剣の勇者の成り代わり   作:min-can

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錬のカース戦闘が思ったよりもあっさりでちょっと残念でした...まぁあそこに力を入れられるくらいならフィーロのワンマンライブに力入れてる方が嬉しいので構わないんですけど。
ゴールドリベリオンが思ったよりキモかったです。


剣と盾

 数度、剣と盾を交わし、距離を取る。

 

「随分と手緩いな鋼也」

 

「そんな事は...」

 

「そうか?だったら俺が勝つぞ!!」

 

 尚文が凄まじいスピードで俺に肉薄する。

 俺は尚文の進路から低姿勢で脱出し、尚文が俺の横を通り過ぎると同時にグルリと振り向いて、尚文の背中を狙って斬りつけた。

 

 ガキリと金属のような音が鳴り響き、尚文は自らの勢いも相まって吹き飛んで壁に激突する。衝撃で観客が悲鳴を上げた。

 

 考えろ...今の俺じゃまともな有効打は防御無視のスキルくらいしか無いが...わざわざそれを使う必要もない。他のスキルなら尚文にさほどダメージを与える事は出来ないし、全力に見えるよう戦いながらなんとかこの状況を打開出来る方法を考え出さないと...!

 

「水斬波Ⅴ!!」

 

 俺は尚文の居る場所に向けて水の刃を振り下ろす。

 盾で防ぎきった尚文が再び俺に近づいてくる。

 

「エアストバッシュⅤ!!」

 

 俺の斬撃と尚文の盾が激しくぶつかり合う...

 

「ぐぅぅ...!」

 

「ぐ...く...!」

 

 カタカタと剣が震える音がして、尚文が盾をずらした事で剣が地面に突き刺さる。

 

 バキバキと庭の地面にヒビが入る。地面に埋まって一瞬取れなくなった俺の剣を尚文が踏んで抑え、すぐに体も掴まれる...くそ、シンプルに膂力で負けていて振り払えない。

 

「ようやく捕まえたぞ...!」

 

「ぐっ...離...せ...!!」

 

「誰が離すか...!フック!!」

 

 尚文の盾から蛇の装飾が離れて俺の首や手などの露出部に噛みつく。

 

「ぐ...が...!!」

 

 体内に毒が注入されていくのを感じる。

 

「....っ水瀑剣!!!」

 

「くっ...!!」

 

 俺は剣から大量の水を呼び出して尚文の拘束から逃れた。

 尚文から距離を取って、解毒薬を取り出そうとしたが尚文がすぐに肉薄してきたので斬りかかる。

 

 何度も剣を振り下ろし、それを悉く盾が防ぐ。

 

「おい鋼也...お前、いい加減にしろよ...!」

 

 俺の剣を受けた盾の向こうから、尚文が睨んでくる。

 

「何がだ...!」

 

「いい加減覚悟を決めろ...!あの二人の命なんざどうでも良いってか...!?」

 

「っっ...!そんな訳無いだろ!!」

 

「だったら俺を殺すつもりでかかってこい...!!あいつらがどうでもいいならこんな茶番さっさとやめて逃げれば良いんだよ...!あいつらを殺されたくないってお前が決めたからこうして付き合ってやってるんだ...!俺はその為にお前にやられる事も覚悟して、こうして全力で戦ってやってるんだよ...!だったら...お前もその気でやれ!!」

 

「....!!」

 

「あの声だけのクズはそれなりの準備をしてこの場を用意してる...今の俺達にあれをどうこうできる方法なんてそうそう浮かぶかよ...!だったら、まずは今この場を乗り切って次に繋げるべきなんじゃないのか...」

 

「それは...」

 

 それは...確かにそうだ。少しの間考えたが少なくとも今すぐどうこうできる方法は浮かばなかった。今後取れる選択肢としても、ソウルイ―タ―から出る剣を利用して奴隷紋所有者の魂を引き抜いて生きた肉塊にしてしまうなんて事だ。後は状態異常にした後に血を使って奴隷商に奴隷紋の解除をさせるか...少なくとも今出来るような事では断じてない。

