 

「.......あなたが本当の勇者じゃ無いからなんじゃないですか?」

 

「は...?」

 

「そうですよ...僕が...主人公がこんなに簡単に負けるわけない...鋼也さんが死ぬのは主人公じゃなくて敵だからですよ...そうに決まってます...これは負けイベなんです。国を蝕む偽勇者に負けてしまうイベント...ゲームに無いイベントが起こる事もありましたし、これもそれの一環に違いありません...そうですよ。そもそも主人公枠が四人なんておかしいと思ってたんです...うち二人が敵だというのなら納得ですよ...元康さんは共に戦うライバルキャラ枠ですか...」

 

「お前...そこまで...」

 

「そうです...今は僕は鋼也さんに勝てません。尚文のスキルも破れません...しかし、何度でも立ち上がっていずれ、あなた方を打倒してみせます...いえ...そういえば鋼也さんは尚文に洗脳されていると言ってましたか...じゃあその洗脳を解いて歪な力から解き放ってあげますよ...そうです。それが正義に違いありません...鋼也さんは悪墜ちキャラですか...仕方ありませんね...待っていてください。すぐに強くなって僕が助けてあげますから...」

 

 ぞくりと背中から冷汗が出る。人はここまで強情になれる物なのか...?

 いや、明らかに様子がおかしい。こんなの普通の精神状態ではありえない...

 

「あぁ...ふふ、僕の決意に呼応して新しい武器が出たみたいです。これなら...今の僕でもあなたにも勝てる!!」

 

 弓が何やら歪でおぞましい装飾の物に切り替わる。

 この禍々しい雰囲気...もしかして、カースシリーズか!!?

 

 じ、自殺しかねない程に精神的に追い詰められたって言うのか!?

 そりゃあ強めに詰めはしたけど、だからって...!

 

「バンカーショット!!」

 

「ぐっ...!!!」

 

 至近距離、かつ命中の異能の力によって樹の近距離用スキルが俺の剣に突き刺さる。

 

 俺は数メートル吹き飛んで、すぐに体勢を立て直した。

 

「すごい...力が漲って来るみたいです」

 

「樹!その力はダメだ!!今すぐ元の弓に戻せ!!」

 

「...どうしてですか?あぁ、この弓を使われると僕に負ける可能性が出るから、そうやって騙そうとしているんですね...ダメですよ。オオカミ少年の話を知らないんですか?」

 

「くっ...!」

 

 かなりの威力の弓が放たれて、悉く俺に襲い掛かる...

 それを全て切り落とし、樹の元に近づいた...!

 

 一旦意識を失わせるしかない!!カーススキルなんか使いだしたら...!グロウアップまですれば目も当てられない!今の内に...!!

 

「シャドウバインド」

 

 樹が矢を放ったので切り払おうとしたが、今までのように胸を狙うと見せかけて急速に曲がった。

 ...しまった!確か、影を縛るスキルだったか!!

 

「...?なるほど。真の勇者の力はスキルを複合させて強力なスキルを扱う事も出来るんですか」

 

 ぞくりと背筋が凍る。カーススキルを使うつもりか...!!

 

「バインドアロー」

 

「エアストスラッシュⅣ!!」

 

 カーススキルの二段階目、バインドアローは切り落としてスキルを中断させることに成功した。

 

「...っは!」

 

 陰の拘束からも逃れ、再び樹に襲いかかる。

 

「....!!」

 

 剣の腹で思いっきり腹をぶっ叩いて吹き飛ばす。そのままの勢いで壁に衝突した樹は...上手く意識を失ってくれた。

 

「はぁ....ちくしょう」

 

 樹に強化方法を共有するどころか、カーススキルまで目覚めさせてしまった。

 どうしてこんな事に...