 

「だったら全力で来い...!!だが、俺だって黙ってやられるつもりはない。全力で抵抗させてもらうからな...!」

 

「....わかった尚文...俺も次からは全力で行く。尚文の気持ちを無駄にしない為に...その代わり、どれだけ時間がかかっても絶対あの子達は助けてみせる。だから...行くぞ!!」

 

「来い...!!」

 

「エアストスラッシュⅤ!!」

 

 斬撃を飛ばして尚文に受け止めさせる。その隙に俺は尚文の傍に近づいて、その腹に向かってスキルを放った。

 

「斬鉄剣!!」

 

「ぐっ...ぐあっっ!!」

 

 防御無視のスキルによって尚文の腹部から血が吹き出る。

 

「ペネトレートスタブ!!」

 

 剣がエネルギーを纏って、痛みに怯む尚文の腹部を再び狙って突きを放つ。

 尚文がそれに合わせて盾を間に挟んだが、エネルギーは盾を通り抜けて尚文の横っ腹を穿った。

 

「ぐがっ...!!っ...」

 

 尚文が俺から距離を取る。俺はその隙に解毒薬を取り出して飲み込んだ。

 

「っ...名前からして、防御無視系のスキルか...!」

 

「火力は無いけど、尚文に使う事を考えれば優秀なスキルだ」

 

「はっ...対策も万全ですってか...舐めるな!!」

 

 尚文が俺に走り込んで来て、盾を構えた。

 

「シールドプリズンⅥ!!エアストシールドⅤ!!」

 

 俺は回避しようとした先にエアストシールドがあり逃げきれず盾の檻に閉じ込められた。

 

「くそっ...」

 

 檻を壊す為にスキルを発動しようとしたが、その前に更なる変化が訪れた。

 

「チェンジシールド!!フック!!」

 

 檻がキメラヴァイパーシールドに変化し、大量の蛇が俺に噛みついた。

 

「ぐぁっ...!!」

 

 再び、先程とは比べ物にならないくらいの毒が注入される。

 

「くそっ...!エアストバッシュⅤ!!」

 

 俺がスキルで檻を破壊すると、目の前には尚文が盾を振りかぶっていた。

 

「ぐっ...!!」

 

 とげとげしい盾が突き出した左腕ごと俺の体に直撃する。そのまま吹き飛ばされた。

 ...痛みは無いのでそのまま立ち上がろうとして、違和感を感じる。

 

 左腕の動きが鈍い...そうか、今のは麻痺効果のある盾だったわけか。

 

「っ...!」

 

「攻撃力が無いからって、敵を倒せない訳じゃない。このまま状態異常でお前を削りきってやるよ...」

 

 尚文が凶悪な顔で俺に向かって笑みを浮かべる。

 尚文はきっと俺だけが悪者にならないように、少しでも尚文を倒す事への躊躇いを減らせるようにと、わざと俺を挑発するような態度を取っているんだ。

 スキルや専用効果で俺を少しでも削ろうとしているのも、俺に倒そうとしているのはお互い様だと伝える為でもあるだろう...

 

 だって、あれだけ苛烈に俺を攻めているというのに、尚文からは敵意や殺意が感じられない。

 もしかしたらただの俺の妄想かもしれないが、剣を伝って尚文の思いが少し伝わるような気がする。

 

 煮えたぎるような怒りの中に、確かに存在する尚文の優しい心が感じられる。

 

「俺は...」

 

 右手だけで剣を構えて尚文に向ける。

 

 俺は...勝つ。この戦いを乗り越える事で、俺は更に苦しい立場に追いやられるのだろう。

 この国の奴らに、いいように弄ばれるかもしれない。

 

 でも、そうだ。こんな理不尽な状況でも尚文は即座に決断を下した。

 自らが犠牲になる辛い道でも一切ためらいなく選べた。

 それどころか加害者となる俺にまで気を遣ってくれているんだ。

 

 だったら....だったら!俺だって、尚文の仲間として...いや、友達として!

 

 カッコ悪い所見せられないじゃないか!!

 

『力の根源たる剣の勇者が命じる。理を今一度読み解き、我が穢れを退けよ』

 

「ツヴァイト・サンダーピュリフィケーションⅢ!!」

 

 詠唱を妨害しようとする尚文の猛攻を全て受けきり、魔法を完成させて俺の体を巡る雷が状態異常を焦がし尽くした。

 

「くそっ...!魔法か!!」

 

『力の根源たる剣の勇者が命じる。理を今一度読み解き、彼の者を雷で焦がせ』

 

「ツヴァイト・サンダーボルトⅣ!!!」

 

「ぐっ....!!!」

 

 尚文は俺の放った雷に飲まれ、身動きが取れなくなった。

 

 その隙に、俺は尚文の背後に回って剣を振り下ろす。

 

「斬鉄剣!!!」

 

「がっ...!!」

 

 尚文の肩から背中にかけて斬撃が通り過ぎ、尚文の鎧の隙間から血が滴った。

 

「水斬波Ⅴ!!」

 

 すぐさま追撃に入り、装甲の薄そうな横腹めがけて突きを入れる。水が尚文の腹部を穿った。

 

「が...ぐ...っ!!」

 

 尚文はそのまま水の勢いで後方へと吹き飛ばされる。

 俺は魂癒水を取り出して、飲み込みながらスキルを発動する。

 

 天に掲げた剣から蒼白いエネルギーが湧き上がり、足元で荒れ狂う大波がぶつかり合う。そして勢いを失った波から俺の剣が放つエネルギーへと吸い込まれ、新たな波が次々と生成されていく...

 

「...っエアストシールドⅤ!!シールドプリズンⅥ!流星盾Ⅳ!!」

 

 尚文はスキルの阻止ではなく、直接対決を選んでくれた。

 ...それでいい。そうじゃないとこの戦いは終わらない。

 

「俺の向く方向に居る観客共!!死にたくなかったらそこから離れろ!!!」

 

 俺の叫びに観客達は軽くパニックになりながらその場を離れる...よし、これなら打つ頃には無人になっているだろう。

 

 今回の脅迫事件、人質を取った男の目的はこの国の事を考えれば至極単純だ。

 今の俺と尚文の実力差を図ろうとしているのだろう...俺が、盾の悪魔を殺せる剣になりえるか吟味したい訳だ。

 

 だったら、俺が正面から尚文をねじ伏せる様を見せつけてやればいい。

 ただ、それだけだと意味が無い。こんな卑劣な奴らに黙って従ってやる必要なんかないのだ。むしろ状況が悪化していく一方だ。

 

 だからこそ目には目を、歯には歯を...あいつらが俺達を脅すというのなら、俺もあいつらを脅してやればいい。

 そうだ、尚文は原作でも、この世界でも...あれだけ不利な状況から脅迫を使って最低限の環境を整えていた。俺も同じことをすればいい。

 

「いいか!!三勇教教皇、ビスカ=T=バルマス!!!今は俺達を脅迫出来る事に喜んでいればいいさ...だけどな!!俺達勇者を舐めるなよ...もし、俺達の仲間やルロロナ村の亜人達に手を出してみろ...俺はこの国も三勇教も、滅ぼしてやるからな...!!」

 

『...さて、誰の事やら分かりませんね』

 

「とぼけたって無駄だ...いいか、良く見てろ...!!勇者に楯突く事の愚かさを今見せてやる...!!」

 

 EPも盛大につぎ込んで、このスキルに備わっているチャージによって追加のSPもバンバンつぎ込む。

 海帝の剣にも、このスキルにも、皆の看病をしている期間に持ちうる全てのリソースをつぎ込んでいる...