 

 ギリリと歯ぎしりしてから、尚文の方を向き直る。

 

「...っっ!!元康!!いい加減に諦めろ!!大人しく強化を覚えろ!!」

 

「俺は...俺は悪魔なんかに屈する訳にはいかない!!...俺が皆を守るんだ...!!マインも!エレナも!レスティも!!ラフタリアちゃんも....!!!悪魔の魔の手から俺が守ってみせる...!!!」

 

 元康が槍を禍々しい形に変えて尚文の拘束から逃れようとする。

 

「俺は...負けるわけにはいかないんだ...!!!」

 

「黙れ!!お前はただの腐れ勇者なんだよ!!いいから強化を覚えろ!!」

 

「離せ悪魔...!!貴様のような外道にあの子達を汚されてたまるかぁぁ!!!あの子達は...俺の物だ!!!」

 

「くっそ...急に会話も通じなくなったな...!!」

 

「尚文...!!」

 

「んがっっ!」

 

 俺は元康の頭を剣で殴って意識を失わせた。

 

「おい!...気絶させちゃ強化方法が共有できないだろ!!」

 

「...一旦ダメだ。二人ともカースシリーズに侵食されてる」

 

「カースシリーズ?」

 

「勇者が自殺しかねない程に精神的に追い詰められたり過度な感情に支配された時に、その感情を呪いに転じさせて自殺を阻止する防衛機能だ...それによって呪いに精神を侵食される代わりに強力で代償のあるカーススキルに目覚めてしまう武器のシリーズの事をカースシリーズって言う。こうなったら...もうダメだ。呪いが解けるまではこいつらは発狂してるのと変わらない。まともに話なんか通じないぞ」

 

「...ちっ!!そんなものまであるのか...道理で話が急に通じないと思ったら狂人と化していた訳ね...めんどくせー!!自殺したくなるほど俺達の話を聞かないとかどんだけ強情なんだよ!!バカか!!?」

 

「...こうなったら呪いが解けるまで待つしかない」

 

「はぁ...おい、決闘は終わったぞ!!さっさと勝敗を言ってこのくだらない茶番を終わらせろ!!」

 

 尚文が立会人を睨みつける。

 

「いえ...まだ決闘は終わっておりません。此度の決闘は四聖勇者による決闘...最後の一人になるまで執り行っていただきます」

 

「あ?...あぁはいはい。じゃあ降参!鋼也の勝ち!...これでいいか?」

 

「......」

 

「おい...!なんとか言えよ!!降参って言ってるだろうが!!」

 

「......」

 

「おい、なんのつもりなんだよ...チッ!もう付き合い切れん。帰るぞラフタリア、鋼也!!」

 

『おやおや、勝手に勝負を終えられては困りますよ、盾の勇者』

 

 魔法によって俺達に語り掛ける男の声が聞こえた。

 

『...これは神聖な決闘なのですから、最後まで決着を付けて貰わなくては困ります』

 

「誰だ!!...魔法で語り掛けて来やがって...なんのつもりだ!!」

 

『いえ、別にどうという訳ではありませんとも...とりあえず、後ろを向いてください』

 

 不審に思いながらも俺達が後ろを向くと、観客席から見えない所で、男が亜人の子供二人の首に刃を突きつけて立っていた。

 

「なっ...!」「...どういうつもりだ!」

 

「嘘...ライ君、ノーラちゃん...!?」

 

 ラフタリアちゃんが驚愕の声をあげる。

 

「知ってるのか!?」

 

「は、はい...ルロロナ村の子です!」

 

『ふふ、やはりそこの亜人は気付いたようですね。えぇ、この亜人達は剣の勇者が求めているルロロナ村の亜人奴隷です...この状況を見れば言いたい事はもうお判りでしょう?』

 

「....クソッ!!そういう事か!!」

 

 俺は無言で男から見えないようにスキルを発動すべく、剣に力を込める...

 

『おっと剣の勇者、余計な事はしないように』

 

「....っ!!」

 

『私はそこの亜人奴隷を引き連れている男ではありません。この会場のどこかからあなた方を監視しております...行動は全て筒抜けですよ?それに、あの男を殺すのはオススメしません。彼が死亡する、あるいは明確な害意に晒されたと判断した場合、速やかに亜人の子が死ぬよう奴隷紋が設定されてありますから』

 

「そんな...っ!!」

 

「貴様...どこに居やがる!!姿を見せろクズが!!!」

 

『ふふ...吠えても無駄です。抵抗するのも、逃げるのももちろんあなた方の自由なんですよ?その場合彼らの尊い命は失われる事になりますがね...』

 

「...何が目的だ!」

 

『いえ、それほど多くを望むつもりはありませんとも...求めるのはただ一つ、剣の勇者と盾の勇者が全力で戦う事です』

 

「ふざけるな!!そんな事...!」

 

『そうですか。それでは奴隷には死んでもらいましょう』

 

「ま...待て!!分かった...!考える時間をくれ...!」

 

 つい口走ってしまう。

 

『...まぁ良いでしょう。そこの亜人、あなたは今すぐ降参しなさい』

 

「なっ...!」

 

『お友達を殺されたいのですか?』

 

「......わ、かりました...すみませんナオフミ様...」

 

「いや、仕方ない。ひとまずこのクズの言う事を聞くしかない...」

 

「申し訳...ありません...降参します」

 

「許可します。速やかに退場しなさい」

 

 ラフタリアちゃんが顔を伏せながら退場する...

 

「言う通りにしてやったぞ!!で、これから鋼也と決闘をさせて何が目的だ...!!」

 

『いいえ。それ以上に求める事はありませんよ...ただし、私はあなた方の全力に相当する物を知っております。下手に力を緩めるようでしたら、この亜人達の命はありませんのでよく覚えておいてください』

 

「...はっ!ようするに、鋼也に俺をボコボコにさせたいって事か」

 

『えぇ。ご安心ください。決闘のルールは変わっておりません。瀕死、または気絶すれば決闘は終了しますとも...まぁ、降参に関しては立会人の耳が少し遠くなってしまうかもしれませんがね』

 

「良いだろう...今は黙って従ってやるさ...だが、声はもう覚えたからな!!!いずれ絶対に貴様を見つけ出してぶっ殺してやるから覚悟しろよ!!!」

 

『ふふ...威勢がいいですね。流石は盾の悪魔と言った所でしょうか。それでは、素晴らしいショーを楽しみにしておきますよ』

 

「死ね!!クソ野郎がっ...!!」

 

 尚文が虚空に悪態を吐ける。

 

「尚文...ダメだ。お前に剣を向けるなんて...」

 

「良いから構えろ」

 

「そんなの...!!」

 

「良いから...!!あいつらをむざむざ殺されたいのか!!」

 

「....っっ!!」

 

「今は従うしかないんだ。分かってんだろ...?だったら構えろ!!」

 

「ぐっっ...クソっっ!!」

 

「安心しろ...俺は盾の勇者だぞ?ステータスの下がったお前の甘っちょろい攻撃で簡単にやられるほど甘くないさ」

 

「.....」

 

 違う。確かに今の俺達が全力で戦ったら尚文は相当耐えるはずだけど、そうじゃない。あいつが求めているのは俺が盾の悪魔を退治する所だ...

 それは尚文も分かってる...あいつ、俺にやられるつもりで...!!そんなの...!!

 ...そうか。だから元康と樹がやられても何も動きが無かったんだ。最初からこういう筋書きだったんだ...だから、四聖勇者の決闘と言っていたんだ...!最初から...!!このつもりで...!!

 

 吐き気がする。怒りで頭がどうにかなりそうだ。くそ!!クソ!!クソ!!!!

 

「あぁぁあああ!!!!」

 

 俺は剣を振り上げて、尚文に全力で斬りかかる。

 

「来い...!!」

 

 あらゆる感情を剣に込めて、全力で振り下ろした。

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