 籠手の強化ポイントも、全て割り振り直して絶対必要なスキル以外のポイントと元々温存していたポイントを全て注ぎ込んだ。

 

 今のこのスキルはあの呪いの転生者に放った時よりもずっと強化されている...低下したステータスを補って余りあるだろう。

 

「尚文!!....信じてるぞ!!」

 

 一瞬、前回の尚文の姿がフラッシュバックしたが、それを振り払って俺は溢れんばかりのエネルギーを纏った剣を全力で振り下ろした。

 

「グラムジャッジメント...Ⅴ!!!」

 

 ビームと化した巨大な斬撃が、尚文に襲い掛かる...

 

 流星盾を砕き...シールドプリズンを砕き...エアストシールドも消滅した。

 むき出しの尚文がキメラヴァイパーシールドから防御力重視の盾に変更して、真正面からそれを受け止めている。

 

「ぬ...ぐ...っっ!!」

 

「はぁぁぁぁあああ!!!」

 

 しばらく拮抗し、突然抵抗が無くなったので俺はそのままの勢いで剣を完全に振り下ろした。

 空を切るように容易く地面まで斬りつけた俺の剣は、その軌道そのままに前方を吹き飛ばした。

 庭を軽く飛び越えて、城壁の付近まで深く長い傷跡を地面に刻み込む。

 

 目の前のテラスが崩壊していく最中、辛うじて俺の視界には立ち上がる尚文の姿が見えた。

 やっぱりそうか。いくら精一杯強化したとはいえ今の俺が尚文をあんなに簡単に吹き飛ばせるわけが無いと思っていたけど、途中で敢えてスキルの勢いに乗る事で俺にやられた事を演出しつつこの場から逃げ出したんだ。

 

「...ラフタリアちゃん!!尚文を連れて逃げろ!!!」

 

「っ...分かりました!」

 

 俺が全力で叫ぶと、観客席の方からラフタリアちゃんの声が聞こえ、尚文の方へと凄まじいスピードで駆けていった。

 

「...っあの亜人と盾の悪魔を逃がすな!!」

 

「動くな!!!今度はお前たちにあれを撃ってやっても良いんだぞ!!!」

 

 周囲を囲っていた兵士達が動こうとしたので、俺は念のため魂癒水を飲みながら剣を向ける。

 

『おのれ、剣の勇者...あの亜人達がどうなっても良いと...』

 

「あぁ!?その時は必ずお前らを一人残らずぶっ殺してやる!!この中に俺達の戦いにまともについていける奴が居たか!?あれを防げる自信のある奴は居るか...!!?」

 

 俺が叫びながら周囲を見渡すと、全員自信無さげに顔を逸らした。

 

「...今しばらくは最低限お前らの指示に従ってやる...だがな、俺はいつでもお前らを消し飛ばせるって事を覚えておけよ...!!」

 

『...良いでしょう。しばらくは膠着状態としましょうか...ただし、貴方がどれだけ我々を脅そうとも、あの亜人達は私達の手元にあるという事をお忘れなく』

 

「...あぁ。俺への唯一の脅迫手段だ。花よりも丁重に扱うんだな...それが無くなった時がお前らの最後だ!」

 

『ッ...えぇ。分かっておりますとも...ふふ、それでも問題はありません。最低限の協力さえ頂ければ、やりようは他にもありますからね』

 

「だったら話はこれで終わりだ...勇者に手を出した事を後悔しながら残り僅かな余生を過ごせばいい...大人しくしていれば少しは寿命も伸びるだろうさ!」

 

『...明日の朝、謁見の間にお越しください。国からの援助金や支度金の支払いがありますから...そこで少しお話しましょうか』

 

「...いいだろう」

 

 それっきり、教皇の声は聞こえなくなった。

 

「あ...え、け、剣の勇者の勝利...!!」

 

 あっけに取られていた審判が今更ながら判定を下した。

 

 まばらに拍手が送られる...大多数はあまりの惨状にドン引きしたり気絶したりしているようだが。クズも驚愕の顔をして黙っているだけだ...いや、あれは自分の城の庭をぶっ壊された事への驚愕か...まぁいい。

 俺はそのまま自分で破壊した瓦礫を乗り越えて城を出ていった。

 

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